お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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お隣さんはヤクザさん2

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「あ、そろそろ終電だ」

〆の雑炊まで食べ終えてしばらくお喋りをしていたら、有以子が終電の時間に気付いて名残惜しそうに肩を落とす。

「自分の分は片付けるので、続けてくださいね」

そう言って有以子は使ったお皿を持って流しの方へ。その足取りはほんの少し怪しかった。

「明日も用事ないなら泊まってっていいよ。この辺駅まで暗い場所多いし」
「でも梓だって終電で帰ってきたらこれくらいでしょ?」
「それはそうだけどそれは仕事帰りで酔ってはいないから」

さすがにでき上がってしまった有以子をこのまま帰すのは危ない気がする。私のベッドは空いてるし隣の吉崎さんのところに移動するという手もあった。

「まあちょうどいい時間だ。小原と呉田で送ってやれ」
「片付けは私がしておくので大丈夫です」

これでも日々の吉崎さんの手伝いで片付けだけはそれなりにできるようになった……と信じてる。
比較的きれいなものから洗う。油物は最後。汚れた食器はできるだけ重ねない!
けど吉崎さんは生暖かい目で私を見ている。なぜだろう。
小原さんたちは片付けを手伝いたがっていたけど、有以子が「むしろこの場合は手伝わない方が正解なの。ある程度手を動かしながらの方が、会話が続かなくても平気だから」と言った。
それを聞いた小原さんはなるほどと納得し、呉田さんは俺なら会話を続けられると主張したけれど、最終的に吉崎さんに言われて小原さんと一緒に有以子を送ることになった。
呉田さんはともかく、小原さんの見た目なら変出者の方が先に逃げ出す気がするから、そういう意味ではすごく安心した。
そうして部屋には私と吉崎さんが残された。

「じゃあ洗い物しますね」
「いや、まず嬢ちゃんはゴミを片付けてくれ……あいつら結構飲んだな」

壁に並んでいた空き缶やワインや日本酒の空き瓶を整理していく。瓶と瓶が触れる音やゴミを入れるガサガサという音がするだけで、それ以外は静かだ。
5人が一気に2人になってしまったからか妙に静かに感じる。飲み会の感想なり転職の事なり喋ることは色々あるはずなのに、どうにも口が開かない。
同時に、そういえば私はこの人に告白されたんだよね……という意識が頭の中でぐるぐる回る。

「……スチールとアルミはちゃんと別にしろよ」

吉崎さんは私の手元を見てなんでもなさそうにそう言うと、卓の上のお皿を片付けてシンクの前に立った。
いつも通りの吉崎さんだ。そう、いつもと同じ。
いつもと違うのは私だけなのかな。

「ずっと……」

私はどうしたいのか、どうしてほしいのか。10年後、20年後もこのままでいられるのか。ずっと変わらないというのが無理なことはわかっている。
ずっと同じでいたいから、関係を変えたい。そのためには私からも動かないと。
吉崎さんは振り返って私の方を見ていた。

「ずっと吉崎さんのごはんを食べたいです。吉崎さんとがいいんです」

そのためにはどうするべきなのか。自分の気持ちに整理がついているわけじゃない。でも整理はつけたいし、どうしたいのかもわかっている。

「私も、好きになっていいですか?」

パリンとガラスが割れる音がした。
けれど吉崎さんはそれを気にするどころじゃないようで、泡立ったスポンジを手にしたまま動かなくなっていた。
しばらくして我に返ったのか、吉崎さんはスポンジを置いて割れたグラスをシンクの中から拾い集めて掃除を始める。
私もガラス片を入れる適当な紙袋を探して持っていった。

「……悪いな。これ嬢ちゃんのグラスだろ」
「ホームセンターで買ったものなので気にしないでください。また買ってきます」
「そうか……危ないから嬢ちゃんは触るなよ」

吉崎さんはきまりが悪そうにガラス片を紙袋の中に入れていく。その手元は少し覚束なくて、私はなぜか安心した。
緊張してるのは私だけじゃなかった。

「今度、一緒に買いに行きませんか?せっかくだから吉崎さんの使いやすいお皿とかキッチン用品とか買いましょう」

これまでお皿とか鍋は私が持ってるものや吉崎さんのものとバラバラだった。
私のものでも吉崎さんのものでもない、お互いが使うものを買いに行こう。

「俺が一緒でもいいのか?」
「もちろんです。一緒がいいんです」

お隣さんという関係が変わろうとしている。けれどその変化はとても嬉しいものだった。

「吉崎さんがお隣さんでよかった」

ずっとそう思っていたはずなのに、口にしたのは初めてのことだった。
俺もだ、と吉崎さんも照れ臭そうに言う。
その言葉だけで、すぐに気持ちの整理がつきそうだった。
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