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2章
30.ヤクザさんの優しさ3
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次に目を覚ましたときは上半身だけ起こしてもいいよと言われたので、私は大原さんに支えられながらゆっくり起き上がる。ちょっとふわっとしたけど、我慢できるくらいだった。
「あれ……美香は……?」
辺りを見回すと、部屋にいたのは大原さんとお医者さんだけだった。
「美香さんでしたら大学です。今は火曜の11時ですから」
「そっか……あ、大学どうしよう……」
さすがにこんな状態じゃ大学には行けない。今までそこまで休んではいないから、出席はしばらくは大丈夫だけど……どれくらいかかるかな。右腕だから字とか書けないし、教授にどう説明すればいいんだろう。
「嬢ちゃんの経過次第だが、大学に行くだけなら動けるようになったら行けばいいと思うぞ」
お医者さんが救急箱らしき箱を開けながら口を開く。
「字は書けねぇだろうから、録音でもしとけばいい。あんまり休んで目立つのは避けたいだろ。傷についてはコケて鉄筋が刺さったとでも説明しとけ。太さ的にちょいと無理があるが、見せるわけじゃねぇんだろ?なんなら診断書作ってやろうか」
いやに具体的なアドバイスをされた。そしてその診断書はきっと偽装ですよね……遠慮しておきます。弁明だけお借りします。
「災難だったな嬢ちゃん。まあ、上腕だから五部袖で隠れるか。そういやあ、岩峰の若頭にもこの辺に銃創だか刀傷だかがあったな。よかったな、お揃いだ」
「いや、よくありませんから」
間髪入れず大原さんが言った。うん、そのお揃いは別に嬉しくないです。
にしてもこのお医者さんはどういう人なんだろ。私の基準がおかしくなってきてるっていうのもあるけど、顔は強面じゃないその辺りにいそうなおじさんだ。でも大原さんとタメ口で喋ってたし、ここにいるってことは、普通のお医者さんではないよね……?
「ああ、守谷医師はいわゆる闇医者ですよ。口は悪いですが、腕は確かです」
「口悪いは余計だ。俺は態度を変えてねぇだけだよ」
そう言いながらお医者さん、守谷先生は包帯を取り替えてくれる。大原さんとヤクザジョークの入り混じる軽口を叩き合ってはいるけど、その手付きは優しいので、いいお医者さんなんだなということは何と無く伝わってきた。
「とりあえず問題なさそうだ。また明日も様子見に来るから、無理に動いたりすんなよ。大原、ここの若頭が戻ってきたら、程々にしとけって言っとけ」
程々にって、何?説教?それは助かりますけど。
不思議そうにしていたら守谷先生は薄く笑い、他の患者を待たせているからと言い残して去っていった。
ちょっと口調はきついけど、悪い人じゃなさそうだった。
……今更だけど、闇医者って本当にいたんだな。
そんなことを思いながら私は自分の右腕を見る。肘より上は包帯でぐるぐる巻きにされていて、かすかに薬の匂いがした。
「医師が言った通り、安静にしていてくださいね。退屈でしたらテレビでもご覧になってください。リモコンはここに置いておきますから」
大原さんはテレビとエアコンのリモコン、ティッシュや水差しといったものを手の届きそうなところに置いてくれる。
「他に何か必要なものがあればおっしゃってください」
「ありがとうございます」
至れり尽くせりで申し訳ないなぁと思いながら部屋を出て行く大原さんを見送った。
散々寝てたからか眠くはない。せっかくだから昼の番組でも見ていようかな。
流行りのお洒落なカフェの特集をしていたので、それをぼんやり眺める。そういえば、美香と大学の近くに新しくできたカフェに行く約束してたけど、あれどうなるのかな。
美味しそうなケーキの紹介が終わったところで、番組がニュースに切り替わった。近々行われる外国の選挙のこと、どこぞの企業の新事業、それと……
『戸阿留町で起こった銃撃事件について、警察はこれを条野組系暴力団、一条会の内部抗争として捜査を進めることを決めました』
淡々とした口調でアナウンサーがニュースを読み上げていく。
見覚えのある廃工場の映像がテレビ画面いっぱいに映し出される。警察の車が何台も停まっていて、そこに残されたぼろぼろの車を調べていた。
やがて、近隣住民のインタビューに切り替わった。
『すごい音がして外を見たら、大きいトラックみたいな車が入り口塞ぐみたいにして停まってて……』
そんなとこに私はいたんだ……
食い入るようにニュースを見ていたら、突然テレビがプツリと切れた。
思わず顔を上げた私は、いつの間にか部屋に昌治さんが入ってきていたことに気付く。
「しょ、昌治さん……」
「こんなもん、わざわざ見る必要はない」
そう言いながら昌治さんは布団の傍にゆっくりと腰を下ろした。
ほとんど眠っていたとはいえ、久しぶりに見た昌治さんは、なんだか機嫌悪そうだった。いつも通りと言えばその通りなのかもしれないけど、目の下にはクマができていて、どこか疲れた様子だ。
前よりも昌治さんが遠くに感じる。
色々あったし、仕方ないのはわかってる。私が心配をかけたんだってことも、わかってる。
