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何やってんだ、俺は。
洗面台に両手をついて項垂れる。
薄々こうなるかもしれないとは思っていた。そうなっても、切り返す準備はしていたはずだってのに。
「あれは、反則だろ」
目に焼き付いているのは、あいつの赤く染まった頬の色と、真っ直ぐな瞳。
時間が必要なのは俺の方だった。あいつがまともなやつを選ぶ時間、俺がまともなやつを見極める時間。
少しでも選択肢は多い方がいいだろう。蓮有楽会の人間と言っても、表向きは普通の会社員をしてるやつから汚れ仕事を一手に引き受けているやつまで、幅は広い。藤倉はまだ俺しか知らないだけで、探せば俺よりよっぽど相応しいやつがいるはず。
単に「三島がいい」ってのは、それ以外に選択肢がないから仕方なく言わせたようなもんだ。
だから、あいつに相応しいやつを俺なりに考えてリストアップして、実際に会って判断してからでいいだろ、と言うつもりだった。
……今からでも、そう提案するか。
とりあえず、風呂に行くと言った以上、続きは風呂を出てから話し合うしかない。
あいつは俺しか選択肢がないだけ。俺は別に特別でも何でもない。そう自分に言い聞かせて服を脱ぎ、風呂場に入る。
馴染みのない匂いがした。ほのかに甘い、湿った匂い。
それがあいつの匂いだと気付くと同時に、先ほどの言葉が鮮明に思い出された。
『私は好きですから』
藤倉の性格を知っているからこそ、顔を真っ赤にしながら発せられたそれが、嘘偽りのない言葉だとわかる。
正直なところ、嬉しい。
戸惑いはあるが、好きだと伝えられて悪い気はしない。あいつの素直でお人好しで、どっか抜けてるところは気に入ってる。そうでなけりゃ、俺はここまでしねぇ。誰かをこの家に上げたのも、これが初めてだ。
そういや、ここにある洗顔料、男物しかねぇな。世の中の女は5種類とか使い分けたりするんだよな。今からでもコンビニで買い直すか?でもあいつの好みとか知らねぇし……って、俺は何を心配してんだ。
どうせ明日には親父の、蓮有楽会が手配したホテルにでも閉じ込められるんだろう。必要なものは全てそっちで用意されるはずだ。
俺はただ、明日の朝までここで藤倉を守ればいい。
「はぁ……」
深いため息が漏れる。俺はあいつをどうしたいんだ。
こっちに巻き込む気はなかった。俺はただ、困ってるあいつを放っておけなかっただけだ。不幸を嘆きながらも受け入れて、人の幸せを望むようなやつの幸せを願っているだけで、俺のものにしたいってのは違うだろ。
ぬるいシャワーを浴び続けながら、鏡に映る自分の姿を見る。見慣れているはずの肩の入れ墨が、俺に刻まれた呪いのように見えてならない。
もしも俺が普通の人間だったら、あいつと向き合えただろうか。
……なんて、ガラにもない事は考えるもんじゃねぇな。今更、この生き方は変えられねぇ。
それに藤倉の運には、俺より相応しいやつがいるはずだ。親父の損得勘定は大抵正しい。俺が何もしなくても、存外幸せになるかもな。
シャワーを止めて、風呂場を出る。着替えてリビングに戻ると、藤倉はハッと顔を上げた。
どうやらスマホを見ていたようだ。
「ちょっと会社に連絡を……明日、休むので」
メールだけ先に部長に送ろうとしているらしい。律儀というか、真面目なやつだ。
「悪いな、急で」
「いえいえ、私が風邪ひいて休むと、その日はクレームの電話が鳴らずに新しい注文が舞い込んでくるらしいので、大丈夫です」
最近風邪をひいていなかったからたぶん歓迎されるだろう、と藤倉は笑う。
「……風邪引いて休むと喜ばれるってどうなんだ」
「今回は仮病なので、どうなるかわかりませんけど」
そういう問題なのか?急用ができたでもいいと思うんだが。まあ、休めるんなら何だっていいか。
藤倉は悩みながらメール画面に文字を入力しては消すを繰り返す。やがて画面端をタップして、疲れきった息を吐いた。
「とりあえず、送りました。また朝に電話します」
明日は何時に起きますか?と藤倉は普通に会話をするように尋ねる。
最後のあれは聞き間違いだったのか?
