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そんなこんなで、私は今三島さんと同じベッドで寝ている。
壁ギリギリまで寄ればさほど邪魔にもならないはず。
目を閉じてお花畑とかビーチとか、とにかくリラックスできそうな景色を想像する。
色とりどりのお花、薔薇とかひまわりとか鈴蘭とかコスモスとか……あれ?ひまわりとコスモスって同時期に咲くっけ?いやいや、これイメージだから。大輪の花だってなんだっていいわけで。あ、でもラフレシアとか大輪だけどお花畑には絶対合わない。というか巨大化すると普通の花でも怖いかもしれない。巨大化といえば、駅前のバーガー屋さんでパティ3倍キャンペーンやってたような。あれもうハンバーガーというよりハンバーグにパンがおまけで付いてるようなもの……って、思考が変な方向に!
ついでに食べ物のこと考えたらお腹が空いてきた。そういえば夕ご飯食べ損ねてる。まあでも一晩くらい抜いたって……あっ。
お腹が、鳴った。
静かな寝室の中で、その音がやけに大きく聞こえた。三島さんに聞かれた?寝てる?お互い背中向けて寝てるから反応がわからない。
自分の家ならあるものちょっとつまむか、そもそも聞かれないからそのまま寝ればいいけど、ここ三島さんちだし……
そんなこと考えてたら、再び間の抜けた音が響いた。
ちょっと身体を折り曲げてお腹辺りを押さえるような感じにすれば鳴らな……あっ!むしろ悪化した気がする!
これはまずい。でもこれ以上動いたら三島さんに怪しまれる、というか、聞こえてる?
恐る恐る首だけ曲げて、三島さんの方を見る。
背中を向けたまま、姿勢は変わらないけど……なんだか肩の辺りが小刻みに震えてる気がする。
そしてそちらを見る際、身体を捻るような格好になったせいか、4度目。文字通りお腹の底から間抜けな音が響く。
一瞬、三島さんの背の震えが大きくなった。
「わ、笑うならもっと、その……ちゃんと笑ってください」
恥ずかしさに耐え切れなかった。
いっそ堂々と笑っていただきたい。その方が救われる気がする。
「……悪い。最初は腹減ってるなら夜食でも買いに行くか、さっきコンビニで適当に買ったパンでもと思ったんだが、3回目あたりから面白くなってきた」
三島さんは喉の奥で笑いを堪えるようにしながら言う。わざわざ回数までありがとうございます。忘れてください。
「食いたいもんがあるならコンビニで買ってくるぞ」
「いえ、こんな時間ですし、水で我慢します」
こんな時間に食べるのはちょっとお腹に……そもそも三島さんに買いに行っていただく時点で申し訳ない。
変に緊張したせいで喉が渇いたということもあり、私は起き上がって水を飲みに行く。グラスの半分ほどの水を飲んで戻ると、暗がりの中で三島さんと目が合った。
「すいません、もしかしてさっきので起こしてしまいました……?」
「元々起きてたから気にすんな。それより、あんな端に寄らなくていい。別に邪魔じゃねぇから」
「三島さんのベッドですし、端っこでいいですよ」
そう言ってベッドの上に戻って端で横になろうとしたら、腰に伸ばされた腕に引き寄せられた。
「……え」
背後になんとなく三島さんの体温を感じる。
心臓が跳ねた。
「あんな端じゃちゃんと布団被れねぇだろ」
「そ、それは……」
そうだけど、その通りですけど、これはむしろ寝れないのですが……!
密着してはいないけど、気配を感じる。気恥ずかしくて端に戻ろうとしたけど、三島さんがそれを許してくれない。
「何もしねぇから、普通に寝てくれ」
「何も……」
それが何を指すのか理解した瞬間、今の状況のまずさに気付く。むしろなぜ今まで思い至らなかったのかの方が不思議だった。
でも、結婚するってことはつまりいずれそういうことも起こりうるわけで、というか同じベッドで寝ることが普通になる、ならなきゃいけないのか。
三島さんだから、別に嫌じゃない。恥ずかしさが圧倒的すぎる以外は。
「……どうした」
「いえ、その、心の準備を」
「は?」
来たるXデーに備えなければ。とりあえず今日のところは一緒に寝るくらい慣れないと、ということでいったん三島さんのことは大きめのお人形だと思おう。
昔は大きめの犬のぬいぐるみとかと一緒に寝てた。三島さんって大型犬っぽいし、そう考えると結構いけるかも。大きいぬいぐるみ、大きなぬいぐるみ……んん!?
