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3章
1.ヤクザさんとの交渉
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ここから3章です。
さっそく噛み合わない二人です。生暖かく見守ってくださると嬉しいです。
先に挙げた小噺とはテンション異なります。
----------
「え、岩峰さんに避けられてる気がする?」
大学の食堂で美香と昼食を食べながら、私は頷いた。
なんだか最近、昌治さんとの間に距離を感じる。
撃たれた怪我自体はほとんど治って、こうして普通に大学に通えるようになったし、普通に生活する分には困らない。
ただ、休んでいた分の講義の課題や他にやることがたまってしまっていた。その上、来週には前期試験があって忙しい。
そしてもちろん昌治さんの方も忙しくて、仲が悪いとかそういうのじゃなく、単にタイミングが合わないだけなのかもしれない。
でもなぜか、避けられているような気がする。
「今朝は廊下ですれ違ったんだけど、なんて言うんだろ……反応が微妙?」
「微妙って、どんな風に?」
「前までだったら、絶対立ち止まってくれたのに、止まってくれないとか……」
うう、言っておいてなんだけど恥ずかしい。しかもこんなの気にするほどでもないよね。きっと気にしちゃってる私がおかしいんだ。前言撤回したい。
「……他には?」
「ほ、他!?」
他って言われても……言いづらい。
怪我する前まではお屋敷に昌治さんがいたら、基本的に朝まで一緒だった。朝は会うというか、そもそも一緒にいることの方が多かったのに……要は、夜に来てくれない。疲れてるんだろうなとは思うけど、それを寂しいと思ってしまっている自分が嫌だった。同時に、私が求めてるのは昌治さんとのあれそれなわけで……と思うとめちゃくちゃ恥ずかしい。
構ってほしいなんて言えない。忙しい昌治さんの邪魔にはなりたくないし。
「……なんか、ごめん。深掘りはやめとく」
私の様子を見ていた美香は、察してくれたのかどうかはわからないけど、とりあえず聞かなかったようにしてうどんをすすった。
「一応さ、婚約してもうすぐ2か月近いし、落ち着いてきたとかではないの?」
「そうなのかな……」
私は思わず首元に手をやる。
さすがに左手の薬指に指輪をして何食わぬ顔で大学に行く勇気はなかったので、チェーンに通してネックレスのようにして身につけていた。
「婚約というよりは、結婚を前提にしたお付き合いってのに近いと思うんだけど」
「岩峰さんと楓の場合、最終的に結婚予定なんだからもうどっちでもよくない?」
「う……そうだけど」
「もう直接聞いたら?わざわざ楓のこと避けてるとしたら、絶対理由があるでしょ。ちゃんと聞けるようになっとかないと、後々困るんじゃない?」
確かに、今からこれじゃ先が思いやられる。元々そんな喋る人じゃないし、自分から聞かないと。
「それと、前に言ってたバイト再開したいって話は伝えたの?」
「……まだ。大原さんにちらっと言ってみたら、即反対されました」
そう。怪我も治って落ち着いてきたし、そろそろバイトしないとなと考えていたところだった。服を買ったり化粧品買い足したりを自分のお金でやりくりしていたのだけど、家賃や食費がかかっていないとはいえこのままじゃ残高がなくなってしまう。
大原さんに「足りないんですか?」と言われた。そのうちそうなりそうではあるけど、今はそういうことじゃないんですよ。
夏休み明けたら、昌治さんの誕生日なんです。
それのお金を岩峰組のお金で賄うって、おかしいでしょうどう考えても。
「岩峰さんのことだから、誕生日に何か欲しいとか思ってないんじゃない?」
「そうかもしれないけど、お世話になってるし何かわかりやすくお礼できたらなって」
「うーん、別に物にこだわ……」
美香は何か言いたげにしていたけど、途中で言葉を切った。
「まあでも、気になるよね。多少は自立したいっていうのはわかるし」
「そうなんだよね。お世話になりっぱなし状態じゃさすがにまずいと思って。組の皆さんにも申し訳ないし」
いるだけで構わないと皆さんおっしゃってくださるけど、それじゃ私が良くない。
「そうだ、来週の金曜日さ、2限のテスト終わったら終わりだよね」
「そうだけど、どうしたの?」
「それで土日も、予定無いよね」
「ま、まあ特に考えてないよ。今年帰省するのはお盆の終わりくらいだし……」
美香の目がキラリと光る。何か思い付いた時の顔だ。
「話し合いしない?場所は私の下宿かな。アルコールはジジィが岡山の地酒置いてったからそれね。試験の打ち上げも兼ねて」
「それいいかも。飲み会とか行けてなかったし」
学科内の飲み会に誘われても、忙しいのと女子だけならともかく異性のいる飲み会に関しては許可が下りない。行くならその横で岩峰組の皆さんがついでに宴会するとか言われたら、やめときますってなる。
まあ、元々積極的に大人数の飲み会には参加してこなかったから、別にいいんですけど。
「じゃあ決まり。終わったらおつまみとか買いに行こ」
「はーい」
試験明けの楽しみができた。
