お隣さんはヤのつくご職業

古亜

文字の大きさ
上 下
28 / 67

ヤクザさんとおでん2

しおりを挟む
お風呂掃除を終えて戻ってきたら、テーブルの上にグツグツと煮えるおでんが堂々と鎮座していた。
その横には千切りにしたキャベツの胡麻和えと焼きナスが。おでんだけでも十分嬉しいのにさらに2品も。

「やっぱり頭の料理は美味そうだな」

小原さんが嬉しそうにテーブルの端に座る。私もおでんを前に正座した。

「お前の分の玉子ねぇからな」
「そこはちゃんと我慢します」
「あ、半分ずつしますか?」
「嬢ちゃん、あんまりこいつを甘やかすな」

別に甘やかしてるつもりはありませんけど……あ、小原さんちょっと残念そう。小原さんを見ているとどうも犬っぽいなと思ってしまう。犬というか、お腹空かしたわんこ?見た目完全に借金取りの怖いお兄さんなのに。

「にしてもおでんですか。あいつ思い出しますね」
「あいつ?」
「ウチの組、犬みたいなやつがいるんだよ」
「え、自覚あったんですか小原さん」
「……は?」

しまった。ちょうど考えてたからつい……

「ええと、なんですかあの白いふわふわしたの」

誤魔化そう。そうだそれがいい。
小原さんは怪訝そうに私を見つつ、ちらっと鍋を確認する。

「はんぺんだろ」
「はんぺんって練り物じゃないんですか?」
「練り物だぞ」
「いや、私の知ってるはんぺんは茶色い……」
「茶色?はんぺんは白だろ」

小原さんは不思議そうに言う。どういうことだろう。

「地域差あるからな。嬢ちゃん、出身どこだ」
「名古屋ですけど」
「え、じゃあ味噌か?味噌で茶色いだけじゃねぇの?」
「いえ、家のおでんは普通に出汁でしたけど……あ、でも大根とかは味噌つけて食べます」
「これに味噌付けるのか?確かに何にでも味噌とか小豆乗せてるイメージあるが」

いや、なぜここで小豆。さすがにおでんには乗せませんからね?
にしても、そうか地域差か。あんまり意識してなかったな。わざわざ外でおでん食べたりしないし。

「じゃあこれ嬢ちゃんには味濃いかもしれねぇな」
「あ、確かに汁の色濃いですね」
「濃いのかこれ」
「そういえばうどんの汁もこんな感じなような……甘辛いんですか」
「そういや西の方行った時にコンビニの食ったら物足りなかったな」
「関東風と関西風とあるからな。嬢ちゃん家は関西風だったんだろ」

なんだろう。こののほほんとしたおでん談義。まさかヤクザさんたちとおでんの地域差について話す日が来るとは。
とりあえず犬云々については誤魔化せたし食べようかな。おでんの話で小原さんの注意は完全におでんに向かっていた。
吉崎さんがおたまを鍋に入れて箸を手に取ったから、私も箸を取る。

「いただきます」

私が手を合わせると、2人も倣うようにして手を合わせる。小原さんもいただきますってする人だったんだ。ちょっと意外。見かけで判断しちゃダメだね。

「うわ、すごいふわふわしてる……」

とりあえず話題にのぼったはんぺんとやらをチョイスしてみる。けっこう一切れ大きくないですかこれ。しかもふわふわしててつかみどころがない。
味の想像がつかない。まあ、食べてみればわかるかな。
見るからに熱そうだから、箸で切って一口サイズにする。ふわふわしてるけど、確かに練り物っぽさがあった。

「へえ……味染みてて美味しいですね」

ふわふわなだけあって、甘辛い出汁が染み込んでてそれが溢れてくる。
にしても、汁の味が家のとは全然違うなぁ。でもこれはこれで美味しい。さすがにこれに味噌はつけない。
けっこうはんぺんが大きいから残して次の具材へ。やっぱりここは王道の大根だよね。
ああ、大根おたまですくったら柔らかいのか横にいた大根を削ってしまった。ごめんなさい。でもすごく美味しそうなのはわかった。
器に移した大根に箸を入れる。綺麗にぱかっと割れて、出汁が染み込んでる黄金色の部分が内側まで広がっていた。中心の方に少し白っぽい部分が残ってるけど、むしろそれも嬉しい。
口に入れるとほろほろ解けて、出汁の旨味が広がる。中心の方に残る大根の風味と食感もたまらない。
次いで取った玉子も、半分に割って黄身に出汁を染み込ませると……あー、美味しい。なんで黄身ってこうも合うんだろ。丼ものとか汁物とか、とりあえず玉子乗せとけば正解ってとこあるよね。

「美味いですね。頭の料理食えるとか、走り回って情報集めてきた甲斐がありました」
「じゃあ明日は倍走れ」
「明日もこの時間に報告に来ていいってことですか」
「お前は飯食ってから来い」
「別腹です」

うーん、この短時間でなんとなく小原さんという人のことがなんとなくわかった気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お客様はヤの付くご職業・裏

古亜
恋愛
お客様はヤの付くご職業のIf小説です。 もしヒロイン、山野楓が途中でヤンデレに屈していたら、という短編。 今後次第ではビターエンドなエンドと誰得エンドです。気が向いたらまた追加します。 分岐は 若頭の助けが間に合わなかった場合(1章34話周辺) 美香による救出が失敗した場合 ヒーロー?はただのヤンデレ。 作者による2次創作的なものです。短いです。閲覧はお好みで。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

そんな事言われても・・・女になっちゃったし

れぷ
恋愛
 風見晴風(はるか)は高校最後の夏休みにTS病に罹り女の子になってしまった。  TS病の発症例はごく僅かだが、その特異性から認知度は高かった。 なので晴風は無事女性として社会に受け入れられた。のは良いのだが  疎遠になっていた幼馴染やら初恋だったけど振られた相手などが今更現れて晴風の方が良かったと元カレの愚痴を言いにやってくる。  今更晴風を彼氏にしたかったと言われても手遅れです? 全4話の短編です。毎日昼12時に予約投稿しております。 ***** この作品は思い付きでパパッと短時間で書いたので、誤字脱字や設定の食い違いがあるかもしれません。 修正箇所があればコメントいただけるとさいわいです。

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...