53 / 132
2章
9.一瞬の訪問者
しおりを挟む先々の展開からなんとなく察してかつそれでもよし!という方のみお進みください。
話の展開的に、まあこうなるわな。と。
1章終わりにお伝えしました通り、シリアスです。ヤンデレのターンが続いてます。その入り口です。
最初はこの展開は誰得だ?やめとこかな、と思いましたが、そうすると私の中で、あの方出した意味は……となるので。
2章は完結まであと20話くらいかかる予定です。
その間の避難場所は、1章と別作品のOLとヤクザさんがごはん食べてる話、もしくは他の作者様方の作品です。
----------
全身の疲労と痛みで私が目覚めたのは、見知らぬ天井の下だった。
剥き出しの上半身には虫刺されのように赤く色付いた無数の歯の痕が残っている。
昨晩の行為の印を、私は妙に冷めた目で見下ろしていた。
「ははっ……」
一条会の屋敷に連れ込まれるやいなや、私は春斗さんに体を暴かれた。
ろくな抵抗もできず、春斗さんにされるがままに私は何度も貫かれて、犯されたのだ。
どんな顔をして、私は昌治さんに会えばいいんだろう。
ああ、そもそももう会うことなんてないできないのかもしれない。昌治さんもきっと、私が春斗さんに身体を許したのはわかってるに違いない。会いたくもないんじゃないかな。
「美香、大丈夫かな……」
それだけが気がかりだった。春斗さんは、私が大人しくしていたら何もしないと言ってくれた。
こんなことになった以上、美香とはもう友達でいられないけど、迷惑だけはかけたくない。美香は無関係なんだから。
美香を解放してくれるなら、なんだってするつもりだ。今更失うものはない。
とりあえず顔を洗おうと思って向かった洗面台の横に、シャワールームがあるのに気付いた。棚の中には丁寧に折り畳まれたタオルとバスローブがある。
私はひたすら無心で体に付いた行為の跡を洗い流した。そしてろくに体も拭かずに棚に置かれていたバスローブに袖を通す。
そのままソファーに倒れ込んで、私は呆然と白い天井を見上げていた。
「昌治さん……」
痛いとか苦しいとか、そんなのは感じない。ただもうこのまま昌治さんに会えないということがたまらなく寂しくて辛かった。
あれだけ大事にされてきたのに、一晩でそれは脆く崩れ去って。
大声を上げて泣き喚きたかった。こんなぐちゃぐちゃなのに、涸れ果てたように一滴も涙が出てこない。
昨晩、絶対に泣くものかと意地を張った結果だろうか。泣いて流れ出させてしまえば少しは楽になれるかな、なんて忘れようとしたことはいけないことなのかな。
手をだらりとソファーから垂らして、私はゆっくり目を閉じる。
これは悪い夢で、もしかして目覚めたら岩峰組のお屋敷にいるんじゃないか。そんな儚く淡い期待は、ドアの開く音と共にシャボン玉みたいに弾けて消えた。
「起きたんか。楓」
昨日はその声を聞くたびに恐怖で震えたのに、今は不思議となんとも思わなかった。私はこの人に抱かれたんだなという事実だけが漠然と頭に浮かぶ。
春斗さんの足音が私が横たわっているソファーに近付いてきた。
ゆっくり目を開けると、春斗さんの無邪気な瞳と目が合った。
「シャワー浴びたんか?髪の毛びしょ濡れやん」
そう言って春斗さんはどこからか乾いたタオルを持ってきて、髪の毛一本一本を拭くみたいに丁寧に私の髪を優しく撫でた。
一通り拭き終えて満足したのか、春斗さんはソファーの縁にもたれかかるようにしていた私の頭を持ち上げて、空いた場所に腰掛ける。
「今日は休んどり。いるもんあったら何でも言うんやで?」
昨晩あれほど手酷く犯しておきながら、私の肩を抱くその仕草はどこまでも優しい。
耳元にかかる吐息も、きらきら輝く瞳も、その微笑みも、私に向けられる春斗さんの全てが、慈しみに満ちていた。
この人に全てを委ねてしまうことが、今は一番いい選択なのかもしれない。
ここであなたを選ぶと言ってしまえばいい。その一言で、この人は全てを赦してくれるんだろう。きっと昌治さんと同じくらい、もしかするとそれ以上に私を愛してくれる。
……でも、それじゃだめだ。私はこの人のことを愛することができないから。
ヤクザだと知る前までの春斗さんのことは嫌いじゃなかった。むしろ好きだったんだろう。でもそれは恋心とかじゃなくて、単にその気持ちに甘えていただけ。
心の中に他の人がいた私に、そんな資格なかったのに。
「ごめん、なさい……」
「何を、謝っとるん?」
春斗さんは心底不思議そうに問い返す。
そう、これは私が勝手に抱いている罪悪感。誰に、ということもない謝罪だった。
「俺はお前が俺の腕ん中におるってだけで十分や」
そう言って春斗さんは私の頬に口付ける。
触れるか触れないかのそれに、私は一体何が正解なのかわからなくなった。
12
お気に入りに追加
2,728
あなたにおすすめの小説

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる