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1章
43.ヤクザさんのお風呂2
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「大丈夫か?」
私が突然お湯に顔を叩きつけたからか、昌治さんの体がちょっと浮いて、私の方に向かおうとしていた。
「来ないでくださいっ!」
私は慌てて岩の陰に隠れた。入ってまだそんなに経ってないのに、顔が火照って熱い。
「……昨夜のことを怒ってるのか?」
不安そうに昌治さんは言った。
「昨夜は、やりすぎたと思ってる。初めてだろうし優しくしようと思ったんだが……どうにも、抑えがきかなくてな」
「そういうことを言ってるんじゃないです!」
あれに対して怒りとかそういった感情はない。むしろ……途中から、気持ちよくなってましたけど。あんなことされながら、好きだなとか思ったりしましたけどっ!
今はただ、恥ずかしいだけだ。あれだけ甘い、自分のじゃないみたいな声を聞かれて、体が勝手に動いて、ねだるようなことを言って、全部見られたんだ。恥ずかしくないわけがない。
それに対して動揺しているのは私だけっていうのも、なんだかずるい。
「私は大丈夫ですから!ほっといてくださいっ!」
我ながら意味わからないこと言ってるなとは思うけど、とにかく今は昌治さんの顔をまともに見ることも、ましてや見られるなんて耐えられない。
自分が今どういう顔をしているのかすらわからなかった。
「……わかった」
対する昌治さんの声は落ち着いていて、ますます私はどうすればいいのかわからなくなった。
気まずい沈黙が続く。
昌治さんにいったん出てほしいとお願いしようかと思ったけど、私は勝手に入っているので言いづらい。それに、見られたくないというのは私が一方的に思ってるだけで、もったいぶるほどの体でもない。変に意識してるみたいに思われるのは嫌だった。
いっそ真っ直ぐ出て行こうか。昌治さんは気にしてないんだし……いや、想像だけでも無理だ、と思いかけたところで、昌治さんが私の名前を呼んだ。
「……なんですか?」
「お前のアパートのことなんだが」
そういえば、あのあとどうなったんだろう。鍵とか閉める余裕なかったし、荒らされたりとか、大家さんに不審がられたりしていないだろうか。
「あそこにはもう住むな。ここに住め」
「え、でも、大学とかバイトとか、あるんですけど……」
確かにあそこに住み続けるのは無理なのはわかってる。だから違うアパートか学生寮に移ろうとは思ってはいた。バイトは、そこから近い違う店舗に変えるつもりだった。
というか、ここに住むってつまり、昌治さんと住むわけで、もはや同棲……
「バイトはやめろ。大学は、どうしても行きたいんなら送る」
「いや、でも皆さんに迷惑ですし……バイトも」
「それじゃあお前を守れないだろ。敵に回したのは一条会の会長、条野春斗だ。あいつはまだお前を諦めていない」
「う、それは……」
春斗さんのことは、正直信じたくない。でも昨日のことは事実で、昌治さんたちに助けてもらわなかったら危なかった。
引っ越したところで見つかってしまえば、私一人では抵抗できない。しかも捕まったら、昨晩のあれ以上に……ゾクリと背筋が震えた。
「お前を俺の目に届かないところに置く方が、俺にとっては迷惑だ」
「そうかもしれないですけど、でもここに住むってことは……」
「俺と住むのは、嫌か」
やはり昨晩の最後がまずかったのか、と昌治さんは呟く。あの……そこじゃないです。いや、気にはしますけども。
「嫌とかそういうのじゃないです。昌治さんのことはす、好きですけど……」
これは伝えておいた方がいいと思って言ったけど、なにこれ恥ずかしい!昨日は言えたような気がする。むしろ昨日の私よく言えたね!?
このもやもやをどう話せばいいのかと悩んでいたら、昌治さんの方も反応がなかった。すみませんはっきりしなくて。
どうしたものかと悶々としていたら、突然昌治さんが立ち上がった。
そしてなにやら、近付いてくる音がするんですが!
「昌治さん!来ないでくださいって……ちょっ!」
腕を掴まれて、昌治さんの方へ引き寄せられる。そのまましゃがんで、横から抱き締められた。
あの、裸なんですけど!色々と、障りがあるんですがっ!
「見てなけりゃいいんだろ」
「いや、こっちの方がなおさらダメですって!」
確かにお互いの背中しか見えてませんけど、明らかに見るよりアウトですって!
「離してください!」
「嫌だ」
そんな子供みたいに言ってもダメです!
「その……熱いんですけど!」
「そうか」
昌治さんが私を抱く力がなぜか強くなった。いや、離れてくださいって!
「やっと手に入ったんだ。離すわけねぇだろ」
耳元で囁かれて、お風呂のせいでもなく全身がカッと熱くなった。
何か言おうにも、途切れ途切れで言葉にならない。
「好きだ、楓。もうお前が何と言おうが、俺はお前を嫁にする」
「よ、嫁って……!」
話がいきなり飛躍しすぎじゃないですか!?間のなにかをぶっ飛ばしすぎですよ!?
「さすがに一回抱いたくらいでお前が俺のものになるなんて思っちゃいない。でもな、俺は本気だ。お前がその気になるまで待つが、諦めるつもりは毛頭ない」
「そそそ、そうですか……」
頭がショート寸前だ。この状況もだけど、追い討ちかけるみたいにさらに負荷がっ!
もう恥ずかしくて熱いんだかお風呂が熱いのかわからなくなってきた。
「とにかく、いったん離してくださいっ!」
結婚云々の前に、この状況じゃまともに頭が働かない。いったんお互いに落ち着きませんか!?