……ごめんなさい。
どう思われていても謝るって決めてたのに、いざ本人を目の前にしたら喉が詰まって、たった6文字の言葉さえも出てこなくなった。
「あれ……美香は……?」
辺りを見回すと、部屋にいたのは大原さんとお医者さんだけだった。
「美香さんでしたら大学です。今は火曜の11時ですから」
「そっか……あ、大学どうしよう……」
さすがにこんな状態じゃ大学には行けない。今までそこまで休んではいないから、出席はしばらくは大丈夫だけど……どれくらいかかるかな。右腕だから字とか書けないし、教授にどう説明すればいいんだろう。
「嬢ちゃんの経過次第だが、大学に行くだけなら動けるようになったら行けばいいと思うぞ」
お医者さんが救急箱らしき箱を開けながら口を開く。
「字は書けねぇだろうから、録音でもしとけばいい。あんまり休んで目立つのは避けたいだろ。傷についてはコケて鉄筋が刺さったとでも説明しとけ。太さ的にちょいと無理があるが、見せるわけじゃねぇんだろ?なんなら診断書作ってやろうか」
いやに具体的なアドバイスをされた。そしてその診断書はきっと偽装ですよね……遠慮しておきます。弁明だけお借りします。
「災難だったな嬢ちゃん。まあ、上腕だから五部袖で隠れるか。そういやあ、岩峰の若頭にもこの辺に銃創だか刀傷だかがあったな。よかったな、お揃いだ」
「いや、よくありませんから」
間髪入れず大原さんが言った。うん、そのお揃いは別に嬉しくないです。
にしてもこのお医者さんはどういう人なんだろ。私の基準がおかしくなってきてるっていうのもあるけど、顔は強面じゃないその辺りにいそうなおじさんだ。でも大原さんとタメ口で喋ってたし、ここにいるってことは、普通のお医者さんではないよね……?
「ああ、守谷医師はいわゆる闇医者ですよ。口は悪いですが、腕は確かです」
「口悪いは余計だ。俺は態度を変えてねぇだけだよ」
そう言いながらお医者さん、守谷先生は包帯を取り替えてくれる。大原さんとヤクザジョークの入り混じる軽口を叩き合ってはいるけど、その手付きは優しいので、いいお医者さんなんだなということは何と無く伝わってきた。
「とりあえず問題なさそうだ。また明日も様子見に来るから、無理に動いたりすんなよ。大原、ここの若頭が戻ってきたら、程々にしとけって言っとけ」
程々にって、何?説教?それは助かりますけど。
不思議そうにしていたら守谷先生は薄く笑い、他の患者を待たせているからと言い残して去っていった。
ちょっと口調はきついけど、悪い人じゃなさそうだった。
……今更だけど、闇医者って本当にいたんだな。
そんなことを思いながら私は自分の右腕を見る。肘より上は包帯でぐるぐる巻きにされていて、かすかに薬の匂いがした。
「医師が言った通り、安静にしていてくださいね。退屈でしたらテレビでもご覧になってください。リモコンはここに置いておきますから」
大原さんはテレビとエアコンのリモコン、ティッシュや水差しといったものを手の届きそうなところに置いてくれる。
「他に何か必要なものがあればおっしゃってください」
「ありがとうございます」
至れり尽くせりで申し訳ないなぁと思いながら部屋を出て行く大原さんを見送った。
散々寝てたからか眠くはない。せっかくだから昼の番組でも見ていようかな。
流行りのお洒落なカフェの特集をしていたので、それをぼんやり眺める。そういえば、美香と大学の近くに新しくできたカフェに行く約束してたけど、あれどうなるのかな。
美味しそうなケーキの紹介が終わったところで、番組がニュースに切り替わった。近々行われる外国の選挙のこと、どこぞの企業の新事業、それと……
『戸阿留町で起こった銃撃事件について、警察はこれを条野組系暴力団、一条会の内部抗争として捜査を進めることを決めました』
淡々とした口調でアナウンサーがニュースを読み上げていく。
見覚えのある廃工場の映像がテレビ画面いっぱいに映し出される。警察の車が何台も停まっていて、そこに残されたぼろぼろの車を調べていた。
やがて、近隣住民のインタビューに切り替わった。
『すごい音がして外を見たら、大きいトラックみたいな車が入り口塞ぐみたいにして停まってて……』
そんなとこに私はいたんだ……
食い入るようにニュースを見ていたら、突然テレビがプツリと切れた。
思わず顔を上げた私は、いつの間にか部屋に昌治さんが入ってきていたことに気付く。
「しょ、昌治さん……」
「こんなもん、わざわざ見る必要はない」
そう言いながら昌治さんは布団の傍にゆっくりと腰を下ろした。
ほとんど眠っていたとはいえ、久しぶりに見た昌治さんは、なんだか機嫌悪そうだった。いつも通りと言えばその通りなのかもしれないけど、目の下にはクマができていて、どこか疲れた様子だ。
前よりも昌治さんが遠くに感じる。
色々あったし、仕方ないのはわかってる。私が心配をかけたんだってことも、わかってる。
……ごめんなさい。
どう思われていても謝るって決めてたのに、いざ本人を目の前にしたら喉が詰まって、たった6文字の言葉さえも出てこなくなった。
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