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2章
22.若頭補佐は休めない6
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まさかの告白に俺の思考は停止した。
それ、俺なんかに話していい内容なのか?
「……ああ、すみません。冗談です」
「え?ああ、そう……」
いや、絶対事実だ。話したくないなら別にそれでいいから、突っ込んで聞きはしないが。
「それにしても、まさか楓と岩峰組の若頭がねぇ……まだ半信半疑なんだけど、そもそもどういう接点が?」
微妙な雰囲気になってしまったのを察した美香は話題を変えた。
「それですか。二ヶ月くらい前に、楓様の働いていたコンビニで強盗事件があったでしょう」
「……あったあった、発砲事件。楓にそれとなく聞いてみたけど、あんまり聞いてほしくなさそうだったからやめたんだ」
「そこに若頭がたまたま通りかかったんですよ。接点というか、きっかけはそれでしたね」
その時点で一方的に執着し始めたというのは言わないでおこう。その辺りは勝手に想像してくれ。
「まさか、肉まんの君って岩峰組の若頭のことだったの?」
肉まんの君。一応彼女の中で認知はされていたのか。そのネーミングはどうかと思うが。
「そうなりますね」
「言いにくそうだったのそれが原因かぁ。なんかすっきりした。ああ、それで楓が一回フって、さっきの人に繋がるわけか……私が言えることじゃないけど、楓は知り合いがヤクザになる呪いにでもかけられたの?」
「それについては俺も非常に興味がある」
山野楓については大体のことは調べたが、彼女は紛れもない一般人だった。突いても何も出てこない、ごく普通のカタギの女だ。
それなのにウチの若頭に出会ったとき、彼女は既に無自覚とはいえ大物の孫と繋がっていたわけだ。そこにさらに条野春斗ときた。呪いとまではいかないだろうが、何かを持ってるのは間違いない。
「柳と山野でたまたま名簿が近いだけだったんですよね。最初は」
「ウチの若頭も、たまたま挙動不審なやつを見つけて跡をつけたらそれが強盗だった、と」
「……条野春斗って人は?」
「怪我していたのをたまたま見つけて、手を貸したのがきっかけだったらしいです」
あのとき盗聴した会話の感じから、条野は楓様と若頭のことは本気で知らなかったはずなのだ。意図を持って近付いたのなら二人の関係を知ったとき、あそこまで感情を露わにして怒ったりしないだろう。
犬も歩けば棒に当たる、ってやつか?この場合は棒がヤクザになるのかね。
「……楓が気付いてないだけで、あと2、3人くらい出てきそう」
「それをあり得ないと言い切れないところがまたすごいですね」
実際そうだったとしたら、もはや驚くポイントが違ってくるな。
「ヤクザホイホイ……」
「それはやめろ」
安藤が吹き出したので、俺は後ろから軽く運転席を蹴った。
「楓様の周囲を洗い直すかどうかは一旦置いといて、問題はどうやって助けるかだな」
「ジジィは好きに使っちゃって。私も手伝う」
「いや、美香さんは巻き込まれただけで、むしろまた条野春斗に狙われる可能性もあります。とりあえず柳狐組の方に……」
言いかけてやめた。滅茶苦茶睨まれた。
「あのジジィと同じ家に住んで強面のオッサンに囲まれるくらいなら、岩峰組の事務所で事務作業でもさせられる方が数百倍マシ」
「すみませんが、強面のオッさん云々に関してはウチも大差無いと思いますよ」
「……大原さんならいい」
俺基準でセーフ?どんだけ強面揃いなんだ柳狐組。
「では、しばらくウチの事務所……いえ、組の屋敷にまだ空部屋があるのでそちらを使ってください」
「お願いします。でも楓が危ない目に遭ってるのに守られてるだけっていうのは嫌だから、私にも手伝わせてください。何にもしないのは嫌」
「そう言われても、体張るのは俺らの役目ですし、美香さんの身に何かあったら俺が柳の組長に殺されます。あと楓様も悲しみます」
ついさっき『孫に何かあったら殺す』と宣言されたばかりなんだが……まあ、一条会のヤクザに刃物突き付けられた状態から自力で脱したくらいだ。護身術の心得と度胸はあるんだろう。だが、おそらくこの先に待ち受けているのは岩峰組と一条会との抗争だ。彼女を巻き込むのは避けたい。
柳狐組の組長が祖父であるとはいえ、彼女はカタギであろうとしていた。せっかくこっちとは違う場所にいるのだから、戻ってくる必要はないだろう。
「私がよくないの。これでも一応、一通り使えるから」
「一通り使える……?」
何の話だ。武術か?まああの身のこなしなら、何かしらの有段者なのかもしれないな。
なんて、可愛いものではなかった。
「リボルバー式もオートマも使える。あと一応機関銃とライフル、何回かグレネードランチャー使ったこともあるから」
……前言撤回。心配した俺が馬鹿だったのかもしれない。彼女は立派なヤクザの孫だ。
それ、俺なんかに話していい内容なのか?
