お客様はヤのつくご職業

古亜

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1章

42.ヤクザさんのお風呂

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……起きた。
さて、ここはどこだろう。和室だ。私のアパートは全面フローリング。畳なわけがない。
そして起きたばかりなのにこの謎の倦怠感。下腹部の鈍痛、なぜか裸……

「……っううぁ!」

覚えていますとも!昨晩から明朝にかけてのあれやこれやはっ!嫌じゃなかった。むしろっ、むしろ気持ちよくさせていただきましたよ!結構色々されたけども、なんか言わされたりしたけども!
思い出して飛び起きたら、下腹部の痛みが増した。
ついでに何かが出てきて、私は恥ずかしさで死ねそうになった。
てか、どんだけしちゃったのこれ……
布団を引き寄せて特に誰がいるわけでもないのに体を隠した。
当の本人、昌治さんの姿はない。
まあ、枕元にあった時計によると、もう朝十時ですからね。確か昨日お風呂あがった時は九時くらいだったような……何時間寝てたんだ私。
布団出なきゃ。昌治さんがいつ戻ってくるのか知らないけど、さすがにずっとこのままいたというのはまずいよね。
ずるずる這い出るようにして布団を出て、洋間のソファのところに落ちていた浴衣を着る。ショーツが布団の下方にあった気がするけど、あれを再び履く勇気はなかった。
そしてなんだか、全身ベタベタしてるというか、乾いたところはなんか浮いてるし……浴衣着たはいいけど、さすがに体洗いたい。
机に手をついてなんとか立ち上がる。何かが脚を伝っていった気がしたけど、気のせいだよね。気にしたら負けだ。
ついでにあまりに喉がカラカラだったので、机の上になぜか置かれていた未開封のミネラルウォーターを飲む。すみません代金は後でお支払いします。
さて、喉も潤ったところで、こっそりお風呂を借りよう。お湯は張ってなくてもいいや。シャワーだけでも浴びられれば……
幸い、部屋の前には誰もいなかった。
壁伝いに歩いて、人の気配にビクビクしつつもなんとか昨日お借りしたお風呂に到着。
籠に浴衣と帯を放り込んで、浴室に入った。ふわっと檜の香りの湯気が脱衣所に流れ込む。タオルは籠に入っていたのを拝借した。
湯船に入る前に体を洗おうと、タオルで石鹸を泡立てて擦る……う、なんだかベタベタがぬるぬるする……?泣きたい。
体洗うだけなのに、なぜこんな羞恥プレイみたいになってるの……
同時に色々思い出して叫び出したい衝動に駆られつつも、なんとか体を洗い終わった。
さて、お風呂に入ろうとしたとき、奥に扉があるのに気が付いた。昨日の夜は外が暗かったから気付かなかったけど、どうやら露天風呂があるっぽい。ここ、実は旅館なんじゃないか……?
せっかくだし露天風呂に入ろうかな。あったかくなかったら中の檜風呂に入ればいいし。
ヤクザさんの露天風呂ってどんな感じなんだろうと思いながら横開きの扉を開ける。

「おぉ……」

よく見る感じの、岩の露天風呂だ。そして結構大きい。真ん中に大きめの岩があって、それがなんとも旅館の温泉っぽい。
この状況だけど、旅行っぽくてちょっとテンションが上がる。
露天だからかお湯の温度は昨日入った檜風呂より低めだけど、ちょうどいいや。
そうしてさあ入ろうとしたそのとき、背後でガラッと戸が開く音がした。
誰かが入ってきた!?勝手に入ってるし、それに組の方なら男性……まずいっ!
私は大慌てでお風呂の真ん中にある岩の陰に身を隠す。隠れたのバレバレだろうけども、お願いですのでどうか一旦お戻りになってくださると嬉しいです。私の裸なんて見ても面白くないですから!
岩の陰で縮こまって、去るのを待つ。待ってたのに……

「楓、どうした?」

なぜ声をかけてくるかなぁ?……って、昌治さん!
思わずそちらを見てしまい、後悔した。
どうして裸!?いや、ここそもそもお風呂だった!そうじゃなくて、見えてます!お願いですからお引き取りをっ!それか目を閉じていただければその間に私が出ていきますからっ!

「風呂に入ってたらお前が露天に行くのが見えたんだが、なぜそんなに驚く」
「驚きますよっ!というか、私入ったときお風呂に誰もいませんでしたよ!?」

さすがに誰かいたら気づく。脱衣所で他の人の衣服とかがないのは確認した。

「ああ、俺がいたのは檜の方じゃねぇからな」

え、どういうことですかと思って、できるだけ下を見ないように振り向いて、理解した。
どうやらここは私が昨日入った檜風呂以外にもう一室違うお風呂があって、露天風呂で繋がっているらしい。昌治さんはそちらに入っていて、私の姿が見えたから声をかけた、と。

「入るか?こっちはジェットバスだ」

え、なにその至れり尽くせりな感じ。すごいなヤクザのお風呂。
いやでもそのお風呂、昌治さんが入ってたわけで、それはつまり……と考えていたら、昌治さんが露天風呂に入ってきた。下は見えにくくなりましたけど、なんで入ってきたんですか!そこに居座られたら私出られないじゃないですか!ジェットバス行きたくても行けませんって!
岩の陰から体を隠して昌治さんの方を覗くと、昌治さんと目が合った。

「こっちに来ればいいだろ。もう隠す必要も……」
「大ありですっ!」

なにを言っているんだあの人は。確かに昨晩は色々見られましたよ。ええ、それはもう色々と……

「……っうう!」

本人を目の前にして思い出したら、猛烈に恥ずかしくなってきて、私は思わずお湯に顔を突っ込んでいた。
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