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1章
21.若頭補佐は気が気じゃない
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山野楓に付けていた護衛の部下がやられた。
不意を突かれて後ろから殴られたらしい。
部下が数分後に気が付いたときにはとっくに彼女の姿はなく、自宅アパートに帰っている気配もなかったとのこと。
「チッ……クソがっ!」
手近にあったゴミ箱を蹴り飛ばす。吹っ飛んだそれは壁に当たり、凹んだ。
部下たちが何事かとざわついたが、気にしない。
……状況が、非常にまずい。
明日の朝、若頭は岩峰組の本邸から戻ってくる。彼女の身に何かあれば、若頭が荒れ狂うのは必然。なんとしてでも無傷で助けなければ、俺と部下の身、あと若頭の精神が危険だ。
俺は急いでパソコンを起動し、彼女に渡したスマホの位置情報を確認したが、自宅アパートに置きっ放しらしく、動いていない。
若頭が山野楓にご執心であることは、彼女を知る人間の間で既に暗黙の了解となりつつあった。しかし外部には漏れていないはず。ということは、内部の人間が、彼女に手を出したということだ。
ふと、事務所を見回したら、いくつか空いているデスクが目に入った。ここにいないやつが、関わってるな。
「おい」
「は、はい!なんですか!?」
「そこの、西山はどこ行ってる?」
近くにいた部下に、空いているデスクのやつがどこに行ったのか尋ねて回る。部下の予定はおおまか把握しているつもりだが、さすがに全員は無理だ。
「そう言えば迫田のやつ、今月もヤバいのにどこ行ってるんでしょうね」
確かあいつ、先月もやらかしてたな。まさか……
ヤクザっぽい見た目と喧嘩っ早さくらいしか取り柄のないやつだ。あの短絡思考なら、やりかねない。
俺は急いで車に乗り込み、山野楓の住むアパートに向かった。彼女を確実に襲うならあそこで、連れ込むのにちょうどいい廃ビルやら空き家もあの辺りにあったな。
場所は絞られた。とにかく当たっていくしかない。
「北川、鶴田、お前ら外だろ?今すぐ山野楓のアパートの近所の空き家を調べろ」
人手は多い方がいい。とにかく思い付いた使いやすい部下、北川に電話をかける。
『え、兄貴……俺ら、若頭にあの辺近付くなって言われてるんですけど』
ああ、そう言えばそうだった。でもまあ今その若頭はいない。そして緊急事態だ。
「山野楓が攫われた。多分迫田の馬鹿だ。若頭が戻って来る前に、無傷で彼女を保護しろ!俺も向かう!」
電話越しでも北川たちの焦りが伝わってきた。まあ、お前ら被害者だからよくわかるだろ。この状況のヤバさが。
「とにかく急げ。いいな!」
一方的に電話を切り、スマホを助手席に投げ込んでアクセルを踏む。
間に合えばいいんだが、もし万が一にも何かあれば……う、考えただけでゾッとする。
出発したときに目星をつけていた廃ビルに着いた。
窓ガラスはダンボールか何かで覆われていて、中の様子がわからない。空き家は今頃北川たちが調べているだろうから、とりあえず周囲を回って怪しいところがないか確かめる。
そうしていたら、割れた窓の辺りから声が聞こえてきた。
「……にお願いがあるんや」
この声に喋り方、迫田だ。
少し聞き耳を立ててみると、かすかに山野楓の声も聞こえてきた。何か交渉を持ちかけているのだろうか。とにかく、彼女は無事だ。とりあえず俺の命くらいは助かった。
助けに入りたいが、窓を割ったらその破片で山野楓の身体に傷を付けるかもしれない。とすると、あのドアから入るしかないな。おそらく鍵がかかってるだろうから、どうするか……
そう思いながら車の近くに戻ったら、スマホが鳴っていた。
北川かと思って手に取ると、電話の主は……
『岩峰(若頭)』
あ……これ、詰んだな。
----------
そして前話の冒頭に続きます。
