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ヤクザさんとおでん4
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次の日の夜。終電になっちゃったなぁと思いながらアパートの前に着いたら、誰かがアパートの前に立っているのが目に入った。でも疲れてたから気にしないでおこう。不審者だとしても、私のような見るからに枯れた女に用はあるまい。
あー、私の部屋電気付いてる。吉崎さん、また待っててくれたのかな。
もうすぐ月末で忙しさがピークだ。下手すると帰れない。月末はしばらくはご飯大丈夫ってお伝えしたけど、そろそろ怪しいからなぁ。明後日、いや3日後くらいからお断りしようかな……うう、吉崎さんのご飯……
なんて思いながらその誰か後ろを距離を取りつつ通り過ぎようとしたまさにその時。
「おい」
そんな低い声と共に手首を掴まれる。
声上げるべき?なんて思っている間に、壁に体を押し付けられて口を塞がれた。
ちょうど街灯を背にされて逆光で男の顔が見えない。
「今から俺の質問に答えろ。はいなら頷け。いいな?」
パッと浮かんだのは、もちろん吉崎さん関係。まさか潜伏先ってバレたんですか吉崎さん!
けどそんなこと物理的にも言えるわけもなく、私はとりあえず指示通り頷いた。
男は不機嫌そうにため息をつく。
どうしようこれ。今のところ包丁とかそういうのは使われてないけど、もし下手なことしたら……
東京湾にドボン?コンクリート?どっかに売られる……?最後のは下手なブラック企業よりマシかな。
「吉崎って男、知ってるか?」
う、ド直球。
うっかり頷きそうになるのをぐっと堪えて首を横に振る。知ってるけど、確かに存じ上げておりますけども、知らないですって通す方がいいと思う。
無関係でありたいのは事実だし。ご飯は魅力的だけど!胃袋は無関係でいたくないけど!
「この辺で、人相の悪い男見たことあるだろ」
人相は悪いですね。おかげで取引先の強面クソ……じゃない。強面のおじさんに対して耐性付きました。吉崎さん見慣れるとあのクソオヤジも全然怖くない。
「はっきりしろ。頷け」
頷けって言われて頷いたらそれはどうなるんだろ。気になるところだけど首を横に振って否定する。
男は舌打ちをした。
「佐伯梓、お前の横に住んでる男は誰だ」
んん?そこまでご存知なら私捕まえる必要ありませんよね!?というかその質問、はいかいいえで答えられませんけど?
「頭のオンナなんだろ」
お、オンナっ?んなわけないでしょう!ブンブン勢いよく首を振った。おそらく今日一番の振りっぷりだ。
心臓がめちゃくちゃうるさい。男の声聞こえないくらいうるさい。
「バレバレの嘘吐くんじゃねぇよ」
男の声が怒気を帯びる。いや、知らない云々は嘘だけど、オンナではない。誓って!
これはまずい。どうしよう……
「何してんだ!」
そんな声と共に吉崎さんがダッシュ一歩手前みたいな速度で近付いてきて、男の首を掴んだ。
私の口を塞いでいた手を離し、男は苦しげに呻きながら吉崎さんの方を見る。
「ど、どうして出てきちゃったんですか!」
一応黙ってたのに。まあ、バレバレって言われちゃったけど。
「あのな嬢ちゃん、その言い方だと完全に関係者だろ」
確かに。
「……頭、ようやく見つけましたよ」
文字通り首根っこを掴まれた男は吉崎さんを見て薄く微笑む。
「犬並みに鼻の利くお前にしては、遅かったな」
「さすがに人間の臭い辿るのは無理ですよ。俺はそこまで変態じゃありません」
うん。さすがに人間の臭い辿れたら相当だと思う。凄いを通り越して怖い。
「俺が辿ったのは頭のおでんの匂いですよ」
……大差無い!
え、確かに昨日はいい匂い漂わせてたとは思うけど、わかるものなの!?多少差はあると思うけど、普通わかる?
っていうか、おでんって……
私は吉崎さんが掴んでる男の人の顔を見る。街灯に照らされたその顔には見覚えがあった。
「昨日の、お巡りさん……?」
え、この人警察の人なの?正直言って顔は一緒だけど表情は別人だよ?むしろよくわかったね私!
「たまたまこの辺り歩いてたらおでんの匂いがしましてね。すぐ頭のだってわかりましたよ」
おでんの匂いで判別って……ちょっと怖いんですけど。
なんだろうこの人からは普通のヤバい人とは違うヤバさを感じる。
「このアパートってのはわかったんですが、さすがに全部の部屋に押し入るわけにはいきませんからね。夕方に全部の部屋に警察のフリして当たったんですが、全部ハズレか留守。残ってたのがこの女とその横の部屋、右下の部屋だったってわけです」
平日の夕方に私が部屋にいるわけないですもんね。
「……あれ?じゃあ吉崎さんの部屋も一度は訪問してるんですよね」
吉崎さんが居留守使ったとしても、少なくともこの人がこの辺りにいることはわかるよね。でも吉崎さんのさっきの反応は、この辺りにいることを今知ったって感じだった。
「いや、出てねぇし確認もしてねぇ。ドアスコープってな、覗かれてるかどうかものによっちゃわかるんだ」
人が来るなら連絡をあらかじめもらうから、それ以外の来客は完全に留守に見せるために見てすらいないとのこと。徹底してる。
「でもこの女の部屋とその横が一番匂い的に怪しいとは思ったんですよね。だから昨日の夜、この女の部屋から頭のおでんの匂いしたときは驚きましたよ。一緒に住んでるくせに頭のオンナじゃねぇなんて……」
「いやいや、一緒に住んでませんよ?」
あとオンナじゃないです。
壁をぶち抜かれてしまったから部屋が繋がっちゃってるだけです。
「……は?」
うん。まあそういう反応になりますよね。
あー、私の部屋電気付いてる。吉崎さん、また待っててくれたのかな。
もうすぐ月末で忙しさがピークだ。下手すると帰れない。月末はしばらくはご飯大丈夫ってお伝えしたけど、そろそろ怪しいからなぁ。明後日、いや3日後くらいからお断りしようかな……うう、吉崎さんのご飯……
なんて思いながらその誰か後ろを距離を取りつつ通り過ぎようとしたまさにその時。
「おい」
そんな低い声と共に手首を掴まれる。
声上げるべき?なんて思っている間に、壁に体を押し付けられて口を塞がれた。
ちょうど街灯を背にされて逆光で男の顔が見えない。
「今から俺の質問に答えろ。はいなら頷け。いいな?」
パッと浮かんだのは、もちろん吉崎さん関係。まさか潜伏先ってバレたんですか吉崎さん!