……いや、藤倉はさっきから目を合わせようとしない。よく見れば耳がまだ赤かった。
それに気付いた瞬間、俺も咄嗟に藤倉から目を逸らしていた。直視していたら心臓が壊れる気がしたからだ。
こんな状況じゃ、俺の方が話にならねぇな。
「時間も遅ぇし、寝るか。俺はこっちで寝るから、あんたはあっちの部屋のベッド使え」
来客なんて想定してねぇから、ベッドは自分用だけだ。まあ一晩くらいソファーで寝ても問題ない。実際、たまに寝てる時あるしな。
「え、いや、私がソファーで寝ますよ。むしろ貸していただけるだけありがたいですし」
そう言って藤倉は立ち上がると、ソファーの背を軽く叩いた。
「ほら、私が普段寝てるベッドより寝心地良さそうですもん。暖房効かせていただいてますし、毛布なしでも大丈夫なくらい……」
「あんたをソファーで寝かせたなんて知られたら怒られるのは俺なんだよ」
「わざわざ聞きませんよそんなこと。聞かれてもベッドお借りしたって言います」
「いや、あんた嘘下手だろ」
まあ確かにわざわざそんなこと聞いてくるやつはいないだろうが、俺がソファーあんたをなんかで寝かせたくねぇんだよ。次の日腰痛くなるし。
それに藤倉が嘘下手そうなのは事実だからな。
「じゃあ、私は床でいいので、三島さんがソファーで……」
「誰も得しねぇだろそれ」
なんで悪化させてんだよ。俺がソファーで寝ればいい話だろ。
無理矢理でもベッドに運ぶか?いや、んなことしたら違う余計な勘違いを生みそうというか、生むな。
「あんたは色々考えることがあるだろうし、ひとりになった方がいいだろ。内鍵も付いてるから、万一襲撃されても時間稼ぎにもなる」
まあ、思いっきりぶつかれば壊れるが、気休め程度にはなるだろ。
「一旦落ち着いて考えろ。本当に俺でいいのか決めるのは明日以降でもいいんだ。あんたには……」
俺なんかより相応しいやつがいる。そう言いかけて、言えなかった。
口元を歪めた苦しげな表情。目は見開かれて捨てられた仔犬のように揺らめいている。
違う、俺はこいつにこんな顔をさせたいわけじゃねぇ。
「やっぱり、私じゃ三島さんを不幸にするからですか?」
「なんでそうなるんだよ。あんたの力は本物だ。あいつらの必死さ見ただろ。あんたを手に入れれば、幹部確定、次期組長の座が付いてくるんだ」
「それは噂で、本当にそうなるほど私の力は凄くないです」
「どうだかな。親父が本気であんたを欲しがってるってのは事実で、あんたを手に入れれば親父の覚えもよくなる。ただの噂じゃねぇんだ」
藤倉の「自身が不幸になる代わりに、他者に幸運を」という偶然は必然にされた。
そしてその不幸は既にヤクザに身柄を狙われるという形で降りかかっている。そして今後も、何かしら巻き込まれるんだろう。
「あんたの力は本物だ。だから、もっと自分を大事にしろ」
「じゃあ明日、蓮有楽会の会長さんに三島さんがいいって直談判します」
「は……?いや、落ち着け!何言ってるのかわかってるのか?」
そんな事したら、親父は確実に俺と藤倉を一緒にさせようとしてくる。俺に拒否権はねぇ。
あんたには俺なんかより相応しいやつがいるはずなんだよ。
「……すみません。三島さんがお嫌なら、無理強いはできませんね」
「俺は別に嫌ってわけじゃ……」
他のやつも見てから決めてほしいだけだ。今のままじゃ単に選択肢がねぇから。
そう言いかけて、藤倉と目が合った。
今にも泣き出しそうな顔で、縋るように俺を見上げている。震えている肩は蓮有楽会会長の期待を背負うにはあまりにも細すぎた。
「俺だってあんたが好きなんだよ。だから、俺みたいなやつはやめとけって言いたいんだ」
