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3章
40.こちらのお母様2
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なんて言って伝えようかな、なんて思いつつ昌治さんのお母様がお土産と言って置いていったスイカをいただいていた時だった。
スマホの着信音が鳴って、誰かなと思って画面を見ると、『山野桐絵』とその上に振られた『母』という文字。
ちょうど母のことを考えていたところだったから驚いたけど、電話自体は珍しくないからすぐに落ち着けた。
「はーい。どうしたのかあさ……」
『ちょっと楓!あんた今どこにいるの!?』
「え」
あまりにも突然で、手からするっとスマホが落ちそうになっていたら、大原さんが血相を変えて入ってきて、だいたい察した。
『……久しぶりに帰って来たと思ったらすぐ戻って、忙しいなら仕方ないと思って来てみたら、いないってどういうこと?いや、いないのはいい。住所変わってるって聞いてないんだけど』
通話状態のスマホから垂れ流される母の声。
大原さんは諦めた顔でどこかに電話をかけ始める。
『ちょっと楓、聞いてるの?今あんたのアパートの前に来てるんだけど、管理人さんに尋ねたら色々あって引っ越したって』
「ええと、ごめん。説明するから、すぐ行くからどこか適当なとこでお茶でも……」
『今住んでるところの住所教えてくれればそっち行くから。どこ?大学の近くだよね?』
「ちょっと待って色々と問題が」
『問題?まさかあんた、例の彼氏の家にいるとか?まだ学生でしょう。いいと思ってるの?』
う、正解。返事に困ってたら、それを肯定だと受け取ったらしい。電話の向こうで母が大きくため息をつくのが聞こえてきた。
『……どこでもいいからとりあえずどこかで話そうか。適当な話せるような場所ある?』
いきなりそんなこと言われましても……個室のあるお店とかかな。
調べて連絡しますと伝えようとしたら、大原さんがさっとスマホの画面を見せてきた。どこかのお店のホームページだ。ええと、黒木屋さん?
「黒木屋っていうお店、場所とかは後で送る!」
『クロキヤ?何時に行けばいいの?』
私はちらりと大原さんを見る。いつもご迷惑をおかけしてすみません。今度何か奢ります。
大原さんはささっとスマホのメモに何か書いた。時間と、一旦切ってくれという文言だった。
「6時!6時にそこに行く。ごめん母さん、一旦切るね。ちゃんとメール送るから!」
『わかった。ていうかあんた、メール見てないの?家出た時に一応送ったんだけど』
「あー、その時間バイトしてて、まだ見てなかった……」
不覚すぎる。いや、今じゃないとか言ってぐだぐだと昌治さんとのことを話すのを先延ばしにしてたのがそもそも悪いんだけど。
『まあ、とりあえず声聞けて安心した。話は後でちゃんと聞かせてもらうからね』
そうして通話は切れた。
私は横にスマホをゆっくりと置いて深く、深ーくため息をついた。
「お手数おかけしました」
「部下から連絡があったときは焦りましたよ。まさかもう以前のアパートまでいらしていたとは」
「私もびっくりです。とりあえずお店の住所お伺いしてもよろしいですか」
大原さんにお店の住所を見せてもらってそれをメールで送る。
6時にそのお店って言ってしまったけど、6時ってもうあんまり時間がない。
「とりあえず場所は確保しましたが、どうするんです?若頭には一応連絡はしましたが、今日はおそらく戻ってくるのは難しいですよ」
そう、昌治さんは今、組の偉い人が集まっている会合とやらに出席していて、戻ってくるのは明後日、よくて明日の夜の予定なんだよね。仮に今すぐ戻ってきたとしても数時間はかかる。
「私の家の問題なので、とりあえず私だけで話します。むしろ昌治さんがいたら説明は楽かもしれませんけど、昌治さんですから……」
私だったら娘がいきなりあの人を連れてきたらびっくりして倒れる。まずは口頭で説明した方がいい気がした。
「そうですか。でしたら若頭には今日のところはいいと伝えておきます。楓様からもメールで構いませんからそう伝えておいてください」
「はい。そうします。というかどうしましょう。なんて説明すればいいんでしょうか」
とりあえずコンビニ強盗のくだりからかな。でもあのときは余計な心配かけたくなくて連絡してないんだよね。何事もなかったし。
まさか私だってヤクザさんと、しかも若頭なんて人と知り合うどころか結婚を前提にお付き合いすることになるなんて思ってなかった。
