125 / 132
3章
44.ヤクザさんとプレゼント1
しおりを挟む
ああ、そわそわする。
私は机の上に置いた紙袋をひたすら無言で見つめていた。
今日は昌治さんの誕生日だ。
だから今日の昼に百貨店に行ってプレゼントを買ってきたはいいけど……自分の父親以外の男の人にプレゼントとかあげたことがないから、どういうのがいいのかとか全然分からなかった。
しかも昌治さんの場合、欲しいものとか必要なものは自分で買えてしまうと思う。かといって手作りの何かを作るとかそんな技量はない。というか素人の手作りもらっても嬉しいだろうか。
そんなこんなで売り場を行ったり来たりして店員さんに顔を覚えられ、最終的に無難なハンカチとネクタイに落ち着いてしまった。ネクタイピンとかカフスボタンとか小洒落たものの方がよかったかな。
今さら悩んでも仕方ないけど……妙に緊張する。
「そんなに心配しなくても、楓様からのプレゼントでしたらなんでも喜ぶと思いますよ」
紙袋とにらめっこをしている私を生温かい眼差しで見下ろしながら大原さんは言った。
「そうかもしれませんけど、やっぱり気になるんです」
「大丈夫ですって。こんな業界ですから、普通に祝われるだけでも嬉しいですよ。むしろ若頭本人が忘れてるくらいじゃないですか?」
「それもそれで寂しいですけど……ああでもその方が気負わなくて気楽かも」
「いや、気負う必要ありませんって。なんなら、楓様からいただけるものならティッシュでも肩叩き券でもなんでも喜びますよ」
「……やっぱりそういう手作りの方がいいんでしょうか」
「そうとは言ってませんよ?」
若干どころか結構呆れられてる気がする。でも、どうしても心配になってしまうんだ。私にできることって小さいんだなと痛感する。
「別にものにこだわる必要はありませんよ。楓様に何かしてもらえるだけで若頭にとっては十分なんですから」
そうは言って貰えるけど、そして実際そうなんだろうけど……
「そんなに心配でしたら今から何か買いに行きますか?若頭が戻ってくるまでまだ少々時間はありますし」
「いいかもしれないですけど、その……予算が……」
夏休みにバイトして貯めたお金だけど、ハンカチもネクタイもそれなりのを買ったら結構な額になってしまった。この水準に合わせてまた何か買おうとしたら、大幅にオーバーしてしまう。
「俺も出しますから安心してください」
「それはさすがに……組のお金でプレゼント買うっていうのはちょっと」
昌治さんたちが稼いだ?お金で昌治さんへのプレゼントを買うっておかしくないかな。でも、となると残されているのは……何か急いで作る?クッキーとかプリンとかは今から材料揃えて間に合うかわからないし、そもそもケーキは用意してあるんだよね。甘いのに甘いのは、昌治さんそこまで甘党じゃないし、むしろ辛党だもんなぁ……
今から追加できそうなもの、プレゼントっぽいもの……
「肩叩き券?」
さっきちらっと大原さんが言った、小学生が父の日に渡していそうなそれが、なんだかすごく現実的に見えてきた。
肩叩き10分の6枚綴りでいいかな。それをさらに2枚くらい?どうしよう全部一気に使われたら。3時間は私の方の肩が駄目になりそう。まあ、昌治さんはそんなことしないだろうけど。
よし、もういっそのことネタに走ってしまおう!笑われたらそれはそれでよし。反応が微妙だったら……いや、そっちは考えるのよそう。きっと何かしらの反応はしてくれるはず!
「今から作ります!」
紙とペンをください、と大原さんにお願いして、私は机に向かった。なんだか紙が肩叩き券に使うようなチープな紙じゃない気がするけど、縁に箔押しとかしてあるけど、使えと言われた以上はこれ使うしかないのかな?とりあえず今から3冊分作るんだ。頑張ろう。
そんなこんなで書き続け、2冊目が完成した。枠線引いたりちょっとしたイラスト描いてみたり、途中何度か私は今一体何をしているのかという葛藤に襲われたけど、とりあえずあと1冊。ここまできたら書き切るしかないよね!
