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3章
15.朝風呂とお酒4
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にしてもヤクザさん、というか若頭なんて言われてる人の膝の上に座ってお酒を飲む日が来るなんて思ってもみなかった。そいうかそもそも若頭なんてお方と知り合うこと自体、考えたこともなかったけど。
まさかコンビニ強盗からこんな事になるとは。いや、コンビニ強盗に遭う時点でだいぶおかしいけど……私もしかして感覚狂ってきてる?いやいや、おかしいと気付けただけましなのか。
「あ、そうだ。バイト……」
結局夏休みにアルバイトをする許可は出ないまま、夏休みに突入してしまった。
こっそり面接に行ってしまおうかとも考えたけど、初日から欠勤になりそうなのでやめた。店側に申し訳ない。
「許す」
「やっぱりそうですよね……って、ええ!?い、今、許すって言いましたか……?」
自分の耳を疑った。だって、あんなに渋ってたじゃないですか。大原さんにも滅茶苦茶反対されたのに、どういう風の吹き回しですか!
突然の手のひら返しが信じられなさすぎて、私は昌治さんの頭に手を当てていた。
「やっぱり酔ってます?それとも熱でもあるとか、牡蠣に当たったとか、古傷が疼くとか……」
「なんで牡蠣がここで出てくるんだよ。俺は普通だ」
昌治さんが、普通……?いや、やめとこう。ここはそれを突っ込んでいるところじゃない。
「い、いいんですか?」
「日中だけだぞ。夜は危ないから駄目だ」
まあ夜は、さすがに岩峰組の人に10時過ぎとかまで夕飯とか待ってもらうのは申し訳ない。危ないっていうのも、事実色々あった身としては何も反論できなかった。
「でも、どうしていきなり……反対してたじゃないですか」
「……正直なところ、楓には屋敷にいてほしい。俺の目の届くところで守られていてほしい。だが、それは俺の勝手だ。楓のしたいことはなんでもさせてやるとか言いながら、俺はお前を屋敷に閉じ込めようとした」
昌治さんはお酒を飲む手を止めて窓の外を見た。夏らしい青空が広がっている。
「確かに閉じ込められるのは嫌ですけど……私はちゃんと戻ってきますよ?」
「……柳の孫にも、同じようなことを言われた」
「美香に?」
「ああ。ここ最近は気まずいと思いながらでも、お前は屋敷にいてくれた。戻る場所になってるんだから心配することじゃないと」
まあ、今の私にはお屋敷以外に住むところもない。岩峰組の皆さんもよくしてくださるから居心地もよかった。それに、昌治さんは私を避けている感じはあったけど、嫌われたということではなさそうだったから、きっと何かあるのかなと思えた。
昌治さんは、私がいなくなると思ってたってこと?
「屋敷にいたくないのかって尋ねたらお前、頷いただろ。怖かったんだよ、俺は。お前が外で他に楽しみを見つけて、屋敷よりそっちにいたいって思われるのが怖かった」
「でも、だからっていなくなったりはしませんよ?楽しくても、昌治さんと離れるのは話が全然違うじゃないですか」
美香や他の友達と観光地に遊びに行ったりしたら楽しいと思うし、その時間が続けばいいなとは思うけど、ずっとそこに居続けたいとはならない。
それが楽しいからって、お屋敷にいるのが嫌ってなることはない。
「……俺はそこに行けねぇだろ」
「え?」
「お前に与えられるものはなんだって与える。海外でもどこでも行きたいのなら行かせてやれる。でもな、それ以外にわからないんだ。それ以外に、お前に伝える方法がわからない」
昌治さんは、それで悩んでたってこと?
有り余る存在感と威圧感、そして実際の立場から、昌治さんと私では一般的なデートをするのは確かに難しい。
目立つし、一緒にいるのを見られてしまっては色々困ることもある。
だからこうして隠れるように旅館に行くことくらいしかさせられない。
「どうすれば伝わる?お前に触れる以外に、どう伝えればいい」
昌治さんの声に、弱いものが混じっていた。住む場所が違うからって悩んでたのは私だけだと思っていたけど、昌治さんも昌治さんで悩んでいたんだな。
私は首を動かして昌治さんを見上げる。
不安そうに揺れている瞳は威圧感とか冷気とか全然なくて、昌治さんの瞳だった。
「私だって、色々考えると不安です。でも、昌治さんのことはちゃんと好きです。ヤクザさんとか若頭とかそういうの抜きにして、昌治さんが好き」
昌治さんのためになる何かをしないと想いが伝わらないんだったら、伝えられていないのは私の方だ。
私の方が伝えていないから、昌治さんを不安にさせてしまったんだろうか。
「昌治さんとだから、こうやって飲むのも楽しいですよ」
これまで2人でお酒を飲むということすらしてなかったし、結構まだできることってあるんじゃないかな。
一緒に料理したりテレビ見たりとか、ちょっとしたこと。旅行とか大仰なことじゃなくても別にいい。
昌治さんと一緒に何かするだけで、きっと1人より楽しい。
そう言うと、昌治さんは私を抱く腕の力を強める。
それにより密着したからか、昌治さんの心臓の鼓動が背中越しに伝わってきた。少し早いそれに合わせるように、私の心臓もうるさく鳴り始めた。
「お屋敷に戻ってもまたこうやって昌治さんとお酒、飲みたいです。それに私、昌治さんに触られるの別に嫌じゃないですか、ら……」
このときのこの発言は、ちょっと軽率だったなぁと後になって私は猛反省した。
まさか次に目を覚ましたら滅茶苦茶いい笑顔の昌治さんの腕の中で、いよいよ全く動けなくなっているとは。そしてお風呂どころかごはんまで、全部昌治さんのお世話になるとは思わなかった。
まさかコンビニ強盗からこんな事になるとは。いや、コンビニ強盗に遭う時点でだいぶおかしいけど……私もしかして感覚狂ってきてる?いやいや、おかしいと気付けただけましなのか。
「あ、そうだ。バイト……」
結局夏休みにアルバイトをする許可は出ないまま、夏休みに突入してしまった。
こっそり面接に行ってしまおうかとも考えたけど、初日から欠勤になりそうなのでやめた。店側に申し訳ない。
「許す」
「やっぱりそうですよね……って、ええ!?い、今、許すって言いましたか……?」
自分の耳を疑った。だって、あんなに渋ってたじゃないですか。大原さんにも滅茶苦茶反対されたのに、どういう風の吹き回しですか!
