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第7段階④
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私の目の前には、厳ついヤクザさん。鋭い眼光と歴戦の猛者感のあるゴツい手には、まん丸のマスコット。
「これは?」
「画家ストのゴーキンの丸いぬいです」
「こっちは?」
「原リバの蓬莱寺のアクキーです」
「……これは?」
「えーっと、イケメンスクール野薔薇院のイケメンポスターです」
「そう……か……これは……?」
「薄い本です」
うっ……深田さんのためとはいえ、なんだこの辱めは。
木の葉を隠すなら森の中。グッズを隠すなら当然グッズの中。
深田さんのお屋敷に向かう途中、新さんが突然思い付いた作戦だ。
最初から買い物帰りを装って、深田さんのものを混ぜる。確かに妙案だけど……実際やってみたら結構恥ずかしいなこれ。
「……まあ、怪しいものはないか」
そんな感じで通された。その横で新さんは平然とボディチェックを受けている。
解せぬ。この買い物の中身、ほぼ全部新さんのなのに。
「ところで追川さん、組長の部屋に用事というのは……」
「榎木さんから連絡が入ってると思うんですが」
「ええ、まあ……ですが……」
そりゃ、こんな時に何かしに来たら怪しまれるか。でも、榎木さんには何も言わずに通してくれって伝えてほしいと頼んだんだけど。
「これは慎が先生にあらかじめ依頼していたことだ。俺と榎木が保証するよ」
「しかし新さん、組長の留守中に……」
「先生は既に何度も入ってるんだろ?それで何か不都合なことは起こったか?」
新さんは屈強な男に囲まれながらも臆することなく立ち向かっている。この図だけ見れば、今にもバトルが始まりそう。金塊とか奪い合ってそう。
「この状況です。失礼ですが新さんが組長の座を狙って、という噂も出ています」
「俺は自分で荊棘野組を出て、今後も戻る気はない。今ここで組長にはならないと契約書を交わしてもいいくらいだ。今はただの付き添いだよ」
やれやれと新さんはため息をつく。
やがて新さんは手荷物だけ取り上げられて部屋に上がるのを許された。
「仕事用の鞄だから、特に何も入ってないよ」
廊下を進みながら新さんは言った。
何かが入っている鞄があるんだろうか。まあ十中八九、何かのグッズか筋肉関連だろうけど。
「次は榎木がいるときに先生だけで来た方がいいかもね。最悪、さっきので組員の一部に印象付けは終わったから、袋の中を確かめられても先生が一時的に預けてたって言えば、まあまさか慎の私物とは思われないだろうし……」
深田さんの趣味次第では私へのダメージが相当大きくなるんですが。いや、私が深田さんにきっかけを与えてしまったことは事実。
墓まで持っていくのは私の役目……か。
そんな決意を固めて私は深田さんの部屋へ。相変わらずパッと見ただけでは、ただの上品な和室。でも襖を開けると……金庫がふたつ。ん?なんか新しい方、二回りくらい大きいんですが?
私と新さんは顔を見合わせて頷き合い、とりあえず元々あった方の金庫を開ける。
わお。素晴らしい祭壇だ。なんかグッズが明らかに増えて、おそらく本来の金庫の用途であろう怪しいお金とかが端に追いやられている。
「……とりあえず、手前のグッズから出そうか」
「はい」
綺麗に並べられたアクリルスタンド等を傷付けないように取り出して袋に入れていく。なんか前に見たときよりものが増えてるので、これ持って出て行ったら明らかに袋が大きくなりすぎる気がするんですが。
「お、これ全種揃えたんだな。シークレットも持ってるのか」
そういえば深田さん、これを新さんに見られるのは想定外だったのでは。なんだか急に罪悪感が……しかし新さんの協力がなかったら今日はここに入れなかっただろうし、というか私も若干恥ずかしい思いをしたので、イーブンですね。そういうことにしておこう。
とりあえず怪しまれなさそうな量だけ今回は回収した。あとはグッズが半分くらいと分厚く積み重なった薄い本。
すぐそこの縁側から庭に出て燃やしてしまうのが手っ取り早いんじゃないかと新さんは言ったけど、そんな勿体無いことをこの宝の山の前では……
高くて諦めた人気サークルのアンソロとか装丁にこだわりまくったのとか、いい趣味ですね深田さん。
「また明日、回収しに来ます」
「じゃあ俺からも榎木にその時はいるように頼んどくよ。まあ、あいつが俺の頼みを聞いてくれるかわからないけど」
