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宇宙空間にぽつんと浮かんだステージの上で、手足の長いブルーのコスチュームに身を包んで踊る一人の女の子の姿があった。それを百八十度ぐるりと取り囲む観覧ステージから、仮面を付けた人たちが歓声を送る。誰もが同じような形をしていて異なるのは仮面だけだ。ハロウィンという訳でもない。それでもここではそうやって扮装するのが普通だった。
バーチャルアイドルと呼ばれる存在がいる。
彼女はその一人『魔璃亜』という名のアイドルだ。
ハイトーンで歌い上げると画面上に彼女特有のコールである“魔”という文字が花火のようにあちこちで打ち上がる。
「みんなー!」
魔璃亜の声が響き渡ると不意に、ステージだけがスポットライトで照らされた。客席のアバターたちは誰もが何が待っているのだろうと、じっと息を潜める。けれど舞台上の魔璃亜は肩で大きく息をしたまま、ただその吐息だけが会場に流れ続けていた。
「あの、ね」
いつも笑顔がトレードマークだった魔璃亜のそれが、一瞬翳る。
「実はここで大事な発表がありまーす! みんな注目」
新曲の発表だろうか。それとももっと大きな、例えばCMが決まったとか、何か映画やアニメの展開があるとか。
そんな囁きが小さな文字となって画面に流れたが、いつまでも彼女が喋りださないので、それらはすうっと消えてしまう。
完全に囁きすらない静寂が会場を支配した。
それを確認してから魔璃亜は「わたし」と、はっきり発音する。
「わたし、夢幻堂所属のバーチャルアイドル魔璃亜は本日をもって引退します!」
刹那、モニタが破壊されたのかと思うほどの絶叫が会場のあちこちで上がった。
「なんで?」
「どうして?」
「やめないで!」
「嫌だよぉ!」
この生配信を見ている同接人数は五十万人を超える。その数だけ驚きと悲しみと怒りの声があった。
けれどそのどれにも向き合うことなく笑顔を作ると、魔璃亜はまるでプラモデルをバラバラにされたかのように細かな部品に解体されるエフェクトで、ステージ上から姿を消し去った。
バーチャルアイドルと呼ばれる存在がいる。
彼女はその一人『魔璃亜』という名のアイドルだ。
ハイトーンで歌い上げると画面上に彼女特有のコールである“魔”という文字が花火のようにあちこちで打ち上がる。
「みんなー!」
魔璃亜の声が響き渡ると不意に、ステージだけがスポットライトで照らされた。客席のアバターたちは誰もが何が待っているのだろうと、じっと息を潜める。けれど舞台上の魔璃亜は肩で大きく息をしたまま、ただその吐息だけが会場に流れ続けていた。
「あの、ね」
いつも笑顔がトレードマークだった魔璃亜のそれが、一瞬翳る。
「実はここで大事な発表がありまーす! みんな注目」
新曲の発表だろうか。それとももっと大きな、例えばCMが決まったとか、何か映画やアニメの展開があるとか。
そんな囁きが小さな文字となって画面に流れたが、いつまでも彼女が喋りださないので、それらはすうっと消えてしまう。
完全に囁きすらない静寂が会場を支配した。
それを確認してから魔璃亜は「わたし」と、はっきり発音する。
「わたし、夢幻堂所属のバーチャルアイドル魔璃亜は本日をもって引退します!」
刹那、モニタが破壊されたのかと思うほどの絶叫が会場のあちこちで上がった。
「なんで?」
「どうして?」
「やめないで!」
「嫌だよぉ!」
この生配信を見ている同接人数は五十万人を超える。その数だけ驚きと悲しみと怒りの声があった。
けれどそのどれにも向き合うことなく笑顔を作ると、魔璃亜はまるでプラモデルをバラバラにされたかのように細かな部品に解体されるエフェクトで、ステージ上から姿を消し去った。
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