お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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冷蔵庫が鳴いている

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「さて、何を作ろうかな……」

私は何ヶ月ぶりかに近所のスーパーに立ち寄り、買い物カートを押していた。
昨日と一昨日の出来事により、温かい食事の美味しさを思い出してしまった私は、たまには自分で何か作って食べようと、頑張って早く仕事を終わらせた。
まあそれでも閉店時間ギリギリなんだけどね。金曜日だからちょっと無理してもいいかなーと思ってめちゃくちゃ頑張ったんだけど、さすがブラッ……ゲホゲホッ!
……と、張り切って来たはいいけど、どうしよう。何を作るか全く決めてなかった。
とりあえず野菜だよね。野菜……野菜炒め?野菜といっても何を炒めるんだろう。
実家の夕飯の記憶を手繰り寄せる。確かもやしとニラと、小松菜?ほうれん草?キャベツとかの時もあったような……?そうだきのこも買おう。明日の夜は鍋とかにしたいなぁ。白菜も買っとこう。
思い浮かんだ野菜を手当たり次第にカゴに放り込んでいったら、カゴがいっぱいになった。あれ?こんなに食べきれるか?野菜炒めだけで終わりそう。1品は少なすぎるよね。
野菜以外にもお肉とか欲しい。とりあえず焼くだけのやつは……っと、下味付きの焼き肉発見。これにしよう。
あとは、汁物?味噌汁……うーん、一人暮らしでこのサイズ使いきれるのかな?お澄ましとかの方がいいか。しかし煮干しとか鰹節はよくわからないので、だしパックとやらを買ってみよう。
ティーバッグみたいに使える。ほうほう。



そんなこんなで買い物をしたら、私は両手にスーパーの袋を持って帰宅する羽目になった。

「重っ……でもこれで、しばらく買い物行かなくていいかな?」

たまに休憩を挟みつつアパートの階段を登りきった私は、玄関にどさっと買い物袋を置いてそのまま床に手をついた。

「ただいまぁ……んん?」

気のせいだろうか、なんだか懐かしい匂いがしたのだけど……って、部屋の電気付いてる!?

「よ、吉崎さんっ!?」

なんで今日もいるんですか!

「よお、嬢ちゃん。今日は早いな」
「頑張ったので……って、なんでまた私の部屋に」
「飯作りに来た」
「まあ見ればわかりますけど、なんでわざわざ……今日は材料買ってきたのに」

ボソッと言ったら、吉崎さんは目を見開いて私を凝視してきた。あの、怖いです。

「……嬢ちゃんが、買い物に行っただと?」

そんな驚くことですか。失礼な。

「一人で行ったのか」
「いや、何歳だと思ってるんですか。23です。買い物くらい一人で行けます」

馬鹿にされているんだろうか。いや、この感じだと、わりと本気で驚かれている。

「いや、偏食の嬢ちゃんのことだから、カップ麺かあるいはレトルトの買い込みだろ」
「偏食言わないでください。ちゃんと野菜です!」
「や、野菜だと……?」

なぜ一瞬ふらっとしたんですか!信じてないな。わかりましたよ見せますよ。今日に成果を!
私は玄関に置き去りにしていた袋を、吉崎さんに見せた。

「ほら、野菜です!」

重いけど頑張って胸くらいの高さに持ち上げる。
吉崎さんはさらに目を見開いて……爆笑した。

「ぶはっ……じ、嬢ちゃん、買いすぎだろ」
「ちゃんと余った分は冷蔵庫に入れますよ」
「一人暮らしが買う量じゃねぇ……」

確かに多い自覚はありますけど、ちゃんと食べます!お野菜は身体にいいんですから。
思わずムッとして睨んだら、吉崎さんは必死に口元を押さえて笑いを堪えた。でも堪えきれていらず、肩がふるふる震えている。

「ちょ、嬢ちゃん……試しにそれ全部冷蔵庫入れてみ」

あ、声が震えてる。完全に馬鹿にされている。入れてみせますよ。だってこの冷蔵庫、ほぼ空みたいなものですから、スペースは十分あります。
ある……はずでした。

「えー」

冷蔵庫が一瞬でいっぱいになった。主にキャベツと白菜、レタスで。
隙間埋めるみたいにしめじとかほうれん草は入ったけど、長ネギが、ニラが入らないっ……
私は右手に長ネギ、左手にカット済みのパイナップルを持って固まった。
でも実家だったら大抵これくらい冷蔵庫に入ってたような……
やがて、冷蔵庫がピーっと鳴った。

「あのなぁ嬢ちゃん、一人暮らしサイズの冷蔵庫にそんな入るわけねーだろ。頑張って入れてたみてぇだけど、ドアポケットのことも考えろ」

言われて冷蔵庫の扉を閉めてみたら、つっかえて閉まらなかった。キャベツで。

「えぇ……頑張って運んだのに……」
「嬢ちゃん結構アホだろ」
「……調理して減らす予定だったんです!」
「いや、溢れてる分を見ろ。1人で食い切る量じゃねぇだろ」

つっかえているキャベツひと玉、長ネギ、ヨーグルト、豆腐……などなど。うん、無理。

「……馬鹿ですか私」
「さっきから言ってるだろ」

認めてしまった。悔しいけど……自業自得すぎる。
冷蔵庫のサイズを把握できてなかった。どうしようこれ。

「仕方ねぇな。入らない分は俺の冷蔵庫に入れといてやるよ」
「うう、お願いします……」

罪のないお野菜やお肉を無駄にはしたくない。
吉崎さんは始終笑いながら行き場を失ったその子たちをお隣の部屋に連れて行った。
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