新さんはほぼ手付かずの紙の山を眺めて困ったように息を吐く。
けれど「弟の役に立つなら」と、少し嬉しそうだった。
「これは?」
「画家ストのゴーキンの丸いぬいです」
「こっちは?」
「原リバの蓬莱寺のアクキーです」
「……これは?」
「えーっと、イケメンスクール野薔薇院のイケメンポスターです」
「そう……か……これは……?」
「薄い本です」
うっ……深田さんのためとはいえ、なんだこの辱めは。
木の葉を隠すなら森の中。グッズを隠すなら当然グッズの中。
深田さんのお屋敷に向かう途中、新さんが突然思い付いた作戦だ。
最初から買い物帰りを装って、深田さんのものを混ぜる。確かに妙案だけど……実際やってみたら結構恥ずかしいなこれ。
「……まあ、怪しいものはないか」
そんな感じで通された。その横で新さんは平然とボディチェックを受けている。
解せぬ。この買い物の中身、ほぼ全部新さんのなのに。
「ところで追川さん、組長の部屋に用事というのは……」
「榎木さんから連絡が入ってると思うんですが」
「ええ、まあ……ですが……」
そりゃ、こんな時に何かしに来たら怪しまれるか。でも、榎木さんには何も言わずに通してくれって伝えてほしいと頼んだんだけど。
「これは慎が先生にあらかじめ依頼していたことだ。俺と榎木が保証するよ」
「しかし新さん、組長の留守中に……」
「先生は既に何度も入ってるんだろ?それで何か不都合なことは起こったか?」
新さんは屈強な男に囲まれながらも臆することなく立ち向かっている。この図だけ見れば、今にもバトルが始まりそう。金塊とか奪い合ってそう。
「この状況です。失礼ですが新さんが組長の座を狙って、という噂も出ています」
「俺は自分で荊棘野組を出て、今後も戻る気はない。今ここで組長にはならないと契約書を交わしてもいいくらいだ。今はただの付き添いだよ」
やれやれと新さんはため息をつく。
やがて新さんは手荷物だけ取り上げられて部屋に上がるのを許された。
「仕事用の鞄だから、特に何も入ってないよ」
廊下を進みながら新さんは言った。
何かが入っている鞄があるんだろうか。まあ十中八九、何かのグッズか筋肉関連だろうけど。
「次は榎木がいるときに先生だけで来た方がいいかもね。最悪、さっきので組員の一部に印象付けは終わったから、袋の中を確かめられても先生が一時的に預けてたって言えば、まあまさか慎の私物とは思われないだろうし……」
深田さんの趣味次第では私へのダメージが相当大きくなるんですが。いや、私が深田さんにきっかけを与えてしまったことは事実。
墓まで持っていくのは私の役目……か。
そんな決意を固めて私は深田さんの部屋へ。相変わらずパッと見ただけでは、ただの上品な和室。でも襖を開けると……金庫がふたつ。ん?なんか新しい方、二回りくらい大きいんですが?
私と新さんは顔を見合わせて頷き合い、とりあえず元々あった方の金庫を開ける。
わお。素晴らしい祭壇だ。なんかグッズが明らかに増えて、おそらく本来の金庫の用途であろう怪しいお金とかが端に追いやられている。
「……とりあえず、手前のグッズから出そうか」
「はい」
綺麗に並べられたアクリルスタンド等を傷付けないように取り出して袋に入れていく。なんか前に見たときよりものが増えてるので、これ持って出て行ったら明らかに袋が大きくなりすぎる気がするんですが。
「お、これ全種揃えたんだな。シークレットも持ってるのか」
そういえば深田さん、これを新さんに見られるのは想定外だったのでは。なんだか急に罪悪感が……しかし新さんの協力がなかったら今日はここに入れなかっただろうし、というか私も若干恥ずかしい思いをしたので、イーブンですね。そういうことにしておこう。
とりあえず怪しまれなさそうな量だけ今回は回収した。あとはグッズが半分くらいと分厚く積み重なった薄い本。
すぐそこの縁側から庭に出て燃やしてしまうのが手っ取り早いんじゃないかと新さんは言ったけど、そんな勿体無いことをこの宝の山の前では……
高くて諦めた人気サークルのアンソロとか装丁にこだわりまくったのとか、いい趣味ですね深田さん。
「また明日、回収しに来ます」
「じゃあ俺からも榎木にその時はいるように頼んどくよ。まあ、あいつが俺の頼みを聞いてくれるかわからないけど」
新さんはほぼ手付かずの紙の山を眺めて困ったように息を吐く。
けれど「弟の役に立つなら」と、少し嬉しそうだった。
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