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1章
18.解けない誤解とヤクザさん2
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強盗が無事捕まって、平穏な日々が戻ってきて一週間が過ぎた。
振り返っても誰もいない。ずっと人に見られてるって、案外ストレスだったらしい。なんだ気分がすっきりしている。
そしてこの頃、岩峰さんがコンビニに来なくなった。忙しいのかな?それとも肉まんブームが過ぎ去ったのか……
とにかく、ここ最近はとても平和。というか平穏だ。ゴールデンウィークも近いし、美香と遊びに行く予定でも立てようかな。
そう思いながら呑気にしていた大学からの帰り道、私は突然腕を掴まれて、すごい力で路地裏に引っ張り込まれた。
これまずい……咄嗟に叫ぼうとしたら、口を塞がれて、ついでに体がちょっと浮いた。
「久しぶりだな嬢ちゃん」
すぐ近くから聞こえてきたのは、ドスの効いた低い声。
……久しぶりと言われましても、聞き覚えがないのですが。
顔を確かめようにも、私を捕まえてる人の力が強くて、ほとんど体が動かせない。
「ちょいと一緒に来てもらおか」
一緒に来るじゃないですよねこの状況っ!?物申したいけど、口が塞がれててモゴモゴなるだけだ。そして頭に何か、布袋みたいなのを被せられて周りも見えなくなる。
被せられる時に、ちらっと私を捕まえてる人と別の顔が見えた。
頬にざっくりと切られたみたいな傷跡、非常に悪い目付き。
あ、あっれー?ヤクザさんとは縁が切れたものと勝手に思ってたよ?
びっくりしてたら袋の口で口を縛られてしまった。
そしてそのまま路地裏を歩かされる。前見えなくてめっちゃ怖いんですけど!何度かコケそうになるたびに舌打ちされながらも支えられる。いや、コケそうなのはあんたらのせいだからね?
イラつきながらも逃げる事ができず、私は引っ張られるままどこかを歩く。
そして背後で扉の閉まる音がしたと思ったら、椅子っぽい何かに座らされる。
背後で手首を縛られたと思ったら、急に視界が明るくなった。口も動く。
叫んで助けを求めたかったけど、床にハサミとかアイスピックが落ちているのが見えて、グッと堪えた。変に暴れたりしたら……想像もしたくない。
とにかく大人しくしなきゃ。このヤクザさんたち、多分私に怪我させようというつもりはないんだと思う。どうでもよかったら、ここまで来る間に何回か転びそうになったのを支えてくれたりはしないはずだ。
私は大きく息を吐いて、周囲の様子を見た。
誘拐犯たちは私の背後で何やらガサゴソと探し物をしているようで顔はわからない。
とりあえず私のいる場所は……使われてなくなった昔の会社の事務所って感じだ。窓は外から見られないようにだろう。ダンボールや新聞紙で覆われていた。
「もうちょっと叫ぶなり抵抗するなりするかと思ってたが、大人しいんだな、嬢ちゃん。慣れてんのか?」
いや、こんな状況に慣れてる人、普通いませんから。単にビビって声が出てないだけです。
それまで私の背後にいた誘拐犯の一人が私の前に立つ。
ガタイのいい、黒服の強面の男。
「……さ、迫田さん?」
「覚えとってくれたんか。説明の手間が省けるな」
忘れるわけがない。岩峰さんに助けられた翌日、なぜか住所が特定されてて恐怖で逃げた私がぶつかってしまったあのヤクザさん。
いや、あの時は本当にすみませんでした。私がぶつかってしまったばっかりに指と手がさよならしかけましたもんね。ほんと、全面的に悪いとは思っていませんが、責任の一端はあると思ってます。
え、まさかあの時の恨みとかですかっ!?
「す、すみませんでした!あの時のことですよね?」
先手必勝。先に謝る!
「私が先にぶつかったんですもんね!すみませんでした!」
「いや、あん時は確かにイラッとしたが、あんなもん大したことない」
「まあ、殴られて踏まれるはよくあることっすから。ウチの若頭、気ぃ短いんで」
もう一人、私に袋を被せた方のヤクザさんが顔を見せる。まあ、その頬の傷を見るとそうなのかもと思えてしまう。むしろその傷どうしたんですか。
「大原の兄貴の方があん時はおっかなかったわ」
「指紋認証できなくなるのは困りますからね」
いや、そこですか?指紋認証より大事なものありません?
「念のために足の指で登録しとるやつもおるしな」
「足の指いけるんすか?俺普段顔認証なんすけど、今度登録しときます」
ほら、顔の形って安定しないじゃないですか、と笑う男と迫田さん。
笑っていいのかこれ。え、ヤクザリアンジョーク?ここ笑うとこ?顔が安定しないって何?てか私はなぜこんなところでヤクザ流の冗談を聞かされているの?
コンクリート?トーキョーワン?ジョーノーキン?
繰り広げられるヤクザ流ブラックジョークに耐えきれなくなった私は、会話の隙間に滑り込む。
「あのー」
「ああ?」
会話の邪魔になりましたね。自覚ありますよ。でも凄まないでください!目的忘れてませんか?
「わ、私がここに連れてこられた理由って、何です?」
勇気を振り絞って私は言ったよ。怖かったけど、ちゃんと言えたよ!
「そうやったな」
……忘れられてたんかい。
「お嬢さんにお願いがあるんすよ」
「え、私に、お願い……?」
ヤクザさんが、私にお願い?え、ちょ、怖いんですけど。何で?
肉まんなら売りますよ?仕事なんで。
いったい何を言われるのかと身構えた。迫田さんの顔が近くなる。
「だって嬢ちゃん、若頭のオンナやろ?」
……は?