なので前話の大原さん、内心めっちゃ焦る&イラついてます
不意を突かれて後ろから殴られたらしい。
部下が数分後に気が付いたときにはとっくに彼女の姿はなく、自宅アパートに帰っている気配もなかったとのこと。
「チッ……クソがっ!」
手近にあったゴミ箱を蹴り飛ばす。吹っ飛んだそれは壁に当たり、凹んだ。
部下たちが何事かとざわついたが、気にしない。
……状況が、非常にまずい。
明日の朝、若頭は岩峰組の本邸から戻ってくる。彼女の身に何かあれば、若頭が荒れ狂うのは必然。なんとしてでも無傷で助けなければ、俺と部下の身、あと若頭の精神が危険だ。
俺は急いでパソコンを起動し、彼女に渡したスマホの位置情報を確認したが、自宅アパートに置きっ放しらしく、動いていない。
若頭が山野楓にご執心であることは、彼女を知る人間の間で既に暗黙の了解となりつつあった。しかし外部には漏れていないはず。ということは、内部の人間が、彼女に手を出したということだ。
ふと、事務所を見回したら、いくつか空いているデスクが目に入った。ここにいないやつが、関わってるな。
「おい」
「は、はい!なんですか!?」
「そこの、西山はどこ行ってる?」
近くにいた部下に、空いているデスクのやつがどこに行ったのか尋ねて回る。部下の予定はおおまか把握しているつもりだが、さすがに全員は無理だ。
「そう言えば迫田のやつ、今月もヤバいのにどこ行ってるんでしょうね」
確かあいつ、先月もやらかしてたな。まさか……
ヤクザっぽい見た目と喧嘩っ早さくらいしか取り柄のないやつだ。あの短絡思考なら、やりかねない。
俺は急いで車に乗り込み、山野楓の住むアパートに向かった。彼女を確実に襲うならあそこで、連れ込むのにちょうどいい廃ビルやら空き家もあの辺りにあったな。
場所は絞られた。とにかく当たっていくしかない。
「北川、鶴田、お前ら外だろ?今すぐ山野楓のアパートの近所の空き家を調べろ」
人手は多い方がいい。とにかく思い付いた使いやすい部下、北川に電話をかける。
『え、兄貴……俺ら、若頭にあの辺近付くなって言われてるんですけど』
ああ、そう言えばそうだった。でもまあ今その若頭はいない。そして緊急事態だ。
「山野楓が攫われた。多分迫田の馬鹿だ。若頭が戻って来る前に、無傷で彼女を保護しろ!俺も向かう!」
電話越しでも北川たちの焦りが伝わってきた。まあ、お前ら被害者だからよくわかるだろ。この状況のヤバさが。
「とにかく急げ。いいな!」
一方的に電話を切り、スマホを助手席に投げ込んでアクセルを踏む。
間に合えばいいんだが、もし万が一にも何かあれば……う、考えただけでゾッとする。
出発したときに目星をつけていた廃ビルに着いた。
窓ガラスはダンボールか何かで覆われていて、中の様子がわからない。空き家は今頃北川たちが調べているだろうから、とりあえず周囲を回って怪しいところがないか確かめる。
そうしていたら、割れた窓の辺りから声が聞こえてきた。
「……にお願いがあるんや」
この声に喋り方、迫田だ。
少し聞き耳を立ててみると、かすかに山野楓の声も聞こえてきた。何か交渉を持ちかけているのだろうか。とにかく、彼女は無事だ。とりあえず俺の命くらいは助かった。
助けに入りたいが、窓を割ったらその破片で山野楓の身体に傷を付けるかもしれない。とすると、あのドアから入るしかないな。おそらく鍵がかかってるだろうから、どうするか……
そう思いながら車の近くに戻ったら、スマホが鳴っていた。
北川かと思って手に取ると、電話の主は……
『岩峰(若頭)』
あ……これ、詰んだな。
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そして前話の冒頭に続きます。
なので前話の大原さん、内心めっちゃ焦る&イラついてます
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