お客様はヤのつくご職業

古亜

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2章

21.若頭補佐は休めない5

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メモした番号に即座に電話をかける。柳美香は電話を切って、俺のスマホのコール音に耳を澄ましていた。

『なんじゃ、おめぇ』
「あー、あなたの孫……」
「ジジィ、来るなら1年前に連絡寄越せって言ったよね」
『おお、美香じゃな!珍しいの、お前から電話がかかってくるたぁ。何年ぶりじゃ?』
「知るか」

さっきから思ってたんだが、仲悪いのか?一方的に。実の祖父に対する態度じゃないよなこれ。

『今朝こっちに着いたんじゃ。お前の顔を見るついでに会合に来てみたら、ちょうど一条と岩峰の間が面白い事になっとるみてぇでの』

……ん?柳狐組の組長、柳爺はこのことを知ってるのか?まああんときは一触即発状態だったからな。何か聞いていてもおかしくはないか。

「……それ、詳しく」
『どちらもこの辺の組じゃから知っとるのか?ヤクザの色恋沙汰に興味など無いと思っとったが』
「私じゃなくて、友達がそれに巻き込まれてんの」
『……なんと』

しばらくの沈黙の後、柳爺は喋り始めた。

『聞いとったのは、一条の若旦那が岩峰の若頭の女を略奪して屋敷に連れ込んだという噂じゃが……まさかあのお嬢さん、美香の友人だったのか。確かに歳は近そうだと思っとったが』
「楓様に会ったんですか!」
『……美香、さっきから聞こえとる野郎の声は何じゃ?』
「岩峰組の人。私を人質にして楓に言うこと聞かせてた一条会の連中から助けてくれたの」
『は?舐め腐ったことしよるの。儂の孫に手ェ出すとは』

そう、柳美香は柳狐組組長の孫娘だ。いくら楓様の友人でも、知っていたら手を出すとは思えないが……

「ちょっと調べたくらいじゃわからないようにしてあるの。私がこのジジィの孫だってバレたら面倒でしょ。だから今回はそれがバレて狙われたんだと思ってた」
「……事をややこしくするのがお好きなんですかね。楓様は」

ウチの若頭に好かれたと思ったら肉まん売って迫田に攫われて、一条の会長を拾って、風呂で逆上せて、また攫われて。そして柳狐組を巻き込んで。

「それより今日、楓様に会ったんですか!?」
『あ、ああ。そうじゃ。今日の11時ごろだったかの』

今日の11時……?そんな時間まで柳爺と会える状態で一条の屋敷にいたということは、条野春斗の言った「今朝大阪に送った」というのは嘘か?
まだ、彼女は一条会の屋敷にいるのかもしれない。

『わざわざ電話してきたということは、儂にあのお嬢さんを助けてほしいということじゃな?』
「楓は私の友達なの。昔のこと謝りたいなら、くたばる前に助けなさいよ」

過去に彼女は祖父である柳爺と何かあったのだろうか?さっきからの刺々しい態度は何か理由があるらしかった。
……気にはなるが、今はそれどころではない。

『だがの、今すぐは無理じゃ。さすがに条野の手の内で暴れるわけにはいかん』

当然だ。山野楓に会えているだけでも十分すぎるくらいではある。柳狐組は関西で格式ある組とはいえ、関西の一大勢力である条野組直下組織の一条会を敵に回したくはないだろう。組の存続に関わる問題だ。

「情報をくだされば俺たちが動きます。何も柳狐組と条野組で対立してほしいわけじゃありませんから」
『ああ、そうか。これは一条と岩峰の問題じゃったの』
「は?ふざけ……ちょっ!」

俺は何か言いかけた柳美香の口を塞いだ。どことは言わないが、蹴られたらたまらないので俺は柳爺に考えを端的に伝える。

「楓様の屋敷内での居所、他に何かご存知であれば教えていただきたい。動くのはウチの組です」
『……いーや、動いたるわ。今すぐは無理だが、可愛い孫とその友人に手ェ出されて黙っとれるか。敵対だぁ?上等じゃそんなもん。条野の若造に睨まれたところで痛くも痒くも無いわ』

すげぇな。怒気が電話越しでも伝わってくる。待て待て、今この柳爺は一条会の本拠地にいるんじゃねぇのか。

『つまらん会合なんざ、孫のためじゃ。とっとと終いにしたる。若造はどういうわけか途中でいなくなったしの。で、儂はどこ行けばええんじゃ?』
「……ウチの事務所でよろしければ」
『わかった。構わん。終わり次第向かう』

そこで電話は切られた。直前に『孫に何かあったら、殺す』という恐ろしい文言と共に。
殺すとかよく言われるが、あれは歴代で一、二を争う迫力だった。柳爺と若頭と、似てるな。何かに対する執着の感じが。
黙っていた柳美香は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「すみませんね。いきなり抑えたりして」

沈黙が気まずかったので、とりあえず謝っておく。口塞いじまったしな。

「別に、大原さんは悪くないですよ」
「……ずいぶんと仲が悪そうですが、何かあったんですか」

勢いで聞いてしまったが、これ尋ねてよかったのか?過去を知ったところで俺がどうこうできるわけでもない。
まあ、嫌だったらそもそも話さないか。

「私の父親、あのジジィに殺されたんです」
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