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2章
13.若頭補佐は休めない2
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『下っ端の構成員が吐きました。戸阿留町の東の倉庫です。地図はメールに添付してあります』
「そうか、わかった」
俺は部下からの電話を切り、メールに添付されていた地図を確かめてそこに直行する。
山野楓の残した録音から、友人が捕まっているのは条野組所有の倉庫だということはわかっていたが、完全に絞り込むことはできなかった。
そのため、絞り込んだ各倉庫にいた構成員からそれとなく話を聞いて、何か知っている様子だった構成員を拉致って尋問していたのだ。
尋問を担当したのは若頭だったとかそうじゃないとかで……とにかくその構成員はどの倉庫かゲロった。
山野楓の友人が捕まっているという倉庫は、一条会の倉庫の中ではあまり使われていないらしく、見た目は誰もいないようにすら見える。
だが、バレないように遠くから観察していると、確かに使われていないにしては妙な人の出入りがあった。
しかし、現在の監視は最低限だろう。
怪しまれないようにしたつもりなんだろうが、わかった以上その状態はありがたい。
構成員が拉致られたと気付かれる前に制圧する。ここまで早くバレたと思われていないはずだ。あまり警戒はしていないだろう。
倉庫からの逃走ルートに組員の配置が完了したという連絡も入った。
「兄貴、行きますか」
「ああ。裏は任せる」
「はい」
一緒に来ていた部下、安藤が力強く頷いた。
山野楓が拐われた日に、目の前を通り過ぎていった彼女に気付かなかったという失態があったからか、安藤の目はやる気に満ちていた。
正直、安藤は悪くないと思うがまあ仕方ない。やる気があるのはいいことだと思おう。
車から降りて静かに倉庫に近づく。
正面から俺が監視の目を引きつけている間に、安藤が派手にガラスを割る。さらにその間に俺が正面から入るという極めて単純な作戦だ。
「だから今日の夕方に受け取りが……」
「はぁ?そんなの聞いてねぇが」
……派手な音がした。
俺が適当な理由をつけて正面で見張りを引きつけている間に、安藤は横の窓を叩き割ったようだ。
「おい、何だ今の音」
白々しく言ってやると同時に、見張りの男は慌てた様子で音のした方を見る。
「後で確認してやるから、お前ここで待ってろ!」
「わかった」
……なわけねぇだろ。
見張りが音のした方に歩き出した瞬間、俺はその後頭部に蹴りを叩き込む。いい感じに入った。
見張りが対応してるだろうからと、中のやつらは割れたガラスの方に向かっていく。案外ちょろいな。
「お前何してんだ?」
「いや、荷物受け取りに来たらすげぇ音がしたもんだから」
といかにも無関係を装って若干相手が油断した隙に、一気に間合いを詰めてそいつの頬を一発殴り首を絞める。
「な……」
「黙れ。喉へし折られてぇのか。わかってんだろ。案内しろ」
「鍵が……」
「いらねぇよそんなもん」
さらに俺はそいつの首を絞める腕に力を入れる。
腕をバタつかせたので若干緩め、もう一度案内するよう言った。
「こ、こっちです……」
そいつに示す方へ進んでいくと、なるほど。管理室のような小部屋があった。あの前にはまた男が一人立っていて、俺を見てギョッと目を見開く。
俺は案内をさせたやつのみぞおちに肘を叩き込んだ。
そしてその別の男と距離を縮めたのだが、何を思ったのか男はその小部屋の鍵を開けてそこに逃げ込んだ。
……まずいな。
その後を追って小部屋に入ると、そこには確かに拘束された一人の女がいた。彼女が美香か。
「来るんじゃねぇ!この女がどうなってもいいのか!?」
そう言って男は彼女の首に腕を回し、その首筋にナイフを突き付ける。
……前にもどっかで見たなこの光景。
もっともそれをやったやつはもうこの世にいないが。
怪我させないように助けるのがベストだが、この状況では難しいかもしれない。一条の側のやつがここに加勢に来る可能性もある。
