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1章
22.解けない誤解とヤクザさん5
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ちょっと目が合ったと思ったら、すぐにもう一度抱き締められる。さっきより緩い。まさかさっき苦しそうにしたからだろうか。
というか、さっき一瞬見えた岩峰さんの表情、いつもの覇気とか全くなくて、純粋に私を心配しているような、そしてほっとしているような、見ているこっちが申し訳なくなるような……
この人にこんな顔させてるのは自分だ。
そう思ったら、胸の辺りがグッと引き締められたような感じがして、心臓がうるさくなった。
抱き締められてるせいで、余計にうるさく感じる。
待って、って事は、私の心臓バクバクしてるの、岩峰さんにも伝わってる?
「あのっ、岩峰さん!服着直したいので離してくれま……」
「昌治」
なぜにここで名前を。
「岩峰さん、離してくださ……」
「昌治だ」
まさか、下の名前で呼べと?この状況でそれ言います?
「い……」
「昌治」
いや、「い」しか言ってないんですけど!
私が下の名前で呼ぶまで離すつもりはないと。そういう事ですか。岩峰さんってこんな人だったっけ?
というか、呼んでほしいんだと気付いたら余計に心臓が……これも伝わってるかもしれないと思うと、めちゃくちゃ恥ずかしいんですが。
「し、昌治さん……」
小ちゃい声で名前を呼ぶと岩峰さん、もとい昌治さんの肩がピクッと動いた。
「その……離して頂けると嬉しい、です」
言い終わったら、なぜか昌治さんの腕の力が一瞬だけ強くなって、離された。
私は急いで大原さんの上着の下で服を直す。といっても肌着を入れ直し、ちょっと捲れたニットを戻しただけだけど。被害的にはお腹見られたくらい。よかった、大原さん来てくれて。
ちゃんと服を直せたのを確かめて、私が上着を大原さんに返そうとしたその時、大原さんの顔から血の気が引いているのに気が付いた。
視線の先、昌治さんの方を恐々見てみると、鬼?魔王?とにかく恐ろしい何かがいた。
「大原、お前そこ座れ」
地の底から響くような声。え、昌治さん……?あの、何に対してお怒りなんですか……?そして大原さん、座るんですね。まあそうですよね。
私も正座した方がよろしいでしょうか……
「どういう事だ?何も起こらないよう見張っとけと、俺は言ったよな」
身に覚えのない監視を指示したの、やっぱり昌治さんだったんですね?まあ今回そのおかげで助かったという事になりますが……って、ん?そもそもヤクザさんの金銭問題に巻き込まれたの、元はと言えば昌治さんが、その、私を……
「監督不行き届き、俺の不手際です。申し訳ありませんでした」
そう言って大原さんは深々と頭を下げる。
待って、この状態で頭下げられたら、それ土下座っ……ちょ、それこっちが申し訳なくなるやつです!ヤクザの土下座って、恐怖でしかないんですがっ!
「大原さんは何も悪くないです!むしろ助けていただいて感謝してます!」
それでも大原さんは深々と、頭、床についてませんか!?お願いですから顔上げてくださいって!
そう、大原さんは何も悪くない。むしろ、そもそもの元凶は昌治さんな気がするんですけど。
そう思ったら、気付けば私は昌治さんの前に立っていた。
「そもそも、原因は昌治さんじゃないですか」
あああああ!言ってしまった!大原さんに顔上げて欲しくて、でもなんか違う方法あった気がするっ!
そして昌治さん、そんないかにもショックを受けてますって顔しないでっ!私だって言いたくなかったですよ!
一時間くらい経ったんじゃない?と錯覚してしまうくらい長く感じた沈黙の末、昌治さんが口を開いた。
「……すまなかった」
絞り出すような声だった。覇気も何もない、心の底から申し訳なく思っている声。
迫田さん殴ったり、無言で送ろうとしてくれたり、ほとんど毎日肉まん買いに来たり、大原さんを怒ろうとしたり。これまでのことは全部、私に繋がってる。
……そうか、ヤクザで若頭っていうイメージが先行しちゃってたけど、単にこの人、不器用なだけかもしれない。
唐突に、そう思えた。
「ごめんなさい。私の言い方も悪かったんです。でも、大原さんは悪くないですし、い……昌治さんも、悪くないです」
いったいこの胸のモヤモヤをどう伝えればいいんだろう。
「昌治さんが私のこと、その……いいと思ってくださっているのは、わかりました」
ヤクザ相手というより、昌治さん相手に話している。そんな感じがして、言葉や感情は浮かぶ。
でも、口にするために、誤解がないように、慎重に私は言葉を選んだ。
「昌治さんのことは嫌いとか、そんなことは思いません」
わかりやすく昌治さんの表情が明るくなった。この状況でその表情は、なんか狡いです。
「それなら……」
「でも、ヤクザさんのいざこざに巻き込まれるのは嫌ですし、そうなったら昌治さんたちに迷惑かけるだけです」
昌治さんが何か言いかけたのを遮って、私は続けた。
「私には何の力もありません。迷惑かけるだけなんて、私は嫌です」
私はそこで言葉を止めて、大きく息を吸った。
「私と昌治さんでは、住んでいる世界が違いすぎるんです。だから私は……」
あなたの気持ちに応えられません。
というか、さっき一瞬見えた岩峰さんの表情、いつもの覇気とか全くなくて、純粋に私を心配しているような、そしてほっとしているような、見ているこっちが申し訳なくなるような……
この人にこんな顔させてるのは自分だ。
そう思ったら、胸の辺りがグッと引き締められたような感じがして、心臓がうるさくなった。
抱き締められてるせいで、余計にうるさく感じる。
待って、って事は、私の心臓バクバクしてるの、岩峰さんにも伝わってる?