そう言ったら、渋々ながら昌治さんは体を離してくれた。離される間際に首を甘噛みされた気が……うん、そんな気がしただけかもしれない!そう思いたいっ!
私が突然お湯に顔を叩きつけたからか、昌治さんの体がちょっと浮いて、私の方に向かおうとしていた。
「来ないでくださいっ!」
私は慌てて岩の陰に隠れた。入ってまだそんなに経ってないのに、顔が火照って熱い。
「……昨夜のことを怒ってるのか?」
不安そうに昌治さんは言った。
「昨夜は、やりすぎたと思ってる。初めてだろうし優しくしようと思ったんだが……どうにも、抑えがきかなくてな」
「そういうことを言ってるんじゃないです!」
あれに対して怒りとかそういった感情はない。むしろ……途中から、気持ちよくなってましたけど。あんなことされながら、好きだなとか思ったりしましたけどっ!
今はただ、恥ずかしいだけだ。あれだけ甘い、自分のじゃないみたいな声を聞かれて、体が勝手に動いて、ねだるようなことを言って、全部見られたんだ。恥ずかしくないわけがない。
それに対して動揺しているのは私だけっていうのも、なんだかずるい。
「私は大丈夫ですから!ほっといてくださいっ!」
我ながら意味わからないこと言ってるなとは思うけど、とにかく今は昌治さんの顔をまともに見ることも、ましてや見られるなんて耐えられない。
自分が今どういう顔をしているのかすらわからなかった。
「……わかった」
対する昌治さんの声は落ち着いていて、ますます私はどうすればいいのかわからなくなった。
気まずい沈黙が続く。
昌治さんにいったん出てほしいとお願いしようかと思ったけど、私は勝手に入っているので言いづらい。それに、見られたくないというのは私が一方的に思ってるだけで、もったいぶるほどの体でもない。変に意識してるみたいに思われるのは嫌だった。
いっそ真っ直ぐ出て行こうか。昌治さんは気にしてないんだし……いや、想像だけでも無理だ、と思いかけたところで、昌治さんが私の名前を呼んだ。
「……なんですか?」
「お前のアパートのことなんだが」
そういえば、あのあとどうなったんだろう。鍵とか閉める余裕なかったし、荒らされたりとか、大家さんに不審がられたりしていないだろうか。
「あそこにはもう住むな。ここに住め」
「え、でも、大学とかバイトとか、あるんですけど……」
確かにあそこに住み続けるのは無理なのはわかってる。だから違うアパートか学生寮に移ろうとは思ってはいた。バイトは、そこから近い違う店舗に変えるつもりだった。
というか、ここに住むってつまり、昌治さんと住むわけで、もはや同棲……
「バイトはやめろ。大学は、どうしても行きたいんなら送る」
「いや、でも皆さんに迷惑ですし……バイトも」
「それじゃあお前を守れないだろ。敵に回したのは一条会の会長、条野春斗だ。あいつはまだお前を諦めていない」
「う、それは……」
春斗さんのことは、正直信じたくない。でも昨日のことは事実で、昌治さんたちに助けてもらわなかったら危なかった。
引っ越したところで見つかってしまえば、私一人では抵抗できない。しかも捕まったら、昨晩のあれ以上に……ゾクリと背筋が震えた。
「お前を俺の目に届かないところに置く方が、俺にとっては迷惑だ」
「そうかもしれないですけど、でもここに住むってことは……」
「俺と住むのは、嫌か」
やはり昨晩の最後がまずかったのか、と昌治さんは呟く。あの……そこじゃないです。いや、気にはしますけども。
「嫌とかそういうのじゃないです。昌治さんのことはす、好きですけど……」
これは伝えておいた方がいいと思って言ったけど、なにこれ恥ずかしい!昨日は言えたような気がする。むしろ昨日の私よく言えたね!?
このもやもやをどう話せばいいのかと悩んでいたら、昌治さんの方も反応がなかった。すみませんはっきりしなくて。
どうしたものかと悶々としていたら、突然昌治さんが立ち上がった。
そしてなにやら、近付いてくる音がするんですが!
「昌治さん!来ないでくださいって……ちょっ!」
腕を掴まれて、昌治さんの方へ引き寄せられる。そのまましゃがんで、横から抱き締められた。
あの、裸なんですけど!色々と、障りがあるんですがっ!
「見てなけりゃいいんだろ」
「いや、こっちの方がなおさらダメですって!」
確かにお互いの背中しか見えてませんけど、明らかに見るよりアウトですって!
「離してください!」
「嫌だ」
そんな子供みたいに言ってもダメです!
「その……熱いんですけど!」
「そうか」
昌治さんが私を抱く力がなぜか強くなった。いや、離れてくださいって!
「やっと手に入ったんだ。離すわけねぇだろ」
耳元で囁かれて、お風呂のせいでもなく全身がカッと熱くなった。
何か言おうにも、途切れ途切れで言葉にならない。
「好きだ、楓。もうお前が何と言おうが、俺はお前を嫁にする」
「よ、嫁って……!」
話がいきなり飛躍しすぎじゃないですか!?間のなにかをぶっ飛ばしすぎですよ!?
「さすがに一回抱いたくらいでお前が俺のものになるなんて思っちゃいない。でもな、俺は本気だ。お前がその気になるまで待つが、諦めるつもりは毛頭ない」
「そそそ、そうですか……」
頭がショート寸前だ。この状況もだけど、追い討ちかけるみたいにさらに負荷がっ!
もう恥ずかしくて熱いんだかお風呂が熱いのかわからなくなってきた。
「とにかく、いったん離してくださいっ!」
結婚云々の前に、この状況じゃまともに頭が働かない。いったんお互いに落ち着きませんか!?
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