お客様はヤのつくご職業

古亜

文字の大きさ
上 下
107 / 132
3章

27.花火大会と浴衣2

しおりを挟む
「赤も似合うと思うけど……でもこっちの緑の方がいい……?さすが彼氏。よくわかってる」
「確かにこれの方が好みだけど……」

和室に広げられているのは5種類の浴衣だった。
最初は美香が持ってきてくれる浴衣を着るつもりだったのだけど、せっかくだからといくつか用意してくれたとのこと。美香の持ってきた浴衣は2種類でどちらも派手めなのに対し、昌治さんセレクトらしい浴衣はどれも青や緑などの落ち着いた色合いで、柄というよりは模様がメインな浴衣だ。

「じゃあこれね。このまま着付けするからそこ立って」
「え、サイズとか大丈夫なの?」
「少しくらいならなんとかなる。でも見た感じぴったりだから心配する必要ないよ」

浴衣の着付けはできるから、と美香は楽しそうにしている。
言われるがままに衿を持ったり腕を伸ばしたりしていたら、気付けば着付けは終わっていた。

「すごい。私がやってもこうはいかない……」

いつも着てるはずなんだけど、まあ寝巻きとしての浴衣だから別物か。

「振袖とかよりは簡単だよ。私も着よっと」

美香は持って来た浴衣のうちの一着を手に取ると、慣れた感じでさっさと着替え終わっていた。
巾着や足袋などの小物を用意して、髪も結ってもらったのであとは出発するだけだ。

「45分に来るって言ってたから、まだ少し時間あるね」
「じゃあ岩峰さんに見せに行きなよ」
「え……今?」
「恥ずかしがることないでしょ。浴衣のお礼しに行きなって」

ぐいぐいと背中を押され、私は半ば強引に和室から追い出された。確かに昌治さんには浴衣見せる約束してたけど、戻ってきたときでいいかなと思ってたし、そんなにがっつりと見せるものだろうか。
でも見せに行かないと美香は納得しない。自分で行かなかったら呼びに行かれる。

「し、失礼しまーす……」

そろそろと私は昌治さんの自室にお邪魔した。普段は自分から入らないし、浴衣を見てもらうためだというのがなんとなく気恥ずかしい。
私が入ったとき、昌治さんはなぜか机の上に拳銃を2丁並べて、それを手に取ったりして見比べていた。
思わずぎょっとしてしまったけど、いちいち驚いてはいられないからあんまり顔に出さないように、出さ……無理だった。

「悪い、すぐ片付け……ん?」

昌治さんは私の姿を上から下まで見て、動きを止めた。
そして手にしていた拳銃をなぜか持ったまま、私の方に歩み寄ってくる。

「え、昌治さん……?」

完全に怯えてちょっと後退りした私の頬に、昌治さんは口付けを落とす。
色々と困惑して呆然としていたら、次は唇に噛み付かれるみたいな口付けをされて、私の頭は一瞬真っ白になった。
舌を絡め取られて息が苦しいからなのかどうなのかわからないけど、ぼんやりとされるがままになっていたら、後頭部にこつんと固い何かが当たって私は思わず身震いする。
でも、このゾクゾクするのは後頭部にある拳銃のせいなのか、それとも昌治さんのキスのせいなのか、それがわからない。
ようやく唇が離れた時にはもう腑抜けてしまって、私は扉にちょっともたれかかるようになってしまった。

「ど、どうしたんですか……?」

いきなりこんな風にされたのは初めてだ。まあそもそも私から昌治さんの自室にお邪魔するのが珍しいんだけど。

「わからん」
「……え?」

間抜けな声が出た。

「浴衣着てくれたんだなと思ったら、キスしたくなった」
「は、はぁ……」
「正直、今すぐ脱がせて抱きたい」

んん?昌治さん大丈夫ですか!?いや、大丈夫かどうかは置いといて目が割と本気だ。

「だ、ダメですよ!?せっかく美香が着付けてくれたんですから!」
「確かにそうだが、可愛いすぎてどうでもいい」
「よくないです!」
「キスじゃ足りねぇんだよ」

同時に首筋をそっと指先でなぞられて、体がふつふつと熱くなってきた。
昌治さんの細められた瞳と目が合って……って、危ない。流されそうだった!

「それより、その手に持ってるのは……」

話題を変える意味も込めて、私は昌治さんが指で引っ掛けるみたいにして持っている拳銃に目を落とした。

「ああ、これか。弾は入ってないし模造品だ。今は図面があれば作れるからな。本物と見比べてたんだ」
「そんなことニュースになってた気がします。見た目そっくりですね」
「つっても樹脂だから重さとかは違うな……って、話逸らそうとすんなよ」

昌治さんはそう言って私の唇にそっと指先を押し当てた。加えて浴衣の上から胸に触れられて、私はついくぐもった甘い声を上げてしまう。

「そうだな。あんまり声出すと聞かれるかもしれねぇもんな」
「い、言わないでくださいっ!」

なんで嬉しそうなんですか。私は実際そうなったら恥ずかしさで悶え死ねます!

「こんな可愛く仕上げてくれたんだ。柳の孫には感謝しねぇとな」

昌治さんは私の頭を優しくぽんぽんと撫でる。

「まあそれに免じて今はやめとくか。今は柳の孫と楽しんでこい」

冗談めかして言うその目は、相変わらず熱を孕んでいた。
しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...