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第二章 「十年ぶりの再会」
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十年ぶりの黒猫館の玄関ホールはかつて見た時とは印象が変わってしまっていた。それは昼間だからというだけではない。まず目立ったのが足元に散らばるガラス片だ。敷かれている赤絨毯の上に、これでもかというほどばら撒かれている。その大半は天井にぶら下がっていた大きなシャンデリアが落下し、割れたものだ。窓も半分程度割れている。それは突風や自然の作用で割れたというよりは、何者かの手によって強引に割られたように見える。
「何だよ。これじゃあほんとの廃墟だな」
強がりなのか、友作がみんなの前に出て大きく腕を広げて笑う。
「危ないわよ」
軽装でそのガラス片を踏み締めている彼に注意したのは加奈だ。
「それで、どうする? 俺は手分けした方がいいと思うが」
桐生は首を動かすばかりでその場を動こうとしない良樹に対し、そう提案する。事前に二手くらいに分かれて探索しようと言われていたが、中に入ってみて危険に思うなら全員で固まった方がいいとも桐生は言っていた。
「そうですね。じゃあ」
桐生は友作と加奈の二人と連れ立ち、先に奥の方を見てくると歩き出し、行ってしまう。
良樹と美雪は玄関付近を中心に見て回り、後から合流するとメッセージのあった足立里沙を待つことになった。
「深川さん、そこ、足元気をつけてね」
「……うん」
美雪は黒猫館に入った瞬間から、いや何なら待ち合わせ場所にやってきた時から、どことなく緊張感を纏っている。ただそれは恐れや不安から来るものではなく、何かの決意の表れだと良樹には感じられた。
良樹たちはまず入って左手側の通路を進むことにした。彼の後ろを一メートルほど遅れて美雪が付いてくる。
ドアを開け、部屋を一つ一つ覗き込むが、どの部屋も天井に蜘蛛の巣が掛かり、椅子が倒れたり、机の足が折れていたりと、どうも獣か何かに荒らされたような感じだ。そもそも各部屋のドアもしっかりとは閉じられおらず、半開きになったり、中にはドアそのものが外れていたりする部屋もあった。
「特に、何もないね」
ええ、という彼女の声が今にも消えてしまいそうだ。
左側の通路を突き当りまで進むと、二階に上がる階段が見えた。良樹は「どうする?」と振り返って美雪を見たが、心ここにあらずといった感じで「あのさ」と声を掛けて初めて彼女が彼をその視界に捉えた。
「うん。任せる」
スマートフォンを確認したが、まだ足立里沙からのメッセージはない。
明かりがない為に足元が薄暗いが、気をつけて階段を上っていくと窓が全て割れた二階の通路に出る。通路にはガラス片だけでなく、木の葉や小石、崩れた一部の壁などが散乱しており、歩くのが躊躇われた。
十年前、良樹は足立里沙とパートナーを組んでここに入ったが、その時は中央の階段が崩れていた為に、二階へは足を踏み入れていない。美雪に訊いても同じように「上がってない」と答えた。
最初に入ったのは書斎らしき部屋だ。そこはドアがしっかりと閉められており、ノブを回して良樹が先に中を確認してから、ドアを開けた。
広さは十畳ほどで、木製のしっかりとした机と椅子があり、その後ろに本棚が二つ、並んでいる。それも分厚い背表紙の本がいくつも収まっていて、良樹はその一冊に手を伸ばした。
「あ……」
けれどいざ手に取ってみると虫に食われていて、開かない。また本が退いたところに集まっていた白く小さな虫が一斉に背後の暗闇へと潮が引くように消えてしまった。
良樹はそれを空いている場所に投げるように戻すと、机の上に置かれていた一冊のノートに視線を向ける。いわゆる学生がよく使う大学ノートだ。一度美雪を見てから確認するように頷くと、それを手に取った。今度は大丈夫だ。用紙こそ黄ばみ、書かれた文字が薄くなっていたが、それでもちゃんとノートとしての機能は残されている。
表紙には何も書かれていない。学生が置いていったものだろうか。
少し見てみたが書かれているのは落書きのようなものばかりだった。後は自分たちの名前や、中には恋愛成就なのか相合い傘に名前が二つ並べられたものもあった。微笑ましいな、と学生時代を振り返る。
