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3章
21.帰省はのんびり3
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翌日、約束通り11時半に近所のコンビニの駐車場で待っていたら、藤沢先輩があの赤い車に乗ってやってきた。
「乗れよ」
言われて後部座席に乗り込む。久しぶりに部活のみんなに会えるの楽しみだな。
懐かしい地元の道を進みながら、先輩とはたわいもない話をする。
「……大学は何してんだ?卓球続けてんの?」
「サークルとかは何も入ってないんですよね。ラケットも下宿に置いてはあるんですけど、全く使ってないです」
「俺もだ。まあ、温泉卓球は今のところまだ負け無しだけど」
「私はどうでしょうね。サーブすら危ういかもしれないです」
そんな感じで昔話に花を咲かせていたら、先輩が予約したというお店に到着した。
和食処かな。こぢんまりした感じのいいお店だ。何回か前を通ったことあるけど、来るのは初めてだな。
車を降りてお店の中に入る。外観通りの落ち着いた雰囲気のお店だった。平日の昼間だからかそれなりにお客さんがいる。奥にふすまで仕切られたお座敷があって、その一室が空いていた。
「いらっしゃいませ。藤沢様ですね」
そうしてにこにこと微笑む女将さんらしき女性に、奥に案内されていた時だった。
「そうですか、どっちも厳しいですね」
……ん?
どこからか聞き覚えのある声がして、私はキョロキョロと店内を見回す。
そして僅かに開いているふすまの間から覗く、キラリと輝く頭……このスキンなヘッドは、まさか大原さん!?
「岩峰の方の話もこっちまで色々届いてるよ。そちらの若頭が身を固めるというのは本当か?しかも相手にベタ惚れだとか」
「喜ばしいことですよ。ようやくですからね。とはいえ、彼女の卒業を待つので少し先ですが」
「てっきり来月くらいにでも呼ばれると思っていたが、そうか。若い方だと聞いていたが、まさか大学生だとは……」
しかも、私のこと喋ってる?こっちの方との情報交換って仰ってたけど、私のことは別にいいんじゃないですかね。
そんな心の叫びが伝わるわけもなく、大原さんのお話し相手は興味津々といった様子で深掘りしていく。
「しかし大学生なら、俺の倅と同じくらいか。取っ替え引っ替え遊ぶのはまあ、構わないが……そろそろ本命の女を見つける努力をしてほしいもんだ。同年代の意見を聞くためにも、ぜひそのお嬢さんとは一度話をしたい」
「勝手に他の男に会わせたなんて知られたら俺が殺されますよ。ウチの若頭、独占欲強かったようで」
「別に取って食いはしませんよ。岩峰の若頭の女と知って手を出すやつはよっぽどの馬鹿か阿呆でしょう。少なくとも倅には勿体無いお嬢さんなんでしょうねぇ」
自分のことなのでちょっと聞き入ってしまっていた。
藤沢先輩が不思議そうに私を見ているのに気付いて、私は慌ててその後に続く。
通された部屋……って、ここ大原さんたちのいるお座敷の隣だ。まあ、そんなに大きい声で話さないしいいか。
向こうの会話も、ふすまを隔ててるからか鮮明には聞こえない。
「他の人はまだ来てないんですね」
案内されたお座敷に上がったけど、私と先輩以外の人はいなかった。予約したから少し早めに来ただけかな。
「あー、それなんだけど、他のやつらは呼んでない」
「え……?どうしてですか」
「いや、わかれよ。山野と2人で飯食いたかったからに決まってるだろ」
そう言って先輩はメニューを手渡してきた。つい受け取っちゃったけど、この状況よくない気がする。
まずいなと焦る私をよそに、先輩は私の方を真っ直ぐに見ていた。
申し訳ないやら恥ずかしいやらで、自分の頬がちょっと熱を持ったのがわかる。
「高校の時、俺のこと好きだったんだろ?」
……っ、そうだった。でもそれは憧れに近かったし、今は正直なところ何とも思っていない。
久しぶりにみんなに会えるかなとしか思ってなくて、まさかそんなこと言われるとは思ってなかった。
「ご、ごめんなさい。今こ……か、彼氏いるので……」
先輩には申し訳ないけど、はっきり言っとかないと後で絶対困る。身を以て経験済みだから。
「え……マジで?」
先輩は驚いた顔で私を見る。
「いつから?」
「3ヵ月前くらいからです。あの、申し訳ないんですけど私、帰りますね」
彼氏がいるのに他の男と2人で食事。時たま聞くフレーズではあるけど、まさか自分がそれをやりかけるとは。
というかそういうことだったのなら、お代は払うのでちょっとお暇させていただきたい。帰りはタクシーでいいや。お隣に大原さんがいるし、見られたらまずい……
「翔、お前いたのか」
鞄を手に取って立ち上がろうとした瞬間、ふすまがガラリと開いて見知らぬ男の人が立っていた。
いかにも職人気質っぽい服装に身を包んだその男の人の背中には藤沢造園の文字が。そしてその男の人が座っていたであろう席の向かい側には……超絶引き攣った顔で私の方を凝視している大原さんがいた。
「乗れよ」
言われて後部座席に乗り込む。久しぶりに部活のみんなに会えるの楽しみだな。
懐かしい地元の道を進みながら、先輩とはたわいもない話をする。
「……大学は何してんだ?卓球続けてんの?」
「サークルとかは何も入ってないんですよね。ラケットも下宿に置いてはあるんですけど、全く使ってないです」
「俺もだ。まあ、温泉卓球は今のところまだ負け無しだけど」
「私はどうでしょうね。サーブすら危ういかもしれないです」
そんな感じで昔話に花を咲かせていたら、先輩が予約したというお店に到着した。
和食処かな。こぢんまりした感じのいいお店だ。何回か前を通ったことあるけど、来るのは初めてだな。
車を降りてお店の中に入る。外観通りの落ち着いた雰囲気のお店だった。平日の昼間だからかそれなりにお客さんがいる。奥にふすまで仕切られたお座敷があって、その一室が空いていた。
「いらっしゃいませ。藤沢様ですね」
そうしてにこにこと微笑む女将さんらしき女性に、奥に案内されていた時だった。
「そうですか、どっちも厳しいですね」
……ん?
