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吉崎さんサイド(美人)
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異変に気付いたのはすぐのことだった。
飯の完成を嬢ちゃんが帰ってくる時間に合わせるために、スマホを見て嬢ちゃんの現在地を確かめる。
嬢ちゃんのスマホに俺は位置情報を定期的に発信させるアプリを入れていた。本人には無断だから違法行為であることは重々承知しているが、定期的に連絡を取り合っているのを誰かに見られるよりはましだ。
それにそれを使うのは嬢ちゃんが帰宅しているであろう時間帯のみで、だいたいの帰宅時間を予測するためだけだった。
まあ佐々木の野郎と出掛けてる時だけは何回か見ようとしてやめた。そこまでプライベートに踏み込んじまえばそれはただのストーカーだ。
それがまさか、こんな形で役に立つとはな。
嬢ちゃんのスマホの位置が、先ほどからずっと変わっていない。誰かと喋っているにしてもあと2、3本で終電を逃すような時間に、あんな場所で長話をするとは思えなかった。落としたのかとも思ったが、定期の入ったスマホを落とせば途中で気付くだろう。
……確か今日も報告に来ると言っていたよな。
「小原、俺だ」
『あ、頭!ちょうど連絡入れようと思ってたんですよ。嬢ちゃんが……』
「何か知ってるのか!?」
電話口で小原はかなり焦っているようだった。
『嬢ちゃんのスマホがさっきから動かないんで気になって来てみたら、スマホだけ落ちてたんですよ。人通りも少ない道なので、スマホ落として気付かないわけありません』
「目星はついてるか?」
『俺にはさっぱりですが、呉田が追いかけてると思います。今頭のところに向かっているので、出てきておいてください』
呉田が?
状況が飲み込めないが、とにかく何もできないということはなさそうだ。
俺は上着を羽織ってクローゼットの奥に隠しておいた拳銃の残弾を確認して懐にしまった。
嬢ちゃんはおそらく組関係の何かに巻き込まれている。もしかすると前に歓楽街で俺とばったり会ったときに誰かに見られていたのかもしれない。
おそろしく誤魔化すのが下手だったからな。
あるいは佐々木の野郎か……?
佐々木はあのバーの常連だったらしい。つまり佐々木はあっち側ということだ。本人曰く俺に一目惚れだとかなんとか。あいにく俺はノーマルだから断ったが、あのバーに入っていったために余計な期待を持たせてしまったらしい。
それ以降も俺の話を聞き出したいのか嬢ちゃんに絡んでいるのは聞いたが、最近は佐々木の話すら出てこないから関係ないと思いたいが……
あとあり得るとしたら誰だ?
「頭!」
小原が運転する車が駐車場に入ってくる。そして俺がドアを開けてシートに腰を下ろすと同時に、勢いよく発進した。
「どういう状況だ」
「それが俺と呉田が行ったときにはもう誰もいなかったんですよ。ですが呉田が変わった排ガスの匂いがするとか言うんで、バイクで匂い辿ってるところだと思います」
「あいつの鼻も役に立つんだな……」
そういやおでんの出汁の匂いであいつに潜伏先がバレたんだった。
「古いディーゼル車じゃないかと言ってました」
「まあこんな時間だ。多少目立つ車でもそもそも誰も見てねぇか」
ということは間違いなく嬢ちゃんは何者かに拐われたということだ。
俺のせいなんだろうな。巻き込みたくはないと言っておきながら、隠れる必要がなくなってからも嬢ちゃんと飯が食いたくてそのままにしていた。
「そういや、どうしてお前が嬢ちゃんのスマホが移動してないって知ってんだ?」
「あー、それは……」
曰く俺と同じ方法を使っていたから、らしい。
つまり、嬢ちゃんのスマホに位置情報アプリを入れて俺が夕飯の頃合いを見計らっているのを、さらに見計らった小原がちょうどいいタイミングで現れると。
「配膳を手伝うタイミングを見計らっていました」
そのタイミングで物欲しげに見てりゃ、嬢ちゃんも食べていかないんですかと言わざるを得ない。
「そこまでするか?」
「頭には言われたくないです」
小原は乾いた声で笑う。確かに帰ってくる時間がわからなくてもレンジで料理できるようにしときゃいいことだ。わざわざ浮気を疑う相手のスマホに入れるようなアプリを入れてまですることではない。
