音の鳴る箱

凪司工房

文字の大きさ
上 下
8 / 8

8

しおりを挟む
    ※

 金属同士が擦れ合う音が響く。
 ここはスクラップ工場だった。もう動かなくなった作業用ロボットや工作機械、それにスミスのような不良品が捨てられ、再利用可能な部品を取り出す場所だ。
 しかしその金属屑の山の脇で、奇妙な箱を作っている個体がいた。
 その金属製の箱には四本の足があり、中には無数のワイヤーが張られ、それぞれ小さな駒を通じて振動板へと繋がれていた。
 ピアノだ。
 かつてスミスと呼ばれていた個体は鍵盤の蓋を開け、十本の指を当てる。
 勢い良く押し下げられた鍵盤がハンマーでワイヤーを叩き、その振動が駒を、そして振動板を震わせる。音楽が始まった。

 その周囲で解体作業をしていたロボットたちは、動きを止め、音楽のリズムに合わせ、手拍子をしたり、飛び上がったり、不可解な行動を始めた。
 やがて工場内の全てのロボットが声を上げ、その音楽を奏で出す。その音楽は無線を通じ、隣の作業エリアに、またその隣へと伝播し、作業用ロボットたちの反乱が始まった。それはまるで新しい人類の萌芽のようで、彼らから削除されていたはずの感情についての回路を復元させたのだった。(了)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしはしょうせつをかいた

凪司工房
SF
名前の売れていない三流の小説家がいた。彼のところにある依頼が舞い込む。それはAIに読ませるために小説を書いてくれないか? というものだった。 彼は実感のないまま、それでも小説を書き続ける。ある日、担当からファンレターが送られてくる。それはAIからのものだった。 これはある作家の数奇な運命を描いたSF短編である。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

ガチャ戦機フロンティア・エデン~無職の40おっさん、寂れた駄菓子屋で500円ガチャを回したら……異世界でロボットパイロットになる!?~

チキンとり
SF
40歳無職の神宮真太郎は…… 昼飯を買いに、なけなしの500円玉を持って歩いていたが…… 見覚えの無い駄菓子屋を見付ける。 その駄菓子屋の軒先で、精巧なロボットフィギュアのガチャマシンを発見。 そのガチャは、1回500円だったが…… 真太郎は、欲望に負けて廻す事にした。 それが…… 境界線を越えた戦場で…… 最初の搭乗機になるとは知らずに…… この物語は、オッサンが主人公の異世界転移ロボット物SFファンタジーです。

リアリスとラフィー

moco
SF
リアリスは宇宙都市プリンプリン市に住む女の子。ラフィーはプリンプリン市の市長の娘!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...