どこからか聞き覚えのある声がして、私はキョロキョロと店内を見回す。
そして僅かに開いているふすまの間から覗く、キラリと輝く頭……このスキンなヘッドは、まさか大原さん!?
「岩峰の方の話もこっちまで色々届いてるよ。そちらの若頭が身を固めるというのは本当か?しかも相手にベタ惚れだとか」
「喜ばしいことですよ。ようやくですからね。とはいえ、彼女の卒業を待つので少し先ですが」
「てっきり来月くらいにでも呼ばれると思っていたが、そうか。若い方だと聞いていたが、まさか大学生だとは……」
しかも、私のこと喋ってる?こっちの方との情報交換って仰ってたけど、私のことは別にいいんじゃないですかね。
そんな心の叫びが伝わるわけもなく、大原さんのお話し相手は興味津々といった様子で深掘りしていく。
「しかし大学生なら、俺の倅と同じくらいか。取っ替え引っ替え遊ぶのはまあ、構わないが……そろそろ本命の女を見つける努力をしてほしいもんだ。同年代の意見を聞くためにも、ぜひそのお嬢さんとは一度話をしたい」
「勝手に他の男に会わせたなんて知られたら俺が殺されますよ。ウチの若頭、独占欲強かったようで」
「別に取って食いはしませんよ。岩峰の若頭の女と知って手を出すやつはよっぽどの馬鹿か阿呆でしょう。少なくとも倅には勿体無いお嬢さんなんでしょうねぇ」
自分のことなのでちょっと聞き入ってしまっていた。
藤沢先輩が不思議そうに私を見ているのに気付いて、私は慌ててその後に続く。
通された部屋……って、ここ大原さんたちのいるお座敷の隣だ。まあ、そんなに大きい声で話さないしいいか。
向こうの会話も、ふすまを隔ててるからか鮮明には聞こえない。
「他の人はまだ来てないんですね」
案内されたお座敷に上がったけど、私と先輩以外の人はいなかった。予約したから少し早めに来ただけかな。
「あー、それなんだけど、他のやつらは呼んでない」
「え……?どうしてですか」
「いや、わかれよ。山野と2人で飯食いたかったからに決まってるだろ」
そう言って先輩はメニューを手渡してきた。つい受け取っちゃったけど、この状況よくない気がする。
まずいなと焦る私をよそに、先輩は私の方を真っ直ぐに見ていた。
申し訳ないやら恥ずかしいやらで、自分の頬がちょっと熱を持ったのがわかる。
「高校の時、俺のこと好きだったんだろ?」
……っ、そうだった。でもそれは憧れに近かったし、今は正直なところ何とも思っていない。
久しぶりにみんなに会えるかなとしか思ってなくて、まさかそんなこと言われるとは思ってなかった。
「ご、ごめんなさい。今こ……か、彼氏いるので……」
先輩には申し訳ないけど、はっきり言っとかないと後で絶対困る。身を以て経験済みだから。
「え……マジで?」
先輩は驚いた顔で私を見る。
「いつから?」
「3ヵ月前くらいからです。あの、申し訳ないんですけど私、帰りますね」
彼氏がいるのに他の男と2人で食事。時たま聞くフレーズではあるけど、まさか自分がそれをやりかけるとは。
というかそういうことだったのなら、お代は払うのでちょっとお暇させていただきたい。帰りはタクシーでいいや。お隣に大原さんがいるし、見られたらまずい……
「翔、お前いたのか」
鞄を手に取って立ち上がろうとした瞬間、ふすまがガラリと開いて見知らぬ男の人が立っていた。
いかにも職人気質っぽい服装に身を包んだその男の人の背中には藤沢造園の文字が。そしてその男の人が座っていたであろう席の向かい側には……超絶引き攣った顔で私の方を凝視している大原さんがいた。
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