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2章
3.ヤクザさんの朝は早い3
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「でも大原さん、昌治さんならモテそうというか、過去に恋人の一人や二人くらい……」
「まーだそんなことをおっしゃっているんですか?」
大学に向かう車の中でそう言ったら、大原さんにため息をつかれた。バックミラー越しに見える目が半眼だ。完全に呆れている。
「でも、これまで女性関係がなにもないなんてことはさすがに……」
昌治さんが過去に他の女性と何かあったとしても別に特別どうこう思ったりはしない。今更だし。
それにあの日のあれが昌治さんの初めてなんてことはないと思う。むしろあれが初めてだったら私は男性不信に陥る。
「……昔は兄貴に連れられてそういう店に行ったりすることもありましたからね。全くないとは言いません」
「その人と恋人関係になったりとか……」
「皆無です。こう言っちゃ何ですが、性欲の処理と割り切ってましたから、若頭は。まあ、女の方が勝手に勘違いすることはありましたけど」
大原さんは当時のことを思い出したのか遠い目になり、あれは面倒くさかった、とボソっと呟いた。
「……そもそも屋敷に若頭が女を連れ込んだの、楓様が初めてですからね?むしろ楓様の場合は勘違いしてくださって一向に構いませんから。そんなにウチの若頭の愛情表現はわかりにくいですか」
「いや、そんなことはなくて……今はいいんですよ。将来的に、どうなるのかなって」
ここまでされてなにも感じないわけがない。
ここで過ごしてわかったけど、昌治さんは見た目完全ヤクザでまさに畏怖の対象って感じだけど、すごく組の方々に慕われてる。むしろブン殴られたことを一生の思い出みたいに語ってる人もいたな……ヤクザさんのツボがよくわからん。
そんな人に好かれて、私も好きだから嬉しくはあるんだけど、どうしても先の不安が拭えない。私はそんなに大した人間じゃないから。昌治さんが私になにを求めているのかすらわからないのに、私から求めるなんてできない。もし気が変わってしまったら?私が昌治さんの欲求を満たせなくなったら?
「もしポイされたら、大原さんが貰ってくれません?」
「ですからそういうの絶対若頭の前で言わないでください……というか嫌ですよそれ。俺に一生結婚するなってことですか」
「いや、そういう意味ではないんですけど……」
「そんな悲観的に考える事ではないでしょう。来もしない未来に怯えるより、目の前の幸せ考えましょうよ」
大原さんは諭すように言う。
なんとなく微妙な空気になってしまったところで、大学に到着してしまった。
「くれぐれも、危機意識持ってくださいね」
車から降りたら、大原さんが窓を開けてそう念押ししてきた。
それにはーいと返事をして、教室に向かっててくてく歩いていたら、後ろから誰かが追いかけてきたので振り返る。
「あ、美香」
「教室一緒に行こ」
もちろん断る理由もなく、私と美香は並んで教室に向かった。
「そういえば楓、バイトやめたの?」
どうやらたまたま私のシフトだった時間帯に、あの辺りを通りかかったから寄ってくれていたらしい。そういえばそれは話してなかったな。
「あ、うん。引っ越したの話したでしょ。それで遠くなったから、別で探そうかなって」
美香には、大学から少し遠い親戚の家に居候させてもらっていると説明した。全く違う住所教えて実際に来られてしまっても困るということで、大原さんが考えてくれた設定だ。
「でっかいネズミが出たはさすがにね……でも親戚の家って向高野町だっけ?遠くない?」
「叔父さんの職場がこっちだから、近く通るついでに送って貰えるんだ」
「あー、それならむしろ居候の方が楽かもね」
これは半分本当だ。組の事務所に行くついでに送ってもらうことが多い。帰りも同じだ。
加えて食事もお風呂も至れり尽くせりだしなぁ。自宅から通うより快適……うーん、本格的に堕落してきてるな私。
「そういえば楓、明後日の授業のあと時間ある?新しくできたカフェ行かない?」
「大学の裏にできたとこ?行きたいけど、叔父さんに聞いてみなきゃ……」
「引っ越してからその辺は大変だねぇ。でもそんな早くに叔父さんも仕事終わらないでしょ」
そもそも大学に行くこと自体、大原さんに反対されている。お屋敷にいればいいとは言われているものの、なにもなさすぎて本格的に堕落するだけな気がする。それに大学はちゃんと卒業したい。
大学内で一人にならない、常に人の多いところにいるように、など言われたことはちゃんと守ってるけど、それでこのごろ美香や他の友達と付き合えていないのは事実だ。
これもご多分にもれず、大原さんはいい顔しないだろう。
「どっちかというと夕飯、かなぁ……」
最初、女の私にはちょっと量が多めで、申し訳ないけど残そうかなとしたら、料理を作ってくれる強面おじさんヤクザがこの世の終わりみたいな顔で「口に合いませんでしたか」とか言ったものだから、その時は頑張って食べた。それ以降は減らしてもらったのでいいのだけど。
まあ、あらかじめ言っておいて量少なめにして貰えばいいか。
それは美香も思ったようで、期待を込めた目で私を見る。
「おおは……叔父さんに聞いてみる。夜には連絡するよ」
確実にお前反省してないだろという目で見られる気がする。美香には申し訳ないけど、今はちょっと厳しいかな?