「それについては店に行く途中に考えましょう。移動を考えるとあまり時間がありませんから、準備ができ次第出発します」
これはもう腹をくくるしかない。いつかは説明しなきゃいけないことなんだから。
スマホの着信音が鳴って、誰かなと思って画面を見ると、『山野桐絵』とその上に振られた『母』という文字。
ちょうど母のことを考えていたところだったから驚いたけど、電話自体は珍しくないからすぐに落ち着けた。
「はーい。どうしたのかあさ……」
『ちょっと楓!あんた今どこにいるの!?』
「え」
あまりにも突然で、手からするっとスマホが落ちそうになっていたら、大原さんが血相を変えて入ってきて、だいたい察した。
『……久しぶりに帰って来たと思ったらすぐ戻って、忙しいなら仕方ないと思って来てみたら、いないってどういうこと?いや、いないのはいい。住所変わってるって聞いてないんだけど』
通話状態のスマホから垂れ流される母の声。
大原さんは諦めた顔でどこかに電話をかけ始める。
『ちょっと楓、聞いてるの?今あんたのアパートの前に来てるんだけど、管理人さんに尋ねたら色々あって引っ越したって』
「ええと、ごめん。説明するから、すぐ行くからどこか適当なとこでお茶でも……」
『今住んでるところの住所教えてくれればそっち行くから。どこ?大学の近くだよね?』
「ちょっと待って色々と問題が」
『問題?まさかあんた、例の彼氏の家にいるとか?まだ学生でしょう。いいと思ってるの?』
う、正解。返事に困ってたら、それを肯定だと受け取ったらしい。電話の向こうで母が大きくため息をつくのが聞こえてきた。
『……どこでもいいからとりあえずどこかで話そうか。適当な話せるような場所ある?』
いきなりそんなこと言われましても……個室のあるお店とかかな。
調べて連絡しますと伝えようとしたら、大原さんがさっとスマホの画面を見せてきた。どこかのお店のホームページだ。ええと、黒木屋さん?
「黒木屋っていうお店、場所とかは後で送る!」
『クロキヤ?何時に行けばいいの?』
私はちらりと大原さんを見る。いつもご迷惑をおかけしてすみません。今度何か奢ります。
大原さんはささっとスマホのメモに何か書いた。時間と、一旦切ってくれという文言だった。
「6時!6時にそこに行く。ごめん母さん、一旦切るね。ちゃんとメール送るから!」
『わかった。ていうかあんた、メール見てないの?家出た時に一応送ったんだけど』
「あー、その時間バイトしてて、まだ見てなかった……」
不覚すぎる。いや、今じゃないとか言ってぐだぐだと昌治さんとのことを話すのを先延ばしにしてたのがそもそも悪いんだけど。
『まあ、とりあえず声聞けて安心した。話は後でちゃんと聞かせてもらうからね』
そうして通話は切れた。
私は横にスマホをゆっくりと置いて深く、深ーくため息をついた。
「お手数おかけしました」
「部下から連絡があったときは焦りましたよ。まさかもう以前のアパートまでいらしていたとは」
「私もびっくりです。とりあえずお店の住所お伺いしてもよろしいですか」
大原さんにお店の住所を見せてもらってそれをメールで送る。
6時にそのお店って言ってしまったけど、6時ってもうあんまり時間がない。
「とりあえず場所は確保しましたが、どうするんです?若頭には一応連絡はしましたが、今日はおそらく戻ってくるのは難しいですよ」
そう、昌治さんは今、組の偉い人が集まっている会合とやらに出席していて、戻ってくるのは明後日、よくて明日の夜の予定なんだよね。仮に今すぐ戻ってきたとしても数時間はかかる。
「私の家の問題なので、とりあえず私だけで話します。むしろ昌治さんがいたら説明は楽かもしれませんけど、昌治さんですから……」
私だったら娘がいきなりあの人を連れてきたらびっくりして倒れる。まずは口頭で説明した方がいい気がした。
「そうですか。でしたら若頭には今日のところはいいと伝えておきます。楓様からもメールで構いませんからそう伝えておいてください」
「はい。そうします。というかどうしましょう。なんて説明すればいいんでしょうか」
とりあえずコンビニ強盗のくだりからかな。でもあのときは余計な心配かけたくなくて連絡してないんだよね。何事もなかったし。
まさか私だってヤクザさんと、しかも若頭なんて人と知り合うどころか結婚を前提にお付き合いすることになるなんて思ってなかった。
「それについては店に行く途中に考えましょう。移動を考えるとあまり時間がありませんから、準備ができ次第出発します」
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