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3章
34.花火大会と浴衣7
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「どうした?」
昌治さんは不思議そうに私を見た。
ちなみに昌治さんは普通に花火を見ていたようで、どこか満足そうな様子だ。
「足元に虫がいて……花火、綺麗でしたね」
せっかく昌治さんが楽しそうなのに、こんなことで空気を壊すのはよくないよね。そう、花火なんて見ようと思えばまた別の花火大会もあるし。
「そういえば、さっき何か言いかけなかったか?」
「いえ、別に……」
言えない。昌治さんってたまに恥ずかしいことを普通に言うことありますよね、なんて言おうとしたなんて言えない。大したことじゃなさすぎる。
昌治さんはちょっと怪しむようにしながらも、帰ろうとしているのか私の腕を引いた。
「あの、帰りも美香のお爺さんに送ってもらうことになってたんですけど」
会場に行く時の車は、お爺さんの部下が運転して私と美香が後ろの座席、お爺さんが助手席に乗っていた。
私が昌治さんと帰ったら、美香がお爺さんと二人になってしまう。それが嫌だからと美香に誘われたのに。
「そうだったな。どこかに集まるのか?」
途中で連絡を取って聞いたら、来た時の駐車場に停めたままにしてあるから、そこに集合みたいだけど……
問いかけてきた昌治さんはわかりやすく残念そうにしていて、私は思わずくすりと笑ってしまった。
「笑うなよ。まさかここであの爺さんに邪魔されるとはな」
「邪魔って、帰るだけですよ?」
「まあ、そうだな。じゃあその待ち合わせ場所に送ってやるよ。近くに車あるからすぐ着く」
昌治さんはちらりと私の足を見る。ああ、気付かれてたのか。
鼻緒が擦れて足の指が地味に痛かった。駐車場までそれなりに距離があるし階段もあるので、辛いけど頑張るかと思っていたんだけど、ここはお言葉に甘えておこうかな。
「えっ?」
お願いします、と言った瞬間にひょいっと持ち上げられて、私はそのまま昌治さんに運搬される。
昌治さんの言った通り、すぐ近くにいかにも花火大会の関係者用の駐車場があって、その端に昌治さんのものらしい車が止まっていた。
その車の横で降ろしてもらえたので、私は昌治さんに促されるまま後ろの座席に座った。そういえば昌治さんの車に乗るの初めてかも、なんて思っていたら、昌治さんはなぜかそのまま後ろの座席に乗り込んできた。
「え、しょ……ん」
名前を呼ぶ前に、昌治さんは私の方へ身を乗り出してキスをした。唇を重ねるだけのものだったけど、それだけで心がふわふわして一気に落ち着かなくなる。
「なあ、花火大会の最後どうしたんだ?」
昌治さんがじっと私を見る。その目に浮かんでいるのは単なる疑問だけではなかった。
「大したことないですから」
ちょっと花火が見れなかったくらいで落ち込むなんて情けない。終わってしまったことなんだからどうこう言ったって仕方ないし。
「大したことなくても言ってみろ。気になるだろ」
昌治さんは私をシートに軽く押さえ付けて問いかけてくる。これ、側から見たらただの恐喝……?
なんて思っていたら、昌治さんが浴衣の襟に手を入れて誘うようにその手を動かした。
私の口からは細い悲鳴みたいな声が漏れる。
「まあ俺は、お前が喋るまでこうして好きにさせてもらうが」
「待ってください!本当に大したことないんですって!」
喋ればやめてくれるなら喋りますよ?でもこの状況で言ったいいの?今更ながらかなりしょうもないことですからね!
「別に、このまましていいんなら喋る必要はねぇよ?」
「話します!話しますからやめてください!」
「……そんなに嫌なのか」
わかりやすく落ち込む昌治さん。いや、そういうわけじゃなくて、嫌とかそういうことは昌治さんに対してはないけど、恥ずかしいじゃないですか!ここ車の中ですよ!?
そう言ったら、昌治さんは真顔になった。
「窓にスモーク入ってるし、そんなに声出さなきゃ問題ねぇよ」
そういう問題ですか!?そう言いたかったけど、昌治さんのこの顔は本気だ。普通に車の中でも問題ないと思っていらっしゃる!?