「まーだそんなことをおっしゃっているんですか?」
大学に向かう車の中でそう言ったら、大原さんにため息をつかれた。バックミラー越しに見える目が半眼だ。完全に呆れている。
「でも、これまで女性関係がなにもないなんてことはさすがに……」
昌治さんが過去に他の女性と何かあったとしても別に特別どうこう思ったりはしない。今更だし。
それにあの日のあれが昌治さんの初めてなんてことはないと思う。むしろあれが初めてだったら私は男性不信に陥る。
「……昔は兄貴に連れられてそういう店に行ったりすることもありましたからね。全くないとは言いません」
「その人と恋人関係になったりとか……」
「皆無です。こう言っちゃ何ですが、性欲の処理と割り切ってましたから、若頭は。まあ、女の方が勝手に勘違いすることはありましたけど」
大原さんは当時のことを思い出したのか遠い目になり、あれは面倒くさかった、とボソっと呟いた。
「……そもそも屋敷に若頭が女を連れ込んだの、楓様が初めてですからね?むしろ楓様の場合は勘違いしてくださって一向に構いませんから。そんなにウチの若頭の愛情表現はわかりにくいですか」
「いや、そんなことはなくて……今はいいんですよ。将来的に、どうなるのかなって」
ここまでされてなにも感じないわけがない。
ここで過ごしてわかったけど、昌治さんは見た目完全ヤクザでまさに畏怖の対象って感じだけど、すごく組の方々に慕われてる。むしろブン殴られたことを一生の思い出みたいに語ってる人もいたな……ヤクザさんのツボがよくわからん。
そんな人に好かれて、私も好きだから嬉しくはあるんだけど、どうしても先の不安が拭えない。私はそんなに大した人間じゃないから。昌治さんが私になにを求めているのかすらわからないのに、私から求めるなんてできない。もし気が変わってしまったら?私が昌治さんの欲求を満たせなくなったら?
「もしポイされたら、大原さんが貰ってくれません?」
「ですからそういうの絶対若頭の前で言わないでください……というか嫌ですよそれ。俺に一生結婚するなってことですか」
「いや、そういう意味ではないんですけど……」
「そんな悲観的に考える事ではないでしょう。来もしない未来に怯えるより、目の前の幸せ考えましょうよ」
大原さんは諭すように言う。
なんとなく微妙な空気になってしまったところで、大学に到着してしまった。
「くれぐれも、危機意識持ってくださいね」
車から降りたら、大原さんが窓を開けてそう念押ししてきた。
それにはーいと返事をして、教室に向かっててくてく歩いていたら、後ろから誰かが追いかけてきたので振り返る。
「あ、美香」
「教室一緒に行こ」
もちろん断る理由もなく、私と美香は並んで教室に向かった。
「そういえば楓、バイトやめたの?」
どうやらたまたま私のシフトだった時間帯に、あの辺りを通りかかったから寄ってくれていたらしい。そういえばそれは話してなかったな。
「あ、うん。引っ越したの話したでしょ。それで遠くなったから、別で探そうかなって」
美香には、大学から少し遠い親戚の家に居候させてもらっていると説明した。全く違う住所教えて実際に来られてしまっても困るということで、大原さんが考えてくれた設定だ。
「でっかいネズミが出たはさすがにね……でも親戚の家って向高野町だっけ?遠くない?」
「叔父さんの職場がこっちだから、近く通るついでに送って貰えるんだ」
「あー、それならむしろ居候の方が楽かもね」
これは半分本当だ。組の事務所に行くついでに送ってもらうことが多い。帰りも同じだ。
加えて食事もお風呂も至れり尽くせりだしなぁ。自宅から通うより快適……うーん、本格的に堕落してきてるな私。
「そういえば楓、明後日の授業のあと時間ある?新しくできたカフェ行かない?」
「大学の裏にできたとこ?行きたいけど、叔父さんに聞いてみなきゃ……」
「引っ越してからその辺は大変だねぇ。でもそんな早くに叔父さんも仕事終わらないでしょ」
そもそも大学に行くこと自体、大原さんに反対されている。お屋敷にいればいいとは言われているものの、なにもなさすぎて本格的に堕落するだけな気がする。それに大学はちゃんと卒業したい。
大学内で一人にならない、常に人の多いところにいるように、など言われたことはちゃんと守ってるけど、それでこのごろ美香や他の友達と付き合えていないのは事実だ。
これもご多分にもれず、大原さんはいい顔しないだろう。
「どっちかというと夕飯、かなぁ……」
最初、女の私にはちょっと量が多めで、申し訳ないけど残そうかなとしたら、料理を作ってくれる強面おじさんヤクザがこの世の終わりみたいな顔で「口に合いませんでしたか」とか言ったものだから、その時は頑張って食べた。それ以降は減らしてもらったのでいいのだけど。
まあ、あらかじめ言っておいて量少なめにして貰えばいいか。
それは美香も思ったようで、期待を込めた目で私を見る。
「おおは……叔父さんに聞いてみる。夜には連絡するよ」
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