「あのっ、岩峰さん!服着直したいので離してくれま……」
「昌治」
なぜにここで名前を。
「岩峰さん、離してくださ……」
「昌治だ」
まさか、下の名前で呼べと?この状況でそれ言います?
「い……」
「昌治」
いや、「い」しか言ってないんですけど!
私が下の名前で呼ぶまで離すつもりはないと。そういう事ですか。岩峰さんってこんな人だったっけ?
というか、呼んでほしいんだと気付いたら余計に心臓が……これも伝わってるかもしれないと思うと、めちゃくちゃ恥ずかしいんですが。
「し、昌治さん……」
小ちゃい声で名前を呼ぶと岩峰さん、もとい昌治さんの肩がピクッと動いた。
「その……離して頂けると嬉しい、です」
言い終わったら、なぜか昌治さんの腕の力が一瞬だけ強くなって、離された。
私は急いで大原さんの上着の下で服を直す。といっても肌着を入れ直し、ちょっと捲れたニットを戻しただけだけど。被害的にはお腹見られたくらい。よかった、大原さん来てくれて。
ちゃんと服を直せたのを確かめて、私が上着を大原さんに返そうとしたその時、大原さんの顔から血の気が引いているのに気が付いた。
視線の先、昌治さんの方を恐々見てみると、鬼?魔王?とにかく恐ろしい何かがいた。
「大原、お前そこ座れ」
地の底から響くような声。え、昌治さん……?あの、何に対してお怒りなんですか……?そして大原さん、座るんですね。まあそうですよね。
私も正座した方がよろしいでしょうか……
「どういう事だ?何も起こらないよう見張っとけと、俺は言ったよな」
身に覚えのない監視を指示したの、やっぱり昌治さんだったんですね?まあ今回そのおかげで助かったという事になりますが……って、ん?そもそもヤクザさんの金銭問題に巻き込まれたの、元はと言えば昌治さんが、その、私を……
「監督不行き届き、俺の不手際です。申し訳ありませんでした」
そう言って大原さんは深々と頭を下げる。
待って、この状態で頭下げられたら、それ土下座っ……ちょ、それこっちが申し訳なくなるやつです!ヤクザの土下座って、恐怖でしかないんですがっ!
「大原さんは何も悪くないです!むしろ助けていただいて感謝してます!」
それでも大原さんは深々と、頭、床についてませんか!?お願いですから顔上げてくださいって!
そう、大原さんは何も悪くない。むしろ、そもそもの元凶は昌治さんな気がするんですけど。
そう思ったら、気付けば私は昌治さんの前に立っていた。
「そもそも、原因は昌治さんじゃないですか」
あああああ!言ってしまった!大原さんに顔上げて欲しくて、でもなんか違う方法あった気がするっ!
そして昌治さん、そんないかにもショックを受けてますって顔しないでっ!私だって言いたくなかったですよ!
一時間くらい経ったんじゃない?と錯覚してしまうくらい長く感じた沈黙の末、昌治さんが口を開いた。
「……すまなかった」
絞り出すような声だった。覇気も何もない、心の底から申し訳なく思っている声。
迫田さん殴ったり、無言で送ろうとしてくれたり、ほとんど毎日肉まん買いに来たり、大原さんを怒ろうとしたり。これまでのことは全部、私に繋がってる。
……そうか、ヤクザで若頭っていうイメージが先行しちゃってたけど、単にこの人、不器用なだけかもしれない。
唐突に、そう思えた。
「ごめんなさい。私の言い方も悪かったんです。でも、大原さんは悪くないですし、い……昌治さんも、悪くないです」
いったいこの胸のモヤモヤをどう伝えればいいんだろう。
「昌治さんが私のこと、その……いいと思ってくださっているのは、わかりました」
ヤクザ相手というより、昌治さん相手に話している。そんな感じがして、言葉や感情は浮かぶ。
でも、口にするために、誤解がないように、慎重に私は言葉を選んだ。
「昌治さんのことは嫌いとか、そんなことは思いません」
わかりやすく昌治さんの表情が明るくなった。この状況でその表情は、なんか狡いです。
「それなら……」
「でも、ヤクザさんのいざこざに巻き込まれるのは嫌ですし、そうなったら昌治さんたちに迷惑かけるだけです」
昌治さんが何か言いかけたのを遮って、私は続けた。
「私には何の力もありません。迷惑かけるだけなんて、私は嫌です」
私はそこで言葉を止めて、大きく息を吸った。
「私と昌治さんでは、住んでいる世界が違いすぎるんです。だから私は……」
あなたの気持ちに応えられません。
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