「……ああ、すみません。冗談です」
「え?ああ、そう……」
いや、絶対事実だ。話したくないなら別にそれでいいから、突っ込んで聞きはしないが。
「それにしても、まさか楓と岩峰組の若頭がねぇ……まだ半信半疑なんだけど、そもそもどういう接点が?」
微妙な雰囲気になってしまったのを察した美香は話題を変えた。
「それですか。二ヶ月くらい前に、楓様の働いていたコンビニで強盗事件があったでしょう」
「……あったあった、発砲事件。楓にそれとなく聞いてみたけど、あんまり聞いてほしくなさそうだったからやめたんだ」
「そこに若頭がたまたま通りかかったんですよ。接点というか、きっかけはそれでしたね」
その時点で一方的に執着し始めたというのは言わないでおこう。その辺りは勝手に想像してくれ。
「まさか、肉まんの君って岩峰組の若頭のことだったの?」
肉まんの君。一応彼女の中で認知はされていたのか。そのネーミングはどうかと思うが。
「そうなりますね」
「言いにくそうだったのそれが原因かぁ。なんかすっきりした。ああ、それで楓が一回フって、さっきの人に繋がるわけか……私が言えることじゃないけど、楓は知り合いがヤクザになる呪いにでもかけられたの?」
「それについては俺も非常に興味がある」
山野楓については大体のことは調べたが、彼女は紛れもない一般人だった。突いても何も出てこない、ごく普通のカタギの女だ。
それなのにウチの若頭に出会ったとき、彼女は既に無自覚とはいえ大物の孫と繋がっていたわけだ。そこにさらに条野春斗ときた。呪いとまではいかないだろうが、何かを持ってるのは間違いない。
「柳と山野でたまたま名簿が近いだけだったんですよね。最初は」
「ウチの若頭も、たまたま挙動不審なやつを見つけて跡をつけたらそれが強盗だった、と」
「……条野春斗って人は?」
「怪我していたのをたまたま見つけて、手を貸したのがきっかけだったらしいです」
あのとき盗聴した会話の感じから、条野は楓様と若頭のことは本気で知らなかったはずなのだ。意図を持って近付いたのなら二人の関係を知ったとき、あそこまで感情を露わにして怒ったりしないだろう。
犬も歩けば棒に当たる、ってやつか?この場合は棒がヤクザになるのかね。
「……楓が気付いてないだけで、あと2、3人くらい出てきそう」
「それをあり得ないと言い切れないところがまたすごいですね」
実際そうだったとしたら、もはや驚くポイントが違ってくるな。
「ヤクザホイホイ……」
「それはやめろ」
安藤が吹き出したので、俺は後ろから軽く運転席を蹴った。
「楓様の周囲を洗い直すかどうかは一旦置いといて、問題はどうやって助けるかだな」
「ジジィは好きに使っちゃって。私も手伝う」
「いや、美香さんは巻き込まれただけで、むしろまた条野春斗に狙われる可能性もあります。とりあえず柳狐組の方に……」
言いかけてやめた。滅茶苦茶睨まれた。
「あのジジィと同じ家に住んで強面のオッサンに囲まれるくらいなら、岩峰組の事務所で事務作業でもさせられる方が数百倍マシ」
「すみませんが、強面のオッさん云々に関してはウチも大差無いと思いますよ」
「……大原さんならいい」
俺基準でセーフ?どんだけ強面揃いなんだ柳狐組。
「では、しばらくウチの事務所……いえ、組の屋敷にまだ空部屋があるのでそちらを使ってください」
「お願いします。でも楓が危ない目に遭ってるのに守られてるだけっていうのは嫌だから、私にも手伝わせてください。何にもしないのは嫌」
「そう言われても、体張るのは俺らの役目ですし、美香さんの身に何かあったら俺が柳の組長に殺されます。あと楓様も悲しみます」
ついさっき『孫に何かあったら殺す』と宣言されたばかりなんだが……まあ、一条会のヤクザに刃物突き付けられた状態から自力で脱したくらいだ。護身術の心得と度胸はあるんだろう。だが、おそらくこの先に待ち受けているのは岩峰組と一条会との抗争だ。彼女を巻き込むのは避けたい。
柳狐組の組長が祖父であるとはいえ、彼女はカタギであろうとしていた。せっかくこっちとは違う場所にいるのだから、戻ってくる必要はないだろう。
「私がよくないの。これでも一応、一通り使えるから」
「一通り使える……?」
何の話だ。武術か?まああの身のこなしなら、何かしらの有段者なのかもしれないな。
なんて、可愛いものではなかった。
「リボルバー式もオートマも使える。あと一応機関銃とライフル、何回かグレネードランチャー使ったこともあるから」
……前言撤回。心配した俺が馬鹿だったのかもしれない。彼女は立派なヤクザの孫だ。
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