なぜか、さらに抱き寄せられた。
ぬいぐるみはそんなことしないよ。こんな温もりもないし。いや、ぬいぐるみじゃないのは知ってるけど!じゃなくて、どうしたの三島さん!?
「……たら、いいのか?」
三島さんが何か言っている。
でもどうしよう。突然すぎてどうすればいいかわからない。頭の中でずっと犬のぬいぐるみとお花とハンバーガーがぐるぐる回ってる。
「おい、あん……いや、藤倉。どうなんだ?」
「どうなんだと言われましても……」
とりあえずこの状況について教えていただきたい。
いや、本当にどうしていきなり?私、何かまずいこと言ったっけ。今後想定されるあれやこれやを考えはしたけど。
「心の準備がとか言ったろ。それができるのはいつなんだ」
「え……半年、くらい……?」
それくらいには覚悟が決まるのではと思って回答すると、沈黙が続いた。え、遅すぎる?もしくは早すぎる?1年くらい必要ですか。いや、私ももうちょっとほしいかもしれない。
どうしようかと考えていると、ため息が聞こえてきた。すぐ耳元だったので、吐息が耳殻を掠めてくすぐったい……なんて生温いものではなく、背筋がゾワゾワして頭の中がふわふわする。
初めての感覚にしばらく動けないでいると、私を抱く腕の力が強くなった。
「俺はいつでもいいんだがな」
そう言って三島さんは軽く上半身を上げて、私を見下ろした。
そして首筋を優しく撫でて、鎖骨に指先が触れる。
「み、三島さん!?何を……」
「あんまり目立つと困るだろ。ここにしとく」
何の話ですか、そう問いかける前に三島さんの頭がそこに降りてきて、鎖骨に柔らかいものが触れた。
その後すぐに柔らかく熱い舌が付近を探るように撫でる。
やがて何か硬いものに皮膚が挟まれたと思った瞬間、歯が食い込むピリッとした痛みと皮膚の緊張が同時に与えられた。
「三島さんっ……んんっ!」
私の首元で何が起こっているのか。暗い闇の中ではもはや自身の感覚以外に頼ることのできるものがない。
それなのに、その感覚さえも支配されようとしている。三島さんは私の心臓を吸い出そうとするかのように息を吸い、立てられた歯がより深く食い込んだ
加えて私の身体を仰向けに転がし、自身はその上に覆い被さる。
「三島、さん……?」
私の声なんて聞こえていないのか。三島さんは驚いて固まっている私を静かな瞳で見下ろしていた。
「俺はあんたのもんだ。あんたも、俺につけろ」
そう言って三島さんは首の根元を指先で軽く叩き、私の目の前に突き付ける。
「え、私はそんな……」
「軽くでいい。あんたから、俺に付けてほしい」
差し出された首筋は鍛え上げられているからか張りがあり、太さからも丸太を連想させた。
しかしそれは確かに生きて脈打ち、柔らかな表皮の裏には筋肉がある。
そんなところを私が噛んでいいのか。けれど、その時はどうしようもなく、魅力的に思えて、私は恐る恐る口付けた。
男性的な乾いた皮膚に、薄皮を隔てた筋肉。
歯を立てると皮膚が引っ張られて柔らかな部分がまとまる。それを歯と唇で抑え込んで、私は息を吸った。
三島さんがゆっくりと身体を起こして首筋を戻すまで、それを続けさせられた。
「三島さん……」
見上げた三島さんの首筋には私がつけた薄赤い痣ができていて、つい先ほどまで舌先が触れていたから僅かに湿り気を帯びている。
逆に私の胸元、鎖骨の横の辺りはジリジリと痛んで熱を帯びていた。
壁ギリギリまで寄ればさほど邪魔にもならないはず。
目を閉じてお花畑とかビーチとか、とにかくリラックスできそうな景色を想像する。
色とりどりのお花、薔薇とかひまわりとか鈴蘭とかコスモスとか……あれ?ひまわりとコスモスって同時期に咲くっけ?いやいや、これイメージだから。大輪の花だってなんだっていいわけで。あ、でもラフレシアとか大輪だけどお花畑には絶対合わない。というか巨大化すると普通の花でも怖いかもしれない。巨大化といえば、駅前のバーガー屋さんでパティ3倍キャンペーンやってたような。あれもうハンバーガーというよりハンバーグにパンがおまけで付いてるようなもの……って、思考が変な方向に!
