お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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お弁当と微笑みと2

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今日は有以子が外回りでいないので、休憩室で一人でお弁当を広げていた。
相変わらず吉崎さんのお弁当は、そのセンスを良い意味で疑いたくなる。
俵型のおにぎりが一列に寝かせるようにして並べられていて、その手前にはきんぴらやおひたしといったおかずが同じく一列に並んで彩りを添えている。詰め方がいちいちお洒落だ。同じ材料を与えられても私が詰めたら絶対にこうはならない。
そして味は間違いなく美味しい。きんぴらはごぼうやにんじんの食感がちゃんと残ってて、ご飯に合うように味もちょっと濃いめ。ふわふわのつくねには細かく刻んだレンコンが入っていて食感も楽しい。
朝から佐々木さんに会ったり仕事も相変わらずの作業の繰り返しで色々あったけど、とりあえずこのお昼の時間は唯一の癒し……のはずだったのに。

「ねえ佐伯さん、ここ座っていい?」
「お話するの久しぶりね」
「え……はい、どうぞ……」

私の部署のお姉様方、その筆頭の片山さんと、そのの戸川さんだった。

他に席は空いてる。なぜわざわざ私の前に……察しはついてるけど。
頑張って笑顔を維持して、私は食べるペースをちょっと早めた。食べ終わったらさっさと仕事に戻ろう。ああ、せっかくの美味しいお弁当をあまり味わえない……

「そう言えば片山さん聞いた?」
「何を?」

二人はどこかで買ってきたらしいお洒落なサラダとパンを広げて、噂話に花を咲かせていた。
隣の部署の人の発注ミスについて、芸能人のゴシップについて、とにかくいろんな噂話。

「違うフロアの会社の子なんだけど、今朝佐々木君が誰かと歩いてるの見たんだって」
「ああ、あれうちの会社の人らしいけど」
「そうなの?佐伯さん確か駅は一緒だよね?知らない?」

嫌な予感、的中しちゃったよ……
え、それ私ですって言っとくべき?いや、自らそれ言うって面倒くさくなること間違いなしだよね
ああでも、わかった上でこれやってるのか。

「私です」
「ええ、そうなの?」

わざとらしい反応。やっぱりこの2人は知っててやってるな。ああ、タチが悪い。

「それならそうと言ってくれればいいのに。何で言ってくれなかったの?」
「そんな隠すことじゃないでしょう。それとも、隠したかったのかしら」
「別に隠すとかそんなつもりありませんよ。今朝たまたま駅で会ったから少しお話はしましたけど、コンビニに用事があったのですぐ別れましたし」

なんでわざわざこんなことを言わなければならないんだろう。佐々木さんを言いなって思う気持ちはわかるけど、なんでこうなるかな。
何を喋ったのかとか片山さんたちに話す義務ないと思う。でも表面上だけでも素直に受け答えしとかないと、妙に勘繰られるのは嫌だ。

「私は別に、佐々木さんのことをどうこう思ったりしてませんから」
「え、なあにその言い方?まるで私たちが佐伯さんをやっかんでるみたいじゃん」

いや、嫉妬でしかないでしょう。言い返したいけど、こんなことで仮にも上司のこの二人を敵に回したくないし……

「それよりも佐伯さん、最近弁当作りに凝ってるって聞いたけど、確かに弁当可愛いね」
「そうそう。佐伯さんには勿体ないくらい可愛い弁当だって思ってたの」

確かにわたしには絶対に作れないようなお弁当だけど、なんでここまで言われなきゃいけないの?
机の下に下ろしていた手を握りしめてグッと堪える。今日はたまたまこの二人に絡まれただけだ。明日も駅で佐々木さんと会うなんてことはないから、今日のこれを乗り切れば大丈夫。

「映えってやつ?フォローするからアカウント名とか教えてくれる?」
「わざとらしいくらい狙ってるお弁当だよね」
「こんなお弁当作る余裕があるって羨ましいわぁ」

……うるさい。
ああ、なんで私はこんなにイライラしてるんだろう。美味しいはずのお弁当なのに、食べても味がしない。

「でもまあ見た目だけでしょう?今は冷凍食品も色々あるもんね」
「美味しそうだけど、いかにもって感じ」

そっか、吉崎さんの作ってくれたお弁当を馬鹿にされたからだ。

「……そんなのじゃありません」

声を荒げないように、出来るだけ落ち着いて声を出す。

「ちゃんと、手作りです。見た目だけなんて言わないでください。お昼休みは数少ない癒しの時間なんです。それをいいものにしたいだけです」

吉崎さんのお弁当やご飯のおかげでこのところ食事の時間は私の楽しみになっていた。せっかくだから美味しく食べたいし、そうしようとしていたのに。

「……まるで私が佐伯さんの楽しいお昼休みの邪魔したみたいじゃん」
「手作りですって、わざわざアピールする必要ある?」
「そんなつもりはないです。私はただ……」
「いいって、別に気にしないから。ごめんなさいね邪魔しちゃって」
「そうそう、あそこの机空いてるし移動するから、一人でゆっくりどうぞ」

どんよりと淀んだ空気を残して、片山さんたちは違う机に移動していった。そんなに広い休憩室じゃないから、他の人たちが少し哀れむようにしてこちらを見ていたことに今更気づいた。
変に同情されるくらいなら、見ないふりでもして無視される方がよっぽどいい。
……嫌な日だなぁ。
私はそっとため息をついて、残りのお弁当を掻き込むようにして食べた。
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