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ヤクザさんのお弁当3
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「お弁当、ありがとうございました。会社の先輩にも褒められちゃいました」
なんだかもう当たり前になったエプロン姿の吉崎さんにお弁当箱の包みを渡した。
お弁当箱は食べた後に洗って返そうと思ったけど、洗った後はちゃんと乾かさなきゃいけないらしくて断念した。私のせいでカビが生えたりしたら申し訳ないし。
「その方がいい。洗おうとしてくれたんなら気持ちだけで十分だ」
そう言って吉崎さんは空のお弁当箱を受け取って、自分の部屋に戻っていった。
吉崎さんがいなくなった台所のコンロで温かそうなコンソメスープが煮えている。机の上には既に取り皿やお箸が用意されていた。
私にできそうなお手伝い要素はなさそうだったので、吉崎さんが戻ってくるまで私は荷物を片付けたりメールのチェックをする。
やがて戻ってきた吉崎さんは大きなお皿を机の真ん中に置く。その上に乗っていたのはまん丸としたオムレツだった。
できたてのほかほかとした湯気を立てているオムレツは、中にベーコンや野菜がゴロゴロ入っていて、ケーキみたいに切り分けられていた。
なんだか小洒落たパーティ料理みたいでテンションが上がる。
さらに鶏肉と野菜のトマト煮込みがその横に並んだ。
ああもう、美味しそうっ!
じっと眺めていたらスープをよそっておいてくれと言われたので、私は喜んでよそいにいく。
吉崎さんが白いご飯をよそってきてくれて、夕飯が揃った。
「いただきます!」
「……いただきます」
食材、ならびに吉崎さんに感謝を込めて手を合わせる。
オムレツふわふわ。鶏肉もトマトの味が染み込んでぷりっぷり……だめだ。箸が止まらない。
「そうだ、お弁当の事なんですけど、どうしたのかって言われて自分で作ったって言っちゃったんですが、よかったですか?」
オムレツが半分くらいに減ったところで、私はふと今日のことを思い出した。
作ってもらったのにまるで自分のことみたいに言ってしまって申し訳ない。
「俺は気にしねぇよ。むしろ事実を言われる方が迷惑だ」
そうですよね。お隣さんがヤクザさんで、緊急避難場所を提供する代わりにごはん作ってもらってます。なんて言えるわけがない。そもそも信じてすらもらえない気がするけど。
「私にあのクオリティのお弁当作れるわけがないんですけどね……」
「料理できる女認定されてよかったじゃねぇか。まあ、実際は違うけどな」
そう言って吉崎さんは笑った。面白がってる風の笑い方だ。
そうですよ。実際は野菜を切るのすら危ういですよ。できるようになっとかないとなって、言われなくてもわかってます!
「会社に持っていたお弁当第一弾があれですからね。本当に自分で作ったのを持ってったら、うう……ドン引かれます」
「詰めるだけだろ」
「簡単そうに言いますけど、センスって大事だと思うんです」
ん?ということは今日のお弁当は吉崎さんのセンス……ええ、吉崎さん絶対就職先間違ってますって。今からでも遅くないです。どこかの料亭に修行しに行きましょうよ。板前とか料理長とかだったら、吉崎さんみたいな強面でもむしろいける気がします。
「俺、一応組長なんだが」
「そうですけど、吉崎さんの腕前ならお客様入れ食い状態です。経営難とかの心配はいらないと思います。なんなら私が通いますよ!」
さすがに毎日は無理ですけど、吉崎さんのお料理から離れるの寂しい。そうだ、いっそそうして頂けたら、いつでも食べられる!?
「もしそうなったら、有以子とか佐々木さんにお店紹介しますよ。ちゃんとお客様連れてきます」
「いや、別に他に客は……佐々木?」
ああ、そっか。佐々木さんのこと話すの初めてだっけ。有以子とかムカつく上司についてはちらほら喋ってるけど。
「会社の先輩です。微笑み王子なんて呼ばれてて、すっごくモテるんですよ」
そう言ったら、吉崎さんが微妙な顔をした。すぐ元に戻ったけど、なんだったんだろう。
「あ……いや、お前に上司以外の男の知り合いがいたのかと思ってな」
「佐々木さんは私の教育係もしてくださったので、上司みたいな人ですよ……あ、私みたいな女子もどきに男の知り合いなんていないと思ってたんですか」
失礼な。確かに男友達と呼べるくらいの間柄の異性はいませんけど、私にだって最低限のコミュニケーションくらいとれます!
