お客様はヤのつくご職業

古亜

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1章

12.ヤクザさんはお客様

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岩峰さんが肉まん大好きとわかった翌日から、北川さんはしばらく忙しいとのことで、違う人が代わりに監視役として付くことになった。
新しい監視役の鶴田さんを紹介された際、鶴田さんに「仕事ですからお礼とかいりませんよ」と言われてしまった。あれかな、賄賂的な扱いになっちゃったりするのかな。
でもあの時間まであんな公園で待機していただくのはなんだか申し訳ないんだよね……なにか他に、賄賂っぽくないもの?金銭が絡まない感じのものの方がいいのだろうか。
そういえば、鶴田さんの上着のボタンが取れかかってたなぁ。今日のバイト終わりに付け直してあげるとか?うーん、いいお礼が思い浮かばない。しなくていいのはまあわかってるんだけど、なんか気持ち的に。とりあえず裁縫道具持っておこう。
今日は昼から授業がないので、バイトまで時間がある。とはいえ、授業のレポートやって、洗濯機回して干して……そうだ、銀行にも行かないと。
図書館で本を借りて、大学を出る。
待ち合わせ風に正門前に立っていた鶴田さんと目が合ったので、会釈しておいた。
私が大学で講義を受けている間まで門の前で立っていてもらうのは申し訳ないな、と一瞬思ったけど、よく考えてみたらこの大学、門はここだけじゃない。確かに私がよく使う門はこの正門だけど、少し離れたところにも小さい出入り口はあるし、出入りするだけなら何十カ所とある。たまにそっち使うこともあるし、実際使った日、出てすぐのとこに北川さんがいたような……
強盗のことは大丈夫だからと、のほほんと過ごしてたけど、よく考えたらこの状況の方が強盗より怖い気がする。
まあ、住所バレれてるし、今さらなのかな。
ちょっとため息をつきつつ、てくてくとアパートに向かう。鶴田さんは私の二十メートルくらい後ろを何気ない感じで付いてきていた。
確かに、知らずにこれやられてたら恐怖だな。鶴田さん、北川さんより見た目がヤクザ寄りだから。
ここ数日で岩峰さん、大原さんの、迫田さん、北川さん、鶴田さんと五人ものヤクザと顔見知りになってしまった。北川さんはぱっと見はヤクザぽくなかったけど、それ以外の人はみんなヤクザですって言われたら納得してしまう見た目だ。
ヤクザの選定基準ってもしかして顔?顔採用なの?
まだ五人しかヤクザの顔なんて知らないけど、それでも岩峰さんは色々と別格だよなぁ……
いかにもヤクザです!という感じの強面ではない。でもなんと言うか、目を逸らせない独特な存在感と威圧感。目を合わせたら凍ってしまうんじゃないかと思ってしまうくらい冷たい瞳。スーツ映えする細くがっしりとした体つき。
とにかく、私なんぞとは住む世界が二次元、いや三次元くらい違う人だ。むしろ知り合った事に感動するレベルかもしれない。
そんな人がわざわざ昨日の夜、なんでコンビニに来たんだろう。強盗が来た日もそうだ。通りがかったにしては……うーん。
肉まん、なのかなぁ?確かにあれは買ったばっかりが一番美味しい。家でレンチンしてもちょっと違うんだよね。
岩峰さんの肉まん好きっぷりは、昨日の夜にわかったし、本当にそうなのかも。
若頭なくらいだから忙しいだろうし、そんな毎晩は来ないよね……
そう、思っていた。
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