あんたには幸せになってほしいから、俺みたいな明らかなヤクザより社長とかそっちの方がいいだろ。そこは俺が親父に掛け合う。
そう言うと、藤倉は黙った。
そのまましばらく俯いていたので何か考えているのかと思っていると、突然顔を上げて俺の方に駆け寄ってきた。
「私は、ヤクザでも三島さんがいいんです。三島さんが好きです!それなのになんで、俺はやめとけとか、勝手に決めるんですか!」
藤倉は怒っているようだった。俺の服を掴んで、強く握りしめている。
「それが理由なら、やっぱり明日会長さんに直接言います」
「俺は今年で34だぞ。あんた20前半とかだろ?」
「残念でした今年で25歳です。歳の差1桁なんて誤差ですよ」
年齢は関係無いと言い切り、藤倉は俺の身体に腕を回して半ば体当たりするように抱きついてきた。
「な、何して……」
「私は蓮有楽会のものになります。だから三島さんは私のものになってください」
言ってることが無茶苦茶だ。藤倉が蓮有楽会のものになるから、俺が藤倉のものになるって、どういう理屈だよ。
……しかし「自分のものになれ」なんて、一応ヤクザの組長相手にとんでもねぇこと言ってくれるな。雨に濡れた仔犬みたいに震えてんのに。
いや、そういえば元々妙なところで図太いよな。見合いの相談してきたり、取材が来るから困ってるなんて言ってきたり。
信用されてたんだな、俺は。
そしてそれは今も……か。
「わかった」
そう言うと、藤倉が俺を抱きしめる力が強くなった。言葉はなかったが、そうするのが精一杯だと言いたげなその動作が、どうしようもなく愛おしかった。
洗面台に両手をついて項垂れる。
薄々こうなるかもしれないとは思っていた。そうなっても、切り返す準備はしていたはずだってのに。
「あれは、反則だろ」
目に焼き付いているのは、あいつの赤く染まった頬の色と、真っ直ぐな瞳。
時間が必要なのは俺の方だった。あいつがまともなやつを選ぶ時間、俺がまともなやつを見極める時間。
少しでも選択肢は多い方がいいだろう。蓮有楽会の人間と言っても、表向きは普通の会社員をしてるやつから汚れ仕事を一手に引き受けているやつまで、幅は広い。藤倉はまだ俺しか知らないだけで、探せば俺よりよっぽど相応しいやつがいるはず。
単に「三島がいい」ってのは、それ以外に選択肢がないから仕方なく言わせたようなもんだ。
だから、あいつに相応しいやつを俺なりに考えてリストアップして、実際に会って判断してからでいいだろ、と言うつもりだった。
……今からでも、そう提案するか。
とりあえず、風呂に行くと言った以上、続きは風呂を出てから話し合うしかない。
あいつは俺しか選択肢がないだけ。俺は別に特別でも何でもない。そう自分に言い聞かせて服を脱ぎ、風呂場に入る。
馴染みのない匂いがした。ほのかに甘い、湿った匂い。
それがあいつの匂いだと気付くと同時に、先ほどの言葉が鮮明に思い出された。
『私は好きですから』
藤倉の性格を知っているからこそ、顔を真っ赤にしながら発せられたそれが、嘘偽りのない言葉だとわかる。
正直なところ、嬉しい。
戸惑いはあるが、好きだと伝えられて悪い気はしない。あいつの素直でお人好しで、どっか抜けてるところは気に入ってる。そうでなけりゃ、俺はここまでしねぇ。誰かをこの家に上げたのも、これが初めてだ。
そういや、ここにある洗顔料、男物しかねぇな。世の中の女は5種類とか使い分けたりするんだよな。今からでもコンビニで買い直すか?でもあいつの好みとか知らねぇし……って、俺は何を心配してんだ。
どうせ明日には親父の、蓮有楽会が手配したホテルにでも閉じ込められるんだろう。必要なものは全てそっちで用意されるはずだ。
