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2章
1.ヤクザさんの朝は早い
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ここから第2章です。
1章の最後にも書きましたが、2章は内容が某会長のせいでかなりシリアスです。苦手な方は2章は避けてください。(別で新しくラブコメ始めてみましたので、よろしければそちらを読んでお待ちください)
序盤の4話以降から不穏です。
2章が終了したら3章はラブコメ?に戻ります。
----------
変な時間に目が覚めた。
いったい何時なんだろうと時計を確かめようと身じろぎしたら、うまく動けなかった。
理由は単純で、寝ている昌治さんに抱きしめられているからなんだけど……ついでにお手洗いに行きたくなったから、離してくれませんかね……
あんまり無理矢理抜け出して起こしてしまうのも申し訳ないしなぁ、と思いながらしばらくそのままでいた。外は雨が降っているのか、微かに雨音が聞こえてくる。
ここに住み始めてもう三週間。大学は組の方々……主に大原さんに送迎してもらい通っているけど、バイトは一時的に休ませてもらっている。
代わりに組の人なことは伏せて組の人を紹介したから、店長は快く承諾してくれた。すみません店長。
しばらく店長に心の声で謝ってたけどさすがに動きたくなってそっと手をどかしたら、薄眼を開けた昌治さんと目が合った。
「……どこ行くつもりだ」
「お手洗いに……」
言う必要あるのかと思いながらも答えたら、昌治さんは腕をどけてくれた。
まあ、岩峰組のお屋敷に住むことになったとはいえ、昌治さんは不在のことの方が多い。たまに夜中に帰ってきて、いつのまにか布団に入ってきていたり。今日はちょうど寝ようとしてたときにやってきたから知ってたけど。
静かに部屋を出て、さくっと用を済ませる。なんだか目が冴えちゃったなぁ。
ふと廊下の先を見たら、襖が開いててそこから明かりが漏れていた。今まだ朝の三時半過ぎなのに、誰が起きてるんだろう。確かあそこっていろんな人がよく作業してる部屋だよね。
「あれ、大原さん。こんな時間まで何をしてるんですか?」
そこにいたのは大原さんだった。
「楓様こそ、なぜこのような時間に……」
「ちょっと目が覚めてしまいまして」
大原さんは起き抜けの私をなぜか上から下まで見て、すっと目を逸らした。
「前々から思っていましたが、楓様は危機管理能力が低すぎます。明らかにヤクザな俺と若頭を部屋にあげるわ、迫田なんかにあっさり誘拐されるわ、見ず知らずの男を拾うわ……」
「それは……お手数をおかけしました……」
「終わったことなのでもういいのですが、楓様にはもう少し危機感を持っていただきたいんです」
あれ?大原さん寝不足かな。心なしか、ちょっぴり気が立っていらっしゃる気がする。
春斗さんとのあれこれについては全て話した。最初の方の助けたあたりについては、仕方ないようなと思ったのだけど、そもそも部屋にあげる時点でどうなのかと言われてしまった。その通りです、はい。
「気を付けます。部屋に知らない人をあげたりしません」
「いや、今はそもそも我々があげさせませんから」
あ、そうか。そもそも許されませんねそれ。
「……お気付きになってください。俺が言いたいのは、その格好で夜に屋敷をウロついたりしないでほしいということです。無論、ここに楓様を襲うような馬鹿はいませんが、楓様のその姿を見て怒られるの、俺らなんですよ」
「へ……?」
私は思わず自分の格好を見下ろした。
浴衣とスリッパ。見た目は完全に旅館の客みたいだけど、そんなに変かな?
あ、暗いとこで着直したから、ちょっとゆるっとしちゃってる。お見苦しいものをお見せしてすみません。
ちょっとすみませんと言って、緩んでるのを懐にねじ込んだ。ちょっとマシになったかな。
「そういうところです、楓様」
大原さんはわかりやすくため息をついた。なんだかこの頃、大原さんの私に対する態度が崩れてきた気がする。全く気にはならないけど。むしろ気楽でいいけど。
「まあ、楓様にそういうつもりがないというのはわかっていますよ?若頭も俺もそのあたりは信用してますから。とにかく、部屋にお戻りください。若頭に見られるとめんど……あ」
大原さんは私の背後を見て、固まった。
同時に私は後ろから誰か、というか昌治さんに思い切り抱きしめられていた。
これまずい。
「これはですね!こんな時間なのに誰が起きてるんだろうなって気になって、覗いてみたら大原さんだったのでちょっとお喋りしてたんですよっ!」
なぜだろう。事実を言っているのに嘘っぽい。嘘じゃないんだけど、びっくりして声が上ずっちゃってる。
昌治さんが私を抱く腕に力が入った。
「あの、ちょっと痛いんですが……」
「ああ、悪い」
そう言うとちょっと緩めてくれたけど、離すつもりはないらしくがっつりホールドされたまま、私は昌治さんと大原さんとの間で物理的に板挟みになっていた。
大原さんの目が憂いている。そんな目で見ないでくださいっ……居た堪れない。
「昌治さん、遅くなってごめんなさい。戻ります。一緒に戻りましょう!」
一緒に、と言ったら、昌治さんの肩がピクリと動いて、私は廊下に引っ張られた。昌治さんはそのままピシャッと襖を閉め、ひょいと私を抱き上げる。
「え、ちょ……自分で歩けますよ!?」
抗議の声は聞き入れられず、私は昌治さんにいわゆるお姫様抱っこされながら部屋に連れ戻された。
布団に転がされて、私は思わず身構える。
「今日はしないって……」
「気が変わった。それに日付けも」