ついでに食べ物のこと考えたらお腹が空いてきた。そういえば夕ご飯食べ損ねてる。まあでも一晩くらい抜いたって……あっ。
お腹が、鳴った。
静かな寝室の中で、その音がやけに大きく聞こえた。三島さんに聞かれた?寝てる?お互い背中向けて寝てるから反応がわからない。
自分の家ならあるものちょっとつまむか、そもそも聞かれないからそのまま寝ればいいけど、ここ三島さんちだし……
そんなこと考えてたら、再び間の抜けた音が響いた。
ちょっと身体を折り曲げてお腹辺りを押さえるような感じにすれば鳴らな……あっ!むしろ悪化した気がする!
これはまずい。でもこれ以上動いたら三島さんに怪しまれる、というか、聞こえてる?
恐る恐る首だけ曲げて、三島さんの方を見る。
背中を向けたまま、姿勢は変わらないけど……なんだか肩の辺りが小刻みに震えてる気がする。
そしてそちらを見る際、身体を捻るような格好になったせいか、4度目。文字通りお腹の底から間抜けな音が響く。
一瞬、三島さんの背の震えが大きくなった。
「わ、笑うならもっと、その……ちゃんと笑ってください」
恥ずかしさに耐え切れなかった。
いっそ堂々と笑っていただきたい。その方が救われる気がする。
「……悪い。最初は腹減ってるなら夜食でも買いに行くか、さっきコンビニで適当に買ったパンでもと思ったんだが、3回目あたりから面白くなってきた」
三島さんは喉の奥で笑いを堪えるようにしながら言う。わざわざ回数までありがとうございます。忘れてください。
「食いたいもんがあるならコンビニで買ってくるぞ」
「いえ、こんな時間ですし、水で我慢します」
こんな時間に食べるのはちょっとお腹に……そもそも三島さんに買いに行っていただく時点で申し訳ない。
変に緊張したせいで喉が渇いたということもあり、私は起き上がって水を飲みに行く。グラスの半分ほどの水を飲んで戻ると、暗がりの中で三島さんと目が合った。
「すいません、もしかしてさっきので起こしてしまいました……?」
「元々起きてたから気にすんな。それより、あんな端に寄らなくていい。別に邪魔じゃねぇから」
「三島さんのベッドですし、端っこでいいですよ」
そう言ってベッドの上に戻って端で横になろうとしたら、腰に伸ばされた腕に引き寄せられた。
「……え」
背後になんとなく三島さんの体温を感じる。
心臓が跳ねた。
「あんな端じゃちゃんと布団被れねぇだろ」
「そ、それは……」
そうだけど、その通りですけど、これはむしろ寝れないのですが……!
密着してはいないけど、気配を感じる。気恥ずかしくて端に戻ろうとしたけど、三島さんがそれを許してくれない。
「何もしねぇから、普通に寝てくれ」
「何も……」
それが何を指すのか理解した瞬間、今の状況のまずさに気付く。むしろなぜ今まで思い至らなかったのかの方が不思議だった。
でも、結婚するってことはつまりいずれそういうことも起こりうるわけで、というか同じベッドで寝ることが普通になる、ならなきゃいけないのか。
三島さんだから、別に嫌じゃない。恥ずかしさが圧倒的すぎる以外は。
「……どうした」
「いえ、その、心の準備を」
「は?」
来たるXデーに備えなければ。とりあえず今日のところは一緒に寝るくらい慣れないと、ということでいったん三島さんのことは大きめのお人形だと思おう。
昔は大きめの犬のぬいぐるみとかと一緒に寝てた。三島さんって大型犬っぽいし、そう考えると結構いけるかも。大きいぬいぐるみ、大きなぬいぐるみ……んん!?