俺はただ、明日の朝までここで藤倉を守ればいい。
「はぁ……」
深いため息が漏れる。俺はあいつをどうしたいんだ。
こっちに巻き込む気はなかった。俺はただ、困ってるあいつを放っておけなかっただけだ。不幸を嘆きながらも受け入れて、人の幸せを望むようなやつの幸せを願っているだけで、俺のものにしたいってのは違うだろ。
ぬるいシャワーを浴び続けながら、鏡に映る自分の姿を見る。見慣れているはずの肩の入れ墨が、俺に刻まれた呪いのように見えてならない。
もしも俺が普通の人間だったら、あいつと向き合えただろうか。
……なんて、ガラにもない事は考えるもんじゃねぇな。今更、この生き方は変えられねぇ。
それに藤倉の運には、俺より相応しいやつがいるはずだ。親父の損得勘定は大抵正しい。俺が何もしなくても、存外幸せになるかもな。
シャワーを止めて、風呂場を出る。着替えてリビングに戻ると、藤倉はハッと顔を上げた。
どうやらスマホを見ていたようだ。
「ちょっと会社に連絡を……明日、休むので」
メールだけ先に部長に送ろうとしているらしい。律儀というか、真面目なやつだ。
「悪いな、急で」
「いえいえ、私が風邪ひいて休むと、その日はクレームの電話が鳴らずに新しい注文が舞い込んでくるらしいので、大丈夫です」
最近風邪をひいていなかったからたぶん歓迎されるだろう、と藤倉は笑う。
「……風邪引いて休むと喜ばれるってどうなんだ」
「今回は仮病なので、どうなるかわかりませんけど」
そういう問題なのか?急用ができたでもいいと思うんだが。まあ、休めるんなら何だっていいか。
藤倉は悩みながらメール画面に文字を入力しては消すを繰り返す。やがて画面端をタップして、疲れきった息を吐いた。
「とりあえず、送りました。また朝に電話します」
明日は何時に起きますか?と藤倉は普通に会話をするように尋ねる。
最後のあれは聞き間違いだったのか?
……いや、藤倉はさっきから目を合わせようとしない。よく見れば耳がまだ赤かった。
それに気付いた瞬間、俺も咄嗟に藤倉から目を逸らしていた。直視していたら心臓が壊れる気がしたからだ。
こんな状況じゃ、俺の方が話にならねぇな。
「時間も遅ぇし、寝るか。俺はこっちで寝るから、あんたはあっちの部屋のベッド使え」
来客なんて想定してねぇから、ベッドは自分用だけだ。まあ一晩くらいソファーで寝ても問題ない。実際、たまに寝てる時あるしな。
「え、いや、私がソファーで寝ますよ。むしろ貸していただけるだけありがたいですし」
そう言って藤倉は立ち上がると、ソファーの背を軽く叩いた。
「ほら、私が普段寝てるベッドより寝心地良さそうですもん。暖房効かせていただいてますし、毛布なしでも大丈夫なくらい……」
「あんたをソファーで寝かせたなんて知られたら怒られるのは俺なんだよ」
「わざわざ聞きませんよそんなこと。聞かれてもベッドお借りしたって言います」
「いや、あんた嘘下手だろ」
まあ確かにわざわざそんなこと聞いてくるやつはいないだろうが、俺がソファーあんたをなんかで寝かせたくねぇんだよ。次の日腰痛くなるし。
それに藤倉が嘘下手そうなのは事実だからな。
「じゃあ、私は床でいいので、三島さんがソファーで……」
「誰も得しねぇだろそれ」
なんで悪化させてんだよ。俺がソファーで寝ればいい話だろ。
無理矢理でもベッドに運ぶか?いや、んなことしたら違う余計な勘違いを生みそうというか、生むな。
「あんたは色々考えることがあるだろうし、ひとりになった方がいいだろ。内鍵も付いてるから、万一襲撃されても時間稼ぎにもなる」
まあ、思いっきりぶつかれば壊れるが、気休め程度にはなるだろ。
