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第七章 「遥かな大地」
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夕暮れに沈む通りは露店を仕舞い始める者と夜に備えて店の準備を始める者、家路を急ぐ者、早くも酒が入り大声を上げて騒ぐ者などが混在していた。
ウッドは自分の不甲斐なさに苛立ちながら、早足で外へと急ぐ。どれくらいの差があるか分からない。今から追っても追いつけるかどうか。
それでもフロスは決してネモを殺さないだろう。彼女が歌うまでは決して。
それだけは信じて、最北の地を目指すしか無かった。
けれど、城の外門までやってきたところで、ウッドは見事に足止めを食らうことになる。
両手で数えるほどの兵を引き連れ、真っ赤な甲冑の戦士がそこにやってきた。
「ミスリル」
「漸く戻って来たかと思えば、いきなり主に巡り合うとはな。これも縁というものかえ」
見れば随分と鎧が傷つき、その一部は失われていた。
だが剣は無事のようで、向き合うなり、ミスリルは脇から剣を抜き放ち、そのまま一撃、ウッドの頭上に振り下ろした。
前髪を剣先が掠めたが、何とか後ろに引いてミスリルの剣を躱した。次の一撃に備えたがそれは来ない。
ミスリルは斜に剣を構えたまま、ウッドとの距離を測る。
全身の皮膚がぴりぴりと痺れた。
今ウッドは武器を手にしていない。おまけにミスリルは自分の兵を率いている。更にここは帝国の敷地内だ。ウッドが犯罪者だと奴が吹聴すれば、しまいに血気盛んな奴らが我よ我よと群がってくるだろう。流石にそれら全てを相手にここを切り抜ける自信は今のウッドには無い。
「歌虫はどうした」
「知らないな」
何故ミスリルが歌虫にそれほど拘るのか。
「この前のようにはいかぬぞ。あれは歌虫の秘法と呼ばれるものかえ」
「何だそれは」
「知らぬで使っていたのかえ」
ウッドが歌虫について知っているのは、その寿命が短く、歌を歌う、伝説の生き物というだけだった。フロスもラギもそんな話は一言も口にしてはいない。
「知らぬか。そうか。ならここで死ね」
ミスリルはふっと笑みを浮かべ、そのままウッドに斬りかかってきた。それを後退して躱しながらウッドは尋ねた。
「何故、そこまで俺を殺そうとする?」
ミスリルは思い切り横に薙ぎ払う。その動作の大きな隙を突き、ウッドは相手の顎に掌底をぶつけた。ミスリルが仰け反る。
「何故殺すか。愚問だ。それとも何も憶えておらぬというか」
それを堪え、ミスリルは上から思い切り剣を振り下ろす。
ミスリルの剣が甲高い音を立てて地面を砕いた。
ウッドは高く跳躍し、彼等の決闘に駆けつけた野次馬の群れの中へと着地した。
「逃げるか」
「今はお前とやりあっている暇は無い」
そう言うなりウッドは野次馬の幾らかを押し倒し、その混乱に乗じて次々と場所を移っていく。
棒立ちの奴らを掻き分け、引き倒しながら、ウッドは駆けた。
幸い門は開いている。そこにはミスリルの部下たちが陣取っていたが、思い切って突破するしかない。門が閉じられればそれこそ一巻の終わりかも知れなかった。次々と倒れ、それに躓いてまた誰かが倒れ、入り口の周辺はゴミ箱をぶちまけたような騒ぎになっていた。
ミスリルも多くの者に囲まれて身動きが取れず、剣を振り回すことすら出来ない。
それを尻目にウッドは門を抜ける。
気づいた門番たちが慌てて城壁の門を閉めようとしたが時既に遅く、ウッドが抜けてしまった後でゆっくりと、両開きの大きな扉が音と砂煙を上げて閉じた。
ウッドは自分の不甲斐なさに苛立ちながら、早足で外へと急ぐ。どれくらいの差があるか分からない。今から追っても追いつけるかどうか。
それでもフロスは決してネモを殺さないだろう。彼女が歌うまでは決して。
それだけは信じて、最北の地を目指すしか無かった。
けれど、城の外門までやってきたところで、ウッドは見事に足止めを食らうことになる。
両手で数えるほどの兵を引き連れ、真っ赤な甲冑の戦士がそこにやってきた。
「ミスリル」
「漸く戻って来たかと思えば、いきなり主に巡り合うとはな。これも縁というものかえ」
見れば随分と鎧が傷つき、その一部は失われていた。
だが剣は無事のようで、向き合うなり、ミスリルは脇から剣を抜き放ち、そのまま一撃、ウッドの頭上に振り下ろした。
前髪を剣先が掠めたが、何とか後ろに引いてミスリルの剣を躱した。次の一撃に備えたがそれは来ない。
ミスリルは斜に剣を構えたまま、ウッドとの距離を測る。
全身の皮膚がぴりぴりと痺れた。
今ウッドは武器を手にしていない。おまけにミスリルは自分の兵を率いている。更にここは帝国の敷地内だ。ウッドが犯罪者だと奴が吹聴すれば、しまいに血気盛んな奴らが我よ我よと群がってくるだろう。流石にそれら全てを相手にここを切り抜ける自信は今のウッドには無い。
「歌虫はどうした」
「知らないな」
何故ミスリルが歌虫にそれほど拘るのか。
「この前のようにはいかぬぞ。あれは歌虫の秘法と呼ばれるものかえ」
「何だそれは」
「知らぬで使っていたのかえ」
ウッドが歌虫について知っているのは、その寿命が短く、歌を歌う、伝説の生き物というだけだった。フロスもラギもそんな話は一言も口にしてはいない。
「知らぬか。そうか。ならここで死ね」
ミスリルはふっと笑みを浮かべ、そのままウッドに斬りかかってきた。それを後退して躱しながらウッドは尋ねた。
「何故、そこまで俺を殺そうとする?」
ミスリルは思い切り横に薙ぎ払う。その動作の大きな隙を突き、ウッドは相手の顎に掌底をぶつけた。ミスリルが仰け反る。
「何故殺すか。愚問だ。それとも何も憶えておらぬというか」
それを堪え、ミスリルは上から思い切り剣を振り下ろす。
ミスリルの剣が甲高い音を立てて地面を砕いた。
ウッドは高く跳躍し、彼等の決闘に駆けつけた野次馬の群れの中へと着地した。
「逃げるか」
「今はお前とやりあっている暇は無い」
そう言うなりウッドは野次馬の幾らかを押し倒し、その混乱に乗じて次々と場所を移っていく。
棒立ちの奴らを掻き分け、引き倒しながら、ウッドは駆けた。
幸い門は開いている。そこにはミスリルの部下たちが陣取っていたが、思い切って突破するしかない。門が閉じられればそれこそ一巻の終わりかも知れなかった。次々と倒れ、それに躓いてまた誰かが倒れ、入り口の周辺はゴミ箱をぶちまけたような騒ぎになっていた。
ミスリルも多くの者に囲まれて身動きが取れず、剣を振り回すことすら出来ない。
それを尻目にウッドは門を抜ける。
気づいた門番たちが慌てて城壁の門を閉めようとしたが時既に遅く、ウッドが抜けてしまった後でゆっくりと、両開きの大きな扉が音と砂煙を上げて閉じた。
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