64 / 132
2章
20.若頭補佐は休めない4
しおりを挟む
条野春斗が去った後に倉庫を出た俺は、思わず顔をしかめる。
俺が殴って気絶させておいた見張りの男が死んでいた。出て行く途中にも、同様に眉間あるいは心臓を撃ち抜かれた一条会の組員がいた。
……用済みってわけか。
鶴田に連れられて逃げた美香がこれに気付かないことを祈るばかりだ。
この倉庫の処理を部下に任せて、俺は車に戻った。
後部座席には既に美香が乗っていて、俺に気付いて何か言っている。
「……安藤、出せ」
後部座席に乗り込んだ俺は運転席に座る安藤に言った。安藤の顔面には殴られた痣があり、腕には切られたような傷。まあ、思っていたよりは軽症だな。
「大原さん、無事だったんですか」
美香は俺を上から下まで見て、車が走り出したことについては何も言わない。むしろ落ち着いていた。
……やはり、このお嬢さんもこっちの人間なのか?なぜこうも彼女は的確にこっちの人間を引き当てるんだ?前世でヤクザの墓を手榴弾で爆破でもしたのか彼女は。
俺が山野楓の叔父という設定をこのまま通したら、確実にややこしいことになりそうだ。
車が角を曲がったところで、唐突に彼女は言った。
「……大原さん、スマホ貸してもらっていいですか」
「あ、ああ」
どうしたものかと考えていたので、半ば無意識にスマホを彼女に手渡していた。まあ仕事用ではなく、山野楓に貸していたものだが。
「関わり合いになるのが嫌でわざわざ家を出たのに、結局こうなるかぁ……」
なにやらぶつぶつ独り言を言いながら、彼女はどこかに電話をかけ始める。
「お嬢さ……いや、美香さん。どこに電話をかけているのか教えていただけませんか」
「実家のジジィです」
「実家?ジジィ?」
「私の苗字、柳です。こっちの世界の人ならご存知かもしれませんね。柳狐組」
「……マジか」
柳狐組。規模は小さいが、山陽……岡山あたりに拠点を置いてあっちの方で深く根を張る組織だ。
かなり昔からある組で、今時珍しい昔ながらのヤクザらしい。組長は柳爺なんて呼ばれてたな。柳狐なのにどちらかというと狸だと言われている。まさか、彼女はその組長の孫娘か。
「美香さんは……」
「え、いない?こっちに来てる?どういうことそれ!?」
本当に柳狐組の組長の孫娘なのか確かめようと口を開いたとき、柳美香が突然声を荒げた。
「とりあえずあのジジィの番号教えて!……私のスマホ?取られたの!」
『取られた?どーいうことですかお嬢!?』
「え、あ……そういえばジジィ関係じゃないなら何で私捕まってたの?岩峰の、いや、友達の叔父さんに助けて……あれ?そう言えば何で楓の元彼が……?」
見事に混乱している。そりゃあそうだ。俺だってわけがわからない。
俺は不思議そうに首をかしげている彼女からスマホを奪う。
『お嬢っ!?どーいうことです!なぜ岩峰なんぞ……お嬢!?』
「割り込んで悪い。おたくのお嬢さんを預かってるモンだが、このお嬢さんは柳喜助の孫なのか」
『ああ?何じゃおめぇは!お嬢に手ェ出したら……』
「俺は岩峰組の若頭補佐、大原だ。一条会に捕まってたおたくのお嬢さんを保護したんだが」
電話の向こうがギャアギャアと騒がしい。そしてそれは怒声と共に徐々に静かになった。
『一条会にお嬢が捕まったぁ?確かにお嬢は親父の孫じゃ。だが親父は一条会との会合にいっとるはず。手ェ出す理由がない』
条野組は関西の一大勢力だからな。柳狐組と繋がっていてもおかしくはないか。
にしてもこれは、一から説明すべきなのか。この急いでる状況で?ああだが、どうせ柳美香には説明しなければならないことか。
「ちょいと黙って聞いてほしいんだが……」
俺は事の次第をざっくり説明した。最初は若干怒声が聞こえてきたが、やがて電話の相手は静かになる。
「……ってなわけだ」
『どねんもこねんも、テメェらの所為じゃろ!』
「それについては悪いと思ってる」
キレられた。まあ、当然か。
「稲本、つべこべ言ってないでジジィの番号。はよしね」
そこで柳美香は俺からスマホをひったくり、電話口に向かって低い声で言った。さすがヤクザの孫娘。恐喝っぽいのが様になってるな。にしても死ねは言い過ぎでは。
『も、申し訳ねぇです!親父の番号は……』
電話の向こうの稲本という男に若干同情しつつ、俺はその電話番号をメモした。
俺が殴って気絶させておいた見張りの男が死んでいた。出て行く途中にも、同様に眉間あるいは心臓を撃ち抜かれた一条会の組員がいた。