そして3枚目の紙を手に取って線を引いていたときだった。
ずいぶん前に部屋から出ていっていた大原さんが、なにやら慌てた様子で戻ってきた。
いつもなら入りますとか言ってくれるのに、それもなくいきなり襖が開いて私はびっくりして引いていた線が斜めに入ってしまう。
「ど、どうしたんですか?」
ただ事ではなさそうだ。嫌な予感がして私は書き損じたそれをくしゃっと握る。
大原さんはよっぽど焦っているのか、冷や汗のようなものが頭を伝っていくのが見えた。
「……楓様、落ち着いて聞いてください」
大原さんはそこで一旦息を吸う。一呼吸空けて、大原さんは再び口を開いた。
「若頭の行方がわからなくなりました」
カタンと音を立てて手にしていたペンが机の上に落ちた。書き終わっていた肩叩き券にペン先が落ちて、赤いインクの線が入ってしまった。
私は机の上に置いた紙袋をひたすら無言で見つめていた。
今日は昌治さんの誕生日だ。
だから今日の昼に百貨店に行ってプレゼントを買ってきたはいいけど……自分の父親以外の男の人にプレゼントとかあげたことがないから、どういうのがいいのかとか全然分からなかった。
しかも昌治さんの場合、欲しいものとか必要なものは自分で買えてしまうと思う。かといって手作りの何かを作るとかそんな技量はない。というか素人の手作りもらっても嬉しいだろうか。
そんなこんなで売り場を行ったり来たりして店員さんに顔を覚えられ、最終的に無難なハンカチとネクタイに落ち着いてしまった。ネクタイピンとかカフスボタンとか小洒落たものの方がよかったかな。
今さら悩んでも仕方ないけど……妙に緊張する。
「そんなに心配しなくても、楓様からのプレゼントでしたらなんでも喜ぶと思いますよ」
紙袋とにらめっこをしている私を生温かい眼差しで見下ろしながら大原さんは言った。
「そうかもしれませんけど、やっぱり気になるんです」
「大丈夫ですって。こんな業界ですから、普通に祝われるだけでも嬉しいですよ。むしろ若頭本人が忘れてるくらいじゃないですか?」
「それもそれで寂しいですけど……ああでもその方が気負わなくて気楽かも」
「いや、気負う必要ありませんって。なんなら、楓様からいただけるものならティッシュでも肩叩き券でもなんでも喜びますよ」
「……やっぱりそういう手作りの方がいいんでしょうか」
「そうとは言ってませんよ?」
若干どころか結構呆れられてる気がする。でも、どうしても心配になってしまうんだ。私にできることって小さいんだなと痛感する。
「別にものにこだわる必要はありませんよ。楓様に何かしてもらえるだけで若頭にとっては十分なんですから」
そうは言って貰えるけど、そして実際そうなんだろうけど……
「そんなに心配でしたら今から何か買いに行きますか?若頭が戻ってくるまでまだ少々時間はありますし」
「いいかもしれないですけど、その……予算が……」
夏休みにバイトして貯めたお金だけど、ハンカチもネクタイもそれなりのを買ったら結構な額になってしまった。この水準に合わせてまた何か買おうとしたら、大幅にオーバーしてしまう。
「俺も出しますから安心してください」
「それはさすがに……組のお金でプレゼント買うっていうのはちょっと」
昌治さんたちが稼いだ?お金で昌治さんへのプレゼントを買うっておかしくないかな。でも、となると残されているのは……何か急いで作る?クッキーとかプリンとかは今から材料揃えて間に合うかわからないし、そもそもケーキは用意してあるんだよね。甘いのに甘いのは、昌治さんそこまで甘党じゃないし、むしろ辛党だもんなぁ……
今から追加できそうなもの、プレゼントっぽいもの……
「肩叩き券?」
さっきちらっと大原さんが言った、小学生が父の日に渡していそうなそれが、なんだかすごく現実的に見えてきた。
肩叩き10分の6枚綴りでいいかな。それをさらに2枚くらい?どうしよう全部一気に使われたら。3時間は私の方の肩が駄目になりそう。まあ、昌治さんはそんなことしないだろうけど。
よし、もういっそのことネタに走ってしまおう!笑われたらそれはそれでよし。反応が微妙だったら……いや、そっちは考えるのよそう。きっと何かしらの反応はしてくれるはず!
「今から作ります!」
紙とペンをください、と大原さんにお願いして、私は机に向かった。なんだか紙が肩叩き券に使うようなチープな紙じゃない気がするけど、縁に箔押しとかしてあるけど、使えと言われた以上はこれ使うしかないのかな?とりあえず今から3冊分作るんだ。頑張ろう。
そんなこんなで書き続け、2冊目が完成した。枠線引いたりちょっとしたイラスト描いてみたり、途中何度か私は今一体何をしているのかという葛藤に襲われたけど、とりあえずあと1冊。ここまできたら書き切るしかないよね!
そして3枚目の紙を手に取って線を引いていたときだった。
ずいぶん前に部屋から出ていっていた大原さんが、なにやら慌てた様子で戻ってきた。
いつもなら入りますとか言ってくれるのに、それもなくいきなり襖が開いて私はびっくりして引いていた線が斜めに入ってしまう。
「ど、どうしたんですか?」
ただ事ではなさそうだ。嫌な予感がして私は書き損じたそれをくしゃっと握る。
大原さんはよっぽど焦っているのか、冷や汗のようなものが頭を伝っていくのが見えた。
「……楓様、落ち着いて聞いてください」
大原さんはそこで一旦息を吸う。一呼吸空けて、大原さんは再び口を開いた。
「若頭の行方がわからなくなりました」
カタンと音を立てて手にしていたペンが机の上に落ちた。書き終わっていた肩叩き券にペン先が落ちて、赤いインクの線が入ってしまった。
11
お気に入りに追加
2,728
あなたにおすすめの小説


愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる