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1章
44.ヤクザさんのお風呂3
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「……んん?」
おかしいな、さっきまでお風呂にいたはずなのに、なぜ私は布団で寝かされているんだろう。
頭もボーッとしてるし、目もなんとか薄眼を開けている状態だ。
おでこにひんやりとした感じがある。濡れたタオルか何かが乗ってるっぽい。
確かお風呂に入ってて、昌治さんが入ってきて、色々あって、悶々として……
「楓様、わかりますか?」
わかるってなにがだろう。それにこの声、大原さん?
「え、っと……」
「露天風呂でのぼせた楓様を若頭が運んだんですよ。ちなみに若頭は電話中です。そのうち戻られます」
お風呂でのぼせて、昌治さんが私を運んだ……?
ああ、そうか。考えてた以降の記憶がない。考え込んでたらのぼせたのか……ん?待って、昌治さんが私を運んだってことはつまりその、見られたってこと?あれだけ嫌だ嫌だって言っといて、結局見られたってこと?
飛び起きたら頭がボヤーッとなったけど、それどころじゃない。お風呂から運び出されたのに、私、ちゃんと浴衣着てる。え、素っ裸で運ばれた上に、浴衣まで着させてもらったってこと?
私は震える手で頭を抱えた。なにしてんの、私っ!
「落ち着いてください」
のぼせたなら横になって休んで、冷やすのが大切ですと言って、大原さんは絞り直した濡れタオルを差し出してくれた。
「のぼせの原因には長時間の入浴以外にも緊張やストレス、食事を摂られていないことからくる糖分不足、水分不足もあります」
……その通りですね。私、それ全部該当してます。
「あれ?大原さん、その怪我どうしたんですか?」
濡れタオルを受け取った時に気づいた。大原さんの目の周り、青タンって言うの?あれがあった。
「あ、ああ、これですか。ちょいと喧嘩の仲裁をしたときに」
そうなんだ。ヤクザさんって大変だなぁ。
私、そんな方々のトップの妻とか、なれる気がしないんですけど。
昌治さんのことは好きだ。でも、その覚悟があるかと言われたら、ない。そもそも私はその辺の一般人だ。非力だし、特別な能力もないし、容姿だって優れてるわけじゃない。
それに昌治さんがよくても、周りがどう思うか。よく思わない人の方が圧倒的多数だ。しかも親にはなんて説明すればいいんだろう。
「仮にですよ。仮に、昌治さんが望んだとして、結婚とか、絶対周りが反対しますよね……?」
「何をおっしゃってるんです?少なくともウチの組の奴らは諸手を挙げて歓迎しますよ」
「いやいや、大原さんこそ何をおっしゃってるんですか!?私みたいな女を、ヤクザの方々がなぜ歓迎するんですか!」
私なんか嫁に迎えたところで、組にどんなメリットがあると言うんですか。
「メリットも何も、若頭が結婚することがそもそもウチのメリットですが」
「え?」
「若頭はこれまで惚れた腫れたなんて一切なかったんです。一応、見合い話もありましたがことごとく蹴っていました。そんな人間が結婚!しかも自ら望んで!これを喜ばずにいられますか?」
そう語る大原さんの表情は、我が事のように嬉しそう。でも若干その目に哀れみが見える。
「若頭が身を固めてくだされば岩峰組は安泰です。それに他の組の女を迎えるより、楓様のように下心がない方を迎える方が気が楽です。余計な詮索もしなくていいですからね」
「でも私、何の力にもなりませんよ?」
「ウチの若頭なんていう曲者に気に入られるだけでも十分凄いと思いますが」
え、そこですか?未来のトップの妻に求める条件、そんなんでいいんですか!?
「でも結婚はいくらなんでも急すぎませんか」
知り合ってまだ一ヶ月ですよ。恋人っぽい何かは、盛大すぎるのを既にした後ではありますけど、あまりに急ぎすぎでは?
「では一度デートでもなさってください。プランはこちらで練ります」
「いや、それっぽいことをすればいいのではなくてですね……」
「……何喋ってんだ大原」
ひぇっ!
不機嫌そうな低い声。
いつのまにか大原さんのこと背後に昌治さんが立っていた。
大原さんは表情を強張らせてぺこりと頭ると、そそくさと出ていってしまった。待って、行かないで大原さんっ!貴重な第三者!
「大事な部下とはいえ、あんまり見るようだったら……」
「別にそういう目で見てませんからっ!大原さんを巻き込まないであげてください!」
大事な部下って自分で言ってるじゃないですか!そんな心配しなくても、大原さんに対してそう思ったことありませんから!
