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3章
25.帰省の終わりは突然に2
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そして、お屋敷に戻ってきてしまった。
両親にはやり忘れた課題があったとメールを送っておいたし、特に誰かと会う約束もなかったので問題はない。
問題は目の前だ。
玄関で仁王立ちをして、私を待ち構えている昌治さん。
そしてその横にはバリカンを高尚大事そうに持った組の人。え、なんでバリカン?反省ですか。私に反省しろということですか。
石畳の途中でフリーズしてしまった私の方に昌治さんはゆっくりと近付いてきて、そっと私の肩を叩いた。
顔を上げると、昌治さんの怒っている瞳と目が合って、私は思わず震えてしまう。
気まずい沈黙の中、口火を切ったのは私を見下ろしている昌治さんだった。
「……スキンヘッドで爽やかな面のいい外人がタイプなのか?」
ええ!そっち!?電話口で他の男の声がしたから怒ってるんじゃないの!?
それにあの場で言った好きなタイプに関する詳細を、どうして昌治さんがご存知なんですか!
慌てる私を見て、何を思ったのか昌治さんは溜め息をつく。
「髪、剃った方がいいならそうするし、英語くらいならある程度喋れるようになるから……」
「そ、そんなことしなくていいですっ!」
まさかあのバリカン、私がとち狂って「スキンヘッドの方がいい」とか言ったら、すぐにそうする用ですか。
あと英語って何?外国人イコール英語って、単純すぎやしませんか昌治さん。
「あれはそのときたまたま大原さんの頭が目に入っただけで……坊主頭が好きってわけじゃないですよ?」
「でもお前、よく大原の頭見てるだろ」
「え?見てないですよ!?」
何を仰ってるんですか。大原さんの頭は確かに目立つから一番最初に目に入ってはきますけど……まさかそれですか?不可抗力だと思います!見ているんじゃなくて、勝手に目が行くんです!
昌治さんは私の後ろに立つ大原さんをめっちゃ睨んでいる。恐る恐る振り向くと、冷や汗を隠しきれていない大原さんが、凄まじい勢いで地面に頭を擦り付けていた。
「髪の毛伸ばすんで、それで勘弁してくださいっ!」
「じゃあそうしろ」
「髪型は人それぞれでいいと思います!」
私と昌治さんはほぼ同時に全く違うことを言っていた。別にさ、大原さんの髪がフッサフッサになろうと大原さんがそうしたいならいいと思うよ。でも、わざわざスキンヘッドを貫くってことはきっと何かあるんですよね?スキンヘッドにする理由はよくわかりませんが!
あと、失礼だけどスキンヘッドじゃない大原さんは大原さんじゃないと思う。想像できない。
「やっぱりスキンヘッドがいいのか?」
「そうですね。大原さんに関しては見慣れている方がいいですね。でも、昌治さんはそのままでいいと思います!」
「やっぱりスキンヘッドがいいんじゃねぇか」
ダメだ、昌治さんが全然話を聞いてくれない!そのままでいいって言ってるじゃないですか。やめて組の人!そっとバリカンを昌治さんに近付けないでっ!止めようよそこは!
「違います!昌治さんは今のままが一番かっこいいです!今のままでいてください!」
そう言ったら、なぜか昌治さんの動きがぴたりと止まった。バリカンに手を伸ばしてたから危なかった。
「私が昌治さんのこと好きになるのに、髪型とか外見とか関係ありませんでしたから!スキンヘッドは単に大原さんのアイデンティティなだけです!」
「少しでもお前の好みの見た目に近付こうと思ったんだが、スキンヘッドじゃなくていいのか?」
「はい!そのままの昌治さんが好きです!」
私、何を言ってるんだろう。まあいいや。昌治さんはちょっと落ち着いたっぽいし。
大きく息を吐いた昌治さんは、黙って私を抱き寄せて強く抱き締めた。昌治さんの胸に顔を埋めるみたいになってる。
しばらくして離されたとき、周りの人たちが微笑ましいものを見ているような目でこちらを見ているのに気付いた。
年嵩のヤクザさんの手にはなぜか手拭い。そして一部の人に至っては拝むみたいにして手を合わせている。
あの、拝んだところでそんな御利益とか特にないですよ……?