……用済みってわけか。
鶴田に連れられて逃げた美香がこれに気付かないことを祈るばかりだ。
この倉庫の処理を部下に任せて、俺は車に戻った。
後部座席には既に美香が乗っていて、俺に気付いて何か言っている。
「……安藤、出せ」
後部座席に乗り込んだ俺は運転席に座る安藤に言った。安藤の顔面には殴られた痣があり、腕には切られたような傷。まあ、思っていたよりは軽症だな。
「大原さん、無事だったんですか」
美香は俺を上から下まで見て、車が走り出したことについては何も言わない。むしろ落ち着いていた。
……やはり、このお嬢さんもこっちの人間なのか?なぜこうも彼女は的確にこっちの人間を引き当てるんだ?前世でヤクザの墓を手榴弾で爆破でもしたのか彼女は。
俺が山野楓の叔父という設定をこのまま通したら、確実にややこしいことになりそうだ。
車が角を曲がったところで、唐突に彼女は言った。
「……大原さん、スマホ貸してもらっていいですか」
「あ、ああ」
どうしたものかと考えていたので、半ば無意識にスマホを彼女に手渡していた。まあ仕事用ではなく、山野楓に貸していたものだが。
「関わり合いになるのが嫌でわざわざ家を出たのに、結局こうなるかぁ……」
なにやらぶつぶつ独り言を言いながら、彼女はどこかに電話をかけ始める。
「お嬢さ……いや、美香さん。どこに電話をかけているのか教えていただけませんか」
「実家のジジィです」
「実家?ジジィ?」
「私の苗字、柳です。こっちの世界の人ならご存知かもしれませんね。柳狐組」
「……マジか」
柳狐組。規模は小さいが、山陽……岡山あたりに拠点を置いてあっちの方で深く根を張る組織だ。
かなり昔からある組で、今時珍しい昔ながらのヤクザらしい。組長は柳爺なんて呼ばれてたな。柳狐なのにどちらかというと狸だと言われている。まさか、彼女はその組長の孫娘か。
「美香さんは……」
「え、いない?こっちに来てる?どういうことそれ!?」
本当に柳狐組の組長の孫娘なのか確かめようと口を開いたとき、柳美香が突然声を荒げた。
「とりあえずあのジジィの番号教えて!……私のスマホ?取られたの!」
『取られた?どーいうことですかお嬢!?』
「え、あ……そういえばジジィ関係じゃないなら何で私捕まってたの?岩峰の、いや、友達の叔父さんに助けて……あれ?そう言えば何で楓の元彼が……?」
見事に混乱している。そりゃあそうだ。俺だってわけがわからない。
俺は不思議そうに首をかしげている彼女からスマホを奪う。
『お嬢っ!?どーいうことです!なぜ岩峰なんぞ……お嬢!?』
「割り込んで悪い。おたくのお嬢さんを預かってるモンだが、このお嬢さんは柳喜助の孫なのか」
『ああ?何じゃおめぇは!お嬢に手ェ出したら……』
「俺は岩峰組の若頭補佐、大原だ。一条会に捕まってたおたくのお嬢さんを保護したんだが」
電話の向こうがギャアギャアと騒がしい。そしてそれは怒声と共に徐々に静かになった。
『一条会にお嬢が捕まったぁ?確かにお嬢は親父の孫じゃ。だが親父は一条会との会合にいっとるはず。手ェ出す理由がない』
条野組は関西の一大勢力だからな。柳狐組と繋がっていてもおかしくはないか。
にしてもこれは、一から説明すべきなのか。この急いでる状況で?ああだが、どうせ柳美香には説明しなければならないことか。
「ちょいと黙って聞いてほしいんだが……」
俺は事の次第をざっくり説明した。最初は若干怒声が聞こえてきたが、やがて電話の相手は静かになる。
「……ってなわけだ」
『どねんもこねんも、テメェらの所為じゃろ!』
「それについては悪いと思ってる」
キレられた。まあ、当然か。
「稲本、つべこべ言ってないでジジィの番号。はよしね」
そこで柳美香は俺からスマホをひったくり、電話口に向かって低い声で言った。さすがヤクザの孫娘。恐喝っぽいのが様になってるな。にしても死ねは言い過ぎでは。
『も、申し訳ねぇです!親父の番号は……』
電話の向こうの稲本という男に若干同情しつつ、俺はその電話番号をメモした。
23
お気に入りに追加
2,728
あなたにおすすめの小説


愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!



極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる