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ヤクザさんとおでん5
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「中で話す。呉田、入れ」
微妙な感じになってしまい気まずくなったのか吉崎さんは男から手を離す。っていうか呉田って本名だったんだ。
喉をさすりながら呉田さんはちらっと私を見る。
「いやいや、この女なんなんですか?壁ブチ抜いたって」
「文字通りです。でも吉崎さん、大丈夫なんですか……?」
吉崎さん、隠れてたはずだよね。この人も探してたってことは、見つかったとはいえ部屋に上げて大丈夫なの?
「嗅ぎ付かれたなら仕方ねぇ。それにこいつはこっち側だ」
「俺が頭に手ぇ出すわけねぇだろ。何言ってんだお前」
いや、私は思いっきり手を出されたんですが。そんなお前は馬鹿かみたいに言われましても。
「嬢ちゃんはちゃんと堅気でついでに社畜だ。わかるわけねぇだろ。むしろ手を出したのはお前だ。詫びろ」
「いや、でも……」
「いいのは鼻だけか?詫びろって言ってんだ」
顔が、怖いです吉崎さん。あと社畜は余計です。
呉田さんもめちゃくちゃ私を睨んでくる。あれ?私この人に恨まれるようなことしましたっけ?
「すみませんでした」
申し訳ないって思ってる顔じゃない!
吉崎さんから顔見えてないから、全然表情が申し訳なく思ってないですよね!
「嬢ちゃんは飯食ってろ」
「なんでこの女の飯を頭が気にするんですか」
「俺が作ってるからだ」
しばらく沈黙が続く。その間思いっきり睨まれた。
「俺、一年以上頭の料理食ってねぇのに!」
んん?
いや、おでんの辺りから若干怪しいとは思っていたよ?まさかこんなドンピシャだとは思わなかった。
私も胃袋掴まれてるから、気持ちはわかりますよ?でも念の為にお尋ねしますが、呉田さんヤクザさんですよね?胃袋よりも先に掴まれるべき大事な何かがあると思う。
「こいつの事は放っといてとっとと中行け。誰か通ったらどうする」
「そ、そうですね」
吉崎さん隠れてなきゃいけないのに出てきてるもんね。こんな時間に見るからにヤバそうな男2人に壁際に追い詰められてる冴えない女。
通報しますよね、普通。
2人の間をすり抜けてアパートの階段へ。
呉田さんは何か言いたげだったけど、吉崎さんが動いたので無言でその後に続く。
部屋の扉を開けた瞬間、ふわっとおでんの香りがしてお腹が鳴った。この状況だけどお腹は空いていたらしい。
そしてお二人は、当たり前のように私の部屋へ。
「この匂い、この昆布と鰹の匂い……あとちょっとアゴ使ってますよね。醤油も濃口で……」
つらつらと材料を並べ立てて、ついには追い鰹とか一番だしとか調理法まで喋り始めた。しかも見たからわかるとかではなく、匂いから判断してるっぽい。
……凄っ。怖っ!
私が若干引きながら仕事の荷物を片付けているうちに、吉崎さんがてきぱきと机の上に料理を並べてくれる。
「こっちの鶏、下味は塩麹ですか?米はササニシキですね」
そしてそれを次々と当てていく呉田さん。え、なんでこの人ヤクザしてるの!?他にもっと生かせる場があるんじゃないかな?
「それ生かして料理屋でもやれって言ってんだけどな。ヤクザよりよっぽどいいぞ」
そのお言葉をそっくりそのまま吉崎さんに言ってもいいですか。というかお二人で料理屋始めればいいんじゃ……
「遠野組は頭がいてこそだ。何言ってんだお前」
お前は馬鹿かと言いたげに、この短時間で2度目の何言ってんだですね。もう私は突っ込みません。
「だから嬢ちゃんはこいつを相手にするな。呉田、お前もなんで喧嘩腰なんだよ。とりあえずこれ食って一旦黙れ」
台所から鍋を持ってきた吉崎さんが呆れたように言う。鍋が鍋敷の上に置いて、蓋が開けられるとだしのいい香りがぶわっと辺りに漂う。部屋に入った時点でいい匂いだったのに、この至近距離は……
ちらっと呉田さんの方を見ると、今にも飛び付きそうな目でじっと鍋を見詰めている。
その喉が唾を飲み込んで動いたのを私は見逃さなかった。
「若干少ないと思って練り物足しといた」
なんて嬉しい心遣い。
吉崎さんはいつもの場所、ちょうど私の正面に座って箸を手に取った。
「どうした呉田」
「いや、こんな狭い机で頭の横に座るって……」
あ、そうか。呉田さんからしたら社長の横に座るみたいなものか。確かにそれは躊躇するなぁ。まあ私の場合、社長が横とかうっかり蹴らないか心配になるから嫌なんだけど。
心中お察しするからしれっと狭いとか言った事は聞き流しますね。
「いいから座れ。食いづらい」
吉崎さんがそう言うと少し悩みながらも呉田さんは3組目の取り皿と箸の置いてある一角に座る。
その目はおでんに釘付けで、よっぽど好きなんだなぁと思った。
「いただきます」
私がそう言うのとほぼ同時に吉崎さんも低い声でいただきますを言う。
呉田さんは一瞬不思議なものを見るようにしながらも、吉崎さんに倣って両手を合わせた。
微妙な感じになってしまい気まずくなったのか吉崎さんは男から手を離す。っていうか呉田って本名だったんだ。
喉をさすりながら呉田さんはちらっと私を見る。
「いやいや、この女なんなんですか?壁ブチ抜いたって」
「文字通りです。でも吉崎さん、大丈夫なんですか……?」
吉崎さん、隠れてたはずだよね。この人も探してたってことは、見つかったとはいえ部屋に上げて大丈夫なの?