私はうんうんと頷いて、集合場所とかについて話しを進めた。
さっそく噛み合わない二人です。生暖かく見守ってくださると嬉しいです。
先に挙げた小噺とはテンション異なります。
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「え、岩峰さんに避けられてる気がする?」
大学の食堂で美香と昼食を食べながら、私は頷いた。
なんだか最近、昌治さんとの間に距離を感じる。
撃たれた怪我自体はほとんど治って、こうして普通に大学に通えるようになったし、普通に生活する分には困らない。
ただ、休んでいた分の講義の課題や他にやることがたまってしまっていた。その上、来週には前期試験があって忙しい。
そしてもちろん昌治さんの方も忙しくて、仲が悪いとかそういうのじゃなく、単にタイミングが合わないだけなのかもしれない。
でもなぜか、避けられているような気がする。
「今朝は廊下ですれ違ったんだけど、なんて言うんだろ……反応が微妙?」
「微妙って、どんな風に?」
「前までだったら、絶対立ち止まってくれたのに、止まってくれないとか……」
うう、言っておいてなんだけど恥ずかしい。しかもこんなの気にするほどでもないよね。きっと気にしちゃってる私がおかしいんだ。前言撤回したい。
「……他には?」
「ほ、他!?」
他って言われても……言いづらい。
怪我する前まではお屋敷に昌治さんがいたら、基本的に朝まで一緒だった。朝は会うというか、そもそも一緒にいることの方が多かったのに……要は、夜に来てくれない。疲れてるんだろうなとは思うけど、それを寂しいと思ってしまっている自分が嫌だった。同時に、私が求めてるのは昌治さんとのあれそれなわけで……と思うとめちゃくちゃ恥ずかしい。
構ってほしいなんて言えない。忙しい昌治さんの邪魔にはなりたくないし。
「……なんか、ごめん。深掘りはやめとく」
私の様子を見ていた美香は、察してくれたのかどうかはわからないけど、とりあえず聞かなかったようにしてうどんをすすった。
「一応さ、婚約してもうすぐ2か月近いし、落ち着いてきたとかではないの?」
「そうなのかな……」
私は思わず首元に手をやる。
さすがに左手の薬指に指輪をして何食わぬ顔で大学に行く勇気はなかったので、チェーンに通してネックレスのようにして身につけていた。
「婚約というよりは、結婚を前提にしたお付き合いってのに近いと思うんだけど」
「岩峰さんと楓の場合、最終的に結婚予定なんだからもうどっちでもよくない?」
「う……そうだけど」
「もう直接聞いたら?わざわざ楓のこと避けてるとしたら、絶対理由があるでしょ。ちゃんと聞けるようになっとかないと、後々困るんじゃない?」
確かに、今からこれじゃ先が思いやられる。元々そんな喋る人じゃないし、自分から聞かないと。
「それと、前に言ってたバイト再開したいって話は伝えたの?」
「……まだ。大原さんにちらっと言ってみたら、即反対されました」
そう。怪我も治って落ち着いてきたし、そろそろバイトしないとなと考えていたところだった。服を買ったり化粧品買い足したりを自分のお金でやりくりしていたのだけど、家賃や食費がかかっていないとはいえこのままじゃ残高がなくなってしまう。
大原さんに「足りないんですか?」と言われた。そのうちそうなりそうではあるけど、今はそういうことじゃないんですよ。
夏休み明けたら、昌治さんの誕生日なんです。
それのお金を岩峰組のお金で賄うって、おかしいでしょうどう考えても。
「岩峰さんのことだから、誕生日に何か欲しいとか思ってないんじゃない?」
「そうかもしれないけど、お世話になってるし何かわかりやすくお礼できたらなって」
「うーん、別に物にこだわ……」
美香は何か言いたげにしていたけど、途中で言葉を切った。
「まあでも、気になるよね。多少は自立したいっていうのはわかるし」
「そうなんだよね。お世話になりっぱなし状態じゃさすがにまずいと思って。組の皆さんにも申し訳ないし」
いるだけで構わないと皆さんおっしゃってくださるけど、それじゃ私が良くない。
「そうだ、来週の金曜日さ、2限のテスト終わったら終わりだよね」
「そうだけど、どうしたの?」
「それで土日も、予定無いよね」
「ま、まあ特に考えてないよ。今年帰省するのはお盆の終わりくらいだし……」
美香の目がキラリと光る。何か思い付いた時の顔だ。
「話し合いしない?場所は私の下宿かな。アルコールはジジィが岡山の地酒置いてったからそれね。試験の打ち上げも兼ねて」
「それいいかも。飲み会とか行けてなかったし」
学科内の飲み会に誘われても、忙しいのと女子だけならともかく異性のいる飲み会に関しては許可が下りない。行くならその横で岩峰組の皆さんがついでに宴会するとか言われたら、やめときますってなる。
まあ、元々積極的に大人数の飲み会には参加してこなかったから、別にいいんですけど。
「じゃあ決まり。終わったらおつまみとか買いに行こ」
「はーい」
試験明けの楽しみができた。
私はうんうんと頷いて、集合場所とかについて話しを進めた。
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