そんな屁理屈言わないでください、と言おうとした口は塞がれて、私の朝風呂が決定した。
1章の最後にも書きましたが、2章は内容が某会長のせいでかなりシリアスです。苦手な方は2章は避けてください。(別で新しくラブコメ始めてみましたので、よろしければそちらを読んでお待ちください)
序盤の4話以降から不穏です。
2章が終了したら3章はラブコメ?に戻ります。
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変な時間に目が覚めた。
いったい何時なんだろうと時計を確かめようと身じろぎしたら、うまく動けなかった。
理由は単純で、寝ている昌治さんに抱きしめられているからなんだけど……ついでにお手洗いに行きたくなったから、離してくれませんかね……
あんまり無理矢理抜け出して起こしてしまうのも申し訳ないしなぁ、と思いながらしばらくそのままでいた。外は雨が降っているのか、微かに雨音が聞こえてくる。
ここに住み始めてもう三週間。大学は組の方々……主に大原さんに送迎してもらい通っているけど、バイトは一時的に休ませてもらっている。
代わりに組の人なことは伏せて組の人を紹介したから、店長は快く承諾してくれた。すみません店長。
しばらく店長に心の声で謝ってたけどさすがに動きたくなってそっと手をどかしたら、薄眼を開けた昌治さんと目が合った。
「……どこ行くつもりだ」
「お手洗いに……」
言う必要あるのかと思いながらも答えたら、昌治さんは腕をどけてくれた。
まあ、岩峰組のお屋敷に住むことになったとはいえ、昌治さんは不在のことの方が多い。たまに夜中に帰ってきて、いつのまにか布団に入ってきていたり。今日はちょうど寝ようとしてたときにやってきたから知ってたけど。
静かに部屋を出て、さくっと用を済ませる。なんだか目が冴えちゃったなぁ。
ふと廊下の先を見たら、襖が開いててそこから明かりが漏れていた。今まだ朝の三時半過ぎなのに、誰が起きてるんだろう。確かあそこっていろんな人がよく作業してる部屋だよね。
「あれ、大原さん。こんな時間まで何をしてるんですか?」
そこにいたのは大原さんだった。
「楓様こそ、なぜこのような時間に……」
「ちょっと目が覚めてしまいまして」
大原さんは起き抜けの私をなぜか上から下まで見て、すっと目を逸らした。
「前々から思っていましたが、楓様は危機管理能力が低すぎます。明らかにヤクザな俺と若頭を部屋にあげるわ、迫田なんかにあっさり誘拐されるわ、見ず知らずの男を拾うわ……」
「それは……お手数をおかけしました……」
「終わったことなのでもういいのですが、楓様にはもう少し危機感を持っていただきたいんです」
あれ?大原さん寝不足かな。心なしか、ちょっぴり気が立っていらっしゃる気がする。
春斗さんとのあれこれについては全て話した。最初の方の助けたあたりについては、仕方ないようなと思ったのだけど、そもそも部屋にあげる時点でどうなのかと言われてしまった。その通りです、はい。
「気を付けます。部屋に知らない人をあげたりしません」
「いや、今はそもそも我々があげさせませんから」
あ、そうか。そもそも許されませんねそれ。
「……お気付きになってください。俺が言いたいのは、その格好で夜に屋敷をウロついたりしないでほしいということです。無論、ここに楓様を襲うような馬鹿はいませんが、楓様のその姿を見て怒られるの、俺らなんですよ」
「へ……?」
私は思わず自分の格好を見下ろした。
浴衣とスリッパ。見た目は完全に旅館の客みたいだけど、そんなに変かな?
あ、暗いとこで着直したから、ちょっとゆるっとしちゃってる。お見苦しいものをお見せしてすみません。
ちょっとすみませんと言って、緩んでるのを懐にねじ込んだ。ちょっとマシになったかな。
「そういうところです、楓様」
大原さんはわかりやすくため息をついた。なんだかこの頃、大原さんの私に対する態度が崩れてきた気がする。全く気にはならないけど。むしろ気楽でいいけど。
「まあ、楓様にそういうつもりがないというのはわかっていますよ?若頭も俺もそのあたりは信用してますから。とにかく、部屋にお戻りください。若頭に見られるとめんど……あ」
大原さんは私の背後を見て、固まった。
同時に私は後ろから誰か、というか昌治さんに思い切り抱きしめられていた。
これまずい。
「これはですね!こんな時間なのに誰が起きてるんだろうなって気になって、覗いてみたら大原さんだったのでちょっとお喋りしてたんですよっ!」
なぜだろう。事実を言っているのに嘘っぽい。嘘じゃないんだけど、びっくりして声が上ずっちゃってる。
昌治さんが私を抱く腕に力が入った。
「あの、ちょっと痛いんですが……」
「ああ、悪い」
そう言うとちょっと緩めてくれたけど、離すつもりはないらしくがっつりホールドされたまま、私は昌治さんと大原さんとの間で物理的に板挟みになっていた。
大原さんの目が憂いている。そんな目で見ないでくださいっ……居た堪れない。
「昌治さん、遅くなってごめんなさい。戻ります。一緒に戻りましょう!」
一緒に、と言ったら、昌治さんの肩がピクリと動いて、私は廊下に引っ張られた。昌治さんはそのままピシャッと襖を閉め、ひょいと私を抱き上げる。
「え、ちょ……自分で歩けますよ!?」
抗議の声は聞き入れられず、私は昌治さんにいわゆるお姫様抱っこされながら部屋に連れ戻された。
布団に転がされて、私は思わず身構える。
「今日はしないって……」
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