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1章
30.お客様と夕ご飯3
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そうして個室を移動したら、さっきと同じぐらい広い部屋の中央に四角いテーブルが置かれていた。
絨毯の凹み的に、さっきまでここに丸いテーブルあったっぽい。どかさせたんですか。そこまでします?
「これくらいがええな」
満足げにそう言って、条野さんは私の方をそれはそれは嬉しそうにじっと見てくる。
そんなに見ても、何も出てきませんよ?
「ところであの、メニューとかはありませんか?」
さっきから思ってたんだけど、机の上は箸とかナプキン以外置いてない。条野さんをまともに見てたら精神が色々つらいので、安寧のためにメニューを眺めていたい。特にこれ食べたいとか言うつもりはないです。強いて言えばこの店で一番安いラーメン食べたいです。
「見たいんやったら持ってこさせるけど、この店コースしかないで?」
「え、ラーメンはどこへ……?」
「メインの次に出てくる」
あ、そこはあるんですね……って、違う!ラーメン食べたいとは言ったけど、こんないかにもな高級中華のコース内のラーメンがいいなんて一言も言ってない!
驚きで口がポカーンと開いた。すぐに正気に戻って閉じたけど、それでも気を抜いたら開きそう。
そんな私を条野さんは楽しそうに見ていた。
やがて料理が運ばれてきた。最初は、前菜……かな?色とりどりの料理がちょっとずつ盛られたプレートだった。これだけでラーメン三杯くらい食べられそう。
条野さんの前には黒っぽいお酒があった。紹興酒らしい。
ちなみに私も店員さんに勧められたけど、そんなに強くないので丁重にお断りした。代わりにジャスミンティーっぽいお茶を注いでもらう。
「どうした?苦手なもんでもあるんか?」
「いえ、美味しそうですね」
もう出されちゃったし、コースだし、美味しそうだし……食べるか。うん、こんなの食べる機会たぶんもうない。作ってくれた方に申し訳ないので、美味しく食べよう。
ここまで来ては仕方ない、半ば開き直った私は前菜に箸を伸ばした。料理に罪はないもんね。
ひんやりした、春雨みたいな、よくわからないけど、複雑なお味。よくわからないけど、美味しい。
「美味いやろ」
私はこくこく頷いた。
全部初めて見たレベルでおっかなびっくり食べてるのに、全部美味しい。
次に出てきたスープも、美味しい。春雨っぽいの入ってる。え、これがフカヒレってやつですか?……春雨なんていうあかん食材と間違えてすみませんでした。
そう言ったら条野さんにめちゃくちゃ笑われた。庶民に一流の舌を求めないでください。
そうこうしていたら、大皿に乗った料理が次々運ばれてきた。
「おお……」
思わず声が漏れた。だって、こんな豪華な料理を目の前にするの初めてですもん。
真っ赤なエビが丸々一匹大皿に乗ったエビチリ、本格的なせいろに入った小籠包っぽい点心、カリカリに焼いてある北京ダック?中華おこげ、トロッとした餡のかかった野菜炒め……等々。
いったいどれから手を付ければ……って、食べる気満々になってる自分がいる。いやだって、さっきから全部美味しいんですって。
「一応言うとくと、目上が手を付けたもんから食べるっちゅうルールがあるんやけど、気にせんと好きに食べや。ここのエビ、結構美味いで」
目移りしてキョロキョロしていたら、条野さんが野菜炒めに手を伸ばしながらそう言った。
目上の人からっていうのは納得いくルールではあるなぁと思いつつ、私は箸を置いた。
「あの……条野さん」
野菜炒めを食べていた条野さんは、私に呼びかけに顔を上げた。
「なんや?」
「……どうして、ここまでしてくださるんですか」
怪我をしていたところを、ちょっと手助けをしただけ。なんなら最初は手助けはいらないと言われたくらいだ。前例が非常にわかりにくかったものだから、考えすぎだろうか。
いや、もしかすると本当に単なるお礼のつもりなのかもしれない。
「楓さんのこと、気に入ったからや。仲良うなりたいねん」
淡かった期待は溶けて消えた。
「いや、でも……突然すぎると言いますか……」
「その通りや。だからこうして夕飯に誘ったんや。いきなり付き合うてほしい言うても、断られるだけやろ」
その辺の自覚はあったんですね。いや、でも言っちゃってますよね。
正直何も感じない、というと非常に失礼なので言いませんが、イメージできないと言いますか、条野さんみたいな方と付き合うとか、想像つきません。
イケメンだからか、変な意味でドキドキはしますが、そういう関係になるのはどうも……
「それとも、付き合うてくれるんか?楓」
心なしか、条野さんの声が熱を帯びているみたいだった。身をこちらにちょっと乗り出して、机越しなのに顔が少し近い。
「お、お友達から、とか……」
しかしはっきり断りきれない私は、なんともベタな返しをしてしまった。
絶対なんか言われる、あとなぜか恥ずかしくて目を閉じたら、ポンと条野さんの手が私の頭の上に乗せられた。
何事?と思って目を開けると、条野さんの顔がさっきより近い場所にあった。
「友達か。悪ないな」
その破壊力たるや、面食いでないはずの私でも若干魂が抜けかけた。
この人の顔、昌治さんと違う意味で心臓に悪い。
絨毯の凹み的に、さっきまでここに丸いテーブルあったっぽい。どかさせたんですか。そこまでします?
