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3章
41.こちらのお母様3
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大原さんの運転する車に乗り込んで街中を進むこと15分、約束の6時を5分ほどオーバーしつつ到着。ああ、緊張する。
そういえば黒木屋さんって、特に調べたりしなかったけどどういうお店なんだろう。個室のある居酒屋的なお店かな……って、見た感じからして、門構えからして一見さんお断りっていうオーラがすごいんですけど。日本料亭ってやつじゃないですか。私一見さんなんですが、ちゃんと入れてもらえますかね。
そうだった、しれっとこういうところを利用するような方々だった……
不安が増した。というか母の姿が見えないけど、もう中にいるんだろうか。
「すみません。俺が行くと若頭に来なくていいといった意味がないので」
強面レベルなら大原さんは昌治さんと張り合えますからね。とりあえず今は私だけで、余計な刺激は少なくするんだ……そのはずなのに、場所が別の意味で刺激的なんですけど。
「山野様ですね。お待ちしておりました」
車から降りて呆然とする私に向かってぺこりとお辞儀をするのはお店の中居さんらしき人。
その人はちらりと車を見て何かを確かめるように頷くと、私の方を見た。
「お連れ様がお待ちです。どうぞこちらに」
やっぱり、先にきてたのか。でも大丈夫かな。誘ったの私だけど、こんな店を紹介されて平然としてられるはずがないけど。
あれ?そういえばお支払いはどうすれば……いや、たぶん大原さんか昌治さんが持ってくれるんだろうけど、それは申し訳ない。だって食事してない人に払わせるっておかしくない?
中居さんに案内されながら私はお店の奥へと案内される。ああでも今はそれよりも、違う緊張がじわじわと湧いてくる。話すこと自体はできるけど、受け入れてもらえるかとかは別問題だ。
この料亭の雰囲気に呑まれてうやむやになったりは……しないよね。ですよね。
襖を開けてもらった先にいた母とバッチリ目があった。目があう直前までは戸惑ったように個室の内装を見ていたのに、私と目があった瞬間、それはきっと引き締められて、私は気まずくて目をそらしそうになるのをなんとか堪えた。
「では、お料理を始めさせていただきます。お代は頂いておりますので、ごゆるりとおくつろぎください」
中居さんはそう言い残すと、上品な所作で礼をすると部屋を出て行った。
とても微かに音を立てて襖が閉じるのを見届けた母は、正面に用意されていた席に座った私にゆっくりと視線を向ける。
「なんかもう聞きたいことが多すぎてまとまらないわね。とりあえず聞いとくけど、このお店はなんなの?お代は頂いてるって、あんたが払ったんじゃないでしょうね」
「私じゃないです。その、彼氏の部下の人にいいお店がないか尋ねたら、ここを勧められたから……」
「は?いやいや楓、こんな店勧める部下ってどういうこと?どういう上司よそれ」
一応前に帰省した時に裏というのは伏せて社会人であるとは伝えてあった。でもまさか部下がいたりするような人だとは思っていなかったのか、驚いて目を見開く。
「それは、私もまさかこんなお店だとは思ってなかった」
「さすがに全部出してもらうっていうのは申し訳ないから、その彼氏さんには後でお代を払うって言っておいて」
私はコクコクと頷いておく。私も気になってたから、出せる分くらいは後で出そう。それか違う形でお礼しとこう。
「でもおかげで少しはあんたの彼氏についてわかった。こういう店をサクッと紹介するような人間なわけだ」
「み、みたいだね……」
紹介したの昌治さんじゃなくて大原さんだけど、それは一旦置いておこう。たぶん昌治さんでも同じことが起こる。実体験に基づく予想ができてしまうなぁ……
母はしばらく何か考えてから大きく息を吐いた。
「こんなこと言いたくはないけど……あんた、騙されてるんじゃないの?」
「それは絶対にない。昌治さんはそんな人じゃないって、それはわかってるから」
「わかるって、どうしてわかるの。恋愛経験とか皆無のくせに」
「う……恋愛経験云々については何も言えないけど、でもわかるの。それに、昌治さんの両親にももう会ったし……」
「は……?」
母はそれを聞いてフリーズした。そして数十秒ほどそのままで私の方を凝視した。
「それで私……その人と結婚するから」
「ちょ、楓あんた何言って……」
付き合っている云々よりも先に結婚について言ってしまった。もうここまできたら、後には引けない。
「これ、指輪も貰ったの」
私は首から下げていた指輪を出して母に見せた。母はいよいよ動かなくなる。
でもこの勢いとタイミングを逃したら言えない気がする。
「それでその……相手、社会人って言ったけど、いや、社会人ではあるんだけど……」
「どういうこと?そういえば上司だとか言ってたけど、どういう仕事してる人なの?」
「仕事……はしてる……んだけど、たぶん」
「たぶんって何!?」
よく考えなくても私、昌治さんが具体的に何してるのか知らない。仮に知ってて説明できたとして、説明しちゃダメな気がする。というかそもそも、仕事って言っていいのかな?