「髪剃るならまず直接意見を聞いてからの方がいいと言われた。悪いな、すぐ戻らせて」
「いえ、阻止できてよかったです……てっきり電話のことを怒られるのかと」
「……ああ、あれか」
その瞬間、昌治さんの纏う雰囲気がガラリと変わった。あれ?私、かなり余計なこと言った?
まあそうか。だって電話ブチって切れたからね!帰省した先で他の男の人といたんだもんね!
……でも、なんだろう。怒ってるって雰囲気じゃない。なんというかその、甘くてドロっと、どことなくピリピリしてる。なんで?
昌治さんは呆然とする私をひょいと抱き上げる。出迎えの人たちがザッと割れて、深く頭を下げた。
「話は大体大原と西山から聞いてる。せっかく地元戻ったんだ、高校の同級生の集まりに顔出したいってのはわかる」
いや、わかるって、本当にわかってます?その、目が真逆のこと言ってる気がしてならないのですが。
「……安心しろ、お前のことは信じてるから、そういうつもりで誘いに乗ったとは思ってねぇよ。でもな、俺以外の男の誘いにホイホイ乗ったってのがどうも許せねぇんだ」
昌治さんの指が、私の首筋をそっとなぞる。
ええと、つまり……
「誘ってんだよ。俺の誘いには乗れねぇか?」
誘う内容があまりにも違いすぎる!でも、抱き抱えられてる以上、これ私に拒否権ないですよね!
それに組のみなさんが見て……ない。みなさん頭を下げて見ないように配慮してくださっている!でも、それ逆に恥ずかしいんですけど!
私の羞恥なんていざ知らず、昌治さんは私の額にそっと口付けを落として微笑んだ。
両親にはやり忘れた課題があったとメールを送っておいたし、特に誰かと会う約束もなかったので問題はない。
問題は目の前だ。
玄関で仁王立ちをして、私を待ち構えている昌治さん。
そしてその横にはバリカンを高尚大事そうに持った組の人。え、なんでバリカン?反省ですか。私に反省しろということですか。
石畳の途中でフリーズしてしまった私の方に昌治さんはゆっくりと近付いてきて、そっと私の肩を叩いた。
顔を上げると、昌治さんの怒っている瞳と目が合って、私は思わず震えてしまう。
気まずい沈黙の中、口火を切ったのは私を見下ろしている昌治さんだった。
「……スキンヘッドで爽やかな面のいい外人がタイプなのか?」
ええ!そっち!?電話口で他の男の声がしたから怒ってるんじゃないの!?
それにあの場で言った好きなタイプに関する詳細を、どうして昌治さんがご存知なんですか!
慌てる私を見て、何を思ったのか昌治さんは溜め息をつく。
「髪、剃った方がいいならそうするし、英語くらいならある程度喋れるようになるから……」
「そ、そんなことしなくていいですっ!」
まさかあのバリカン、私がとち狂って「スキンヘッドの方がいい」とか言ったら、すぐにそうする用ですか。
あと英語って何?外国人イコール英語って、単純すぎやしませんか昌治さん。
「あれはそのときたまたま大原さんの頭が目に入っただけで……坊主頭が好きってわけじゃないですよ?」
「でもお前、よく大原の頭見てるだろ」
「え?見てないですよ!?」
何を仰ってるんですか。大原さんの頭は確かに目立つから一番最初に目に入ってはきますけど……まさかそれですか?不可抗力だと思います!見ているんじゃなくて、勝手に目が行くんです!