けどそんなこと物理的にも言えるわけもなく、私はとりあえず指示通り頷いた。
男は不機嫌そうにため息をつく。
どうしようこれ。今のところ包丁とかそういうのは使われてないけど、もし下手なことしたら……
東京湾にドボン?コンクリート?どっかに売られる……?最後のは下手なブラック企業よりマシかな。
「吉崎って男、知ってるか?」
う、ド直球。
うっかり頷きそうになるのをぐっと堪えて首を横に振る。知ってるけど、確かに存じ上げておりますけども、知らないですって通す方がいいと思う。
無関係でありたいのは事実だし。ご飯は魅力的だけど!胃袋は無関係でいたくないけど!
「この辺で、人相の悪い男見たことあるだろ」
人相は悪いですね。おかげで取引先の強面クソ……じゃない。強面のおじさんに対して耐性付きました。吉崎さん見慣れるとあのクソオヤジも全然怖くない。
「はっきりしろ。頷け」
頷けって言われて頷いたらそれはどうなるんだろ。気になるところだけど首を横に振って否定する。
男は舌打ちをした。
「佐伯梓、お前の横に住んでる男は誰だ」
んん?そこまでご存知なら私捕まえる必要ありませんよね!?というかその質問、はいかいいえで答えられませんけど?
「頭のオンナなんだろ」
お、オンナっ?んなわけないでしょう!ブンブン勢いよく首を振った。おそらく今日一番の振りっぷりだ。
心臓がめちゃくちゃうるさい。男の声聞こえないくらいうるさい。
「バレバレの嘘吐くんじゃねぇよ」
男の声が怒気を帯びる。いや、知らない云々は嘘だけど、オンナではない。誓って!
これはまずい。どうしよう……
「何してんだ!」
そんな声と共に吉崎さんがダッシュ一歩手前みたいな速度で近付いてきて、男の首を掴んだ。
私の口を塞いでいた手を離し、男は苦しげに呻きながら吉崎さんの方を見る。
「ど、どうして出てきちゃったんですか!」
一応黙ってたのに。まあ、バレバレって言われちゃったけど。
「あのな嬢ちゃん、その言い方だと完全に関係者だろ」
確かに。
「……頭、ようやく見つけましたよ」
文字通り首根っこを掴まれた男は吉崎さんを見て薄く微笑む。
「犬並みに鼻の利くお前にしては、遅かったな」
「さすがに人間の臭い辿るのは無理ですよ。俺はそこまで変態じゃありません」
うん。さすがに人間の臭い辿れたら相当だと思う。凄いを通り越して怖い。
「俺が辿ったのは頭のおでんの匂いですよ」
……大差無い!
え、確かに昨日はいい匂い漂わせてたとは思うけど、わかるものなの!?多少差はあると思うけど、普通わかる?
っていうか、おでんって……
私は吉崎さんが掴んでる男の人の顔を見る。街灯に照らされたその顔には見覚えがあった。
「昨日の、お巡りさん……?」
え、この人警察の人なの?正直言って顔は一緒だけど表情は別人だよ?むしろよくわかったね私!
「たまたまこの辺り歩いてたらおでんの匂いがしましてね。すぐ頭のだってわかりましたよ」
おでんの匂いで判別って……ちょっと怖いんですけど。
なんだろうこの人からは普通のヤバい人とは違うヤバさを感じる。
「このアパートってのはわかったんですが、さすがに全部の部屋に押し入るわけにはいきませんからね。夕方に全部の部屋に警察のフリして当たったんですが、全部ハズレか留守。残ってたのがこの女とその横の部屋、右下の部屋だったってわけです」
平日の夕方に私が部屋にいるわけないですもんね。
「……あれ?じゃあ吉崎さんの部屋も一度は訪問してるんですよね」
吉崎さんが居留守使ったとしても、少なくともこの人がこの辺りにいることはわかるよね。でも吉崎さんのさっきの反応は、この辺りにいることを今知ったって感じだった。
「いや、出てねぇし確認もしてねぇ。ドアスコープってな、覗かれてるかどうかものによっちゃわかるんだ」
人が来るなら連絡をあらかじめもらうから、それ以外の来客は完全に留守に見せるために見てすらいないとのこと。徹底してる。
「でもこの女の部屋とその横が一番匂い的に怪しいとは思ったんですよね。だから昨日の夜、この女の部屋から頭のおでんの匂いしたときは驚きましたよ。一緒に住んでるくせに頭のオンナじゃねぇなんて……」
「いやいや、一緒に住んでませんよ?」
あとオンナじゃないです。
壁をぶち抜かれてしまったから部屋が繋がっちゃってるだけです。
「……は?」
うん。まあそういう反応になりますよね。
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