「いや、さすがにそこまでは思ってねぇよ。なんだ、まさかそいつのこと好きなのか?」
「まさか、佐々木さんはみんなの王子様ですよ」
冗談めかして言われて、本気で尋ねられたわけじゃない。だからさらっと流そうとしたのに、じっと見つめられて急に恥ずかしくなった。
「あ……いや、まあ……少しは……」
なぜか言わなきゃと思ってしまって、正直に言ってしまう。有以子以外に話すの始めてで、変に緊張した。
吉崎さんの反応を伺うと……なぜか驚いた顔を。私に密かにとはいえ好きな人がいたの、そんなに驚きですか。
というか聞いてきたのそっちでしょう。
----------
無意識な上げて落とすスタイル。ごめんなさい吉崎さん。
なんだかもう当たり前になったエプロン姿の吉崎さんにお弁当箱の包みを渡した。
お弁当箱は食べた後に洗って返そうと思ったけど、洗った後はちゃんと乾かさなきゃいけないらしくて断念した。私のせいでカビが生えたりしたら申し訳ないし。
「その方がいい。洗おうとしてくれたんなら気持ちだけで十分だ」
そう言って吉崎さんは空のお弁当箱を受け取って、自分の部屋に戻っていった。
吉崎さんがいなくなった台所のコンロで温かそうなコンソメスープが煮えている。机の上には既に取り皿やお箸が用意されていた。
私にできそうなお手伝い要素はなさそうだったので、吉崎さんが戻ってくるまで私は荷物を片付けたりメールのチェックをする。
やがて戻ってきた吉崎さんは大きなお皿を机の真ん中に置く。その上に乗っていたのはまん丸としたオムレツだった。
できたてのほかほかとした湯気を立てているオムレツは、中にベーコンや野菜がゴロゴロ入っていて、ケーキみたいに切り分けられていた。
なんだか小洒落たパーティ料理みたいでテンションが上がる。
さらに鶏肉と野菜のトマト煮込みがその横に並んだ。
ああもう、美味しそうっ!
じっと眺めていたらスープをよそっておいてくれと言われたので、私は喜んでよそいにいく。
吉崎さんが白いご飯をよそってきてくれて、夕飯が揃った。
「いただきます!」
「……いただきます」
食材、ならびに吉崎さんに感謝を込めて手を合わせる。
オムレツふわふわ。鶏肉もトマトの味が染み込んでぷりっぷり……だめだ。箸が止まらない。
「そうだ、お弁当の事なんですけど、どうしたのかって言われて自分で作ったって言っちゃったんですが、よかったですか?」
オムレツが半分くらいに減ったところで、私はふと今日のことを思い出した。
作ってもらったのにまるで自分のことみたいに言ってしまって申し訳ない。
「俺は気にしねぇよ。むしろ事実を言われる方が迷惑だ」
そうですよね。お隣さんがヤクザさんで、緊急避難場所を提供する代わりにごはん作ってもらってます。なんて言えるわけがない。そもそも信じてすらもらえない気がするけど。
「私にあのクオリティのお弁当作れるわけがないんですけどね……」
「料理できる女認定されてよかったじゃねぇか。まあ、実際は違うけどな」
そう言って吉崎さんは笑った。面白がってる風の笑い方だ。
そうですよ。実際は野菜を切るのすら危ういですよ。できるようになっとかないとなって、言われなくてもわかってます!
「会社に持っていたお弁当第一弾があれですからね。本当に自分で作ったのを持ってったら、うう……ドン引かれます」
「詰めるだけだろ」
「簡単そうに言いますけど、センスって大事だと思うんです」
ん?ということは今日のお弁当は吉崎さんのセンス……ええ、吉崎さん絶対就職先間違ってますって。今からでも遅くないです。どこかの料亭に修行しに行きましょうよ。板前とか料理長とかだったら、吉崎さんみたいな強面でもむしろいける気がします。
「俺、一応組長なんだが」
「そうですけど、吉崎さんの腕前ならお客様入れ食い状態です。経営難とかの心配はいらないと思います。なんなら私が通いますよ!」
さすがに毎日は無理ですけど、吉崎さんのお料理から離れるの寂しい。そうだ、いっそそうして頂けたら、いつでも食べられる!?
「もしそうなったら、有以子とか佐々木さんにお店紹介しますよ。ちゃんとお客様連れてきます」
「いや、別に他に客は……佐々木?」
ああ、そっか。佐々木さんのこと話すの初めてだっけ。有以子とかムカつく上司についてはちらほら喋ってるけど。
「会社の先輩です。微笑み王子なんて呼ばれてて、すっごくモテるんですよ」
そう言ったら、吉崎さんが微妙な顔をした。すぐ元に戻ったけど、なんだったんだろう。
「あ……いや、お前に上司以外の男の知り合いがいたのかと思ってな」
「佐々木さんは私の教育係もしてくださったので、上司みたいな人ですよ……あ、私みたいな女子もどきに男の知り合いなんていないと思ってたんですか」
失礼な。確かに男友達と呼べるくらいの間柄の異性はいませんけど、私にだって最低限のコミュニケーションくらいとれます!
「いや、さすがにそこまでは思ってねぇよ。なんだ、まさかそいつのこと好きなのか?」
「まさか、佐々木さんはみんなの王子様ですよ」
冗談めかして言われて、本気で尋ねられたわけじゃない。だからさらっと流そうとしたのに、じっと見つめられて急に恥ずかしくなった。
「あ……いや、まあ……少しは……」
なぜか言わなきゃと思ってしまって、正直に言ってしまう。有以子以外に話すの始めてで、変に緊張した。
吉崎さんの反応を伺うと……なぜか驚いた顔を。私に密かにとはいえ好きな人がいたの、そんなに驚きですか。
というか聞いてきたのそっちでしょう。
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無意識な上げて落とすスタイル。ごめんなさい吉崎さん。
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