お客様はヤのつくご職業

古亜

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1章

19.解けない誤解とヤクザさん3

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私が、岩峰さんのオンナ……

「いやいや、私そんなんじゃないです!ただのコンビニのバイトですって!」

私は首をブンブン振って否定する。

「岩峰さんにとって私なんて肉まんの自動販売機みたいなもんですよ!それに最近飽きたのか来られませんし!」

ついでに、そろそろ肉まんシーズン終わりなので取り扱いもなくなりますし。

「ウチの組で嬢ちゃんのこと知っとるやつは全員思てるで?ちなみに若頭はしばらく本邸行っとる」
「誤解ですって!岩峰さんが好きなの私じゃなくて肉まんです!」

首ブンブンしすぎて、そのうち千切れるんじゃなかろうか。
皆さんなんで私みたいな一般人を自分らの若頭とくっ付けたがってんの?
だって、岩峰さんの補佐の大原さんが言ったんだよ?肉まん買うためにコンビニ来てるって。

「いーや、若頭がおかしくなったんは嬢ちゃんに会ってからやで?肉まんもそもそもそんな食べてるの見たことない。一応教えといたるけど、若頭の好物は牡蠣や」

あ、それ大原さんから伺ってます。メールで。
ってそこじゃない!誰か嘘と言って!そう、みんな勘違いしていらっしゃるんですって!
期待を込めてもう一人のヤクザさんを見る。そして裏切られた。

「てか俺、大原の兄貴と若頭が話してるの聞いたんすけど、山野楓を囲うなら早い方がいいとか言ってましたよ」

決・定・打!!
私はそこでがっくりと項垂れた。嘘でしょ。あと囲うってなに。そして私の名前ご存知なんですね。なんかもう色々頭が追いついてない。
というか私、大原さんに騙されてたの!?というかこの状況だと誤魔化されてた?なんにせよ、え、美香の意見の方が正しかったの!?ヤクザなのに?バイト先に通うとかしちゃう?
いや、アプローチの仕方は人それぞれだと思うよ!人に迷惑かけなければいいと思うよ?自分ごとじゃなければ!

「勘違いしとるんは嬢ちゃんの方やないの?」

そうだったみたいですね!!できればずっと勘違いしたままでいたかったですけど!!

「まあええわ。とにかく、若頭のお気に入りの嬢ちゃんにお願いがあるんや」

変な修飾語付けないでください……
というか、仮にそれが正しかったとして、私に何をしろと?ヤクザさんのお願いなんて、悪い予感しかしないんですが。

「別にその立場利用して殺れとは言わんよ。若頭の力が組のために必要なのはわかっとる」

なんか物騒なワード出てきた!てか言われたとしてもそんなことできませんからね!?

「なに、ちょいと若頭の中の俺の評判上げたいだけや。今月ヤバいねん」

そんな給料日一週間前に飲み会に誘われた時の断り文句のようなことを言われましても……というか、ヤクザさんの場合の今月ヤバいねんって何が?

「今月分のカネをうっかり集めそびれたんよ。これ先月もやってまってな、さすがにまずいんや」

ノルマ達成できなかったから、別の手で上司の中の自分の評価を上げて難を逃れたいと。そういう事ですか。
まあヤクザさんの場合、給料じゃない別のものがカットされそうですもんね。 あれ……私まで笑えない冗談を思い付いてしまった。

「ぐ、具体的にはどうすればいいんですかね……?」

流血沙汰は無理ですからね。見ての通り、私はただの非力な大学生ですからね!?出来ること限られますからね?

「何にも難しい事は言わん。適当に見繕った暴漢に嬢ちゃんのこと襲わせて、それを俺が割って入って助ける。シンプルやろ?」
「そう、ですね……」

うん。シンプル。ガバガバとも言う。
まあ仮に?めちゃくちゃ仮に、岩峰さんが私のこと好きだとしたら、評価は変わるか。あれ?でもそれ、私に言わずに実行する方がリアルというか、言う必要あった?八百長だったとしても、助けられたその時はちゃんと感謝しますよ?
……恐ろしいから口には出さないけど。

「えっと、それでは私は襲われるふりをすればいいと、そういうことですね?」
「そうやな。嬢ちゃんには俺の活躍を若頭にいい感じに伝えて欲しいんや」

そ、そうですか。まあ、構いませんけど。特に何もされない、しなくていいなら別に。
というか今の私はそれどころではない。岩峰さんのオンナとかいう、意味不明なこの状況の方が問題だ。私、何かしましたっけ……?
私の思考は別のところに飛んでいた。
だから、私は迫田さんが床に落ちていたハサミを拾ったのにその時は気付かなかった。

「ほな、ちょっと脱がしてもらうな」
「……はぁっ!?」
いや、脈絡なさすぎ!てか意味わかんない!
「大人しくしとらんと、肌まで切れるで?」
「ちょっと待ってください!え、承諾しましたよね!?ちゃんと助けてもらったって言いますよ?」

いきなりすぎる展開にさすがに叫ぼうとしたら、もう一人に猿ぐつわをかまされた。

「嬢ちゃんが裏切らんっちゅう保証が欲しいんや。そんな身構えんでもええ。ちょいと上の方、撮らせてもらうだけや」

身構えるわ!アホか!
抗議の声を上げようにも、猿ぐつわのせいで声出せないし、手は後ろで縛られてるから抵抗できなかった。

「保証や保証。さすがに若頭のオンナに手出したの知られたら海やからな。最終手段というか、嬢ちゃんに裏切られんようにするだけや。使う気はない」

それが何だっ!いや、ほんとやめて!ていうか、私の上半身なんて需要ありませんからねっ?見りゃわかるでしょ!
そう言いたいけど、変なモゴモゴした声が出るだけだ。
そうしてる間に、着ていたニットを捲られて、ズボンに入れていた肌着を引っ張り出された。空気が入り込んでヒヤッとして、さらにハサミが肌に触れてヒヤッとする。これまずいってっ!なんでこんなことに……っ!
不安と焦りで目を瞑った。これ服を切られる、と思った時、ドカッという鈍い音が響いた。
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