振り返っても誰もいない。ずっと人に見られてるって、案外ストレスだったらしい。なんだ気分がすっきりしている。
そしてこの頃、岩峰さんがコンビニに来なくなった。忙しいのかな?それとも肉まんブームが過ぎ去ったのか……
とにかく、ここ最近はとても平和。というか平穏だ。ゴールデンウィークも近いし、美香と遊びに行く予定でも立てようかな。
そう思いながら呑気にしていた大学からの帰り道、私は突然腕を掴まれて、すごい力で路地裏に引っ張り込まれた。
これまずい……咄嗟に叫ぼうとしたら、口を塞がれて、ついでに体がちょっと浮いた。
「久しぶりだな嬢ちゃん」
すぐ近くから聞こえてきたのは、ドスの効いた低い声。
……久しぶりと言われましても、聞き覚えがないのですが。
顔を確かめようにも、私を捕まえてる人の力が強くて、ほとんど体が動かせない。
「ちょいと一緒に来てもらおか」
一緒に来るじゃないですよねこの状況っ!?物申したいけど、口が塞がれててモゴモゴなるだけだ。そして頭に何か、布袋みたいなのを被せられて周りも見えなくなる。
被せられる時に、ちらっと私を捕まえてる人と別の顔が見えた。
頬にざっくりと切られたみたいな傷跡、非常に悪い目付き。
あ、あっれー?ヤクザさんとは縁が切れたものと勝手に思ってたよ?
びっくりしてたら袋の口で口を縛られてしまった。
そしてそのまま路地裏を歩かされる。前見えなくてめっちゃ怖いんですけど!何度かコケそうになるたびに舌打ちされながらも支えられる。いや、コケそうなのはあんたらのせいだからね?
イラつきながらも逃げる事ができず、私は引っ張られるままどこかを歩く。
そして背後で扉の閉まる音がしたと思ったら、椅子っぽい何かに座らされる。
背後で手首を縛られたと思ったら、急に視界が明るくなった。口も動く。
叫んで助けを求めたかったけど、床にハサミとかアイスピックが落ちているのが見えて、グッと堪えた。変に暴れたりしたら……想像もしたくない。
とにかく大人しくしなきゃ。このヤクザさんたち、多分私に怪我させようというつもりはないんだと思う。どうでもよかったら、ここまで来る間に何回か転びそうになったのを支えてくれたりはしないはずだ。
私は大きく息を吐いて、周囲の様子を見た。
誘拐犯たちは私の背後で何やらガサゴソと探し物をしているようで顔はわからない。
とりあえず私のいる場所は……使われてなくなった昔の会社の事務所って感じだ。窓は外から見られないようにだろう。ダンボールや新聞紙で覆われていた。
「もうちょっと叫ぶなり抵抗するなりするかと思ってたが、大人しいんだな、嬢ちゃん。慣れてんのか?」
いや、こんな状況に慣れてる人、普通いませんから。単にビビって声が出てないだけです。
それまで私の背後にいた誘拐犯の一人が私の前に立つ。
ガタイのいい、黒服の強面の男。
「……さ、迫田さん?」
「覚えとってくれたんか。説明の手間が省けるな」
忘れるわけがない。岩峰さんに助けられた翌日、なぜか住所が特定されてて恐怖で逃げた私がぶつかってしまったあのヤクザさん。
いや、あの時は本当にすみませんでした。私がぶつかってしまったばっかりに指と手がさよならしかけましたもんね。ほんと、全面的に悪いとは思っていませんが、責任の一端はあると思ってます。
え、まさかあの時の恨みとかですかっ!?
「す、すみませんでした!あの時のことですよね?」
先手必勝。先に謝る!
「私が先にぶつかったんですもんね!すみませんでした!」
「いや、あん時は確かにイラッとしたが、あんなもん大したことない」
「まあ、殴られて踏まれるはよくあることっすから。ウチの若頭、気ぃ短いんで」
もう一人、私に袋を被せた方のヤクザさんが顔を見せる。まあ、その頬の傷を見るとそうなのかもと思えてしまう。むしろその傷どうしたんですか。
「大原の兄貴の方があん時はおっかなかったわ」
「指紋認証できなくなるのは困りますからね」
いや、そこですか?指紋認証より大事なものありません?
「念のために足の指で登録しとるやつもおるしな」
「足の指いけるんすか?俺普段顔認証なんすけど、今度登録しときます」
ほら、顔の形って安定しないじゃないですか、と笑う男と迫田さん。
笑っていいのかこれ。え、ヤクザリアンジョーク?ここ笑うとこ?顔が安定しないって何?てか私はなぜこんなところでヤクザ流の冗談を聞かされているの?
コンクリート?トーキョーワン?ジョーノーキン?
繰り広げられるヤクザ流ブラックジョークに耐えきれなくなった私は、会話の隙間に滑り込む。
「あのー」
「ああ?」
会話の邪魔になりましたね。自覚ありますよ。でも凄まないでください!目的忘れてませんか?
「わ、私がここに連れてこられた理由って、何です?」
勇気を振り絞って私は言ったよ。怖かったけど、ちゃんと言えたよ!
「そうやったな」
……忘れられてたんかい。
「お嬢さんにお願いがあるんすよ」
「え、私に、お願い……?」
ヤクザさんが、私にお願い?え、ちょ、怖いんですけど。何で?
肉まんなら売りますよ?仕事なんで。
いったい何を言われるのかと身構えた。迫田さんの顔が近くなる。
「だって嬢ちゃん、若頭のオンナやろ?」
……は?
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