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橘拓人

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(あれやっぱり威力落ちてたのか。そうじゃなかったら今頃俺の右半身と左半身は別れを告げてたぜ……?というか仮にも好きなんだよな、幹部殿のこと。本気で攻撃するって、どうなんだ?)

拓人の表情筋は限界を迎えていた。ピクリと動きそうになるのをなんとか堪え、質問を続ける。

「むしろ白石はどんなやつが嫌いなんだ?幹部のことは敵なのに好きなんだろ?」

「えー、強いて言うなら悪ぶるのをカッコいいと思ってるタイプ、かな?敵の場合。そういうタイプの敵たまーにいるから、即炭にします」

嫌いなタイプを演じればいい。そう思って尋ねたが、即断念した。

(あ、無理。俺も嫌いだそういうのは)

悪いことをしている自分がかっこいいのではない。考えてするからカッコよくなるのだ。
悪さとカッコよさは無関係である。
ただ悪いことがカッコいいと思ってしているのは、悪いことに引きづられているだけで自分がない。ただただ悪いだけだ。

「でも敵なら、少しは嫌いなところあるんじゃ無いのか?」

気になる点の一つや二つあるだろう。そこを強めれば……という拓人の希望はあっさり潰えた。

「ないです」

「……そうか」

(うそだろ)

どうしたら嫌われるのか、本気で悩む拓人に追い打ちをかけるように凛香はポツリと言った。

「もし見つけてしまったら、調きょ……いえ、きっちり教えて差し上げます。ほら、たいてい戦うのこの学校ですから、場所的にもぴったりじゃないですか」

(誤魔化せてねぇし場所的にもぴったり、じゃねえよ!?え、何?嫌いな点見られたら俺、調教されるのか!?あと魔法少女が調教とか言うんじゃない!)

普段の戦いではかなり手加減されている自覚はあった。それが、おそらく本気で、しかし倒さないように加減され攻められる。凛香なら、やりかねない。

(調教というか、拷問?)

拓人の背中を冷たい汗が滝のように流れていく。引きつった笑みをギリギリ維持していると、それまで凛香の胸ポケットで大人しくしていたライクが急に飛び出した。

「凛香、祠の結界に誰かが近付いてるに」

「幹部殿かな?」

「昨日の今日でそれはないと思うに。たぶんザコだから、すぐ片付くに」

「幹部殿以外に用は無いんだけどねー」

そして凛香は申し訳なさそうに拓人を見る。

「すみません先輩、すぐ炭にして戻りますから」

「ああ、気を付けろよ」

(誰か知らないがナイスタイミング……礼を言う前に炭になるだろうが)

表情を作るのはもう限界だった。
気づけば凛香の手にはライクが変化したステッキが握られ、服も制服から魔法少女としてのものに変わっていた。

「すぐ戻りますから!」

そう言い残し、凛香は窓から飛び出していった。

(……絶対に嫌われてやる。お互いこの学校にいるうちに)

遠ざかっていく凛香の姿を見送りながら、拓人は決意を固めた。

(調教は、嫌だ)
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