幸薄女神は狙われる

古亜

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その週の土曜日。外出してもどうせろくな目に遭わないので、家でダラダラとくつろいでいると、玄関のチャイムが鳴った。
誰だろうとドアスコープを覗き込むと、宅配便のお兄さんだった。そういえば実家の母が通販で買いすぎた健康食品送るとか言ってたような。
ふと、自分の服を見下ろす。
生活感あふれるスゥエット、加えて髪はボサボサで、ついでにちょっとお腹が痛い。
よりによってこんなときに……
自分の不運と怠惰を呪う。でも、宅配のお兄さんを待たせるのは申し訳ないし、再配達なんてもっての外。
諦めて扉を開ける。できるだけお兄さんとはできるだけ目を合わせず受領証にサインして、お礼もそこそこに荷物を受け取ってすぐに扉を閉めた。
う、急に動いたから腹痛が悪化した……
荷物を廊下に置いてトイレに駆け込む。朝食べたヨーグルトが古かったんだろうか。
そんな後悔をしながらまだ若干感じの悪いお腹をさすりながらトイレを出る。

「……ん?」

母が送ると言っていたのは、通販で買った青汁とかダイエット用のクッキーの大袋とかだった気がする。そしてそういうのを送る時は決まって、その商品名がデカデカと書かれた段ボールに入れてくるんだけど……これは無地で、品名には見慣れない字で「バッグ」と書かれていた。
差出人は……書いてない。普通の宅配便で匿名なんてあり得る?
宛先は間違いなく私だけど、もしかして詐欺?
でも代金は支払い済みになってるし……とりあえず、開けてみるか。持ってみた感じだと軽いから、本当にバッグが入っているのかもしれない。
ガムテープを剥がして段ボールを開ける。
中にはさらに包装紙で包まれた箱が入っていたので、できるだけ丁寧に開けていく。
中身は本当にバッグだった。
持ち手の金具には見覚えのないブランドのロゴが刻印されたタグが付いている。
ブランド物は詳しくないので、ブランド名と一緒に入っていた紙のアルファベットの羅列をスマホに入力して調べてみた。

「え?はぁ?新作、50万!?」

見慣れないロゴのそれは、どうやら海外で有名なブランドバッグらしく、日本には最近入ってきたばかりの超が付く品だった。
しかも50万は定価で、オークションサイトではそれ以上の価格で取引されている。
スマホ画面に表示された写真と見れば見るほど同じで、ついでにその中でもさらに限定の色のものであることが判明した。
恐ろしくなった私はできるだけ鞄本体に触れないように蓋をして、包装紙までなんとなく元に戻し、箱から距離を取った。
……どういうこと?
私は最初の段ボールを引き寄せて、送り状を隅々まで読んだ。でも、やっぱり送り主に関する情報はどこにもない。
わけがわからず箱を逆さまににして振ってみると、一通の茶封筒が出てきた。
封を切って中身を出す。何の変哲もない白のコピー用紙に手書きで何か書かれている。

『先日は迷惑をかけた。壊れた鞄の代わりだ。命の礼に、何か困ったことがあれば連絡しろ』

そして、殴り書きで携帯電話の番号らしき数字。
えーっと、つまり、先日お命頂戴されそうになってたあのお方から、ですか……
改めてお箱を見ると、なんだかキラキラ……というかギラギラ輝いているように見える。
駄目になったあの鞄、5000円くらいだったんですが。100個買えちゃいますけど?桁数間違えてませんか?
返却しようにも、宛先がわからない。電話して返却したいんですけどってお伝えした方がいい?
でももし持ってこいって言われても、無事これを届けることができるだろうか。こんなもの持って歩いてたら、事故にでも遭うんじゃ……
悩みに悩んだ結果、そっとしまっておくことにした。もし返せって言われたらすぐ返そう。その時は不安だから取りに来てもらうけど。
場所を取るから外身の段ボールは送り状だけ取って折り畳む。鞄の入った箱はいい感じの大きさの紙袋の中に入れて、押し入れの奥に。この電話番号も念のため一緒にしまっとこう。一生かけることはない……よね?
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