「花火が、最後の花火上がったとき、うっかりしてて見れなくてちょっと悲しかっただけです!本当にそれだけです!」
そう。改めて考えてみても、大したことじゃない。なのに……
「一大事じゃねぇか」
昌治さんは結構本気のトーンでそう言った。
「一大事って、見れなかっただけですから。私が見てなかっただけですから」
「楽しみにしてたんだろ?」
「しかたないです。聞いてくれてありがとうございます」
「俺がよくない。馴染みの花火師に同じの作らせる」
「馴染みの……?いやいや、そこまでしなくて大丈です。他の花火は見れましたし」
「……お前と見たいんだよ。言わせるな」
やれやれと言わんばかりに昌治さんはふっと目をそらす。そういうことだったんですか。それでも、作っていただいたとしてどこで打ち上げるんですか、という疑問はぶつけないことにした。
「そうだ、じゃあお屋敷の庭で花火にしましょう」
「……庭で?確かに打ち上げるスペースはあるが」
なぜ打ち上げること前提なんですか。
「手持ちの花火です。ほら、売ってるようなやつです」
「……ああ、あれか」
昌治さんは興味を持ったらしく、どこか嬉しそうに頷いた。
「美香も呼びましょう!せっかくなのでお爺さんも?」
「……ああ、そうだな」
あれ?なんだかこっちは反応微妙?なんだかんだ言ってたけど、やっぱり手持ち花火じゃ寂しいかな。でもあれはやってみたら結構楽しいし、昌治さんも気に入ってくれるかもしれない。
「楽しみですね!」
昌治さんは不思議そうに私を見た。
ちなみに昌治さんは普通に花火を見ていたようで、どこか満足そうな様子だ。
「足元に虫がいて……花火、綺麗でしたね」
せっかく昌治さんが楽しそうなのに、こんなことで空気を壊すのはよくないよね。そう、花火なんて見ようと思えばまた別の花火大会もあるし。
「そういえば、さっき何か言いかけなかったか?」
「いえ、別に……」
言えない。昌治さんってたまに恥ずかしいことを普通に言うことありますよね、なんて言おうとしたなんて言えない。大したことじゃなさすぎる。
昌治さんはちょっと怪しむようにしながらも、帰ろうとしているのか私の腕を引いた。
「あの、帰りも美香のお爺さんに送ってもらうことになってたんですけど」
会場に行く時の車は、お爺さんの部下が運転して私と美香が後ろの座席、お爺さんが助手席に乗っていた。
私が昌治さんと帰ったら、美香がお爺さんと二人になってしまう。それが嫌だからと美香に誘われたのに。
「そうだったな。どこかに集まるのか?」
途中で連絡を取って聞いたら、来た時の駐車場に停めたままにしてあるから、そこに集合みたいだけど……
問いかけてきた昌治さんはわかりやすく残念そうにしていて、私は思わずくすりと笑ってしまった。
「笑うなよ。まさかここであの爺さんに邪魔されるとはな」
「邪魔って、帰るだけですよ?」
「まあ、そうだな。じゃあその待ち合わせ場所に送ってやるよ。近くに車あるからすぐ着く」
昌治さんはちらりと私の足を見る。ああ、気付かれてたのか。
鼻緒が擦れて足の指が地味に痛かった。駐車場までそれなりに距離があるし階段もあるので、辛いけど頑張るかと思っていたんだけど、ここはお言葉に甘えておこうかな。
「えっ?」
お願いします、と言った瞬間にひょいっと持ち上げられて、私はそのまま昌治さんに運搬される。
昌治さんの言った通り、すぐ近くにいかにも花火大会の関係者用の駐車場があって、その端に昌治さんのものらしい車が止まっていた。
その車の横で降ろしてもらえたので、私は昌治さんに促されるまま後ろの座席に座った。そういえば昌治さんの車に乗るの初めてかも、なんて思っていたら、昌治さんはなぜかそのまま後ろの座席に乗り込んできた。
「え、しょ……ん」
名前を呼ぶ前に、昌治さんは私の方へ身を乗り出してキスをした。唇を重ねるだけのものだったけど、それだけで心がふわふわして一気に落ち着かなくなる。
「なあ、花火大会の最後どうしたんだ?」
昌治さんがじっと私を見る。その目に浮かんでいるのは単なる疑問だけではなかった。
「大したことないですから」
ちょっと花火が見れなかったくらいで落ち込むなんて情けない。終わってしまったことなんだからどうこう言ったって仕方ないし。
「大したことなくても言ってみろ。気になるだろ」
昌治さんは私をシートに軽く押さえ付けて問いかけてくる。これ、側から見たらただの恐喝……?
なんて思っていたら、昌治さんが浴衣の襟に手を入れて誘うようにその手を動かした。
私の口からは細い悲鳴みたいな声が漏れる。
「まあ俺は、お前が喋るまでこうして好きにさせてもらうが」
「待ってください!本当に大したことないんですって!」
喋ればやめてくれるなら喋りますよ?でもこの状況で言ったいいの?今更ながらかなりしょうもないことですからね!
「別に、このまましていいんなら喋る必要はねぇよ?」
「話します!話しますからやめてください!」
「……そんなに嫌なのか」
わかりやすく落ち込む昌治さん。いや、そういうわけじゃなくて、嫌とかそういうことは昌治さんに対してはないけど、恥ずかしいじゃないですか!ここ車の中ですよ!?
そう言ったら、昌治さんは真顔になった。
「窓にスモーク入ってるし、そんなに声出さなきゃ問題ねぇよ」
そういう問題ですか!?そう言いたかったけど、昌治さんのこの顔は本気だ。普通に車の中でも問題ないと思っていらっしゃる!?
「花火が、最後の花火上がったとき、うっかりしてて見れなくてちょっと悲しかっただけです!本当にそれだけです!」
そう。改めて考えてみても、大したことじゃない。なのに……
「一大事じゃねぇか」
昌治さんは結構本気のトーンでそう言った。
「一大事って、見れなかっただけですから。私が見てなかっただけですから」
「楽しみにしてたんだろ?」
「しかたないです。聞いてくれてありがとうございます」
「俺がよくない。馴染みの花火師に同じの作らせる」
「馴染みの……?いやいや、そこまでしなくて大丈です。他の花火は見れましたし」
「……お前と見たいんだよ。言わせるな」
やれやれと言わんばかりに昌治さんはふっと目をそらす。そういうことだったんですか。それでも、作っていただいたとしてどこで打ち上げるんですか、という疑問はぶつけないことにした。
「そうだ、じゃあお屋敷の庭で花火にしましょう」
「……庭で?確かに打ち上げるスペースはあるが」
なぜ打ち上げること前提なんですか。
「手持ちの花火です。ほら、売ってるようなやつです」
「……ああ、あれか」
昌治さんは興味を持ったらしく、どこか嬉しそうに頷いた。
「美香も呼びましょう!せっかくなのでお爺さんも?」
「……ああ、そうだな」
あれ?なんだかこっちは反応微妙?なんだかんだ言ってたけど、やっぱり手持ち花火じゃ寂しいかな。でもあれはやってみたら結構楽しいし、昌治さんも気に入ってくれるかもしれない。
「楽しみですね!」
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