昌治さんは私の後ろに立つ大原さんをめっちゃ睨んでいる。恐る恐る振り向くと、冷や汗を隠しきれていない大原さんが、凄まじい勢いで地面に頭を擦り付けていた。
「髪の毛伸ばすんで、それで勘弁してくださいっ!」
「じゃあそうしろ」
「髪型は人それぞれでいいと思います!」
私と昌治さんはほぼ同時に全く違うことを言っていた。別にさ、大原さんの髪がフッサフッサになろうと大原さんがそうしたいならいいと思うよ。でも、わざわざスキンヘッドを貫くってことはきっと何かあるんですよね?スキンヘッドにする理由はよくわかりませんが!
あと、失礼だけどスキンヘッドじゃない大原さんは大原さんじゃないと思う。想像できない。
「やっぱりスキンヘッドがいいのか?」
「そうですね。大原さんに関しては見慣れている方がいいですね。でも、昌治さんはそのままでいいと思います!」
「やっぱりスキンヘッドがいいんじゃねぇか」
ダメだ、昌治さんが全然話を聞いてくれない!そのままでいいって言ってるじゃないですか。やめて組の人!そっとバリカンを昌治さんに近付けないでっ!止めようよそこは!
「違います!昌治さんは今のままが一番かっこいいです!今のままでいてください!」
そう言ったら、なぜか昌治さんの動きがぴたりと止まった。バリカンに手を伸ばしてたから危なかった。
「私が昌治さんのこと好きになるのに、髪型とか外見とか関係ありませんでしたから!スキンヘッドは単に大原さんのアイデンティティなだけです!」
「少しでもお前の好みの見た目に近付こうと思ったんだが、スキンヘッドじゃなくていいのか?」
「はい!そのままの昌治さんが好きです!」
私、何を言ってるんだろう。まあいいや。昌治さんはちょっと落ち着いたっぽいし。
大きく息を吐いた昌治さんは、黙って私を抱き寄せて強く抱き締めた。昌治さんの胸に顔を埋めるみたいになってる。
しばらくして離されたとき、周りの人たちが微笑ましいものを見ているような目でこちらを見ているのに気付いた。
年嵩のヤクザさんの手にはなぜか手拭い。そして一部の人に至っては拝むみたいにして手を合わせている。
あの、拝んだところでそんな御利益とか特にないですよ……?
「髪剃るならまず直接意見を聞いてからの方がいいと言われた。悪いな、すぐ戻らせて」
「いえ、阻止できてよかったです……てっきり電話のことを怒られるのかと」
「……ああ、あれか」
その瞬間、昌治さんの纏う雰囲気がガラリと変わった。あれ?私、かなり余計なこと言った?
まあそうか。だって電話ブチって切れたからね!帰省した先で他の男の人といたんだもんね!
……でも、なんだろう。怒ってるって雰囲気じゃない。なんというかその、甘くてドロっと、どことなくピリピリしてる。なんで?
昌治さんは呆然とする私をひょいと抱き上げる。出迎えの人たちがザッと割れて、深く頭を下げた。
「話は大体大原と西山から聞いてる。せっかく地元戻ったんだ、高校の同級生の集まりに顔出したいってのはわかる」
いや、わかるって、本当にわかってます?その、目が真逆のこと言ってる気がしてならないのですが。
「……安心しろ、お前のことは信じてるから、そういうつもりで誘いに乗ったとは思ってねぇよ。でもな、俺以外の男の誘いにホイホイ乗ったってのがどうも許せねぇんだ」
昌治さんの指が、私の首筋をそっとなぞる。
ええと、つまり……
「誘ってんだよ。俺の誘いには乗れねぇか?」
誘う内容があまりにも違いすぎる!でも、抱き抱えられてる以上、これ私に拒否権ないですよね!
それに組のみなさんが見て……ない。みなさん頭を下げて見ないように配慮してくださっている!でも、それ逆に恥ずかしいんですけど!
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