お客様はヤのつくご職業

古亜

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3章

27.花火大会と浴衣2

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「赤も似合うと思うけど……でもこっちの緑の方がいい……?さすが彼氏。よくわかってる」
「確かにこれの方が好みだけど……」

和室に広げられているのは5種類の浴衣だった。
最初は美香が持ってきてくれる浴衣を着るつもりだったのだけど、せっかくだからといくつか用意してくれたとのこと。美香の持ってきた浴衣は2種類でどちらも派手めなのに対し、昌治さんセレクトらしい浴衣はどれも青や緑などの落ち着いた色合いで、柄というよりは模様がメインな浴衣だ。

「じゃあこれね。このまま着付けするからそこ立って」
「え、サイズとか大丈夫なの?」
「少しくらいならなんとかなる。でも見た感じぴったりだから心配する必要ないよ」

浴衣の着付けはできるから、と美香は楽しそうにしている。
言われるがままに衿を持ったり腕を伸ばしたりしていたら、気付けば着付けは終わっていた。

「すごい。私がやってもこうはいかない……」

いつも着てるはずなんだけど、まあ寝巻きとしての浴衣だから別物か。

「振袖とかよりは簡単だよ。私も着よっと」

美香は持って来た浴衣のうちの一着を手に取ると、慣れた感じでさっさと着替え終わっていた。
巾着や足袋などの小物を用意して、髪も結ってもらったのであとは出発するだけだ。

「45分に来るって言ってたから、まだ少し時間あるね」
「じゃあ岩峰さんに見せに行きなよ」
「え……今?」
「恥ずかしがることないでしょ。浴衣のお礼しに行きなって」

ぐいぐいと背中を押され、私は半ば強引に和室から追い出された。確かに昌治さんには浴衣見せる約束してたけど、戻ってきたときでいいかなと思ってたし、そんなにがっつりと見せるものだろうか。
でも見せに行かないと美香は納得しない。自分で行かなかったら呼びに行かれる。

「し、失礼しまーす……」

そろそろと私は昌治さんの自室にお邪魔した。普段は自分から入らないし、浴衣を見てもらうためだというのがなんとなく気恥ずかしい。
私が入ったとき、昌治さんはなぜか机の上に拳銃を2丁並べて、それを手に取ったりして見比べていた。
思わずぎょっとしてしまったけど、いちいち驚いてはいられないからあんまり顔に出さないように、出さ……無理だった。

「悪い、すぐ片付け……ん?」

昌治さんは私の姿を上から下まで見て、動きを止めた。
そして手にしていた拳銃をなぜか持ったまま、私の方に歩み寄ってくる。

「え、昌治さん……?」

完全に怯えてちょっと後退りした私の頬に、昌治さんは口付けを落とす。
色々と困惑して呆然としていたら、次は唇に噛み付かれるみたいな口付けをされて、私の頭は一瞬真っ白になった。
舌を絡め取られて息が苦しいからなのかどうなのかわからないけど、ぼんやりとされるがままになっていたら、後頭部にこつんと固い何かが当たって私は思わず身震いする。
でも、このゾクゾクするのは後頭部にある拳銃のせいなのか、それとも昌治さんのキスのせいなのか、それがわからない。
ようやく唇が離れた時にはもう腑抜けてしまって、私は扉にちょっともたれかかるようになってしまった。

「ど、どうしたんですか……?」

いきなりこんな風にされたのは初めてだ。まあそもそも私から昌治さんの自室にお邪魔するのが珍しいんだけど。

「わからん」
「……え?」

間抜けな声が出た。

「浴衣着てくれたんだなと思ったら、キスしたくなった」
「は、はぁ……」
「正直、今すぐ脱がせて抱きたい」

んん?昌治さん大丈夫ですか!?いや、大丈夫かどうかは置いといて目が割と本気だ。

「だ、ダメですよ!?せっかく美香が着付けてくれたんですから!」
「確かにそうだが、可愛いすぎてどうでもいい」
「よくないです!」
「キスじゃ足りねぇんだよ」

同時に首筋をそっと指先でなぞられて、体がふつふつと熱くなってきた。
昌治さんの細められた瞳と目が合って……って、危ない。流されそうだった!

「それより、その手に持ってるのは……」

話題を変える意味も込めて、私は昌治さんが指で引っ掛けるみたいにして持っている拳銃に目を落とした。

「ああ、これか。弾は入ってないし模造品だ。今は図面があれば作れるからな。本物と見比べてたんだ」
「そんなことニュースになってた気がします。見た目そっくりですね」
「つっても樹脂だから重さとかは違うな……って、話逸らそうとすんなよ」

昌治さんはそう言って私の唇にそっと指先を押し当てた。加えて浴衣の上から胸に触れられて、私はついくぐもった甘い声を上げてしまう。

「そうだな。あんまり声出すと聞かれるかもしれねぇもんな」
「い、言わないでくださいっ!」

なんで嬉しそうなんですか。私は実際そうなったら恥ずかしさで悶え死ねます!

「こんな可愛く仕上げてくれたんだ。柳の孫には感謝しねぇとな」

昌治さんは私の頭を優しくぽんぽんと撫でる。

「まあそれに免じて今はやめとくか。今は柳の孫と楽しんでこい」

冗談めかして言うその目は、相変わらず熱を孕んでいた。
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