「嗅ぎ付かれたなら仕方ねぇ。それにこいつはこっち側だ」
「俺が頭に手ぇ出すわけねぇだろ。何言ってんだお前」
いや、私は思いっきり手を出されたんですが。そんなお前は馬鹿かみたいに言われましても。
「嬢ちゃんはちゃんと堅気でついでに社畜だ。わかるわけねぇだろ。むしろ手を出したのはお前だ。詫びろ」
「いや、でも……」
「いいのは鼻だけか?詫びろって言ってんだ」
顔が、怖いです吉崎さん。あと社畜は余計です。
呉田さんもめちゃくちゃ私を睨んでくる。あれ?私この人に恨まれるようなことしましたっけ?
「すみませんでした」
申し訳ないって思ってる顔じゃない!
吉崎さんから顔見えてないから、全然表情が申し訳なく思ってないですよね!
「嬢ちゃんは飯食ってろ」
「なんでこの女の飯を頭が気にするんですか」
「俺が作ってるからだ」
しばらく沈黙が続く。その間思いっきり睨まれた。
「俺、一年以上頭の料理食ってねぇのに!」
んん?
いや、おでんの辺りから若干怪しいとは思っていたよ?まさかこんなドンピシャだとは思わなかった。
私も胃袋掴まれてるから、気持ちはわかりますよ?でも念の為にお尋ねしますが、呉田さんヤクザさんですよね?胃袋よりも先に掴まれるべき大事な何かがあると思う。
「こいつの事は放っといてとっとと中行け。誰か通ったらどうする」
「そ、そうですね」
吉崎さん隠れてなきゃいけないのに出てきてるもんね。こんな時間に見るからにヤバそうな男2人に壁際に追い詰められてる冴えない女。
通報しますよね、普通。
2人の間をすり抜けてアパートの階段へ。
呉田さんは何か言いたげだったけど、吉崎さんが動いたので無言でその後に続く。
部屋の扉を開けた瞬間、ふわっとおでんの香りがしてお腹が鳴った。この状況だけどお腹は空いていたらしい。
そしてお二人は、当たり前のように私の部屋へ。
「この匂い、この昆布と鰹の匂い……あとちょっとアゴ使ってますよね。醤油も濃口で……」
つらつらと材料を並べ立てて、ついには追い鰹とか一番だしとか調理法まで喋り始めた。しかも見たからわかるとかではなく、匂いから判断してるっぽい。
……凄っ。怖っ!
私が若干引きながら仕事の荷物を片付けているうちに、吉崎さんがてきぱきと机の上に料理を並べてくれる。
「こっちの鶏、下味は塩麹ですか?米はササニシキですね」
そしてそれを次々と当てていく呉田さん。え、なんでこの人ヤクザしてるの!?他にもっと生かせる場があるんじゃないかな?
「それ生かして料理屋でもやれって言ってんだけどな。ヤクザよりよっぽどいいぞ」
そのお言葉をそっくりそのまま吉崎さんに言ってもいいですか。というかお二人で料理屋始めればいいんじゃ……
「遠野組は頭がいてこそだ。何言ってんだお前」
お前は馬鹿かと言いたげに、この短時間で2度目の何言ってんだですね。もう私は突っ込みません。
「だから嬢ちゃんはこいつを相手にするな。呉田、お前もなんで喧嘩腰なんだよ。とりあえずこれ食って一旦黙れ」
台所から鍋を持ってきた吉崎さんが呆れたように言う。鍋が鍋敷の上に置いて、蓋が開けられるとだしのいい香りがぶわっと辺りに漂う。部屋に入った時点でいい匂いだったのに、この至近距離は……
ちらっと呉田さんの方を見ると、今にも飛び付きそうな目でじっと鍋を見詰めている。
その喉が唾を飲み込んで動いたのを私は見逃さなかった。
「若干少ないと思って練り物足しといた」
なんて嬉しい心遣い。
吉崎さんはいつもの場所、ちょうど私の正面に座って箸を手に取った。
「どうした呉田」
「いや、こんな狭い机で頭の横に座るって……」
あ、そうか。呉田さんからしたら社長の横に座るみたいなものか。確かにそれは躊躇するなぁ。まあ私の場合、社長が横とかうっかり蹴らないか心配になるから嫌なんだけど。
心中お察しするからしれっと狭いとか言った事は聞き流しますね。
「いいから座れ。食いづらい」
吉崎さんがそう言うと少し悩みながらも呉田さんは3組目の取り皿と箸の置いてある一角に座る。
その目はおでんに釘付けで、よっぽど好きなんだなぁと思った。
「いただきます」
私がそう言うのとほぼ同時に吉崎さんも低い声でいただきますを言う。
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