「ならいいんだが……いきなり風呂に沈んだから、心配した」
「すみません。お手数おかけしました……」
「責めてるわけじゃねぇよ。無事ならいい」
昌治さんは小さくため息をつく。
「……疲れてたのに、悪かったな」
のぼせたことに対してだろうか。まあ、昌治さんが最大の原因ですけども。
「楓に好きだとまた言ってもらえるとは思わなかった。昨日の車のあれが聞き間違いだったらんじゃないかと、不安だった」
「聞き間違いじゃ、ないです。でも、だからって、どうして私なんですか?私より魅力的な女性は、昌治さんなら何人も見てきたでしょう」
「何を言ってるんだ。むしろお前以外、考えられん」
昌治さんの熱っぽい目が、真っ直ぐに私を見ていた。最初は氷みたいだと思っていた目が、怖くなかった。
……にしても、なぜそんなことをあっさり言えてしまうのかな?その、聴いてるこっちが照れくさ……恥ずかしいんですけど。
「さっきも言ったが、俺はお前を諦めるつもりはない。俺と結婚してくれ、楓」
そう言って昌治さんは私を優しく抱きしめる。
体を冷やさなきゃいけないのに、でもその火照りとはまた違う、柔らかな暖かさ。
心地よさにほだされて、つい承諾しかけた自分がいたけど、なんとか堪えた。
私は昌治さんのことが好きだ。昌治さんも、私を気に入ってくれている。
だからといってすぐ結婚となると、色々と考えてしまう。
それに私まだ大学生だし。
「……少し、考える時間をください」
昌治さんの問いへの具体的な返事は、今の私にはとてもできない。でも、代わりに私はその大きな背を抱き返した。
----------
これにて第1章が完結です。
ここまでこの二人を追いかけてくださりありがとうございました。
続く第2章についてですが、某会長のせいでラブコメ要素希薄でシリアスと色要素強いです。苦手な方は2章は避けていただき、第3章をお待ちください。3章は2章の反動でタグ通りラブコメ?に戻ります。
3章の初めに大筋を記載するので、未読でも話は繋がります。
その間ですが、2章と同時に別で新しい話を書き始めようと思っているので、よろしければそちらを読んでお待ちいただけると嬉しいです。
これと世界線が同じでヤクザさんの出てくる話ですが、絡みはしない(予定)です。
同時進行はきついので更新頻度はこちらより低めになります。
こちらより内容がアホなラブコメです。繰り返しますが内容がアホです。設定時点で突っ込みどころしかありません。
(違うの書いてる場合ではない気もしてますが、書きたくなったのでつい息抜き的に……)
あとがきというよりもはや注意書きでしたが、最後までお読みくださりありがとうございました。
話自体は2章に続きます。
ストックがないと不安になる持病があるので、五日ほど更新止まります。ご了承ください。
おかしいな、さっきまでお風呂にいたはずなのに、なぜ私は布団で寝かされているんだろう。
頭もボーッとしてるし、目もなんとか薄眼を開けている状態だ。
おでこにひんやりとした感じがある。濡れたタオルか何かが乗ってるっぽい。
確かお風呂に入ってて、昌治さんが入ってきて、色々あって、悶々として……
「楓様、わかりますか?」
わかるってなにがだろう。それにこの声、大原さん?
「え、っと……」
「露天風呂でのぼせた楓様を若頭が運んだんですよ。ちなみに若頭は電話中です。そのうち戻られます」
お風呂でのぼせて、昌治さんが私を運んだ……?
ああ、そうか。考えてた以降の記憶がない。考え込んでたらのぼせたのか……ん?待って、昌治さんが私を運んだってことはつまりその、見られたってこと?あれだけ嫌だ嫌だって言っといて、結局見られたってこと?
飛び起きたら頭がボヤーッとなったけど、それどころじゃない。お風呂から運び出されたのに、私、ちゃんと浴衣着てる。え、素っ裸で運ばれた上に、浴衣まで着させてもらったってこと?
私は震える手で頭を抱えた。なにしてんの、私っ!