そういえば黒木屋さんって、特に調べたりしなかったけどどういうお店なんだろう。個室のある居酒屋的なお店かな……って、見た感じからして、門構えからして一見さんお断りっていうオーラがすごいんですけど。日本料亭ってやつじゃないですか。私一見さんなんですが、ちゃんと入れてもらえますかね。
そうだった、しれっとこういうところを利用するような方々だった……
不安が増した。というか母の姿が見えないけど、もう中にいるんだろうか。
「すみません。俺が行くと若頭に来なくていいといった意味がないので」
強面レベルなら大原さんは昌治さんと張り合えますからね。とりあえず今は私だけで、余計な刺激は少なくするんだ……そのはずなのに、場所が別の意味で刺激的なんですけど。
「山野様ですね。お待ちしておりました」
車から降りて呆然とする私に向かってぺこりとお辞儀をするのはお店の中居さんらしき人。
その人はちらりと車を見て何かを確かめるように頷くと、私の方を見た。
「お連れ様がお待ちです。どうぞこちらに」
やっぱり、先にきてたのか。でも大丈夫かな。誘ったの私だけど、こんな店を紹介されて平然としてられるはずがないけど。
あれ?そういえばお支払いはどうすれば……いや、たぶん大原さんか昌治さんが持ってくれるんだろうけど、それは申し訳ない。だって食事してない人に払わせるっておかしくない?
中居さんに案内されながら私はお店の奥へと案内される。ああでも今はそれよりも、違う緊張がじわじわと湧いてくる。話すこと自体はできるけど、受け入れてもらえるかとかは別問題だ。
この料亭の雰囲気に呑まれてうやむやになったりは……しないよね。ですよね。
襖を開けてもらった先にいた母とバッチリ目があった。目があう直前までは戸惑ったように個室の内装を見ていたのに、私と目があった瞬間、それはきっと引き締められて、私は気まずくて目をそらしそうになるのをなんとか堪えた。
「では、お料理を始めさせていただきます。お代は頂いておりますので、ごゆるりとおくつろぎください」
中居さんはそう言い残すと、上品な所作で礼をすると部屋を出て行った。
とても微かに音を立てて襖が閉じるのを見届けた母は、正面に用意されていた席に座った私にゆっくりと視線を向ける。
「なんかもう聞きたいことが多すぎてまとまらないわね。とりあえず聞いとくけど、このお店はなんなの?お代は頂いてるって、あんたが払ったんじゃないでしょうね」
「私じゃないです。その、彼氏の部下の人にいいお店がないか尋ねたら、ここを勧められたから……」
「は?いやいや楓、こんな店勧める部下ってどういうこと?どういう上司よそれ」
一応前に帰省した時に裏というのは伏せて社会人であるとは伝えてあった。でもまさか部下がいたりするような人だとは思っていなかったのか、驚いて目を見開く。
「それは、私もまさかこんなお店だとは思ってなかった」
「さすがに全部出してもらうっていうのは申し訳ないから、その彼氏さんには後でお代を払うって言っておいて」
私はコクコクと頷いておく。私も気になってたから、出せる分くらいは後で出そう。それか違う形でお礼しとこう。
「でもおかげで少しはあんたの彼氏についてわかった。こういう店をサクッと紹介するような人間なわけだ」
「み、みたいだね……」
紹介したの昌治さんじゃなくて大原さんだけど、それは一旦置いておこう。たぶん昌治さんでも同じことが起こる。実体験に基づく予想ができてしまうなぁ……
母はしばらく何か考えてから大きく息を吐いた。
「こんなこと言いたくはないけど……あんた、騙されてるんじゃないの?」
「それは絶対にない。昌治さんはそんな人じゃないって、それはわかってるから」
「わかるって、どうしてわかるの。恋愛経験とか皆無のくせに」
「う……恋愛経験云々については何も言えないけど、でもわかるの。それに、昌治さんの両親にももう会ったし……」
「は……?」
母はそれを聞いてフリーズした。そして数十秒ほどそのままで私の方を凝視した。
「それで私……その人と結婚するから」
「ちょ、楓あんた何言って……」
付き合っている云々よりも先に結婚について言ってしまった。もうここまできたら、後には引けない。
「これ、指輪も貰ったの」
私は首から下げていた指輪を出して母に見せた。母はいよいよ動かなくなる。
でもこの勢いとタイミングを逃したら言えない気がする。
「それでその……相手、社会人って言ったけど、いや、社会人ではあるんだけど……」
「どういうこと?そういえば上司だとか言ってたけど、どういう仕事してる人なの?」
「仕事……はしてる……んだけど、たぶん」
「たぶんって何!?」
よく考えなくても私、昌治さんが具体的に何してるのか知らない。仮に知ってて説明できたとして、説明しちゃダメな気がする。というかそもそも、仕事って言っていいのかな?
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