お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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お隣さんは吹き飛んだ

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カチッという音がして、お湯が沸いた。
こたつで突っ伏していた私は、それでハッと顔を上げる。
うう、今日も疲れた。
ひたすらパソコンとにらめっこして数字を入力。たまに電話対応。報告書書いて、その繰り返し。
これちゃんと残業代出るのかな。出なかったら……でも、今さらだしなぁ……
大きなため息をつきながら私はカップ麺の蓋を開けて、お湯を注いだ。
待つこと3分、洗い物がめんどくさいという理由から、買ってついてきた割り箸で麺をほぐして、さあ食べようというときに、それは起こった。
ドガッ、と凄まじい音がして、男の人が飛んできた。
え、どこから飛んできたのこの人!?っていうか、人が飛んでくるってなにっ!?

「……嘘でしょ」

私の住まい。家賃月4万円、ワンルームのアパートの壁に大穴が空いていた。いや、この場合もはや大孔。
ってか、このアパートの壁こんなに薄かったの!?
確かにお隣さんの生活音けっこう聞こえてたような……?でもわりと静かに生活してくださってたからか、気になったの最初の1週間くらいだったっけ。
そんなに静かだったお隣さんに、いったい何があったのっ?というか、この壁どうするのっ!?
大家さん旅行に行ってて羨まし……じゃなくて、しばらく不在。しかもこんな時間にこんなデカい音立てたら、近所迷惑!
お隣さんに事情を尋ねようにも、お隣さんらしき男の人は伸びてるし……いやほんと何があったのっ!?
というかお隣さん、なんだか格好はジャラジャラしてて、髪型もなんだかファンキーな感じ。お隣さん、こんな人だったの?

「あ、そうだとりあえず病院……」

信じ難いけど、お隣さんは自らの体で壁を突き破ったがためにこんなことになってるわけで、明らかに大丈夫じゃないですよね。

「救急車?スマホどこだっけ……」

カバンの中に入れっぱなしだったことを思い出して、私は衝撃で飛んでいったカバンに手を伸ばした。

「ぎゃっ!」

カバンの持ち手に手が届いたところで、壁の大穴からヌッと出てきた手に手首を掴まれていた。
ゴツゴツした男の人の手。そこから覗いた腕が、実にいい筋肉……って、この人が犯人っ!?
救急車の前に110番?いやでも手が掴まれてて電話できない……
さすがにこの音でアパートの住人の皆さんは異常に気付いたはず。叫べば警察くらい呼んでくれるかも。

「だ……」
「喋るな」

めちゃくちゃ威圧的な低い声。全身に鳥肌が立って、私は恐怖で口を閉じてしまった。
そうして大穴から顔を出したのは……えっと、ヤクザさん?
彫りの深い、目元とか特によく言えばきりりとした、悪く言えば目つきの悪いお顔。
浅黒い肌には二本の傷跡が走っていて、「歴戦の猛者」というワードが浮かんだ。よく見たら腕もなんか傷跡だらけ……

「こっちで処理する。嬢ちゃんは何もするな」
「で、でもここ私の部屋……ひっ!」

ちょっぴり反論しようとしたら、睨まれた。すみません黙ります。ごめんなさい。
私がカバンから手を離して縮こまったら、ヤクザらしき男の人は大穴から出てきて、倒れているお隣さんを部屋に引きずっていった。
その間、私はただただそれを眺めていた。
やがてお隣さんの姿は見えなくなる。

「……あ」

こたつの上に置かれたカップ麺。これ、何分経った?
割り箸が刺さったままで放置されていた中身を覗き込む。うん、汁が消えてるね。のびきってるね!
つまんだら麺が絡まってちぎれた。

「何してんだ?」
いつの間にか私の部屋に入ってきていた男が、無残な姿になったカップ麺をつつく私を見下ろしていた。
「ひぇっ!」

見知らぬ怖い顔の男に見下ろされる。威圧感半端無いんですけど。私、一応被害者だと思うんですよ。カップ麺も無駄になったし、被害者以外の何者でもないと思うんですよ。
なんでそんな、あなたの方が苛々していらっしゃるのでしょうか!?

「……若い女の夕飯がこれか?」
「そ、そうですけど……」

悪いですか。手抜きどころかお湯入れただけですけど、それが何か悪いのですか。まあのびのびと成長して、今は食べるべきか悩んでますが。お腹もそんなに空いてる感じしないし。

「毎日こうなのか?」
「え、まあ……のびましたけど」
「野菜は?」
「冷蔵庫に野菜ジュースあります……」

ん?答えたけど、野菜がなに!?
……まさか、なにかの隠語!?

「い、いえっ!そんなヤバいものうちの冷蔵庫にはありません!!」
「……なんか勘違いしてねぇか、嬢ちゃん」
「滅相も無いです!ここには何もありませんっ!」
「だから、勘違いすんなって」

男はため息をついてこたつの上に乗ったカップ麺を指差した。

「もっとちゃんとしたもん食え」
「……え?」
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