お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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吉崎さんサイド(壁に穴)

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ヘマをやらかした部下をどついた。
そしたら、壁に穴が空いた。
うっすい壁だとは思っていたが、まさかここまで脆いとはな。このアパートの建設業者、調べとくか。
問題は隣人だな。とりあえず詫びは入れとこう。
……そんなこんなで知り合った隣室の女、佐伯梓。
さすがに部屋が隣なので、生活のリズムはわかっていた。帰宅時間は大抵夜の9時過ぎ。下手すると終電か?という遅さ。それでも朝は7時半ごろに絶対出て行くという生活。職場ブラックなんだなというのは察していた。
しかしまあ、いくらなんでも年頃の若い女がカップ麺だけはねぇだろ、と棚を覗いたら、いつもそうなんだなとわかってしまった。
食生活はどうかと思うが、彼女の夕飯であるカップ麺が伸びたのは俺の責任ではあると思うので、前になんとなく調べたお好み焼きを試しに作ってやった。キャベツ追加して。
思えばあん時からもう俺は、彼女に惹かれ始めてたんだろうな。
初対面の、しかも男でヤクザの俺が作った料理なのにあんなにわかりやすく目を輝かせて、いただきますって……可愛すぎかよ。
そう。この時点で俺は彼女に負けたのだ。完敗だ。
お好み焼きっぽい何かが酒のアテになると感じたらしい彼女は何を思ったのか、冷蔵庫から缶ビールと缶チューハイを出して誘ってきた。
なぜか同席していた小原が物欲しそうにしているし、なによりこのアホっぽい隣人についてもう少し知りたいということもあって、俺は同意した。
しかし酒に誘っておいて、自分はさほど飲めないらしくビールひと缶開けたあたりから妙に饒舌になり始める。主に仕事の愚痴で。

「聞いてくださいよぉ。ウチの会社酷いんです。超ブラックですよあれ」
「そうか」
「勝手にタイムカード押されたの何回もあるし、絶対足りてないです人が!あと優しい人が!心の余裕が!」

しかしなぜだろう。延々と聞かされているのは愚痴なのに、なぜか不快ではない。あれか、話してる間に表情がコロコロ変わって面白いのか。
ちょっと一言返してやれば分かりやすく喜んだり拗ねたり。
最初は俺と彼女のやりとりに若干ハラハラしていた様子の小原も、だんだん酔いが回ってきたのか、上司を沈めるならどこがいいかという話題で盛り上がり始めた。

「東京湾なんてよく聞きますけど」
「でもなぁ、今はそんなにしねぇんだよな。海にポイは。どっちかというと細切れにしてから灰にして散布か」
「え、それ普通に散骨じゃないですか。自然に返してるだけじゃないですか。あんなの自然に返しちゃダメです」
「自然に返さねぇとすると、その灰で陶器でも作ってカチ割るとかか」
「その破片を海!ビーチグラス!」
「存外そうかもしれねぇな。ははっ」

おい、そいつが言ってんのほぼ実例だぞ。
そんなことを思いながら適当につまみを作って出していく。美味そうに食ってくれるので、作りがいがあってつい作りすぎた。
そして、飲ませすぎた。
追加で酒……秘蔵の日本酒を出した俺の責任でもあったな。
片付けが終わった後、小原は帰っていった。
それを上機嫌に見送った彼女はそのまま寝ようとした。さすがに明日も仕事ならシャワーくらい浴びろと説得し、なぜか俺が風呂を洗いちゃんと風呂に入れさせたんだが……俺はいったい何をしているんだ?
とりあえず動いている音がするから、湯船で沈んでいるということはないだろう。風呂に入れておいてなんだが、出てくるまで正直気が気じゃなかった。
出てきた彼女は布団にぶっ倒れて、そのまま寝た。
あまりに無防備すぎる彼女に対して変な気が起こる前に、俺は布団をかけて電気を消して、ひと通り確認を済ませて部屋を出る。
出る間際に見えた彼女の寝顔は、なんとも幸せそうだった。
壁のことがあるとはいえ、俺にここまでさせて自分は幸せそうに寝てるとか……解せねぇ。
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