「落ち着いてください」
のぼせたなら横になって休んで、冷やすのが大切ですと言って、大原さんは絞り直した濡れタオルを差し出してくれた。
「のぼせの原因には長時間の入浴以外にも緊張やストレス、食事を摂られていないことからくる糖分不足、水分不足もあります」
……その通りですね。私、それ全部該当してます。
「あれ?大原さん、その怪我どうしたんですか?」
濡れタオルを受け取った時に気づいた。大原さんの目の周り、青タンって言うの?あれがあった。
「あ、ああ、これですか。ちょいと喧嘩の仲裁をしたときに」
そうなんだ。ヤクザさんって大変だなぁ。
私、そんな方々のトップの妻とか、なれる気がしないんですけど。
昌治さんのことは好きだ。でも、その覚悟があるかと言われたら、ない。そもそも私はその辺の一般人だ。非力だし、特別な能力もないし、容姿だって優れてるわけじゃない。
それに昌治さんがよくても、周りがどう思うか。よく思わない人の方が圧倒的多数だ。しかも親にはなんて説明すればいいんだろう。
「仮にですよ。仮に、昌治さんが望んだとして、結婚とか、絶対周りが反対しますよね……?」
「何をおっしゃってるんです?少なくともウチの組の奴らは諸手を挙げて歓迎しますよ」
「いやいや、大原さんこそ何をおっしゃってるんですか!?私みたいな女を、ヤクザの方々がなぜ歓迎するんですか!」
私なんか嫁に迎えたところで、組にどんなメリットがあると言うんですか。
「メリットも何も、若頭が結婚することがそもそもウチのメリットですが」
「え?」
「若頭はこれまで惚れた腫れたなんて一切なかったんです。一応、見合い話もありましたがことごとく蹴っていました。そんな人間が結婚!しかも自ら望んで!これを喜ばずにいられますか?」
そう語る大原さんの表情は、我が事のように嬉しそう。でも若干その目に哀れみが見える。
「若頭が身を固めてくだされば岩峰組は安泰です。それに他の組の女を迎えるより、楓様のように下心がない方を迎える方が気が楽です。余計な詮索もしなくていいですからね」
「でも私、何の力にもなりませんよ?」
「ウチの若頭なんていう曲者に気に入られるだけでも十分凄いと思いますが」
え、そこですか?未来のトップの妻に求める条件、そんなんでいいんですか!?
「でも結婚はいくらなんでも急すぎませんか」
知り合ってまだ一ヶ月ですよ。恋人っぽい何かは、盛大すぎるのを既にした後ではありますけど、あまりに急ぎすぎでは?
「では一度デートでもなさってください。プランはこちらで練ります」
「いや、それっぽいことをすればいいのではなくてですね……」
「……何喋ってんだ大原」
ひぇっ!
不機嫌そうな低い声。
いつのまにか大原さんのこと背後に昌治さんが立っていた。
大原さんは表情を強張らせてぺこりと頭ると、そそくさと出ていってしまった。待って、行かないで大原さんっ!貴重な第三者!
「大事な部下とはいえ、あんまり見るようだったら……」
「別にそういう目で見てませんからっ!大原さんを巻き込まないであげてください!」
大事な部下って自分で言ってるじゃないですか!そんな心配しなくても、大原さんに対してそう思ったことありませんから!
「ならいいんだが……いきなり風呂に沈んだから、心配した」
「すみません。お手数おかけしました……」
「責めてるわけじゃねぇよ。無事ならいい」
昌治さんは小さくため息をつく。
「……疲れてたのに、悪かったな」
のぼせたことに対してだろうか。まあ、昌治さんが最大の原因ですけども。
「楓に好きだとまた言ってもらえるとは思わなかった。昨日の車のあれが聞き間違いだったらんじゃないかと、不安だった」
「聞き間違いじゃ、ないです。でも、だからって、どうして私なんですか?私より魅力的な女性は、昌治さんなら何人も見てきたでしょう」
「何を言ってるんだ。むしろお前以外、考えられん」
昌治さんの熱っぽい目が、真っ直ぐに私を見ていた。最初は氷みたいだと思っていた目が、怖くなかった。
……にしても、なぜそんなことをあっさり言えてしまうのかな?その、聴いてるこっちが照れくさ……恥ずかしいんですけど。
「さっきも言ったが、俺はお前を諦めるつもりはない。俺と結婚してくれ、楓」
そう言って昌治さんは私を優しく抱きしめる。
体を冷やさなきゃいけないのに、でもその火照りとはまた違う、柔らかな暖かさ。
心地よさにほだされて、つい承諾しかけた自分がいたけど、なんとか堪えた。
私は昌治さんのことが好きだ。昌治さんも、私を気に入ってくれている。
だからといってすぐ結婚となると、色々と考えてしまう。
それに私まだ大学生だし。
「……少し、考える時間をください」
昌治さんの問いへの具体的な返事は、今の私にはとてもできない。でも、代わりに私はその大きな背を抱き返した。
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これにて第1章が完結です。
ここまでこの二人を追いかけてくださりありがとうございました。
続く第2章についてですが、某会長のせいでラブコメ要素希薄でシリアスと色要素強いです。苦手な方は2章は避けていただき、第3章をお待ちください。3章は2章の反動でタグ通りラブコメ?に戻ります。
3章の初めに大筋を記載するので、未読でも話は繋がります。
その間ですが、2章と同時に別で新しい話を書き始めようと思っているので、よろしければそちらを読んでお待ちいただけると嬉しいです。
これと世界線が同じでヤクザさんの出てくる話ですが、絡みはしない(予定)です。
同時進行はきついので更新頻度はこちらより低めになります。
こちらより内容がアホなラブコメです。繰り返しますが内容がアホです。設定時点で突っ込みどころしかありません。
(違うの書いてる場合ではない気もしてますが、書きたくなったのでつい息抜き的に……)
あとがきというよりもはや注意書きでしたが、最後までお読みくださりありがとうございました。
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