お隣さんはヤのつくご職業

古亜

文字の大きさ
上 下
30 / 67

ヤクザさんとおでん4

しおりを挟む
次の日の夜。終電になっちゃったなぁと思いながらアパートの前に着いたら、誰かがアパートの前に立っているのが目に入った。でも疲れてたから気にしないでおこう。不審者だとしても、私のような見るからに枯れた女に用はあるまい。
あー、私の部屋電気付いてる。吉崎さん、また待っててくれたのかな。
もうすぐ月末で忙しさがピークだ。下手すると帰れない。月末はしばらくはご飯大丈夫ってお伝えしたけど、そろそろ怪しいからなぁ。明後日、いや3日後くらいからお断りしようかな……うう、吉崎さんのご飯……
なんて思いながらその誰か後ろを距離を取りつつ通り過ぎようとしたまさにその時。

「おい」

そんな低い声と共に手首を掴まれる。
声上げるべき?なんて思っている間に、壁に体を押し付けられて口を塞がれた。
ちょうど街灯を背にされて逆光で男の顔が見えない。

「今から俺の質問に答えろ。はいなら頷け。いいな?」

パッと浮かんだのは、もちろん吉崎さん関係。まさか潜伏先ってバレたんですか吉崎さん!
けどそんなこと物理的にも言えるわけもなく、私はとりあえず指示通り頷いた。
男は不機嫌そうにため息をつく。
どうしようこれ。今のところ包丁とかそういうのは使われてないけど、もし下手なことしたら……
東京湾にドボン?コンクリート?どっかに売られる……?最後のは下手なブラック企業よりマシかな。

「吉崎って男、知ってるか?」

う、ド直球。
うっかり頷きそうになるのをぐっと堪えて首を横に振る。知ってるけど、確かに存じ上げておりますけども、知らないですって通す方がいいと思う。
無関係でありたいのは事実だし。ご飯は魅力的だけど!胃袋は無関係でいたくないけど!

「この辺で、人相の悪い男見たことあるだろ」

人相は悪いですね。おかげで取引先の強面クソ……じゃない。強面のおじさんに対して耐性付きました。吉崎さん見慣れるとあのクソオヤジも全然怖くない。

「はっきりしろ。頷け」

頷けって言われて頷いたらそれはどうなるんだろ。気になるところだけど首を横に振って否定する。
男は舌打ちをした。

「佐伯梓、お前の横に住んでる男は誰だ」

んん?そこまでご存知なら私捕まえる必要ありませんよね!?というかその質問、はいかいいえで答えられませんけど?

「頭のオンナなんだろ」

お、オンナっ?んなわけないでしょう!ブンブン勢いよく首を振った。おそらく今日一番の振りっぷりだ。
心臓がめちゃくちゃうるさい。男の声聞こえないくらいうるさい。

「バレバレの嘘吐くんじゃねぇよ」

男の声が怒気を帯びる。いや、知らない云々は嘘だけど、オンナではない。誓って!
これはまずい。どうしよう……

「何してんだ!」

そんな声と共に吉崎さんがダッシュ一歩手前みたいな速度で近付いてきて、男の首を掴んだ。
私の口を塞いでいた手を離し、男は苦しげに呻きながら吉崎さんの方を見る。

「ど、どうして出てきちゃったんですか!」

一応黙ってたのに。まあ、バレバレって言われちゃったけど。

「あのな嬢ちゃん、その言い方だと完全に関係者だろ」

確かに。

「……頭、ようやく見つけましたよ」

文字通り首根っこを掴まれた男は吉崎さんを見て薄く微笑む。

「犬並みに鼻の利くお前にしては、遅かったな」
「さすがに人間の臭い辿るのは無理ですよ。俺はそこまで変態じゃありません」

うん。さすがに人間の臭い辿れたら相当だと思う。凄いを通り越して怖い。

「俺が辿ったのは頭のおでんの匂いですよ」

……大差無い!
え、確かに昨日はいい匂い漂わせてたとは思うけど、わかるものなの!?多少差はあると思うけど、普通わかる?
っていうか、おでんって……
私は吉崎さんが掴んでる男の人の顔を見る。街灯に照らされたその顔には見覚えがあった。

「昨日の、お巡りさん……?」

え、この人警察の人なの?正直言って顔は一緒だけど表情は別人だよ?むしろよくわかったね私!

「たまたまこの辺り歩いてたらおでんの匂いがしましてね。すぐ頭のだってわかりましたよ」

おでんの匂いで判別って……ちょっと怖いんですけど。
なんだろうこの人からは普通のヤバい人とは違うヤバさを感じる。

「このアパートってのはわかったんですが、さすがに全部の部屋に押し入るわけにはいきませんからね。夕方に全部の部屋に警察イヌのフリして当たったんですが、全部ハズレか留守。残ってたのがこの女とその横の部屋、右下の部屋だったってわけです」

平日の夕方に私が部屋にいるわけないですもんね。

「……あれ?じゃあ吉崎さんの部屋も一度は訪問してるんですよね」

吉崎さんが居留守使ったとしても、少なくともこの人がこの辺りにいることはわかるよね。でも吉崎さんのさっきの反応は、この辺りにいることを今知ったって感じだった。

「いや、出てねぇし確認もしてねぇ。ドアスコープってな、覗かれてるかどうかものによっちゃわかるんだ」

人が来るなら連絡をあらかじめもらうから、それ以外の来客は完全に留守に見せるために見てすらいないとのこと。徹底してる。

「でもこの女の部屋とその横が一番匂い的に怪しいとは思ったんですよね。だから昨日の夜、この女の部屋から頭のおでんの匂いしたときは驚きましたよ。一緒に住んでるくせに頭のオンナじゃねぇなんて……」
「いやいや、一緒に住んでませんよ?」

あとオンナじゃないです。
壁をぶち抜かれてしまったから部屋が繋がっちゃってるだけです。

「……は?」

うん。まあそういう反応になりますよね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...