……だが、運転中じゃなけりゃ一発ブン殴ってたな。
飯の完成を嬢ちゃんが帰ってくる時間に合わせるために、スマホを見て嬢ちゃんの現在地を確かめる。
嬢ちゃんのスマホに俺は位置情報を定期的に発信させるアプリを入れていた。本人には無断だから違法行為であることは重々承知しているが、定期的に連絡を取り合っているのを誰かに見られるよりはましだ。
それにそれを使うのは嬢ちゃんが帰宅しているであろう時間帯のみで、だいたいの帰宅時間を予測するためだけだった。
まあ佐々木の野郎と出掛けてる時だけは何回か見ようとしてやめた。そこまでプライベートに踏み込んじまえばそれはただのストーカーだ。
それがまさか、こんな形で役に立つとはな。
嬢ちゃんのスマホの位置が、先ほどからずっと変わっていない。誰かと喋っているにしてもあと2、3本で終電を逃すような時間に、あんな場所で長話をするとは思えなかった。落としたのかとも思ったが、定期の入ったスマホを落とせば途中で気付くだろう。
……確か今日も報告に来ると言っていたよな。
「小原、俺だ」
『あ、頭!ちょうど連絡入れようと思ってたんですよ。嬢ちゃんが……』
「何か知ってるのか!?」
電話口で小原はかなり焦っているようだった。
『嬢ちゃんのスマホがさっきから動かないんで気になって来てみたら、スマホだけ落ちてたんですよ。人通りも少ない道なので、スマホ落として気付かないわけありません』
「目星はついてるか?」
『俺にはさっぱりですが、呉田が追いかけてると思います。今頭のところに向かっているので、出てきておいてください』
呉田が?
状況が飲み込めないが、とにかく何もできないということはなさそうだ。
俺は上着を羽織ってクローゼットの奥に隠しておいた拳銃の残弾を確認して懐にしまった。
嬢ちゃんはおそらく組関係の何かに巻き込まれている。もしかすると前に歓楽街で俺とばったり会ったときに誰かに見られていたのかもしれない。
おそろしく誤魔化すのが下手だったからな。
あるいは佐々木の野郎か……?
佐々木はあのバーの常連だったらしい。つまり佐々木はあっち側ということだ。本人曰く俺に一目惚れだとかなんとか。あいにく俺はノーマルだから断ったが、あのバーに入っていったために余計な期待を持たせてしまったらしい。
それ以降も俺の話を聞き出したいのか嬢ちゃんに絡んでいるのは聞いたが、最近は佐々木の話すら出てこないから関係ないと思いたいが……
あとあり得るとしたら誰だ?
「頭!」
小原が運転する車が駐車場に入ってくる。そして俺がドアを開けてシートに腰を下ろすと同時に、勢いよく発進した。
「どういう状況だ」
「それが俺と呉田が行ったときにはもう誰もいなかったんですよ。ですが呉田が変わった排ガスの匂いがするとか言うんで、バイクで匂い辿ってるところだと思います」
「あいつの鼻も役に立つんだな……」
そういやおでんの出汁の匂いであいつに潜伏先がバレたんだった。
「古いディーゼル車じゃないかと言ってました」
「まあこんな時間だ。多少目立つ車でもそもそも誰も見てねぇか」
ということは間違いなく嬢ちゃんは何者かに拐われたということだ。
俺のせいなんだろうな。巻き込みたくはないと言っておきながら、隠れる必要がなくなってからも嬢ちゃんと飯が食いたくてそのままにしていた。
「そういや、どうしてお前が嬢ちゃんのスマホが移動してないって知ってんだ?」
「あー、それは……」
曰く俺と同じ方法を使っていたから、らしい。
つまり、嬢ちゃんのスマホに位置情報アプリを入れて俺が夕飯の頃合いを見計らっているのを、さらに見計らった小原がちょうどいいタイミングで現れると。
「配膳を手伝うタイミングを見計らっていました」
そのタイミングで物欲しげに見てりゃ、嬢ちゃんも食べていかないんですかと言わざるを得ない。
「そこまでするか?」
「頭には言われたくないです」
小原は乾いた声で笑う。確かに帰ってくる時間がわからなくてもレンジで料理できるようにしときゃいいことだ。わざわざ浮気を疑う相手のスマホに入れるようなアプリを入れてまですることではない。
……だが、運転中じゃなけりゃ一発ブン殴ってたな。
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