お客様はヤのつくご職業

古亜

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1章

31.お出かけはとある町

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条野さんとお友達宣言をしたその十日後、同士で遊びに行こうなどと言われ了承してしまった私は、隣町の戸阿留町に来ていた。
待ち合わせスポットでもある駅前のよくわからないオブジェの前で待つことゼロ分。というか既にいた。

「待ちくたびれたで、楓」

軽く片手を上げる条野さんの服装は、いつものかちっとしたスーツとは違う、ラフなシャツと黒のスラックス。細身だけどしっかりした身体つきなので、モデルかな?というくらい絵になる。実際、春斗さんの前を通り過ぎようとしたお姉様方が、少し離れたところできゃあきゃあ言っていた。

「すみません、条野さん」

一応五分前には着くようにしてたんですけど、お待たせしたようなので謝っておく。

「……その条野さんいうのやめてや。俺ら友達なんやろ?」
「いやでも条野さんは……」
「春斗や」

いきなりは難しいですって。条野さん歳上で社会人だし、学生のご身分で馴れ馴れしいのは……

「い……」
「春斗」

あれ?なんかこの流れ、すごーくどっかで見たことあるんですが。

「……春斗さん」

根負けして名前を呼ぶと、条野さん改め春斗さんは満足げに頷いた。

「ほな、行こか」

あの日、夕ご飯をご馳走になったあと連絡先を交換して、今回のこのお出かけの予定は立てられた。
私の懇願により、まず昼食に手頃な価格のイタリアンを食べて、その後歩いて二十分くらいのところにある動物園に行く、という無難なプランになった。
最初はなぜか、日帰りで京都に行き昼夜は懐石という完全に旅行なプランだったので、全力で止めましたとも。これでもまともになった方だ。
今後もこんな感じなんだろうかと考えながら、しばらく無言で歩いていたけど、ふと気になって私は尋ねた。

「そういえばじょ……春斗さんはおいくつなんですか?」

春斗さんの見た目は、結構若い。ちょっと前まで学生服着てましたって言われても違和感ないレベル。
でも秘書がいるくらいだから、どこかの会社の偉い人のはず。そんな若いはずがない。

「三十」
「え、三十ですか」

え、二十代どころか三十!?この見た目で?
確か昌治さんは三十三って大原さんが教えてくれたなぁ……え、これで三歳しか違わないの!?
そして、なぜまたここで昌治さんのことをっ……

「やっぱり、気になるんか?」

私の反応に、春斗さんは途端に不安そうな表情になった。

「九歳差やもんなぁ。小学生と高校生くらい離れとるか」
「いえ、差が気になるとかは特にないんですが、春斗さんの場合、見た目詐欺……」

そう、詐欺だ。こんな三十代がごろごろいてたまるか。

「まあ、俺の見た目こんなやからな。新人や思われて舐められるねん。まあそん時は……いや、学生にはまだ早いか」

いったい何を言いかけたんだろうこの人。まあ、何かしらの大人のジョークかな。
そうしているうちに、目的のイタリアンのお店がある通りに到着した。
それらしいお店が見えてきたところで、奥の方から見覚えのある人影が近付いてきた。

「……あれ?楓じゃん。何してるの?」

美香だった。何か買い物をしていたのか、紙袋を持っていた。

「美香の方こそ、なんでここに?」
「ここ、限定ショップとルオ君のグループ推しの店が……いや、それよりその人だれ?」

美香は私と横に立っている春斗さんとを交互に見ながら言った。びっくりして目を見開いている。

「え、っと……お友達?」

間違ったことは言っていない。というか、友達宣言したばかりだ。なぜこんなにも言いづらいのだろう。

「今は、友達やな」

春斗さんはそう言って美香に微笑みかける。美香の表情がフリーズした。

「楓、ちょっと……」

美香は私の腕を引っ張って、春斗さんから少し離れたところに連れて行った。
そして恐らく聞こえないだろうことを確認し、小声で言った。

「あの人が肉まんの君?」
「いや、違うよ?美香好みじゃないって言ったし……」
「確かにああいうタイプの顔は好きだけどさ……」

美香に合わせて私も小声で応じた。なんだか、美香の表情は冴えない。あれ?春斗さんの顔って、美香好みだと思っていたんだけど。

「どうしたの?」
「うーん……何というかあの人、ちょっと注意した方がいいかも?私のカンだけど」

その顔はいつになく真剣だった。

「まあ、私も自分が釣り合うと思ってないから。断りきれなかったというか……まあそのうち飽きられるでしょと思って」
「なら、いいけど……」

美香の表情はどこか硬い。

「なんか邪魔してごめん。売り切れるかもだから、私行くね」

春斗さんに聞こえるくらいの声でそう言って、美香はそそくさとお店に向かっていった。
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