お客様はヤのつくご職業

古亜

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3章

9.#お互いの本音3

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しばらく糖度高め(当社比)です。インスリンの分泌量が少ない方、もしくは分泌されても反応が鈍くなっている方は程良く摂取してください。

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昌治さんがお風呂に入っている間に、にこにことすごくいい笑顔を浮かべた女将さんがやってきて、お膳を下げていく。

「すごく美味しかったです。ごちそうさまでした」
「あら、若奥様に気に入っていただけるだなんて光栄です。今後もご贔屓に」
「ええと、まだ若奥さんとかではないんですけど……」
「これは失礼しました。まだでしたか、そうですか。ふふっ」

女将さんは小動物でも見るような目で私を見て微笑んだ。

「あの岩峰さんがねぇ。こんな可愛らしい方を連れてくるだなんて」

楽しそうな表情を浮かべたまま、女将さんはお膳を全て下げ終えて部屋から出て行った。
すっかり何もなくなった卓の上に、私は首から外した指輪をそっと置く。客室の柔らかな橙色の灯りを受けて、銀色のそれは金でできているみたいに輝いた。
……考えないでおこうと思ってたけど、これどれくらいしたんだろう。
銀色だけど、銀じゃないよね。銀だったら、付けてるうちに黒ずんでくるし。そもそもこういうのの素材でよく聞くのって白金……昌治さん、女子大生にこれを渡しますか。
でも、それだけ本気ってことだよね。
刻印とかは何もない、本当にシンプルな昌治さんらしい指輪。
幸せだなって眺めていたら、昌治さんがお風呂から出てきたので、私は慌てて指輪を左手の薬指にはめた。
私の横に腰掛けた昌治さんは、私の左手をちらりと見て嬉しそうに微笑んだ。そのまま私の頭の後ろに手を回して、軽くついばむように唇を落とす。
久しぶりのキスは、微かに温泉の香りがした。

「あの上で待っててくれたら、完璧だったんだがな」

ちらりと昌治さんは部屋の奥の上ベッドを見る。その目は悪戯っぽく輝くと同時に、とろりとした熱を帯びていた。

「え、いや、それは……」

さすがにそれは、期待してるみたいじゃないですか。何をとは言いませんけど!

「俺が来たときはいたじゃねぇか」
「あれは寝てたからです」
「……わかってるよ。でもな、慌てて来てみたら俺が来なくて不安で泣いてたなんて言われて、あの場で滅茶苦茶にしてやりたかった」

思い出しているのか、昌治さんは私を見つめながらうっそりと笑う。
お風呂上がりで浴衣だからだろうか、他に何かある気もするけど、その笑みに含まれた色気が半端なかった。
背中がゾクゾクして、見られているだけなのに体が疼く。これ、まずい。

「ここがいいんなら、ここでするか?ベッドかソファーか、それとも旅館らしく温泉か?」

するってなんのことでしょうか。場所とかもおっしゃってる意味がよくわかんないんですけど、とカマトトぶるべきなのか。いや、それやったら、たぶんめんどくさいことになる。
しない、という選択肢はないんだろうな。いや、この状態の昌治さんからその選択肢飛び出して来たら、それは疑ってかかるべき……要は、そんな選択肢は無い。

「選べないんなら、順番にやってみるか?楓の気に入った場所でいかせてやる」

案の定、返答できず黙っていたらとんでもない選択肢が生まれた。ベッドとソファーはともかく、温泉ってなにをどうするんですか!

「べ、ベッドで……」

私にそんな特殊な性癖はないです。
でもなんか、自分で場所指定したら、まるで私がそこでやりたいみたいじゃないですか……あ、昌治さんのこの顔は、わかってやりましたね?私に選ばせてあげるという風を装って、私に言わせたかったんですねこの人。

「タチ悪いです。昌治さん」
「まあ、俺はヤクザだからな。でもお前は、そんなタチ悪いヤクザの嫁にくるんだろ?」

そう言いながら、私の頭の後ろに回されていた手が降りてきて、浴衣の上から私の胸を柔く揉みしだく。
同時に頬に軽くキスをされて、このまま食べられるのかなと思いつつ、嫌だと思っていない自分がいる。
私は昌治さんに体を預けて、その体温を感じていた。お風呂上がりで湿り気を帯びた熱が心地いい。

「んんっ」

昌治さんの手が浴衣の間から入ってきて、直接胸に触れた。先端を転がされて、私は落ち着こうと大きく息を吐いた。
そこで昌治さんははたと手を止める。
何か気に入らなかったんだろうか。

「……今の楓の顔、滅茶苦茶エロかった」

何言ってるんだこの人。

「そ、そういうつもりはないですから!むしろ昌治さんの口からエロいとかいう単語が出てくる方が驚きです!」
「じゃあ俺は何て言えばいいんだ?」
「ひぁっ!何てって言われても……」

というか言われたことに驚いたわけで、リクエストとかそんなの一切ありませんから!
はだけられた胸に口付けを落とされる。先端を口に含まれて、わざと音を立てながら、昌治さんは私の胸を弄り始めた。

「ん!いやっ!あっ……ん!」

すっかり熟れて硬くなったところに歯を立てられ、そこからピリピリと痺れていくみたいな感覚に陥る。

「可愛い」

昌治さんは軽く声を立てて笑う。
そのまま濡れた先端に息を吹きかけられて、私の体は淫らに震えた。
下腹部が少しずつ熱を帯びてきて、求めるように動く。
ああ、もうなんて言われてもいいや。

「……せて」
「どうした?」
「脱がせて」

私の方からそんなことを言うなんて思っていなかったんだろう。昌治さんは驚いたように私を見た。

「……いいのか?」
「どうせするなら、いっぱい気持ちよくして。全部、忘れるくらい」

ほとんど無意識のうちに出た台詞だった。そしてすぐに後悔する。
いくら、思い出したからって……
もう2ヶ月近く前のことなのに、あのとき春斗さんに犯された記憶が、徐々に蘇ってきていた。
今、私を愛撫している人は全く違う、私の好きな人なのに、どうして……
どうしようもなく悲しくて泣きたくなる。
昌治さんも、なんとなく察したのか表情を歪めた。

「ごめん、今の忘れて……昌治さん、ごめんなさい……」

最悪のお願いをしてしまった。なんで言っちゃったんだろう。言わなくても、昌治さんはきっと最後までしてくれたはずなのに。
私は俯いて、昌治さんから目を逸らした。つくづく馬鹿だな、私。

「……顔上げろ、楓」

昌治さんの手が顎の下に入れられて、私は顔を上げさせられる。それでも目を合わせるのが怖くて、私は必死に目を逸らした。

「俺を見ろ。俺だけを見てろ」

その強い言葉に、私は恐る恐る目線を昌治さんに向けた。氷のような瞳がそこにある。

「……久しぶりだから手加減しようと思ってたが、やめる。俺以外のことを考えられなくなるくらい愛してやるから、覚悟しとけ」
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