「一旦落ち着いて考えろ。本当に俺でいいのか決めるのは明日以降でもいいんだ。あんたには……」
俺なんかより相応しいやつがいる。そう言いかけて、言えなかった。
口元を歪めた苦しげな表情。目は見開かれて捨てられた仔犬のように揺らめいている。
違う、俺はこいつにこんな顔をさせたいわけじゃねぇ。
「やっぱり、私じゃ三島さんを不幸にするからですか?」
「なんでそうなるんだよ。あんたの力は本物だ。あいつらの必死さ見ただろ。あんたを手に入れれば、幹部確定、次期組長の座が付いてくるんだ」
「それは噂で、本当にそうなるほど私の力は凄くないです」
「どうだかな。親父が本気であんたを欲しがってるってのは事実で、あんたを手に入れれば親父の覚えもよくなる。ただの噂じゃねぇんだ」
藤倉の「自身が不幸になる代わりに、他者に幸運を」という偶然は必然にされた。
そしてその不幸は既にヤクザに身柄を狙われるという形で降りかかっている。そして今後も、何かしら巻き込まれるんだろう。
「あんたの力は本物だ。だから、もっと自分を大事にしろ」
「じゃあ明日、蓮有楽会の会長さんに三島さんがいいって直談判します」
「は……?いや、落ち着け!何言ってるのかわかってるのか?」
そんな事したら、親父は確実に俺と藤倉を一緒にさせようとしてくる。俺に拒否権はねぇ。
あんたには俺なんかより相応しいやつがいるはずなんだよ。
「……すみません。三島さんがお嫌なら、無理強いはできませんね」
「俺は別に嫌ってわけじゃ……」
他のやつも見てから決めてほしいだけだ。今のままじゃ単に選択肢がねぇから。
そう言いかけて、藤倉と目が合った。
今にも泣き出しそうな顔で、縋るように俺を見上げている。震えている肩は蓮有楽会会長の期待を背負うにはあまりにも細すぎた。
「俺だってあんたが好きなんだよ。だから、俺みたいなやつはやめとけって言いたいんだ」
あんたには幸せになってほしいから、俺みたいな明らかなヤクザより社長とかそっちの方がいいだろ。そこは俺が親父に掛け合う。
そう言うと、藤倉は黙った。
そのまましばらく俯いていたので何か考えているのかと思っていると、突然顔を上げて俺の方に駆け寄ってきた。
「私は、ヤクザでも三島さんがいいんです。三島さんが好きです!それなのになんで、俺はやめとけとか、勝手に決めるんですか!」
藤倉は怒っているようだった。俺の服を掴んで、強く握りしめている。
「それが理由なら、やっぱり明日会長さんに直接言います」
「俺は今年で34だぞ。あんた20前半とかだろ?」
「残念でした今年で25歳です。歳の差1桁なんて誤差ですよ」
年齢は関係無いと言い切り、藤倉は俺の身体に腕を回して半ば体当たりするように抱きついてきた。
「な、何して……」
「私は蓮有楽会のものになります。だから三島さんは私のものになってください」
言ってることが無茶苦茶だ。藤倉が蓮有楽会のものになるから、俺が藤倉のものになるって、どういう理屈だよ。
……しかし「自分のものになれ」なんて、一応ヤクザの組長相手にとんでもねぇこと言ってくれるな。雨に濡れた仔犬みたいに震えてんのに。
いや、そういえば元々妙なところで図太いよな。見合いの相談してきたり、取材が来るから困ってるなんて言ってきたり。
信用されてたんだな、俺は。
そしてそれは今も……か。
「わかった」
そう言うと、藤倉が俺を抱きしめる力が強くなった。言葉はなかったが、そうするのが精一杯だと言いたげなその動作が、どうしようもなく愛おしかった。
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