「これくらいがええな」
満足げにそう言って、条野さんは私の方をそれはそれは嬉しそうにじっと見てくる。
そんなに見ても、何も出てきませんよ?
「ところであの、メニューとかはありませんか?」
さっきから思ってたんだけど、机の上は箸とかナプキン以外置いてない。条野さんをまともに見てたら精神が色々つらいので、安寧のためにメニューを眺めていたい。特にこれ食べたいとか言うつもりはないです。強いて言えばこの店で一番安いラーメン食べたいです。
「見たいんやったら持ってこさせるけど、この店コースしかないで?」
「え、ラーメンはどこへ……?」
「メインの次に出てくる」
あ、そこはあるんですね……って、違う!ラーメン食べたいとは言ったけど、こんないかにもな高級中華のコース内のラーメンがいいなんて一言も言ってない!
驚きで口がポカーンと開いた。すぐに正気に戻って閉じたけど、それでも気を抜いたら開きそう。
そんな私を条野さんは楽しそうに見ていた。
やがて料理が運ばれてきた。最初は、前菜……かな?色とりどりの料理がちょっとずつ盛られたプレートだった。これだけでラーメン三杯くらい食べられそう。
条野さんの前には黒っぽいお酒があった。紹興酒らしい。
ちなみに私も店員さんに勧められたけど、そんなに強くないので丁重にお断りした。代わりにジャスミンティーっぽいお茶を注いでもらう。
「どうした?苦手なもんでもあるんか?」
「いえ、美味しそうですね」
もう出されちゃったし、コースだし、美味しそうだし……食べるか。うん、こんなの食べる機会たぶんもうない。作ってくれた方に申し訳ないので、美味しく食べよう。
ここまで来ては仕方ない、半ば開き直った私は前菜に箸を伸ばした。料理に罪はないもんね。
ひんやりした、春雨みたいな、よくわからないけど、複雑なお味。よくわからないけど、美味しい。
「美味いやろ」
私はこくこく頷いた。
全部初めて見たレベルでおっかなびっくり食べてるのに、全部美味しい。
次に出てきたスープも、美味しい。春雨っぽいの入ってる。え、これがフカヒレってやつですか?……春雨なんていうあかん食材と間違えてすみませんでした。
そう言ったら条野さんにめちゃくちゃ笑われた。庶民に一流の舌を求めないでください。
そうこうしていたら、大皿に乗った料理が次々運ばれてきた。
「おお……」
思わず声が漏れた。だって、こんな豪華な料理を目の前にするの初めてですもん。
真っ赤なエビが丸々一匹大皿に乗ったエビチリ、本格的なせいろに入った小籠包っぽい点心、カリカリに焼いてある北京ダック?中華おこげ、トロッとした餡のかかった野菜炒め……等々。
いったいどれから手を付ければ……って、食べる気満々になってる自分がいる。いやだって、さっきから全部美味しいんですって。
「一応言うとくと、目上が手を付けたもんから食べるっちゅうルールがあるんやけど、気にせんと好きに食べや。ここのエビ、結構美味いで」
目移りしてキョロキョロしていたら、条野さんが野菜炒めに手を伸ばしながらそう言った。
目上の人からっていうのは納得いくルールではあるなぁと思いつつ、私は箸を置いた。
「あの……条野さん」
野菜炒めを食べていた条野さんは、私に呼びかけに顔を上げた。
「なんや?」
「……どうして、ここまでしてくださるんですか」
怪我をしていたところを、ちょっと手助けをしただけ。なんなら最初は手助けはいらないと言われたくらいだ。前例が非常にわかりにくかったものだから、考えすぎだろうか。
いや、もしかすると本当に単なるお礼のつもりなのかもしれない。
「楓さんのこと、気に入ったからや。仲良うなりたいねん」
淡かった期待は溶けて消えた。
「いや、でも……突然すぎると言いますか……」
「その通りや。だからこうして夕飯に誘ったんや。いきなり付き合うてほしい言うても、断られるだけやろ」
その辺の自覚はあったんですね。いや、でも言っちゃってますよね。
正直何も感じない、というと非常に失礼なので言いませんが、イメージできないと言いますか、条野さんみたいな方と付き合うとか、想像つきません。
イケメンだからか、変な意味でドキドキはしますが、そういう関係になるのはどうも……
「それとも、付き合うてくれるんか?楓」
心なしか、条野さんの声が熱を帯びているみたいだった。身をこちらにちょっと乗り出して、机越しなのに顔が少し近い。
「お、お友達から、とか……」
しかしはっきり断りきれない私は、なんともベタな返しをしてしまった。
絶対なんか言われる、あとなぜか恥ずかしくて目を閉じたら、ポンと条野さんの手が私の頭の上に乗せられた。
何事?と思って目を開けると、条野さんの顔がさっきより近い場所にあった。
「友達か。悪ないな」
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