お客様はヤのつくご職業

古亜

文字の大きさ
上 下
21 / 132
1章

21.若頭補佐は気が気じゃない

しおりを挟む
山野楓に付けていた護衛の部下がやられた。
不意を突かれて後ろから殴られたらしい。
部下が数分後に気が付いたときにはとっくに彼女の姿はなく、自宅アパートに帰っている気配もなかったとのこと。

「チッ……クソがっ!」

手近にあったゴミ箱を蹴り飛ばす。吹っ飛んだそれは壁に当たり、凹んだ。
部下たちが何事かとざわついたが、気にしない。
……状況が、非常にまずい。
明日の朝、若頭は岩峰組の本邸から戻ってくる。彼女の身に何かあれば、若頭が荒れ狂うのは必然。なんとしてでも無傷で助けなければ、俺と部下の身、あと若頭の精神が危険だ。
俺は急いでパソコンを起動し、彼女に渡したスマホの位置情報を確認したが、自宅アパートに置きっ放しらしく、動いていない。
若頭が山野楓にご執心であることは、彼女を知る人間の間で既に暗黙の了解となりつつあった。しかし外部には漏れていないはず。ということは、内部の人間が、彼女に手を出したということだ。
ふと、事務所を見回したら、いくつか空いているデスクが目に入った。ここにいないやつが、関わってるな。

「おい」
「は、はい!なんですか!?」
「そこの、西山はどこ行ってる?」

近くにいた部下に、空いているデスクのやつがどこに行ったのか尋ねて回る。部下の予定はおおまか把握しているつもりだが、さすがに全員は無理だ。

「そう言えば迫田のやつ、今月もヤバいのにどこ行ってるんでしょうね」

確かあいつ、先月もやらかしてたな。まさか……
ヤクザっぽい見た目と喧嘩っ早さくらいしか取り柄のないやつだ。あの短絡思考なら、やりかねない。
俺は急いで車に乗り込み、山野楓の住むアパートに向かった。彼女を確実に襲うならあそこで、連れ込むのにちょうどいい廃ビルやら空き家もあの辺りにあったな。
場所は絞られた。とにかく当たっていくしかない。

「北川、鶴田、お前ら外だろ?今すぐ山野楓のアパートの近所の空き家を調べろ」

人手は多い方がいい。とにかく思い付いた使いやすい部下、北川に電話をかける。

『え、兄貴……俺ら、若頭にあの辺近付くなって言われてるんですけど』

ああ、そう言えばそうだった。でもまあ今その若頭はいない。そして緊急事態だ。

「山野楓が攫われた。多分迫田の馬鹿だ。若頭が戻って来る前に、無傷で彼女を保護しろ!俺も向かう!」

電話越しでも北川たちの焦りが伝わってきた。まあ、お前ら被害者だからよくわかるだろ。この状況のヤバさが。

「とにかく急げ。いいな!」

一方的に電話を切り、スマホを助手席に投げ込んでアクセルを踏む。
間に合えばいいんだが、もし万が一にも何かあれば……う、考えただけでゾッとする。
出発したときに目星をつけていた廃ビルに着いた。
窓ガラスはダンボールか何かで覆われていて、中の様子がわからない。空き家は今頃北川たちが調べているだろうから、とりあえず周囲を回って怪しいところがないか確かめる。
そうしていたら、割れた窓の辺りから声が聞こえてきた。

「……にお願いがあるんや」

この声に喋り方、迫田だ。
少し聞き耳を立ててみると、かすかに山野楓の声も聞こえてきた。何か交渉を持ちかけているのだろうか。とにかく、彼女は無事だ。とりあえず俺の命くらいは助かった。
助けに入りたいが、窓を割ったらその破片で山野楓の身体に傷を付けるかもしれない。とすると、あのドアから入るしかないな。おそらく鍵がかかってるだろうから、どうするか……
そう思いながら車の近くに戻ったら、スマホが鳴っていた。
北川かと思って手に取ると、電話の主は……
『岩峰(若頭)』
あ……これ、詰んだな。

----------
そして前話の冒頭に続きます。
なので前話の大原さん、内心めっちゃ焦る&イラついてます
しおりを挟む
感想 244

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...