なぜか、さらに抱き寄せられた。
ぬいぐるみはそんなことしないよ。こんな温もりもないし。いや、ぬいぐるみじゃないのは知ってるけど!じゃなくて、どうしたの三島さん!?
「……たら、いいのか?」
三島さんが何か言っている。
でもどうしよう。突然すぎてどうすればいいかわからない。頭の中でずっと犬のぬいぐるみとお花とハンバーガーがぐるぐる回ってる。
「おい、あん……いや、藤倉。どうなんだ?」
「どうなんだと言われましても……」
とりあえずこの状況について教えていただきたい。
いや、本当にどうしていきなり?私、何かまずいこと言ったっけ。今後想定されるあれやこれやを考えはしたけど。
「心の準備がとか言ったろ。それができるのはいつなんだ」
「え……半年、くらい……?」
それくらいには覚悟が決まるのではと思って回答すると、沈黙が続いた。え、遅すぎる?もしくは早すぎる?1年くらい必要ですか。いや、私ももうちょっとほしいかもしれない。
どうしようかと考えていると、ため息が聞こえてきた。すぐ耳元だったので、吐息が耳殻を掠めてくすぐったい……なんて生温いものではなく、背筋がゾワゾワして頭の中がふわふわする。
初めての感覚にしばらく動けないでいると、私を抱く腕の力が強くなった。
「俺はいつでもいいんだがな」
そう言って三島さんは軽く上半身を上げて、私を見下ろした。
そして首筋を優しく撫でて、鎖骨に指先が触れる。
「み、三島さん!?何を……」
「あんまり目立つと困るだろ。ここにしとく」
何の話ですか、そう問いかける前に三島さんの頭がそこに降りてきて、鎖骨に柔らかいものが触れた。
その後すぐに柔らかく熱い舌が付近を探るように撫でる。
やがて何か硬いものに皮膚が挟まれたと思った瞬間、歯が食い込むピリッとした痛みと皮膚の緊張が同時に与えられた。
「三島さんっ……んんっ!」
私の首元で何が起こっているのか。暗い闇の中ではもはや自身の感覚以外に頼ることのできるものがない。
それなのに、その感覚さえも支配されようとしている。三島さんは私の心臓を吸い出そうとするかのように息を吸い、立てられた歯がより深く食い込んだ
加えて私の身体を仰向けに転がし、自身はその上に覆い被さる。
「三島、さん……?」
私の声なんて聞こえていないのか。三島さんは驚いて固まっている私を静かな瞳で見下ろしていた。
「俺はあんたのもんだ。あんたも、俺につけろ」
そう言って三島さんは首の根元を指先で軽く叩き、私の目の前に突き付ける。
「え、私はそんな……」
「軽くでいい。あんたから、俺に付けてほしい」
差し出された首筋は鍛え上げられているからか張りがあり、太さからも丸太を連想させた。
しかしそれは確かに生きて脈打ち、柔らかな表皮の裏には筋肉がある。
そんなところを私が噛んでいいのか。けれど、その時はどうしようもなく、魅力的に思えて、私は恐る恐る口付けた。
男性的な乾いた皮膚に、薄皮を隔てた筋肉。
歯を立てると皮膚が引っ張られて柔らかな部分がまとまる。それを歯と唇で抑え込んで、私は息を吸った。
三島さんがゆっくりと身体を起こして首筋を戻すまで、それを続けさせられた。
「三島さん……」
見上げた三島さんの首筋には私がつけた薄赤い痣ができていて、つい先ほどまで舌先が触れていたから僅かに湿り気を帯びている。
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