ただその最後の方のページに『ここには何かいる』と走り書きがされていた。
良樹は肝試しに使われたものだろうと思い、ノートを閉じる。
「特に何もないね。他を見ようか」
そう促し、部屋を出たところだった。
美雪が「あの日のことなんだけど」と、口にしたのだ。
「何だよ。これじゃあほんとの廃墟だな」
強がりなのか、友作がみんなの前に出て大きく腕を広げて笑う。
「危ないわよ」
軽装でそのガラス片を踏み締めている彼に注意したのは加奈だ。
「それで、どうする? 俺は手分けした方がいいと思うが」
桐生は首を動かすばかりでその場を動こうとしない良樹に対し、そう提案する。事前に二手くらいに分かれて探索しようと言われていたが、中に入ってみて危険に思うなら全員で固まった方がいいとも桐生は言っていた。
「そうですね。じゃあ」
桐生は友作と加奈の二人と連れ立ち、先に奥の方を見てくると歩き出し、行ってしまう。
良樹と美雪は玄関付近を中心に見て回り、後から合流するとメッセージのあった足立里沙を待つことになった。
「深川さん、そこ、足元気をつけてね」
「……うん」
美雪は黒猫館に入った瞬間から、いや何なら待ち合わせ場所にやってきた時から、どことなく緊張感を纏っている。ただそれは恐れや不安から来るものではなく、何かの決意の表れだと良樹には感じられた。
良樹たちはまず入って左手側の通路を進むことにした。彼の後ろを一メートルほど遅れて美雪が付いてくる。
ドアを開け、部屋を一つ一つ覗き込むが、どの部屋も天井に蜘蛛の巣が掛かり、椅子が倒れたり、机の足が折れていたりと、どうも獣か何かに荒らされたような感じだ。そもそも各部屋のドアもしっかりとは閉じられおらず、半開きになったり、中にはドアそのものが外れていたりする部屋もあった。
「特に、何もないね」
ええ、という彼女の声が今にも消えてしまいそうだ。
左側の通路を突き当りまで進むと、二階に上がる階段が見えた。良樹は「どうする?」と振り返って美雪を見たが、心ここにあらずといった感じで「あのさ」と声を掛けて初めて彼女が彼をその視界に捉えた。
「うん。任せる」
スマートフォンを確認したが、まだ足立里沙からのメッセージはない。
明かりがない為に足元が薄暗いが、気をつけて階段を上っていくと窓が全て割れた二階の通路に出る。通路にはガラス片だけでなく、木の葉や小石、崩れた一部の壁などが散乱しており、歩くのが躊躇われた。
十年前、良樹は足立里沙とパートナーを組んでここに入ったが、その時は中央の階段が崩れていた為に、二階へは足を踏み入れていない。美雪に訊いても同じように「上がってない」と答えた。
最初に入ったのは書斎らしき部屋だ。そこはドアがしっかりと閉められており、ノブを回して良樹が先に中を確認してから、ドアを開けた。
広さは十畳ほどで、木製のしっかりとした机と椅子があり、その後ろに本棚が二つ、並んでいる。それも分厚い背表紙の本がいくつも収まっていて、良樹はその一冊に手を伸ばした。
「あ……」
けれどいざ手に取ってみると虫に食われていて、開かない。また本が退いたところに集まっていた白く小さな虫が一斉に背後の暗闇へと潮が引くように消えてしまった。
良樹はそれを空いている場所に投げるように戻すと、机の上に置かれていた一冊のノートに視線を向ける。いわゆる学生がよく使う大学ノートだ。一度美雪を見てから確認するように頷くと、それを手に取った。今度は大丈夫だ。用紙こそ黄ばみ、書かれた文字が薄くなっていたが、それでもちゃんとノートとしての機能は残されている。
表紙には何も書かれていない。学生が置いていったものだろうか。
少し見てみたが書かれているのは落書きのようなものばかりだった。後は自分たちの名前や、中には恋愛成就なのか相合い傘に名前が二つ並べられたものもあった。微笑ましいな、と学生時代を振り返る。
ただその最後の方のページに『ここには何かいる』と走り書きがされていた。
良樹は肝試しに使われたものだろうと思い、ノートを閉じる。
「特に何もないね。他を見ようか」
そう促し、部屋を出たところだった。
美雪が「あの日のことなんだけど」と、口にしたのだ。
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