突然の手のひら返しが信じられなさすぎて、私は昌治さんの頭に手を当てていた。
「やっぱり酔ってます?それとも熱でもあるとか、牡蠣に当たったとか、古傷が疼くとか……」
「なんで牡蠣がここで出てくるんだよ。俺は普通だ」
昌治さんが、普通……?いや、やめとこう。ここはそれを突っ込んでいるところじゃない。
「い、いいんですか?」
「日中だけだぞ。夜は危ないから駄目だ」
まあ夜は、さすがに岩峰組の人に10時過ぎとかまで夕飯とか待ってもらうのは申し訳ない。危ないっていうのも、事実色々あった身としては何も反論できなかった。
「でも、どうしていきなり……反対してたじゃないですか」
「……正直なところ、楓には屋敷にいてほしい。俺の目の届くところで守られていてほしい。だが、それは俺の勝手だ。楓のしたいことはなんでもさせてやるとか言いながら、俺はお前を屋敷に閉じ込めようとした」
昌治さんはお酒を飲む手を止めて窓の外を見た。夏らしい青空が広がっている。
「確かに閉じ込められるのは嫌ですけど……私はちゃんと戻ってきますよ?」
「……柳の孫にも、同じようなことを言われた」
「美香に?」
「ああ。ここ最近は気まずいと思いながらでも、お前は屋敷にいてくれた。戻る場所になってるんだから心配することじゃないと」
まあ、今の私にはお屋敷以外に住むところもない。岩峰組の皆さんもよくしてくださるから居心地もよかった。それに、昌治さんは私を避けている感じはあったけど、嫌われたということではなさそうだったから、きっと何かあるのかなと思えた。
昌治さんは、私がいなくなると思ってたってこと?
「屋敷にいたくないのかって尋ねたらお前、頷いただろ。怖かったんだよ、俺は。お前が外で他に楽しみを見つけて、屋敷よりそっちにいたいって思われるのが怖かった」
「でも、だからっていなくなったりはしませんよ?楽しくても、昌治さんと離れるのは話が全然違うじゃないですか」
美香や他の友達と観光地に遊びに行ったりしたら楽しいと思うし、その時間が続けばいいなとは思うけど、ずっとそこに居続けたいとはならない。
それが楽しいからって、お屋敷にいるのが嫌ってなることはない。
「……俺はそこに行けねぇだろ」
「え?」
「お前に与えられるものはなんだって与える。海外でもどこでも行きたいのなら行かせてやれる。でもな、それ以外にわからないんだ。それ以外に、お前に伝える方法がわからない」
昌治さんは、それで悩んでたってこと?
有り余る存在感と威圧感、そして実際の立場から、昌治さんと私では一般的なデートをするのは確かに難しい。
目立つし、一緒にいるのを見られてしまっては色々困ることもある。
だからこうして隠れるように旅館に行くことくらいしかさせられない。
「どうすれば伝わる?お前に触れる以外に、どう伝えればいい」
昌治さんの声に、弱いものが混じっていた。住む場所が違うからって悩んでたのは私だけだと思っていたけど、昌治さんも昌治さんで悩んでいたんだな。
私は首を動かして昌治さんを見上げる。
不安そうに揺れている瞳は威圧感とか冷気とか全然なくて、昌治さんの瞳だった。
「私だって、色々考えると不安です。でも、昌治さんのことはちゃんと好きです。ヤクザさんとか若頭とかそういうの抜きにして、昌治さんが好き」
昌治さんのためになる何かをしないと想いが伝わらないんだったら、伝えられていないのは私の方だ。
私の方が伝えていないから、昌治さんを不安にさせてしまったんだろうか。
「昌治さんとだから、こうやって飲むのも楽しいですよ」
これまで2人でお酒を飲むということすらしてなかったし、結構まだできることってあるんじゃないかな。
一緒に料理したりテレビ見たりとか、ちょっとしたこと。旅行とか大仰なことじゃなくても別にいい。
昌治さんと一緒に何かするだけで、きっと1人より楽しい。
そう言うと、昌治さんは私を抱く腕の力を強める。
それにより密着したからか、昌治さんの心臓の鼓動が背中越しに伝わってきた。少し早いそれに合わせるように、私の心臓もうるさく鳴り始めた。
「お屋敷に戻ってもまたこうやって昌治さんとお酒、飲みたいです。それに私、昌治さんに触られるの別に嫌じゃないですか、ら……」
このときのこの発言は、ちょっと軽率だったなぁと後になって私は猛反省した。
まさか次に目を覚ましたら滅茶苦茶いい笑顔の昌治さんの腕の中で、いよいよ全く動けなくなっているとは。そしてお風呂どころかごはんまで、全部昌治さんのお世話になるとは思わなかった。
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