お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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吉崎さんサイド(美人)2

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曽湖野町のもう使われていない倉庫、嬢ちゃんはそこにいた。
遠目からでよく見えないが嬢ちゃんは捕まり、偉そうな女と言い争いをしているらしかった。
今すぐにでも助けたいが、迂闊に動いて嬢ちゃんに何かあっては意味がない。
見張りの男を沈めて近付き、ようやく俺の持つ拳銃の射程圏内に入る。
……あの女は誰だ。
見覚えはあるが、ああいうタイプの顔は巷に溢れているせいか記憶としては残りにくい。胃にもたれて三日で飽きる顔だ。
鈍い音がした。女が持っていたバッグで嬢ちゃんを殴ったらしい。

「か、頭……落ち着いてください」

俺の顔を見た小原はまだ何もしていないし何も言っていないのにそんなことを言った。まあ実際、落ち着いていられるわけがねぇんだが。
だが相手は女を含めて少なくとも6人で、こちらは俺と小原、呉田の3人だ。正面からぶつかるのは避けたい。

「わかってる。呉田が電気落としたら、その隙に嬢ちゃんを連れて逃げろ」

向こうはずっと明るい場所にいる。突然明かりが消えればしばらくは何も見えないはずだ。
それまでどうにか嬢ちゃんが耐えてくれるといいんだが……

「なんにも知らないあんたに言われたくないわよ!」

女の耳障りな声が響き、耳慣れた発砲音が鼓膜を震わせた。
そして女は発砲したばかりの銃口を嬢ちゃんの額に押し付ける。熱を持っているであろうそれに、嬢ちゃんは顔をしかめていた。
俺のせいで、嬢ちゃんの額に本来あるはずのない火傷がつく。
懐に手が伸びて、引き金に触れる。銃に触れて手が震えるなんざいつ以来だっけな。

「堪えてください!」

小原が必死に俺を止めている。俺だってギリギリで耐えてんだ。わかってんだよそんなことは。
女の口元が醜く歪んで、指先に力が込められる。
呉田、あいつ間に合わなかったな。
俺は小原の手を振り払って女の指先が引き金を引くその前に、照準を定めて引き金を引いた。

「きゃあぁ!!」

甲高い悲鳴を上げて女は血塗れの拳銃を落とした。女の手は赤く染まり、血が砂利の上に滴り落ちる。
突然の襲撃で女は取り乱しているが護衛らしい男はすぐに拳銃を構えて俺を狙った。

「待ちなさいあんたたち!仁さん撃ったら承知しないから!」

血塗れの手を押さえながら、こんな状況でも女は俺を撃たないよう指示する。こんな馬鹿な女を俺は知らない。
護衛は自分のところのお嬢様の指示に戸惑って狙いを外す。

「どうしたの仁さん。私よ、江川薫よ!」
「は?」

……江川?
江川は今連絡が取れなくなっている叔父貴の苗字だ。叔父貴には世話にはなったが、娘のこれに世話になった記憶はない。「仁さん」なんて甘ったるい呼び方をされる覚えもない。

「1度会ってますよ?お料理ご馳走になりましたから」

俺がこんな女に料理を?金を積まれても御免だ。
いや、何度か会食で料理は作った。それをカウントしてるのかこの女は。

「組のお金のことならパパがなんとかします。こんな女にはできませんよね?こんな女に仁さんが尽くしてるなんて嘘ですよね?」

女は目を爛々を輝かせて俺を見る。撃たれておきながらこの表情だ。ヤクザの娘というのは間違いなさそうだった。

「なくなった分以上のお金を用意できます。パパはお金を増やせるから……」
「ちが、う」

高いだけの女の声の間に、絞り出すような声が割り込んだ。

「この人のお父さんが、持ち出したの」

嬢ちゃんが俺を見上げながら訴えかける。息が苦しいのか浅い呼吸を繰り返していた。

「勝手なこと言わないで頂戴!パパは株で儲けてるの。失敗したことなんてないんだから!」

……ああ、そういうことか。
確か江川の叔父貴は株をやってたな。それで大損して組の金でどうにかしようとしたわけか。音信不通なのも、損失を取り返してから何食わぬ顔で出てくるつもりだったからか。
この女は嬢ちゃんより嘘が上手いが、嬢ちゃんよりわかりやすい。

「仁さん、こんな女の言うこと信じるんですか」

何言ってんだこの女は。信じるに決まってんだろ。
この女と話していると苛々する。

「頭……」

俺と女の後ろではそれぞれ小原と護衛が膠着状態になっていた。
人数的にも状況的にも不利な事は変わらない。

「ああ、そうだな。撃って悪かった、薫」
「い、いいのよわかってもらえたら……!」

心も何もこもっていない台詞に、女は喜んだ。一方で、嬢ちゃんは怯えたようにびくりと動いた。

「その馬鹿頭をカチ割ってやる方がお前のためだったな」

本当ならぶっ殺したいくらいだが、この女には色々と聞きたいことがあったからブン殴るだけに済ましておく。
飛ばされた女の体が老朽化したトタンの壁にぶつかり、見えなくなった。
それと同時にようやく電気が消える。その瞬間に先ほどまで女の護衛が立っていたところに向けて発砲すると、闇の中から呻き声が返ってきた。

「頭、こっちです」

その間に戻ってきていた呉田が嬢ちゃんを確保して先導する。誰かに足を掴まれた気がしたが、それは無理矢理引き剥がした。





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