お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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ヤクザさんのお料理講座3

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使った道具……といってもボウルと菜箸と包丁しかないけど、とりあえず洗い終わった。
その間に吉崎さんが次の料理に使う材料を用意してくれて……ん?キャベツ?のみ?

「ええと、サラダですか?」

私の貧弱な知識では切ってサラダにする以外の調理法が浮かばない。キャベツ単体をどうするつもりなんだろう。

「いや、冷凍保存する」
「……このまま?」
「意味ねぇだろそれだと。今んとこ冷蔵庫のスペースの大半占めてんのこれだからな。すぐ使えるように切ってから冷凍しとくんだ。冷凍庫はまだ余裕あんだろ?」

私は素直に頷いた。

「とりあえずざくっと切るか。四等分しろ」
「はい」

まな板にキャベツを乗せて包丁を持ったら、四等分の意味分かってるかと言われてしまった。さすがにそれくらいわかります。信用なさすぎないか私。
真ん中くらいに包丁を入れてざっくり半分に。そしてそれをまた半分……

「できました!」

どうだ!ちゃんとできましたよ!
思わず腰に手をあててしまう。吉崎さんはなぜかそうかそうかと言いながら軽く頭を叩いてきた。あれ?なんだろうこの子どものような扱いは。
吉崎さんもそれに気付いたのか「悪かった」と言いながら気まずそうに目を逸らす。すみませんね子どもっぽくて。

「一つはざく切りだ。まずは芯を切る。ああ、芯は捨てずに置いとけよ」

余すところ無く使うというやつですか。吉崎さんほんとに極道の方?主婦の間違いじゃなかろうか。

「外側と内側で葉の感じが違うから手で分ける。先に緑の方から切るか」

そのまま私は吉崎さんの指示通りにキャベツを分けて切っていった。
そうしてカットされたキャベツは、よくスーパーとかでカット済みで売られてるみたいな均等な状態になっていた。すごい、業者の人が切ったみたいだ。

「自分で切ったとは思えないです」
「そうか?まあ、よかったな。次はそれ洗って水気を拭き取る」

ざるに入れて洗ったキャベツの水気を、吉崎さんが差し出してくれたキッチンペーパーでよく拭き取ったら、フリーザーバッグに小分けにして入れる。空気を抜いて薄くしたそれを冷凍庫に入れた。

「……これだけですか」
「これだけだ。そのまま炒め物やなんかに使えるぞ」

吉崎さんの冷凍庫には常備してあるらしい。私の中で吉崎さんの主婦度がどんどん上がっていく。

「次は千切りだな」
「千切り……」

私の中でイケメンシェフがタタタッと軽快に包丁を動かしてキャベツを細く切っている映像が浮かんだ。憧れるなぁ、あれ。

「これも嬢ちゃんの場合は外側と内側で分けてからやれ」
「……私の場合はって、吉崎さんまさかあれできるんですか?」
「あれ?」
「すごく早いやつです」
「……ああ、そういうことか。ちょっと待ってろ」

そう言って吉崎さんはお隣の自分の部屋に戻っていき、包丁を持って戻ってくる。普通の形のじゃない、四角い感じのゴツいやつ。
正直なことを申し上げると、状況的にお隣からごっつい包丁持った強面ヤクザさんがやってくるわけなので、ちょっとビクってなった。

「これが一番やりやすい。普通の包丁でもできないことはないが、嬢ちゃんとこの包丁じゃ無理だ」

よく研いだ切れ味のいい包丁ならできる、と言って吉崎さんはタタタッっと、まさに私の想像した通りにキャベツを刻み始める。

「さすが、手慣れていらっしゃる……」
「……絶対勘違いしてるだろ。ヤクザ関係ねぇからな?」

う、考え読まれてる。すみませんヤクザさんすごいなぁって思いました。
そうしてる間に、綺麗な千切りキャベツがまな板の上に鎮座していた。私がやるよりいいんじゃないかな。千切りは、私やらなくても……あ、すみませんやります。
目線、怖かった。

「嬢ちゃんはゆっくりでいいから、やってみろ」

言われた通り、キャベツを切ってみる。
包丁は吉崎さんのお借りしてる。切れ味が全然違うよこれ。でも、実力が伴ってないの丸わかりだな……不恰好。斜めに入ったり、太かったり、細すぎたり。

「最初からうまくはできねぇよ」

わかりやすく落ち込んだ私を見て吉崎さんは苦笑すると、後ろから手を添えて切るのを手伝ってくれた。そのおかげで、半分以降はまあまあ綺麗に切れたと思う。

「塩で揉んで水洗いしたら、これも小分けにして冷凍庫に入れる。スープに入れたりコールスローやなんかにもできるぞ」
「へぇ……」

水をよく切って、フリーザーバッグに詰めていく。塩揉みしたからかキャベツ半玉分って量があると思ってたけど、けっこうコンパクトに収まった。

「残りの一つはどうするんですか?」
「みじん切りだ」

ここで、私は気付いた。だんだんと完成形の姿が細かくなっていってる。

「ああ、そうだ。包丁の扱いの練習からだろ嬢ちゃんの場合」

……仰る通りでございます。そういえばまだ火すら使ってなかった。

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料理講座、超初級です。
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