「……チッ」
俺が思わず舌打ちをしたその瞬間、なぜか彼女が口の端をわずかに吊り上げて笑った気がした。
「そうか、わかった」
俺は部下からの電話を切り、メールに添付されていた地図を確かめてそこに直行する。
山野楓の残した録音から、友人が捕まっているのは条野組所有の倉庫だということはわかっていたが、完全に絞り込むことはできなかった。
そのため、絞り込んだ各倉庫にいた構成員からそれとなく話を聞いて、何か知っている様子だった構成員を拉致って尋問していたのだ。
尋問を担当したのは若頭だったとかそうじゃないとかで……とにかくその構成員はどの倉庫かゲロった。
山野楓の友人が捕まっているという倉庫は、一条会の倉庫の中ではあまり使われていないらしく、見た目は誰もいないようにすら見える。
だが、バレないように遠くから観察していると、確かに使われていないにしては妙な人の出入りがあった。
しかし、現在の監視は最低限だろう。
怪しまれないようにしたつもりなんだろうが、わかった以上その状態はありがたい。
構成員が拉致られたと気付かれる前に制圧する。ここまで早くバレたと思われていないはずだ。あまり警戒はしていないだろう。
倉庫からの逃走ルートに組員の配置が完了したという連絡も入った。
「兄貴、行きますか」
「ああ。裏は任せる」
「はい」
一緒に来ていた部下、安藤が力強く頷いた。
山野楓が拐われた日に、目の前を通り過ぎていった彼女に気付かなかったという失態があったからか、安藤の目はやる気に満ちていた。
正直、安藤は悪くないと思うがまあ仕方ない。やる気があるのはいいことだと思おう。
車から降りて静かに倉庫に近づく。
正面から俺が監視の目を引きつけている間に、安藤が派手にガラスを割る。さらにその間に俺が正面から入るという極めて単純な作戦だ。
「だから今日の夕方に受け取りが……」
「はぁ?そんなの聞いてねぇが」
……派手な音がした。
俺が適当な理由をつけて正面で見張りを引きつけている間に、安藤は横の窓を叩き割ったようだ。
「おい、何だ今の音」
白々しく言ってやると同時に、見張りの男は慌てた様子で音のした方を見る。
「後で確認してやるから、お前ここで待ってろ!」
「わかった」
……なわけねぇだろ。
見張りが音のした方に歩き出した瞬間、俺はその後頭部に蹴りを叩き込む。いい感じに入った。
見張りが対応してるだろうからと、中のやつらは割れたガラスの方に向かっていく。案外ちょろいな。
「お前何してんだ?」
「いや、荷物受け取りに来たらすげぇ音がしたもんだから」
といかにも無関係を装って若干相手が油断した隙に、一気に間合いを詰めてそいつの頬を一発殴り首を絞める。
「な……」
「黙れ。喉へし折られてぇのか。わかってんだろ。案内しろ」
「鍵が……」
「いらねぇよそんなもん」
さらに俺はそいつの首を絞める腕に力を入れる。
腕をバタつかせたので若干緩め、もう一度案内するよう言った。
「こ、こっちです……」
そいつに示す方へ進んでいくと、なるほど。管理室のような小部屋があった。あの前にはまた男が一人立っていて、俺を見てギョッと目を見開く。
俺は案内をさせたやつのみぞおちに肘を叩き込んだ。
そしてその別の男と距離を縮めたのだが、何を思ったのか男はその小部屋の鍵を開けてそこに逃げ込んだ。
……まずいな。
その後を追って小部屋に入ると、そこには確かに拘束された一人の女がいた。彼女が美香か。
「来るんじゃねぇ!この女がどうなってもいいのか!?」
そう言って男は彼女の首に腕を回し、その首筋にナイフを突き付ける。
……前にもどっかで見たなこの光景。
もっともそれをやったやつはもうこの世にいないが。
怪我させないように助けるのがベストだが、この状況では難しいかもしれない。一条の側のやつがここに加勢に来る可能性もある。
「……チッ」
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