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2章
12.一瞬の訪問者4
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「……春斗さんって、どういう人なんですか?」
「私のような一介の部下よりも、楓様の方がよくご存知なのでは?」
少し落ち着いた私は、作業を再開した吉井さんに尋ねた。
特に意図はない。純粋に知りたくなったのだ。
条野春斗という人が、他の人にはどう映っているのか。恐怖で盲目になっている私に、春斗さんは映っていないから。
「恐ろしい、という点については同意します」
吉井さんはパソコンから顔を上げることなくそう答えた。そして……
「異質」
ポツリと吉井さんは呟いた。
「会長は、こちらの世界にあっても異質ですよ。私のような者にはわかりません。根本から違うのですから」
だから理解しようとするだけ無駄だ、と吉井さんは独り言のようにそう言った。
「でも吉井さんは……春斗さんの部下なんですよね」
「部下です。ですがそれだけです。会長にとって私など、代替品のある駒に過ぎません。私の代わりなどいくらでもいます」
「俺も吉井さんと同意見だ」
吉井さんの横に立ち作業をしていたヤクザさんは、中西と名乗った。
「持てる権力、金、暴力を用いて社会の隙間に入り込む。それが俺らだ。それでも最低限、人だから超えられない壁がある。汚ねぇことをしてるっう自負がな」
吉井さんは頷いた。
「ですが、あの方はあっさりとそれを超えていく。あの方の目には、人が人として映っていません。慈悲も情けもない、徹底的なやり口。極めてヤクザらしいですが、人のすることではありませんよ」
「……あの人はヤバい。触るな危険ってやつだ」
意図的にでもなく、単に進むのに邪魔だから払い除ける。無差別に、無意識に。
そしてそれができるだけの力を、春斗さんは生まれながらに持っていた。
「条野組は比較的新しい組ですが、ここ数十年で裏社会で幅を効かせるのに十分な地位を築いていました。今では関西一帯が条野組の支配下にあります」
「陰で何と言われようが、こっちじゃその成果こそが全て。会長を止める理由はどこにもねぇ」
「……とまあ、会長はこういう方です。我々にはわかりませんよ。あの方のことは。部下である我々は、その命令を遂行していればよいのですから」
吉井さんは小さく息を吐く。その顔にはなんの感情も浮かんでいなかった。
「ですから私には、会長が楓様に執着する理由もその意図もわかりません。正直、あの方に人を愛する心があったことに驚いています」
「……あれが愛ですか」
「まあ、歪んでるとは思う……同情するのはとても無理だが、応援くらいはするぜ」
はたから見てもそう見えるのなら、なんで誰も何も言わないんだろう。ああ、言えるわけないか。
「あれを一身に受けるあなたの境遇を哀れだとは思いますが、私にできることと言えば仲介役程のことです。というわけで楓様、そろそろ部屋にお戻りください」
「でも、戻ったって何も……」
あの何もない部屋で春斗さんをただ待ち続けるだけだ。考えて絶望してぼんやりして、その繰り返し。
「……中西、屋敷を案内するついでに書斎に楓様をお連れしろ。古い本が多いですが、いくらか気は紛れるのではありませんか?」
本か。まあ何もないよりマシかな。少なくとも読んでる間は変なこと考えなくて済むかもしれない。
「私のような一介の部下よりも、楓様の方がよくご存知なのでは?」
少し落ち着いた私は、作業を再開した吉井さんに尋ねた。
特に意図はない。純粋に知りたくなったのだ。
条野春斗という人が、他の人にはどう映っているのか。恐怖で盲目になっている私に、春斗さんは映っていないから。
「恐ろしい、という点については同意します」
吉井さんはパソコンから顔を上げることなくそう答えた。そして……
「異質」
ポツリと吉井さんは呟いた。
「会長は、こちらの世界にあっても異質ですよ。私のような者にはわかりません。根本から違うのですから」
だから理解しようとするだけ無駄だ、と吉井さんは独り言のようにそう言った。
「でも吉井さんは……春斗さんの部下なんですよね」
「部下です。ですがそれだけです。会長にとって私など、代替品のある駒に過ぎません。私の代わりなどいくらでもいます」
「俺も吉井さんと同意見だ」
吉井さんの横に立ち作業をしていたヤクザさんは、中西と名乗った。
「持てる権力、金、暴力を用いて社会の隙間に入り込む。それが俺らだ。それでも最低限、人だから超えられない壁がある。汚ねぇことをしてるっう自負がな」
吉井さんは頷いた。
「ですが、あの方はあっさりとそれを超えていく。あの方の目には、人が人として映っていません。慈悲も情けもない、徹底的なやり口。極めてヤクザらしいですが、人のすることではありませんよ」
「……あの人はヤバい。触るな危険ってやつだ」
意図的にでもなく、単に進むのに邪魔だから払い除ける。無差別に、無意識に。
そしてそれができるだけの力を、春斗さんは生まれながらに持っていた。
「条野組は比較的新しい組ですが、ここ数十年で裏社会で幅を効かせるのに十分な地位を築いていました。今では関西一帯が条野組の支配下にあります」
「陰で何と言われようが、こっちじゃその成果こそが全て。会長を止める理由はどこにもねぇ」
「……とまあ、会長はこういう方です。我々にはわかりませんよ。あの方のことは。部下である我々は、その命令を遂行していればよいのですから」
吉井さんは小さく息を吐く。その顔にはなんの感情も浮かんでいなかった。
「ですから私には、会長が楓様に執着する理由もその意図もわかりません。正直、あの方に人を愛する心があったことに驚いています」
「……あれが愛ですか」
「まあ、歪んでるとは思う……同情するのはとても無理だが、応援くらいはするぜ」
はたから見てもそう見えるのなら、なんで誰も何も言わないんだろう。ああ、言えるわけないか。
「あれを一身に受けるあなたの境遇を哀れだとは思いますが、私にできることと言えば仲介役程のことです。というわけで楓様、そろそろ部屋にお戻りください」
「でも、戻ったって何も……」
あの何もない部屋で春斗さんをただ待ち続けるだけだ。考えて絶望してぼんやりして、その繰り返し。
「……中西、屋敷を案内するついでに書斎に楓様をお連れしろ。古い本が多いですが、いくらか気は紛れるのではありませんか?」
本か。まあ何もないよりマシかな。少なくとも読んでる間は変なこと考えなくて済むかもしれない。
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